No.0、トロンプ、レムロドリッチ(4)
聖剣を持っているバリッジ首領のトロンプと暗部、そして悪魔がジトロに襲い掛かる。
ジトロとしてはまだ余裕があったのだが、No.1は流石に多勢に無勢。
更にはNo.1のレベルでは高位魔術の行使を制限されているので、徐々に不利になっていく状況を確認すると、ジトロはNo.1の近くに軽く転移する。
とはいえ、No.1の近くは敵が密集しているので、未だ少々の距離はある。
ここからNo.1に群がっている敵を始末して、一時的に拮抗する状況に持ち込み、更には反撃しようかと思った所、トロンプが大きな塊をジトロのいる場所に投げ込んだ。
感知によって魔力のほとんどない大きな物体が飛んできているのを理解したジトロは軽く迎撃しようと体制を整えた瞬間、その飛んできている物体が人である事を認識した。
思わず攻撃を止めてしまうが、良く見ると、それはあのピート男爵。キロスとコンの仇とも言える存在であったので、一切の加減無しでその物体を爆散させる。
だが、ピートの体内には魔道具が埋め込まれており、爆散した瞬間にその魔道具に触れていたジトロは、一瞬ではあるが魔力レベルが大幅に減少した。
そもそも魔力レベル∞なので、減少したとしても∞ではあるのだが、確かに魔力レベルが下がったのだ。
こうなる事を予想していたバリッジと悪魔は、一斉にNo.1に攻撃を仕掛けつつジトロとNo.1の間に、魔力レベル99にまで引き上げた大量の魔獣の群れを初めて投入した。
既にNo.1の周囲には隙間がないほどのバリッジと悪魔で溢れており、空間がなければ転移ができないので、ジトロは術が発動できずにいる。
このままでは、ナンバーズ最強のNo.1ですら人質になりかねないと危惧したジトロは、念話でNo.1に命令を出す。
そう、No.10から渡されていた魔道具を使用した転移術の起動だ。
その念話を受信したNo.1は、全ての攻撃を見切ってダメージを受けないように捌きつつも、ジトロを見つめる。
だが、ジトロの命令は絶対のアンノウン。
特に最初のアンノウンでありナンバーズ筆頭であるNo.1がその命令を違える等と言う選択肢は存在しない。
たとえどのような理不尽な命令であったとしても。
この戦場を去る事に対して申し訳なさそうな顔を一瞬見せるNo.1だが、次の瞬間には転移術を発動してこの場から消える。
バイチ帝国に戻ったのだ。
「くっ、やはり化け物か。この結界の中でNo.1とやらも転移術を発動できるとは。だが、周囲に奴の気配はない。そうなると、この場にいるアンノウンは最早お前一人だぞ?ジトロ」
No.1の捕縛は失敗したのだが、敵対するアンノウンは一人だけになった事で更に優位になったと思っているトロンプは、勝利を確信している。
悪魔の代表であるレムロドリッチも同様だ。
「いや、むしろこの状況の方が俺にとってはやりやすい。味方に被害を与えてしまう心配がないからな」
「負け惜しみはよせ。だが今までのお前の貢献を考えればここで殺すのは惜しい。今、我らの軍門に下るのであればその命は助けてやるぞ」
トロンプは本心から言っている。
アンノウンの力を自らの力にできるのであれば、向かうところ敵なしと判断したのだ。
当然反旗を翻せないようにする楔は必要になるが、バリッジの技術力であれば問題ないと考えている。
だが、ジトロの意思は変わらない。
「安く見られたものだ」
呆れたように首を振るジトロ。
同じく、呆れた表情のトロンプとレムロドリッチ。
「これ程温情をかけてやってもダメか。今までのお前の貢献に報いてやりたかったのだが仕方がないな」
「俺としちゃあ、こっちの方が分かりやすくていいぜ」
好戦的な悪魔であるレムロドリッチは、付近の悪魔と共にジトロに総攻撃を仕掛ける。
当然転移で避けられる可能性があり、同時に反撃を受ける事も想定して死角を無くす配置を取っている。
