バイチ帝国
「ジトロ様、聞いてください。ジトロ様に連れて行って頂いた時に思った感想。そのままの国でした。皆さんが笑顔で生活されていて、それに、奴隷がいないのです!あ、犯罪奴隷はいましたが、調査できる範囲では本当に大きな犯罪を犯した者だけが犯罪奴隷として、厳しい環境での仕事をさせられていました」
「私もビックリしたぞ。皆が助け合って生活している感じだったんだ。まるで、この拠点にいるかのように、居心地がとても良かったんだ」
二人は、興奮気味に内情を教えてくれた。
もちろん実際に潜入して得た情報なので、その通りなのだろう。
でも、俺が本当に知りたい情報は、いつ、何人で、滞在期間、そしてどのような構成で、来賓がこのハンネル王国にやってくるか……だ。
俺の勤務しているギルドは王都と隣接してはいるが、王都は王都で当然別のギルドが存在する。
そして王都内には、あのクソギルドマスターの住居があるので、俺はこのスミルカの町にバイチ帝国の面々が入ってから、王都に入るまでの対策を行えば良い事になる。
「それで、今回のバイチ帝国のハンネル王国への訪問は、皇帝は来ないようです。皇帝の名は、ヨハネスと言う人ですが、かなり切れ者との噂です。そして今回こちらに来るのがその腹心である宰相のアゾナと護衛の騎士が十人程度です」
「護衛の人数は、何やら立候補?が多くて、調整中だな」
騎士達も積極的な人がたくさんいる国なのだな。
きっと国家に対して絶対の忠誠を誓っているのだろう。
「こちらに到着予定は20日後。おそらく、彼らの性格から、この日程が前後する事は無いと思います。もちろん、この到着予定はここスミルカの町の到着で、こちらで一泊した後、王都に向うそうです」
「この日程、当然ハンネル王国には伝達済みで、あのギルドマスターも知っているはずだ」
やっぱりか、あのクソギルドマスター。全く情報をよこさない。
そもそも、この町で一泊するとなると、どこに泊まっていただくかも考えなくてはならない。
「それと、あの国の騎士達、魔力レベル10の面々が多数存在していたぞ。おそらく、この辺りの国家と比較すると最強じゃないか?」
「私もそう思います。いえ、周辺国家の事は良く分かりませんが。No.4もわからないでしょ?でも、この国にも魔力レベル10は数人程度しか確認できないので……」
確かに、この二人の言う通り、この世界での魔力レベル10は最大・最強と言って良い。
そんな最強の存在が多数存在する。しかも、騎士として帝国に仕えている。
確かに最強国家と言っても良いのかもしれない。
そんな情報すら俺には与えてくれないクソギルドマスター。
いや、最強国家とかの情報は今回不要だが、不要か?いや、それよりも、この町で一泊すると言う情報が最も重要だ。
あいつのことだから一応自分で宿は押さえてはいるが、前日に俺に無茶ぶりして俺が慌てふためく様を散々楽しんだ挙句、恩を着せるように、厭味ったらしく既に手配済みだと言って来るに違いない。
どこに宿泊するのか分からない状態だとまともな護衛などできる訳もないので、こちらで予約をしておこう。
他には、何をしないといけないんだ?
えっと、宿の予約、そして信頼できる冒険者に対して護衛の指名依頼。
それだけで良いか?そもそも、最強の騎士達が来るのだから、安全が脅かされることは無いと思うが……
もういいや。良い事にしよう。
だが、一応バイチ帝国のアゾナ宰相には陰から護衛をつけておくか。
とすると…存在が明るみに出るとまずいから、隠密の得意なNo.4だな。
彼女は連続した任務になってしまうけど、仕方がない。
「No.4、バイチ帝国の面々が来たらこの町から出て行くまで、陰から護衛をしておいてくれないか?」
「任せてくれ」
これで、彼らがスミルカの町にいる間の安全は、確実に確保できたと言える。
後は、少々ガラの悪い冒険者達や商人達が街中で余計な事をしないか。
そして、最も重要なのが、あのクソギルドマスターも余計な事をしないか!だ。
「二人共、ありがとう。助かったよ。でも、そもそもバイチ帝国の面々は、何をしに来るんだろうか?」
「それは、おそらく、表向きは交易の強化の相談らしいけど……」
「あのとっても美味しかった果物の話からするみたいです。でも、何か裏があるようなのですが、そこまではどうしても掴めませんでした。申し訳ありません」
あの果物を餌に、この国に入ってくると言う事か?
