No.0、トロンプ、レムロドリッチ(7)
今日の夕方の投稿で最終話になります
その姿を見たジトロは、これで今までバリッジや悪魔によって非情な最期を遂げた者達の鎮魂になるだろうか……と考えていた。
「少しくらいは恐怖を味わえたか?」
その言葉で、頷こうとする動きを見せるトロンプ。
だが、ジトロはバリッジを許すつもりは一切なかった。
万が一、キロスとコンの件が無ければ命だけは助けていた可能性もあるが、今となってはその可能性はゼロだ。
「それじゃあ、これからは少しずつ痛みを味わって消えてくれ。じゃあな」
そう言って膜を本当にゆっくりと縮小させるように力を込めて、視線を後ろのアンノウンに向ける。
「皆、とりあえず終わったぞ。いや、もう少しかかるが、もう終わりだろう。この後は、疲れているかもしれないがバリッジの拠点の調査、恐らくこの王城の中、宰相の部屋に何かしらの手がかりがあるはずだ。その拠点を探し出して完全に潰す者と、バイチ帝国内部の再調査。万が一にもバリッジや悪魔の残党がいないかを調査・対応すれば終わりだ。もうひと踏ん張り、頼んだぞ!」
アンノウンを代表して、イズンが一歩前に出る。
もちろんブチ切れモードは解除されている。
イズンの立ち位置からは、ジトロと共に、その背後に徐々に潰されているバリッジと悪魔が見えるが、イズンも一切気にしていない。
「お任せください。但し、一部のナンバーズとアンノウンゼロは限界まで力を使った反動から、暫くは拠点で休息させます。その他の全員で対処に当たります」
「そうか、いつもすまないな。任せた、イズン」
イズンは、ジトロからねぎらいの言葉を受けると、嬉しそうに一礼し、再び振り向き背後にいたアンノウンに告げる。
「ジトロ様の命だ。作戦開始!」
既に念話にて意識が覚醒し始めている休養対象のアンノウンにもジトロの命令は伝えている。もちろん情報を与えているだけで、任務につかせると言う事はない。
この短い時間、驚異的な速度で配置を考え、全て連絡を終えたイズン。
イズンの掛け声により、この場にいたアンノウンはNo.1を除き全て消える。
「ジトロ様、お疲れ様でした。間もなくこの件は終了しそうです。その後は、私達は拠点に移動しましょう。拠点にはバルジーニさんを始め、戦闘能力のあまりない方たちが残っていますので、コシナとピアロだけでは不安がっているかもしれませんから」
「そうだな。ありがとうNo.1。お前にも苦労をかけたな」
ジトロからのお礼と労いに、頬を染めて嬉しそうにするNo.1。
「もう終わりだな」
既にジトロの背後の膜は、人が数人入れる程度の大きさにしかなっていない。
つまり、内部に生存している者は皆無の状態だ。
視線を向けずともその程度は分かるジトロ。
更に力を加えて急激に圧縮し、中身諸共完全に蒸発させた。
その後はNo.1の進言通り拠点に戻り、食堂で疲れた体を休めていた。
その頃、バイチ帝国の謁見の間では魔力レベル40のグラムロイスによって返り討ちにあった一人の男が事切れていた。
そこに現れたナンバーズのNo.9。もちろん隠蔽で覆面状態になっている。
現場を見て状況を把握すると、皇帝達に謝罪する。
「申し訳ない。私達も全力で事に当たっていたので、こちらまで完全に守護する事が出来ていなかったようだ。この襲撃者の魔力レベルが相当高ければ気がつけたのだろうが……見た所、結果論だが問題なかったという事で良いか?」
「もちろんだ。ここからでも相当な強さの者達が襲撃していたのが理解できた。そんな中、この程度の小物の気配など探ってはいられないだろう。そもそも、そんなときの為に俺の力を上げてくれたのだろう?何も問題ない。むしろ実践訓練ができて丁度良かった位だ。ハハハハハ」
バリッジ残党を始末した騎士隊長ナバロンが豪快に笑うと、皇帝と宰相も大きく頷く。
「そう言ってくれるとありがたい。既にバリッジの首領、既に知っているかもしれないが、ハンネル王国の宰相トロンプ、そして暗部、悪魔一行も全て始末したが、残党の確認をしている所だ。念のため、この場にも我らアンノウンの精鋭を一人護衛に置いておく」
「お待たせしました。アンノウンゼロの……名前は伏せますが、残党の確認が終わるまで、皆さまの護衛を務めさせていただきます」
アンノウンゼロのラターシャがこの場に現れる。
覆面ではあるが、今までアンノウンゼロとして実名で活動していたので、そのままの名前は伝えるわけにはいかずに、名乗る事はしなかった。
その後、No.9はこの場から消えて、バリッジや悪魔の残党狩りが行われた。
バリッジ拠点については、ハンネル王国の宰相の部屋に隠してある魔道具を元に構造を解析し、現地を突き止めて内部の存在諸共完全に破壊された。
バイチ帝国内部の残党については、謁見の間まで侵攻した男のみで、その他に魔力レベル10以上の者を発見する事は出来なかった。
謁見の間に護衛として控えていたラターシャは、突然バイチ帝国の重鎮に告げる。
「皆さま、バリッジの拠点は破壊し、バイチ帝国内部でバリッジ構成員と疑われる魔力レベル10以上の者は確認されませんでした。組織は壊滅しているので、魔力レベルが10以下の構成員であった者は、今後悪意ある行動をとる事は無いでしょう」
アンノウンの中で、特殊な連絡方法がある事位は把握している皇帝ヨハネス、宰相アゾナ、騎士隊長ナバロン、そしていつの間にかこの部屋に入ってきたギルドマスターであるグラムロイスは、ラターシャの言葉にホッと胸をなでおろす。
「アンノウンの……なんとお呼びすればよいか分かりませんが、あなた達のおかげで我がバイチ帝国は救われました。今回の闘いは、随分と無理をしたのではないでしょうか?首領にも落ち着いたらお礼がしたいとお伝えください」
代表して宰相のアゾナが告げると、
「わかりました……近いうちにお邪魔します……との事です。では私はこれで失礼します」
伝えるだけ伝えると、バイチ帝国謁見の間から消えるアンノウンゼロのラターシャ。
「ハンネル王国に向かう際の縁。あの時にアンノウンと縁を結ぶ事が出来なければ、バイチ帝国は滅んでいただろうな」
皇帝は呟く。
他の三人も同意見であり、異を唱える者はいない。
「ですが、我らは勝ちました。今回の結果で、この大陸中の全ての国家を相手にしてもアンノウンの助力を得ているバイチ帝国に損害を与える事が出来ないと知らしめたのです」
宰相アゾナは嬉しそうにこの場の全員に告げる。
続けて、騎士隊長ナバロン。
「アゾナの言う通りだな。これでバイチ帝国以外の国家でも、理不尽な行動、奴隷に対する扱いも変わるだろう」
更に続けてグラムロイス。
「いえ、そう期待するのではなく、今回の戦勝の賠償の一環としてこちらから要求するのですよ」




