ジトロの出撃
出撃していたナンバーズは、拠点の食堂に戻っている。
そこにはイズンがおり、このままバイチ帝国にいるジトロとNo.1にも念話で話をする。
『ジトロ様、No.1、こちらはNo.2です。既に速報を入れておりますが、我らナンバーズ、一旦撤退しております。スミルカの町の悪魔は全て除去しましたが、王都の結界を破る事が出来ませんでした。その力で逆襲される危険性を回避するため、不本意ではありますが一時撤退を決断しました』
『No.2、良い判断だったぞ。それ程の結界を張れるのであれば、攻撃力も相当あると考えるのが妥当だ。良くやった』
イズンもジトロの念話に対して深く頷いている。
イズンとしても、もう少し攻撃させた後に状況が変わらなければ、撤退させようと思っていたのだ。
『それと、宰相トロンプですが、やはりバリッジである事は疑いようがありません。人に扮した悪魔と共に、結界内部から我らの事を視認しておりました。No.7によれば、異常状態もなく、魔力を抑えるような魔道具を取り付けていたようです』
No.7は、トロンプをとレムロドリッチを認識した時に、既に解析と鑑定を彼ら二人に実施していた。
極限まで力を一点集中する事により、結界内部に対して術を行使したのだ。
悪魔達が作成していた結界は、主に攻撃に対する結界であり、鑑定や解析を対象としていなかった事が幸いし、難なく術を行使する事が出来ていたNo.7。
その結果が、トロンプが真っ黒である事実をジトロに突き付けた。
『まぁ、そうだろうな。良く考えると、あの聖剣騒ぎの時も、わざわざ俺に依頼をするのは不自然だ。あそこまで必死に聖剣を取得しようと考えたのは、ハンネル王国の為ではなく、バリッジとして聖剣の力を使って悪魔を制御しようと考えたのだろうな。意味なかったけど』
ジトロの最後のセリフは、No.8が聖剣をへし折った事を思い出したからだが、誰もその部分を突っ込んだりはしなかった。
『ジトロ様、このまま奴らがバイチ帝国に一気に侵食してくると、領民を守りつつの戦闘になります。正直、不利になる可能性が高いと思っています。私からもお止めしたにも拘らず翻して申し訳ありませんが、このままではバイチ帝国だけではなく、アンノウンも危険に晒される可能性が高い為、ジトロ様にも出撃をお願いしたいと考えております』
イズンが苦渋の決断をしたかのように、重苦しく告げる。
アンノウンゼロ、ナンバーズ、特にNo.1は、ジトロが出撃する事を極端に嫌う。
もちろんイズンもだ。
だが、イズンが考え抜いた結果、バリッジと悪魔が攻めて来ると何の力もない人々を守りつつ戦闘しなくてはならず、口には出していないが、人質に取られる可能性もある為、負ける可能性が高いと考えていた。
このバイチ帝国に攻めてきているのは、なにもバリッジや悪魔だけではないのだ。
大陸中の国家から宣戦布告を受けている。
バイチ帝国に全ての戦力が集中してしまうと、とてもじゃないが対応できないと判断したのだ。
アンノウンの拠点は広大になってはいるが、流石に帝国の全員を収容し、生活させるほどではない。
『わかった。トロンプ……の事もあるし、出撃しよう』
ナンバーズとイズンは、今までジトロが尊敬していると公言していた宰相トロンプに対しての敬称が彼の口から出てこなかった事で、ジトロの覚悟を知った。
『それでは、私No.1がお供いたします』
前回出撃していない、ナンバーズ最強のNo.1が当然のように、そしていつものようにジトロと行動を共にすると宣言する。
誰もこの流れを止められない事は分かっているので、明確に否定をする者はいない。
だが、No.1の身を案じての助言は行われる。
『ですがNo.1、彼らはあれほどの強度のある結界を作成できるのです。万が一転移術を阻害されてしまっては、逃走する事が出来なくなりますよ』
『大丈夫ですよ~No.2、ナップルさんと作ったこの魔道具があれば!これこそ最高傑作。阻害魔術を一度だけですが完全に排除できる優れものです~。術式が難しくて、一つしか作れませんでしたが~』
一体いくつの最高傑作があるのかはわからないが、“炸裂玉”に続く高機能魔道具をNo.1に転移した上で手渡すNo.10。
これで、No.2の心配事もなくなった。
だが、アンノウンの頭脳であるイズンは念を押す。
『No.1、良いですか?自分が不利と思ったら、何も考えずに必ずその魔道具を使用して、転移術を発動する事。それが出撃を許可する最低条件ですよ?』
『フフ、ありがとうございますイズン。いつも私達ナンバーズ、いえ、アンノウンの事を必死で考えてくださって感謝しています。もちろん、そうしますので、安心してください』
他のナンバーズについては、二手に分かれて拠点の防衛組と、ジトロとNo.1が抜けるバイチ帝国の防衛に当たる事になった。
キロスとコンについては、アンノウンの拠点に戻っている。
『じゃあ、向かうか?No.1』
『はい、ジトロ様』
アンノウン最強の首領、そしてナンバーズ最強のNo.1が、再びハンネル王国の王都に、悪魔とバリッジを叩き潰すために転移する。
「確かに強固な結界ですね。ジトロ様、一度私が破壊を試みても宜しいでしょうか?」
「ん?ああ、良いぞ」
普段、これほど前のめりな発言はしてこないNo.1。
余程キロスとコンの事、そしてトロンプに対しての怒りがあるのだろうか?と思いつつ、許可を出すジトロ。
No.1はジトロよりも一歩だけ前に出ると、魔力を結界の上空に半円状に展開した。
これだけの魔力なので、悪魔側やバリッジ達も当然感知している。
やがて大きく半円上に展開された魔力が、結界の一点に集中して放出された。
衝撃もなければ破壊音もないと言う究極の破壊が行われ、悪魔達が作成した結界には小動物が通れる程度の穴が開いた。
当然悪魔達が全力で修復したので、既にふさがっている……
「ジトロ様、あの程度の結界であれば私一人の力で大きく穴を空ける事が出来ますね。如何しましょうか?」
あくまで今の一撃は強度を試す試射であると言わんばかりのNo.1。
ジトロも、No.1の持つ技術、そして魔力であればそうなるだろうとは思っていた。
伊達にナンバーズ最強と言われているわけではない。
実はこのNo.1、戦闘狂のNo.3に体術だけの闘いでもあっさりと勝利できるほどの力を持っているのだ。
正に万能。
ジトロとNo.1が結界の破壊について話をしている少し前、丁度二人が結界の遥か上空に現れた時、厳戒態勢を取っていたバリッジと悪魔からの情報を得たトロンプとレムロドリッチの二人は、王城内の私室で話をしていた。
「おい、トロンプよ。奴らがまた攻めてきたようだぞ」
「わかっている。随分と早いな。だが今回は二人。戦力的には大きく下がっているはずだ。何を考えている?アンノウン」
少々待つが、前回の様な振動や轟音は一切聞こえてこない。
だが、トロンプの目の前にいるレムロドリッチの表情は一変する。
悪魔同士の方が現場からの情報伝達が早いので、トロンプよりも早く一部ではあるが結界が破られたと理解したのだ。