その為に、あの素晴らしい味のする果物を王族や貴族連中に食べさせていた?
だとすると、逆にハンネル王国側に護衛が必要になるのか?
そもそも、時間は短いが、この二人の調査で情報を掴めないとなると、おそらく宰相と皇帝だけしか知らないような情報だろうから、余程重要な任務になっているのか?
考えだしたらきりがない。
だが、こうなってしまうと宰相の護衛だけではなく監視、そして、騎士達の監視、更にはハンネル国王側の護衛と、仕事が増える。
やむを得ないか。
何かあって戦争にでもなってしまうと、俺の輝かしい副ギルドマスター補佐心得と言う職自体も失ってしまうかもしれないし、同僚やその家族、そして町の人々にも大きな損害がでる。
クソギルドマスターだけが、その混乱の最中いなくなれば良いのだが……
「二人共、ありがとう。情報については仕方がない。No.4、No.7でわからない情報は、誰が行ってもわからない。だが、最悪の状況を考えると、護衛、そして監視の対象を増やす必要がある。No.3とNo.6も呼んでくれるか?」
少し経つと、二人を呼びに行ったNo.4と共にNo.3とNo.6が来てくれた。
「急に悪いな。で、大体の話は聞いていると思うけど、今回のバイチ帝国の訪問。裏がある可能性があるようだ。ハンネル王国に対してどんな影響があるのかは分からないけど、騒ぎが起きるのは困る。なので、二人にも今回のバイチ帝国に関する任務について貰いたい」
「お任せください、ジトロ様」
「任せてくれ、ジトロ様」
ふぅ、今回はかなり真面目な顔で話をしているので、誰からもご褒美を要求される事は無かった。
いや、いかん。真面目な話だ。
「任務としては、No.4が宰相の護衛と監視、No.7とNo.3が騎士達の監視、No.6がハンネル王国側の護衛で頼む」
こうして、少し気楽な気分で終わるかと思った仕事だが、急に重たい話になってしまった。
だが、俺達の安穏とした生活の為、そして、今まで良くしてくれた人達の安全のため、副ギルドマスター補佐心得として全力を尽くそう。
クソギルドマスターは、頼むから邪魔をしないでくれよ。
と、願いつつ、今日の打ち合わせを終えた。
そのまま寝ようと思ったら、廊下でNo.1とすれ違う。
この娘は俺が直接救った娘で、あの面々の中では最強だ。
全員魔力レベル99なのだが、同じ99でも強さは違う。
駆け引きとか、技の練度もあるし、レベル99が最大とはいえ、恐らくその先の力もあるのではないかと思っている。
でも、鑑定を使ってもそこまでしか表示できない?と言った所じゃないだろうか。
前世の記憶がある俺は、当時に読んだ本にそのような事が書いてあったので、この世界の中においては比較的柔軟な発想ができていると思う。
実際の戦闘力を見ると、強ち間違いではないと思っているんだけどね。
「ジトロ様、お疲れではないですか?魔力のマッサージを致しましょうか?」
No.1はあの面々の中でも、特に俺の面倒を見たがる。
「いや、大丈夫。今日は寝るから、また今度頼むよ」
一瞬残念そうな顔をするが、何かを要求したり、わがままを言う事も無い。
しかし、一瞬とはいえこんな顔をされては後ろめたい気持ちになるので、申し出を受ける事にした。
こういったコミュニケーションも、副ギルドマスター補佐心得としての力量を上げる事にもつながる……かな??
まだまだまだ続きます




