バリッジ
誤字報告、ありがとうございました
辺りは闇に包まれている。
この場所は、とある国家によって危険地域と指定されている広大な森のほぼ中央部分の地下にある施設。
その施設に辿り着くには、魔力レベル10程度の面々では不可能な場所。
森の外周には魔力レベル8以上の一般的には高ランクと言われている魔獣が多数おり、更には、新種の魔獣が森の中央部に近づくにつれて存在している。
仮に中央部分に行けたとしてもその地下への入口を見つけるのも至難の業であり、当然罠も多数仕掛けられている。
そんな地下の巨大な空間に聳え立つ居城。
その中で、ある者が報告を上げている。
その者は漆黒の床に膝をつき、視線の先にある長い階段の上の豪華な玉座に座っているであろう者に報告している。
であろう・・・と言うのは、玉座とその者の間には布のようなもので遮蔽されており、その存在を直接見る事ができないからだ。
「首領。ハンネル王国のスミルカの町でギルドマスターとして活動させておりましたドストラ・アーデですが、バイチ帝国との紛争の切掛けをつくる任務に失敗し、投獄されております。未だ情報収集している最中ですが、第三者が邪魔をしてきたようなのです」
「知っている。その第三者の存在も事実だ。我が組織のただの手駒、雑魚とは言え、魔力レベル20は有ったはずのドストラ・アーデを事も無げに退けたそうだぞ」
報告している者は、既に自分が伝えようとしている内容以上の情報を持っている首領に驚愕している。
「流石は首領、そこまで情報をお持ちとは。それで、如何致しましょうか?あのゴミから何らかの情報が洩れるかもしれません。更に、首領からの依頼を果たせなかった挙句に捕らえられるなどと言う愚挙。制裁が必要で、早めに処分した方が宜しいかと思いますが?今、あのゴミは魔力を出せない状態にあるようです。原因はわかりませんが……そのため、ゴミの暗殺も本当の末端のメンバーでも可能だと思いますが」
「あのゴミクズには大した情報を与えていない。もちろん、この場所についての情報も、だ。万が一もれたとしても何の問題もない。だが、お前の言う事も一理ある。早めに消しておけ。所詮、戦闘時に魔力の操作に失敗して体内の魔力循環機能が破壊されて魔力が使えないのだろう。その程度のやつだ」
「承知いたしました。それと、あのゴミに与えていた開発中の魔獣ですが、残念ながら全てハンネル王国の手に渡っております」
「それも問題ない。あ奴らは所詮失敗作だ。まだまだ完成させるためには実験が必要だ」
「もう一つ。これは私の私見ですが、あのゴミを連れてきた第三者ですが、スミルカの町の副ギルドマスター補佐心得に、にこやかに話しかけていたようです。何か繋がりがあるのでしょうか?」
「そんなはずはないな。そのような報告は、あのギルドからも他からも一切上がってきていない。単純にドストラ・アーデが見落としたのかもしれないが。だが、お前がそう思うのなら、そやつを異動させればいいだろう?」
「亡き者にしなくてもよろしいのですか?」
「今回、あのギルドではギルドマスターが国家を裏切ったという事実によって国の監視対象になっている。そんな状態で副ギルド……ナントカが死亡してはまずいだろう」
「仰せのままに」
このような不穏なやり取りがあってから数日後、ハンネル王国の王都ではハチの巣をつついた様な大騒ぎになった。
原因はもちろんドストラ・アーデだ。
彼は子爵と言う身分を剥奪されて処刑されるのを待つのみであったのだが、厳重に警備されている牢獄の中でアッサリと暗殺されたのだ。
その暗殺を実行したのが警備にあたっていた者であった事から、このような大騒ぎになっている。
とは言え、情報統制が行われているので、騒いでいるのは国家の重鎮や警備関連の者達だけなのだが。
「警備隊長は何をしているのだ。これは我が国のメンツにかかわるのだぞ。貴族がバイチ帝国の来賓を襲う事を画策した。それを防ぎ、捉えたのが我が国の騎士ではなく謎の集団。この時点で我が国の信頼は地に落ちているのにもかかわらず、更にその犯人を王城内部の牢獄で暗殺されるとは!おい!聞いているのか!!」
今にも目が飛び出そうな程の勢いで怒り散らす、ハンネル王国の国王である、ドストラム・ハンネル。
その眼下にいるのは、警備隊長である一人の貴族。
「これは、警備隊は全て身元を再度洗わないとなりませんな」
国王の横に控えている宰相のトロンプが進言する。
「トロンプの言う通りだ。この失態、どう償うのだ!警備隊長!!」
国王の問いに答える術を持たない警備隊長は、唯々、嵐が過ぎ去るのを待つ。
「もう良い!貴様も含めて全ての警備隊に調査を入れる。これは強制だ。わかったな!!」
それだけ告げると、国王は怒り収まらぬ様子のまま謁見の間を後にする。
「警備隊長。国王陛下の仰る通りに警備隊は大規模な調査が必要です。まさか警備隊の中にあのような愚挙を行う者がいるとは、私も思っていませんでした。ですが、これは放置しておける問題ではありません。今の所、その者からは動機等の情報は得られておりませんが、国家中枢で起きたのです。事の重大さを理解してください」
宰相であるトロンプからの止めの言葉を受けて、肩を大きく落として退出する警備隊長。
その後、国王と宰相の言葉通りに大規模な調査が行われた……のだが、ドストラ・アーデを殺害した者も含めて、後ろめたい背景を持つ者はいなかったのだ。
益々謎になるこの事件。どれほどドストラ・アーデ殺害の警備隊員を知らべ尽くしても、何もわからなかったのだ。
と言う事は、今、王城の警備に当たっている面々も同じような行動、国に対して不利益な行動を取る可能性が否定できない事になる。
そうこうしている内に、殺害を実行した警備隊員が不審死を遂げた。
王城に勤務する錬金に詳しい者によれば、毒の摂取によるものだと断定された。
詳しく調査をして行く内に、歯に一定期間ある薬剤を塗布しないと自動的に内部に隠された毒があふれ出てくるようになっていたと言う事だ。
これが王城内部で毒薬を強制的に投与された他殺であったならば、この王城内部にあの犯行に及んだ隊員以外の不穏分子が今尚潜んでいる事が証明されてしまうのだが、そうならなかったのだけは、不幸中の幸いだと言える。
とは言え、定期的に薬剤を塗布するには当然その薬剤が必要であり、その入手方法や入手先は一切不明である上に不穏分子が完全にいない事が確定している訳ではない。
もちろんその隊員の部屋は大規模な調査が入ったが、その薬剤含め、怪しい物は一切発見されなかった。
「トロンプよ、この王城はどうなっておるのだ?」
「大変申し訳ございません。返す言葉もありません。身元については継続して調査の上、必要に応じて身元が確実で優秀な人材を別途確保する方向で動きます」
国王も同様だが、宰相のトロンプも疲れの色を隠せていない。




