バイチ帝国(5)西門のNo.6(ゼクス)
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他のアンノウンゼロに注意を向ける悪魔だが、戦闘に加勢してくる様子はなく、そのような気配すら感じ取る事ができない。
そうであれば今戦闘している二人のアンノウンゼロを片付けて、No.6も始末できる可能性が高いと考えた悪魔は、一気に勝負を仕掛ける。
最も得意な身体強化からの体術を利用した遠当を、至近距離で使う準備を始めた。
ヨーゼフナとライブンに連続攻撃をする。
当然二人は完全に防御するのだが、受けきれずに悪魔から少々距離が離れる。
その隙に身体強化に魔力を完全に移行して、ヨーゼフナに一気に近接する。
まずは一人目……と思った悪魔。
当然アンノウンゼロも転移術で回避する事ができるのだが、あえてヨーゼフナはその攻撃を受ける体制を取った。
連携してこの悪魔と対峙していたライブンは、ヨーゼフナを助ける素振りすら見せず、逆に少し距離を取っている。
悪魔は、ライブンのこの行動は少しでも自分から距離を取って立て直そうとしていると判断しているので、一気にヨーゼフナに対して攻撃を仕掛ける。
悪魔の極限まで圧縮された力を一気に解き放つ突き。
少し前にハンネル王国の王都の結界を破壊したNo.1の時と同様、極限の破壊ともいえる域に達しつつあるので、余計な音すらしない攻撃。
悪魔としては、攻撃が成功した感触があったので次の相手であるライブンに意識を移そうとする。
しかし、思考が纏まらずに良く分からない状態になっている事に気が付く。
ヨーゼフナに攻撃を当ててからどの程度の時間が経過したかすら理解できないのだ。
不思議な感覚を味わっている最中、聞き覚えのある、いや、直前まで聞こえていたであろう戦闘相手の声が聞こえる。
「流石だなヨーゼフナ。お前の技術に追い付くにはまだまだ時間がかかりそうだ」
「そんな事はありませんよ。それぞれ得意な術があるのですから。今回は偶然私の術がこの悪魔に対して有効だっただけ。それだけですよ」
徐々に話の内容が理解できつつある悪魔。
その内容は、まずは攻撃を当てたはずのヨーゼフナと言われているアンノウンは無事であるという事。
更には、なぜか自分が何かしらのヨーゼフナの術を受けてしまった事だ。
周囲を確認しようと目を凝らすが、朧げに二人の姿が見えるような気がするだけで、何かを確認できる状態ではない。
魔力も体内の魔力回路が破壊されたのか、上手く使う事ができない為、感知術すら発動する事ができない。
通常はダメージを受けた際には、悪魔の種族特性から魔力が自動的に再生・回復を行うのだが、それすらできていない程に魔力回路に致命的な損傷を受けた可能性が高いと判断した。
つまり、核が何かしらのダメージを負ったのだ。
核が最大の弱点である事は全ての悪魔族が理解しているので、どのような時でも強固な防御壁を核周辺に展開している。
そもそも、核自体も強固で、同族の悪魔族の術を使用しない限り早々破壊される事は無い。
今までの長い歴史の中で、聖剣によって砕かれた以外で破壊された事は一切ないのだ。
核自体の強度、更にはその周辺に展開している防御壁を容易く破り、悪魔自身の身体強化による補強も破られた事になる。
この悪魔は、自らの最後を覚悟した。
他の悪魔と異なり、この期に及んで悪あがきをするのではなく、どのような攻撃を受けたのかを知りたくなっていた。
当然次が訪れる事はないと言う事は理解しているにもかかわらずだ。
「お、お前ら、ヨーゼフナと言ったか?見事だ。負けを認めよう。最後に一つ教えてくれ。俺は何故倒れている。いや、実際に倒れているかはわからないが、恐らく倒れているのだろう?」
今まで知り得ている悪魔とは全く違った反応をしている悪魔を見て、ヨーゼフナとライブンは互いの顔を見るも、その問いかけに答える事にした。
「あなたの言う通り、既にあなたは致命傷を負って倒れています。貴方が同族から核を渡されていた後、同族が消滅していましたね?それで私達は悪魔族の核が、我ら人族の心臓であると理解したのです。同時にその位置も……」
東門の状況を把握して、戦力増強が必須であると判断した悪魔族とバリッジ。
その行動、悪魔族の核を取り入れた行為を把握されていた上に、悪魔族のその行動から弱点を把握されてしまったのだ。
「なるほど、流石だな。それでどのような攻撃を受けたのだ?安心しろ。信じる事は出来ないかもしれないが、ここで教えて貰ったことは他言しない」
今までの悪魔とは根本的に何かが違うと判断したヨーゼフナは、自分が発動した術について説明する事にした。
たとえこの悪魔がヨーゼフナの術の情報を他の悪魔達に展開したとしても、今回の作戦で悪魔族とバリッジは存在が無くなると確信している事、そしてこの術に対応するのは容易ではないと判断したからだ。
「あなたは他の悪魔とは少し違うようですね。その姿勢に免じて希望を叶えましょう。私の使用した術は反射です。もうお分かりいただけましたか?あなた自身の素晴らしい攻撃をあなたに反射したのです。その時に、私の攻撃も上乗せしていますが……」
「あの速度の攻撃を反射だと?そうか、なるほど理解した。そう簡単に習得できるような術ではないだろう。血のにじむような鍛錬をしたのだろうな。見事だアンノウン。そしてヨーゼフナ。お前がこの長い生涯の最後の相手であった事、嬉しく思うぞ」
そう言いながら、悪魔は消滅した。
「こんなやつもいるのか……」
「あまり深く考えない方が良いですよ。悪魔族の中でも突然変異ではないでしょうか?キロスとコンの事、忘れてはいけませんよ」
少し同情しかかったライブンに、ヨーゼフナが釘を刺す。
若干のフォローと共に……
「ですが、確かにこの悪魔だけは、最後は立派でした」
西門の悪魔は残り一体。
アンノウンゼロの二人が呑気に話をしている状況、そう、既に勝敗は決したと言っても良い状態になっていた。
目の前から消えた悪魔から視線をNo.6に向けるアンノウンゼロの二人。
その視線の先には、既に立っているのもやっとの悪魔と、多方向から攻撃して倒れ伏す事を許さないNo.6の姿が見える。
「圧倒的だな。流石はナンバーズ」
「そうですね。まさか回復術にあのような使い方があるなんて。でも今の私達では無理でしょうね」
実はNo.6、この体勢に持ち込むために使った術は基本の身体強化の他には、回復術だけだ。
回復術を使って、強化されていた悪魔の力を元の状態に回復させたのだ。
同族の核の摂取、更には悪魔族が残りの命の期間を危惧していた、バリッジが作成した丸薬摂取、共に無効にしたのだ。
丸薬の効果も無効にしているので、悪魔の寿命期限は無くなっている。
だが、このままであれば、悪魔の命は持って数分。
ナンバーズのNo.6と、魔力レベルが89程度の雑魚では、勝負になる訳がない。
一気に勝負を決めないのは、No.6の怒りによるものだろう。
だが、どれ程調整したつもりでも、雑魚はやがて力尽きる。
立った姿勢のまま、体が消滅し始めたのだ。つまり既に死亡している。
「本当に雑魚」
No.6の呟きと共に、西門の闘いも集結した。




