魔獣の正体と、ギルドの対応
俺達の拠点にいる、新種のピグマス。
魔法によってガチガチに捕縛され、その傍には炎竜の親子が睨みを利かせている。
この状態であれば、かなり詳しい解析ができるだろう。
「No.7、早速解析してみてくれ」
「わかりました」
暫くすると、解析が終了したようだ。
「ジトロ様、この個体。見かけの通りに元は普通のピグマスで間違いありません。そして、体内の魔力……既に安定した状態にありますが、何やら強制的に増加させられています。それも、外部からです。方法まではわかりませんが、魔力を強制的に何らかの方法で注入でもしたのでしょうか?それとも異常な魔力溜まりが発生して、そこに長期間いたことによる物なのか、それとも人的な物なのか……判断できません」
とすると、この個体から直接情報を抜けるか試す必要があるな。
テイム系統の能力が最も得意なのは……
「No.2、一時的でいいのでこの個体をテイムして、情報を聞いてもらえるか?」
「わかりました」
こうして、No.2は即新種のピグマスをテイムした。
「ジトロ様。残念ですが、テイムしてもこの個体とは意思の疎通が図れません。こんな事は初めてです」
どうやら、これ以上この個体からは情報を得る事は出来なさそうだ。
とすると、意思疎通できないペットをこの場においていても危険なだけだ。
ここには、レベル0の面々も住んでいるからな。
「仕方がない。これ以上情報を抜くことができないのならば、この個体は俺達の夕飯にするか?」
「いいえ、ジトロ様。このような特殊な個体、何らかの悪影響がある可能性が高いので、食材にしない方が良いかと思います」
「そうか?そうだな。ありがとう、No.1」
こうして、新種の魔獣が捕獲された事によって冒険者達の安全は確保されたが、この個体が発生した原因、発生した場所、全てが闇に包まれており、何の情報も得る事が出来なかった。
残念ながらこの個体は、庭の片隅で彼女達によって即焼却処理されてしまったのだ。
あ~あ、昼飯が無しだったから、美味しいピグマスの夕飯、食べたかったんだけどな。残念。
こんな時に限ってやけにこんがり良い匂いがするのだから、少しだけ腹が立ってしまった。
そして翌日俺が出勤すると、なんと驚くなかれ!!あのクソギルドマスターが既に出勤している。
これは、あの哀れにも焼却処分になってしまったピグマスの加護によって、クソギルドマスターがギルドマスターに変化、いや進化したと言う現実味が帯びてきた。
期待して、クソ…いや、ギルドマスターに挨拶する。
「おはようございます」
「遅いぞ。何時だと思っている。これだから平民は……」
……前言撤回、こいつはクソのままだった。そして、何のきっかけにもならなかった新種のピグマス。哀れ……
「良いか、あの新種の魔獣については貴族であるこの私、ドストラ・アーデが担当し、その討伐隊も我が子爵家が出す。このような平民共の集まりに任せておくわけにはいかん。だが、私が動く以上安全は確保されたも同然だ。既に私の指示によって魔獣による危険はないと通達した。お前が来るのが遅いので、この私自ら手配してやったのだ。感謝するのだな」
それだけ言うと、クソギルドマスターは部屋に戻っていった。
チッ、お前がこの時間に来ているのだって、年に数回じゃねーか。
それにな、お前の独断で安全宣言をしたのだ。俺がいつも通りの時間に出勤して文句言われる筋合いはねーよ!!
はぁ、はぁ、心の声だけでも、相当疲れるな。
止め止め!結果はどうあれ、冒険者達の安全…いや、そもそも冒険者家業自体が安全とは言えないのだが、新種の魔獣による脅威が去った事は間違いない。
だが、あのクソギルドマスター、立派な名前があったようだが、あいつはどうやって新種魔獣の討伐を行うのだろうか。
既にこの世に存在しないのだがな……
報告が楽しみだ。
クソギルドマスターの独断により新種の魔獣による危険は無くなったとおふれが出ているので、今朝はいつもの通り窓口には多数の冒険者達が訪れている。
まったく、俺達はあの魔獣が本当にいなくなった事を理解しているから良いものの、未だに討伐されていないと知っていたら気が気じゃなかったぞ。
と、そんな事を考えつつも、長らく身に着けたギルド畜根性からか、てきぱきと業務をこなしている俺。
流石は副ギルドマスター補佐心得だな。
こうしている間、クソギルドマスターはいつもよりも早く来たせいか、いつも以上に早く帰りやがった。
だが、部隊編成の為に帰ったと信じたい。
あれ?良く考えると、暫くは存在していない新種の魔獣を追い求めて行くわけだから、出勤してこないのではなかろうか?
いいいいいぃぃやった~~~!!!
ひゃっほっ~い。
こんな素晴らしい結果をもたらすなんて、やはりあのピグマスは神の使いだったのかもしれない。
むごたらしく焼却してごめんなさい。
そして、俺の予想通り!!クソギルドマスターは暫くギルドに出勤する事がなかった。
なんて素晴らしい。
朝出勤した際に、余計な仕事をする必要もない。
そして、日中も余計な手間を取らせる事もない。既に忘れていた、普通の状態を味わう事ができた。
しかも、既にクソギルドマスターが出勤しなくなってから一月が経過している。
ククククク、このまま永遠に見つかる事のない新種の魔獣を探し続けて、出勤しなければ良いのに……。
だが、俺の願いは翌日に脆くも崩れ去った。
あんなことを考えてしまったので、フラグが立ったのだろう。
「私がいない間、だらけていないだろうな」
出勤すると同時に開口一番訳の分からない事をほざく、クソギルドマスター。
<お前がいないおかげで業務に無駄がなく、全てがスムーズに行えていたよ>
「まったく問題ありません。日々業務に勤しんでおりました」
久しぶりに出てしまった心の声。
きっと表情も、いつもよりは不機嫌になっているのかもしれない。
こうして俺のボーナスタイムは終わってしまったが、このクソギルドマスターから新種の魔獣に関する情報は一切出る事がなかった。
そりゃそうだな。一か月以上費やして、成果無しだもんな。
俺だったら、恥ずかしくてとても出勤なんてできないな。
あ~、こんな事なら、もう少し新種の魔獣が頻繁に出てくれないかな~。
今回、俺の命令で捕獲に向かった面々にとってみれば、魔獣レベル20なんて雑魚も良い所、準備運動にもならないから危険もないしな~。
と、この心の中の叫びが前回と同様にフラグにならないかと期待したが、そんな奇跡は起きなかった。
今日は終わりです
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