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バイチ帝国(7)南門のNo.7(ジーベン)

 今回、No.7(ジーベン)の前に現れた冒険者もその一人。

 魔力レベルは少し前の人族最強であるレベル10。


 この戦闘の最中、悪魔、更には自分の力で鑑定ができない男が数人連合軍に混じっている事から、何故か気が大きくなっていた。


 そう、今ならこの女を力で屈服させる事が出来る……と。


「お前、今この俺様に奴隷として忠誠を誓うのであれば命だけは助けてやらない事もないぞ?」


 何故か、連合軍の大将気取りの冒険者の男。

 そのような権限もなく現実的に大した力もないのに、人族最強であったとの自負から尊大な態度が変わる事は無かった。


 防壁を攻撃していた暗部の二人もNo.7(ジーベン)とイニアス、オウカの近くに移動し、更にはありのままの姿を晒している悪魔二体もいる。


 そしてなぜかその中で吹けば飛ぶような存在の冒険者一人が最も偉そうに交渉を始めているのだ。


「それと、そこのアンノウンのお前。見た事は無いがお前も上玉だな。お前も俺の奴隷にしてやろう。お前はダメだ。男には興味は無いからな」


 暗部と悪魔が近くにいる事から、更に勘違いして尊大になる男。

 魔獣に襲われた瞬間に隠蔽を解除して全力で防御をしようとしていたアンノウンゼロの二人、イニアスとオウカにも訳の分からない事を告げる。


 しかし、アンノウンの三人はこの男には目もくれずに悪魔と暗部を睨みつけている。


「姑息な手を使いますね。魔獣からでる魔力の存在を隠すために、有象無象に魔力が発生する魔道具を持たせてウロチョロさせたのですか。おかげで魔獣から発する魔力に意識が向きませんでしたよ。悔しいですが、そのせいで仲間を危険に晒してしまいました」


 No.7(ジーベン)は連合軍の中に発生している魔力については魔道具から出ている物であり、意識する必要はない旨をアンノウンゼロの二人に伝えてしまっていた。


 その結果は、全力で防御を行わないといけない状態にまで陥ってしまった。


『とんでもないです、No.7(ジーベン)さん。結局は私達の油断です』

『オウカの言う通りだ。こんな事ではジトロ様に余計な心配をかけてしまう。オウカ、わかっているな?俺達に二度目の失敗は許されない。No.7(ジーベン)、あの暗部は今一度俺達に任せて貰おう』


 いくら敵の戦力が上がっていようとも目の前の相手はジトロの心を傷付けた者の一味、そして家族のキロスとコンを死の淵まで追いやった者達。

 一時的とはいえ危機的状況に陥ってしまった事を恥じ、気合を入れなおすイニアスとオウカ。


『お二人の気持ちは分かりました。ありがとうございます。私にも油断があったのは間違いありません。イニアスさんの言う通り、彼らはジトロ様の怨敵になります。ここからは容赦なく行きましょう』


 悪魔、バリッジ暗部、そしてなぜか冒険者の男一人は、目の前のアンノウン三人が黙っているように見える。

 念話で意思疎通をしているから当然なのだが、必死で作戦を考えているように見えるのだ。


「早く決断しろ。お前ら二人が奴隷になればそこの男も命だけは助かるかもしれないぞ」


 バイチ帝国に侵攻した際に、どさくさに紛れて一般人から価値ある物を略奪しようと考えて連合軍に入っていた冒険者。

 既に化けの皮ははがれて、欲望が全面に現れている。


 しかしアンノウンとバリッジ暗部、悪魔は互いに臨戦態勢になっており、冒険者の声は完全に無視されている。

 つまり、この男一人で何やら偉そうな事を喚いていると言う、情けない絵面になっている。


「アンノウン、流石にしぶといな」


 バリッジ暗部も、思わず本音が口から洩れる。

 彼も冒険者を一瞥するでもなく、次なる手を考えているのだ。


 その最中も一人で騒ぎ出す冒険者。

 その男の近くに悪魔の一体が近づくと、首根っこを掴んでイニアスとオウカが追い詰められた場所に放り投げた。

 そう、魔獣の群れが蠢いている場所だ。


 新鮮な餌を投げ込まれた魔獣は一気に冒険者の男に群がり、冒険者の叫び声を聞く間もなくその姿は視界から消える。


 連合軍は、なぜか一人冒険者が同行していた事を不思議に思っていたが、今のやり取りで冒険者の意図を察した。

 そして、その邪な考えを持つ冒険者を始末した悪魔に対して、崇拝の念を持ったのだ。


 自らがバイチ帝国を責めているのは正義の為であると信じて疑っていない……


 その直後に、再び戦闘が開始される。


 防壁への攻撃が収まった事から修復後に魔獣の群れを駆逐し、二度と失態を犯さないとこちらも気合を新たにする防壁内部のアンノウンゼロ。


 そんな中で再開された戦闘は、一方的な展開となった。

 アンノウンゼロとナンバーズのNo.7(ジーベン)が、リミッターを解除したのだ。


 既に戦闘が終わっている場所の情報から、No.4(フィーア)が倒れた事を知っている。

 そして、その理由も……


 その結果、一瞬でも敵に押され、無様を晒してしまったのは覚悟が足りないせいだと思った、この南門を担当しているアンノウンの三人。

 No.4(フィーア)と同様に、後先考えずに本当の全力で事に当たる事にした。


 その後については防壁内部からサポートをしてくれている家族、そして拠点から冷静に全ての状況を把握しているイズンが何とかしてくれると言う、確固たる信頼のなせる業だ。

 

 アンノウンゼロの猛攻を受けているバリッジ暗部総隊長補佐の二人は防戦一方になる。


「貴様ら、今まで力を抑えていたのか!」


 だが、目の前の敵を叩き潰す事だけに完全に意識が向いているアンノウンゼロには聞こえない。


 バリッジとしては、既に出来うる補強は全て行っている。

 配備していた魔獣も全て倒され、次の作戦を考えているうちに戦闘が再開されてしまったのだ。


 アンノウンゼロの攻撃を避ける余裕はなく何とか受け流そうとするのだが、それでも大きなダメージを負う。


 アンノウンゼロのイニアスとオウカは、まるで示し合わせたかのように異なる攻撃を仕掛けている。


 魔術一つとっても、二人からは必ず相反する術、水と炎と言った属性を持つ術で攻撃しているのだ。

 更には、暗部二人に対して同時に攻撃をする時もあれば、攻撃対象を入れ替えて攻撃する事もある。

 正に変幻自在で、必死で対応するも追いついていない。


 当然そのような攻撃を受け流すにも相当な技術が必要になる。


 全身全霊で防御を行っているのだが徐々に傷を負い、対処が遅れ、を繰り返しており、やがて暗部の二人は攻撃をまともに食らう。

 一度攻撃を食らってしまうと最早立て直す事も出来ずにその後の全ての攻撃を被弾して、その姿がこの世から消える。


 目の前で繰り広げられた一方的な惨劇。

 連合軍の魔力レベルでは正確に全てを見る事は出来ないが、結果的に有り得ない数の魔術が行使されていた事、最終的に暗部の二人が負けた事は理解できている。


 ここに来て、敗北の二文字が頭にこびりついた連合軍。

 悪魔とNo.7(ジーベン)の戦闘が続いてはいるが、その隙にと徐々に撤退を始めたのだ。

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