バイチ帝国(1)東門のNo.4(フィーア)
ここはバイチ帝国。
既にアンノウンによる魔法防壁は作成済みであり、緊急事態発令による外出禁止もあって、どの場所も閑散としている。
このバイチ帝国の守護を約束したアンノウン。
既に東西南北にある門、その中間の物理的な防壁にアンノウンゼロがいる。
各門に配置されているのはナンバーズ。
東門にはNo.4
西門にはNo.6
南門にはNo.7
北門にはNo.10
そして、各門の間にいるアンノウンゼロは、
ドリノラム、ミハク、ライブン、ヨーゼフナ、アガリア、ワポーレ、ランス、レイニー、アマノン、イニアス、オウカ、レントン、ナップルだ。
アンノウンとして、ほぼ半数の戦力がバイチ帝国に集結している事になる。
既に悪魔とバリッジ、そして大陸中の国家戦力からの攻撃を受けているのだが、魔法防壁の補強を行うだけで、バイチ帝国内部には一切ダメージは無い。
だが、ある瞬間から明らかに大陸中の国家の軍隊に紛れ込んでいる悪魔とバリッジの戦力が跳ね上がり、防壁にダメージを負う事態に陥った。
この状態を把握したイズンは、ジトロに対してアンノウン側からも攻撃を開始する旨を告げた。
ジトロの返事の一部は、アンノウンの全てのメンバーに対して家族の絆を確認させるに十分な言葉が含まれていた。
更にはジトロからの信頼も感じたアンノウン。
バイチ帝国ではなくアンノウンの拠点にいるメンバーも、喜びからか無意識化に気合が入り、更なる力が沸き上がる。
直後、イズンから指示が飛ぶ。
『ナンバーズは各門付近の敵、特にバリッジと悪魔と判定できるものを排除。各門の近くにいるアンノウンゼロはナンバーズのサポート、その他のアンノウンゼロは継続して魔法防壁の補強に当たってください。決して油断しないように。ジトロ様の期待に応えるためにも、全力で対処してください』
その指示と共に、四人のナンバーズは門の外に転移する。
敵の力が強大になってきている事は理解しているので、魔力レベルが強大な者の選別は近辺のアンノウンゼロが行い、ナンバーズは攻撃に集中できるようにしている。
バリッジと悪魔側は、各門付近にそれぞれ十人ほどの部隊を展開している。
既にスミルカの町、そしてハンネル王国の王都の結界についての情報を得ているアンノウンは、イズンの指示を受けるまでもなく手加減ができる相手であるとは思っていない。
◆◆◆◆◆◆◆
ここは東門にいるナンバーズのNo.4。隠密術を最も得意とし、鑑定は苦手だ。
No.4のサポートに入っているアンノウンゼロはドリノラムとミハク。この二人は、かつてハンネル王国の王都の商店に任務で勤務していたアンノウンゼロの女性。
「No.4、既に伝えた通り悪魔は十体、魔力レベルが高い人族が八名です」
「私とドリノラムでバリッジと思われる八名を相手にします。貴方に負担がかかりますが、悪魔の十体、お願いできますか?こちらも終わり次第悪魔側に攻撃を行います。人族の軍は、防壁内部のアンノウンゼロが何とかしてくれるでしょう」
「ああ、任せておけ。イズンも言っていたが、ジトロ様の期待に応えるためにも全力で行くぞ。だが、深追いはするなよ。危なくなったら躊躇なく撤退しろ。これはジトロ様の命令だぞ」
アンノウンはジトロを頂点とした組織。
ジトロは世界を軽く手に入れられる程の強大な力を持っているが、決してそのような行動は起こさず、イズンに時折怒られている事すらある。
そんなジトロを尊敬し、敬愛し、崇拝しているアンノウンが、ジトロの期待と想いを裏切るわけにはいかないと思うのは必然だ。
その為、気合の入ったアンノウンと、悪魔・バリッジとの戦闘・・・・・・後世に長く語り継がれるバイチ帝国の戦闘がついに始まった。
悪魔とバリッジ周辺のただの人族達は、なぜか突然泡を吹いて倒れる。
防壁内部から強烈な魔力を放出した為、最大魔力レベル10程度のただの人族では意識を保つ事が出来なかったのだ。
そこにアンノウンゼロのドリノラムとミハクが魔術攻撃を行う。
ジトロの為、アンノウンの為に魔獣と共に必死に鍛錬してきたその力を開放しているのだから、その余波で周辺の人族は軽く吹き飛ぶ。
結果的に、悪魔族とバリッジ暗部だけがその場にまばらに立っており、人族の軍隊の生き残りは、バイチ帝国東門の周辺からはかなり距離が開く。
「この程度の攻撃では致命傷とはいきませんか。では予定通りに行きますよ!」
ミハクは宣言と共に近くのバリッジ暗部に襲い掛かる。
当然転移術を発動しているので、魔力レベルが高い暗部と言え、その姿を的確に捕らえる事は出来ない。
ドリノラムも同じく、ミハクとは逆の位置にいる暗部に襲い掛かる。
ドリノラムはミハクとは違い、どちらかと言えば体術を得意としているので、必然的に近距離での攻撃になる。
遠距離からの攻撃は、衝撃波による“遠当”という技もあるのだが、今のバリッジには致命傷にはならないと判断して、転移術によって近距離攻撃を行う事にしたのだ。
そしてナンバーズのNo.4。
態度や言葉使いは荒いが、優しい心を持っている。
そのNo.4は、ジトロがかつて尊敬していると公言していたトロンプが怨敵の首領であった事で、ジトロが受けた心の傷を考えると、今すぐにでもバリッジと悪魔を根絶やしにしたい程怒りに覆われていた。
だが、敬愛するジトロからの命令は冷静に、そして無事に任務を終える事だ。
そのジトロからの命令を心に刻み、怒りを何とか押さえつけて冷静さを保つ。
当初の作戦通り、No.4は十体の悪魔と対峙する。
ナンバーズと言え、相当な力がある悪魔十体を同時に相手にするには少々分が悪いのは当人も理解している。
しかし、No.4の最も得意とするのは隠密術だ。
纏めて十体を相手にする必要など一切ない。
転移術を使用せずに、既に臨戦態勢になっている悪魔達に視認できる状態で近づきつつ隠密術を展開する。
悪魔にしてみれば、一人で自分達の方に向かってきているアンノウンが朧気になり、やがて視認できなくなるのだ。
ある意味恐怖でしかない。
この間にも、アンノウンゼロと対峙しているバリッジは既に二名しか残っていない。
だがこの二名、他の六人がアンノウンゼロと対峙している隙に再び丸薬を摂取した為、アンノウンゼロの攻撃をさばける程に力が上昇している。
荒れ狂う二つの暴風を伴い、ドリノラムとミハクは暗部と戦闘を行う。
その様子を見た悪魔、更にはハンネル王国側の悪魔との情報共有を行ったことから、自らも丸薬を摂取した。
いつの間にか倒されていた悪魔は既に六体。
この場に残っているのは残り四体の悪魔、そしてアンノウンゼロと戦闘をしているバリッジ暗部の二人だけとなる。
「これでも明確に存在を把握できないか。仕方がない。ここは俺が犠牲になろう」
既に核を取り込み、丸薬を二度摂取した悪魔ですら転移術を発動しながら隠密術を使用して攻撃してくるNo.4を捕らえる事が出来ていないので、更なる犠牲を伴って戦力増強を行う事を決断した。




