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バイチ帝国との絆

 想定通りにバイチ帝国との話が終了したらしい王都の面々は、ドストラ・アーデ乱心の報告を受けて慌てふためき、クソギルドマスター、いや、元クソギルドマスターを裁くため、その身柄を引き取りに来た。


 ついでに?バイチ帝国の面々も宣言通りにこちらに来て、再び温泉を楽しんでいる。


 俺と言えば、ついに!ついに俺の長い役職から解放される時がやってきたか……と期待したのだが、何故か後任のギルドマスターが新たに着任するだけで俺の役職は変わらなかった。


 後任は、イルスタ男爵と言う人が着任した。

 割とどっしりとした大らか、悪く言えば大雑把な方だが、前任と比べると、全てが良く見える。


 何より、定期的に休めると言うのだ。

 あのクソギルドマスターが来る前の、トロンプ様がマスターだった頃の環境に戻れる事が確定したのだ。


 役職に関しては良く考えると仕方がないと思える。今回の俺、表立っては温泉関連しか活躍していないしな。

 裏ではかなり頑張ったのだけど、この行動がバレると安定した職業を脅かされる可能性がある為、そんな事は言えない。


「や~、あんな事件があって少々疲れている心と体に沁みますな~」

「前ギルドマスターが、本当に申し訳ありませんでした」


「いや、ジトロ殿が謝罪するような事ではないでしょう。ナバロンも余計な事を言わないように」

「おっと、これは申し訳ない。あまりに気持ちが良いので、心も体も、そして口も緩んでいたようですな。ハハハハハ」


 なぜか俺はバイチ帝国のこの二人に異常に気に入られており、今も一緒に風呂に入っていたりする。


「しかしジトロ殿、貴方の所にも来ていたようですが、あの覆面の一行は何故我らを守ってくれたのか、そしてあの一行の目的は何なのか、どこかの国に所属している一行なのか、疑問が尽きません。ギルドとして、何かご存じではないのでしょうか?」

「いやアゾナ。お前は馬車の中にいたから聞こえていなかったかもしれないが、あの前ギルドマスターも覆面の存在を把握していなかったぞ。ジトロ殿も知らないと思うが?」


「ナバロン殿の仰る通りですね。残念ながら我らギルドでも覆面一行の正体はわかっておりません。私の所に前ギルドマスターを連れてきた者も覆面の仲間で間違いないでしょうが……そう言えば、私の名前は知っていましたね」


「いや、貴方の名前はこの町に居れば誰でも知っていると思うので、そこは疑問に思う所は無いと思いますよ?それよりもあの強さ。ドストラ・アーデも有得ない程の強さでしたが、それすらも軽く凌駕する力。私は武人ではありませんが、その様に感じました。ナバロンはどう思いましたか?」

「私もアゾナと同じ感想だ。ドストラ・アーデも異常だが、覆面はあの異常な強さすら歯牙にもかけない程の力を持っている事は間違いないですな」


 うっ、それはそうだよな~。魔力レベル20程度が、魔力レベル99に敵う訳がない。

 あまりこの話題を続けられると、うっかりボロが出るかもしれないので少々話題を変えに行こう。


「あの、余計な事になりますが、バイチ帝国として今回のハンネル王国との対話、上手くいきましたでしょうか?」


 宰相と騎士隊長は、俺の問いかけに対して互いを見て何かを決心したように見える。

 ありゃ?余計な事を聞いてしまったか?


「ジトロ殿。我らはあなたにお会いしたのは今日で二回目ですが、その人柄を信じております。それに、我らとして積極的に隠すようなものではないのでお話ししたいと思うのですが、その前にジトロ殿は奴隷についてどう思われますか?」


 探るような目をしてくる二人だが、この質問に関しての答えは考えるまでもなく決まっている。


「虫唾が走りますね。私は犯罪奴隷は許容しておりますが、理不尽な奴隷制度はクソくらえです。ですが私の周辺、スミルカの町ではそのような事は無いはずですよ。大した力はありませんが、一応目を光らせていますからね」


 いや、目を光らせているのはNo.1(アインス)達なのだが……

 彼女達の活躍によって、一応国家として認められている普通の奴隷を含めてこの町にはいなくなった。


 と言うのも、今の仲間を救出する際にその場にいた冒険者や商人をコテンパンにし続けており、彼らの間では正当な奴隷でも、この町周辺に持ち込めば恐ろしい事になると言う認識が根付いたのだ。


 ここは嬉しい誤算なのだが、残念な事に王都やその周辺はそうではない。


「いつかは、この世界から理不尽な奴隷がいなくなる事が私の望みですね」


 前世の記憶、そして前世の本の中での奴隷の扱い、救出した仲間達の奴隷時代の扱いを考えると、これは嘘偽りない本当の俺の気持ちだ。


「なるほど、やはりあなたは信頼できるお方だ。実は我ら、今回のハンネル王国への訪問は表向き果物の交易に関するものですが、実際は奴隷についての調査を行いに来たのです。残念ながら王都では普通に奴隷がおりましたが、貴方のいらっしゃるこの町、ここには一切そのような者達はいなかった」

「既にご存じかもしれないが、我らバイチ帝国では奴隷を認めておりませんのでな。そもそもアゾナと私の先祖も奴隷出身であり、その当時の劣悪な環境については伝え聞いております。その為か、おそらく我ら二人は、他の者達に比べて奴隷制度に対する忌避感が人一倍あるのです」


 奴隷の身分から、何代かけかたかはわからないがここまでの立場になるとは、どれ程苦労したのだろうか、俺には知る由もない。


「失礼ですが、ジトロ殿は、どのようなご出身で?」


 おっと、突然のアゾナ殿の質問に面食らってしまった。

 前世の記憶がある等、余計な事は言う必要はないな。


「残念ながら、冒険者の両親の元に産まれた、しがない副ギルドマスター補佐心得ですよ」


 こんな話をしつつ、お互いの親睦を深めていく。


 裸の付き合いとはよく言った物だ。

 何も飾らず、隠さず、腹の中の探り合いも無くなっていく。


「いや~、今回も素晴らしい一日を過ごす事ができました。次は、我が国にも同じような施設を建設する予定ですので、アドバイスを兼ねてぜひバイチ帝国にお越しください」

「ジトロ副ギルドマスター補佐心得、待っていますぞ。我ら、同じ釜の飯を食った仲間ですからな。ハハハハハ」


 そう、なんと俺は、あの風呂の後に自宅に帰れずに一晩彼らと飲み明かしたのだ。

 本当に楽しかった。何と言うのか、友人?との触れ合いなのか?

 前世ですら、これ程楽しい一時を他人と過ごせた記憶はない。


 今の仲間達とは少し違った感覚。古くからの友人のような感覚だったのだ。

 この二人も、俺と同じような思いでいてくれているようだ。


「ええ、ぜひ伺わせて頂きますよ。今まで取得する事が出来なかった休暇も取れるようになりましたので、私も楽しみにしています」


 このスミルカの町からバイチ帝国までは、馬車で一週間ほどだ。

 わざわざ馬車を使用しなくても、極秘に転移で向かえば二週間程の休暇で十分活動できるだろう。


 こうしてバイチ帝国の調査も何の被害もなく終了し、こちらとしては、クソギルドマスターがいなくなると言った、これ以上ない成果を上げる事が出来た。

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