バリッジであるトロンプも同様だ。
だが、両者の意図とは裏腹に、ジトロは転移を使わずその攻撃を全て躱して見せた。
実際は攻撃を受けてもダメージは無いのだが、どのような付与がなされている攻撃があるか不明である為に、安全を見て避けたのだ。
ジトロは全ての攻撃の詳細を知る事が出来る力は有るが、頭脳すら強化する必要が出て来るので、そこまではしていない。
どの位の時が経ったのだろうか、ひたすら攻撃を躱すジトロ。
悪魔とバリッジ個々の力も相当なものであり、更には連携を組んで絶え間ない攻撃をしてくるので、感心していた。
実はジトロが攻撃をしないのには訳がある。
この場で悪魔とバリッジを始末した場合、守る者が無くなったバイチ帝国側にいる残党が、自爆を含む最後の手段に出て被害が出るのを防いでいるのだ。
本来はある程度の力を削ぐのが良いのだが、敵の力もかなりあるために手加減が上手く行く気がしていないジトロ。
その結果、バイチ帝国側の制圧が完了するまでは敵に大きなダメージを与えないようにしている。
その姿を見ているトロンプとレムロドリッチは、攻撃が当たらない事にイライラしつつも、反撃ができないほどに追い込めていると考える。
「レムロドリッチよ、悪魔族は味方の核を取り入れる事で戦力を上げている。我がバリッジは丸薬の重複摂取。まだ試してはいないが、今の悪魔族が丸薬を重複摂取すれば更に力が増すのではないか?」
「そうかもしれないな。確かにあの化け物を仕留めるにはその程度の覚悟は必要だろう。まさかこの状況で一切のダメージを負わないとは……あのジトロとか言う男、いまだに鑑定すらできないからな。我ら悪魔族にしてみれば、一年の寿命が少々短くなってもその聖剣があれば復活する事が出来る。問題はないだろう。トロンプよ、お前の提言を受け入れる事にしよう」
丸薬を摂取し、更に同族の核を取り込んで力を得ていた悪魔が、再び丸薬を摂取して力を増大させる。
ジトロに攻撃を仕掛けている悪魔はそのままで、後衛に下がっている者達が丸薬を摂取する。
そして前衛と後衛が入れ替わると、前衛だった悪魔達も丸薬を摂取したのだ。
攻撃してくる悪魔が入れ替わった瞬間に攻撃力が跳ね上がった為、ジトロは今までと同じような速度で攻撃を躱したのだが、躱しきれずに初めて直接攻撃をその身に食らう。
一瞬体制が崩れると、その隙をつき、丸薬によって強制的に引き上げられた力と数に物を言わせた悪魔とバリッジの総攻撃によって、全ての攻撃を躱す事が出来なくなった。
転移術を発動しようにも、初めての攻撃を受けている事により上手く起動する事が出来ない。
あまりにも強すぎたために、実際に攻撃を受けた状態での術の起動の経験がなかったためだ。
魔力レベル∞による弊害は、全力で力を行使した場合の周囲への影響が大きく、今まで全力での戦闘訓練を行う事が出来なかった事、そして、攻撃を受けた経験が一切なく、実際に今ジトロが陥っているような、攻撃を受けながら何かしら対処をする必要があるといった事も一切経験できなかった事だ。
とはいえ、魔力レベル∞。
いくら力を増したバリッジと悪魔の攻撃と言え、少々の傷はつく場合はあるのだが、即修復する事が出来るし、ダメージにはなっていない。
しかし現状を打破する方法を考える前に、目の前の攻撃を避ける行動を取る事で頭が一杯になってしまっているジトロは、この状態から抜け出せずにいる。
トロンプとレムロドリッチは未だ試していないが、更なる丸薬摂取による力の増強を行う事も出来ると考えている。
あまりにも増強しすぎると肉体に大きな影響がある可能性が高いが、この場でジトロにダメージを与えられなければ、その方法も取らざるを得ないと考えていたのだ。
思った以上にワクチンの副反応が酷く、難儀しています




