戦闘開始(3)
継続して激しく揺れる王都。
王城も激しく揺れているが、この場にいるトロンプとレムロドリッチは微動だにしていない。
「どうだ、あいつらの顔を拝んでおかないか?どうせ正体を明かしたんだ。今更コソコソする必要はないだろう?」
レムロドリッチから提案を受けたトロンプは、この提案を受け入れる事にした。
実際この戦闘でアンノウンを全て消せれば、バリッジ首領という事を公にした上で、悪魔と手を組みつつバリッジの悲願である高貴な血を持つ者の世界を創っても良いと考えていた。
そもそも悪魔の命の残りは一年程度。
悪魔の力を使ってそこまでに盤石な体制を築く事が出来れば、バリッジとしては何の負担もない上に、脅威となり得る可能性がある悪魔も時期が来れば勝手にいなくなる。
更には、この戦闘で圧倒的な力を見せつける事により、アンノウン排除後に他国がハンネル王国、いや、バリッジに歯向かう意志すらわかないようにも出来るのだ。
正に理想と言っても良いと考えたのだ。
「そうさせて貰おう」
悪魔の力で、レムロドリッチはアンノウンが集結している方向を把握しているので、そちらに向かってトロンプと共に移動する。
一方のアンノウン。
9人のナンバーズが全力で結界に対して攻撃をするが、魔力レベル99を持つ悪魔300体、そしてバリッジの暗部達が補強した結界を破れずにいた。
ナンバーズは魔力レベル99と言え、規格外の力を持っている。
……のだが、その力を持ってしても、結界にヒビが入る事はあれど、破壊する事は出来なかったのだ。
当然そのヒビも、直ぐに修復されてしまう。
「No.2、どうしますか?残念ですが、今の我らの力ではこの結界を破る事は出来なさそうです」
すでに結界の詳細を鑑定したNo.7が、No.2に現実を告げる。
鑑定をせずともこの状況は把握できるのだが、時限的に補強されているかどうかをNo.7は確認し、その上でこのままではこの結界は破壊できないと判断したのだ。
つまり、攻撃し続けても同じ状況が続くという事だ。
そこまで理解しているNo.2は、無駄だと分かりつつも攻撃を加えながら熟考する。
例えば、悪魔が打って出てきた場合。
それこそナンバーズとしては願ってもない状況だと思っていたのだが、これだけ補強された結界を創れるという事は、当然戦闘能力も上がっていると考えられる。
負けるつもりはさらさらないが、現実、不利になる可能性は否めない。
転移術の妨害をされる前に、ここは一旦引くのが正解だろうと判断した。
『全員聞いてください。残念ですが一時撤退します。このままでは敵が打って出た場合に不利になる可能性が高いからです。この結界を破れないのがその可能性を物語っているのは理解できるでしょう。これは決定事項です』
聞き洩らしの無い様に、そして意図的に聞いていないという事が無い様に、わざわざ念話で伝えるNo.2。
ここまできっぱりと断言されては、否定するための要素を持っていないナンバーズも何も言えない。
『ですが、一時撤退です。ジトロ様とイズンと再度作戦を練り直し、必ず彼らを根絶やしにします。そう、トロンプを含めて……』
結界の中の王都、No.2達がいる場所からはかなり遠い位置を、レムロドリッチと共に歩いているトロンプを睨みつけながらナンバーズに告げるNo.2。
この場のナンバーズも二人を認識しており、レムロドリッチが人ではない事位は看破している。
『では一時撤退しますよ』
その指示と共にナンバーズはこの場から消え去り、絶えず続いていた轟音と振動も嘘のように消え去った。
「あいつら、尻尾を撒いて逃げたぞ」
「そのようだな。だが、こうなると厄介だ。何せあいつらの拠点が分かっていないからな」
王城にいながらも、暗部から常に最新の情報を得ていたトロンプ。
トロンプとしては、このままアンノウンに攻めさせて疲弊させた後にわざと結界の一か所を弱くして誘い込み、悪魔300体で完膚なきまでに叩き潰す作戦ではあったのだが、疲弊する様子が一切ないので、作戦を次の段階に進める事が出来なかったのだ。
だが作戦は失敗した。
まさかあそこまで怒りを露わにしているアンノウンが敵前逃亡するとは思いつかなかったので、疲弊するのを待ち続けてしまったのが失敗だ。
「奴らは、結界が破れないと判断して別の手を使ってくるだろう。その時が真の勝負だ。むしろ拠点なんぞ知らなくても良い。次こそ拠点の中身が空になる程の戦力で臨んでくるだろうからな」
レムロドリッチの発言を聞いたトロンプは、何を楽観的に……と思ってはいたのだが、現実はその言葉の通りになる事を願う他ないので、余計な事を口にすることは無かった。
唯一の気がかりは、丸薬の情報が漏れている可能性についてだ。
恐らく杞憂だとは思っているが、情報が漏れていれば、一年間アンノウンがその姿を現さなければ、バリッジに勝機は無い。
最大戦力である悪魔が消え去るからだ。
そうならないためにも、レムロドリッチの言う通り早く再びアンノウンが攻めて来る事を祈るトロンプだった。




