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戦闘開始(2)

 ドストラム・ハンネルを亡き者にした男は、トロンプが引き入れたバリッジの暗部の総隊長。

 バリッジ首領の護衛についている者だ。


 つまり……このトロンプこそがバリッジの首領であったのだ。


 既に玉座ごと国王は廃棄され、新たな玉座にトロンプが座る。


「まったくアンノウンめ、この私にここまでさせるとは……」


 トロンプはこれからも自らの正体を明かさずに行動しようとしていたのだが、バリッジ本部に転移して指示を出し、再びここに宰相として戻ってきては対応が間に合わないと判断し、正体を露わにした上で直接指示を出す事にしたのだ。


「お前がバリッジの首領か。なるほど、人族でそこまでの魔力レベルになっているとは、中々の強者だな」


 人に扮した悪魔側の纏め役とバリッジ首領が始めて直接会話をする。

 悪魔側の首領は魔王なのだが、既に滅されている事を知らない悪魔。


 当時の魔王直下のこの男が、暫定的に纏め役を行っているのだ。


 そしてトロンプの強さ、魔力レベルは60を超えている。

 何故今までアンノウンに看破されなかったかと言うと、当然トロンプを鑑定にかけるような行動を取っていなかったから、そして、トロンプが身に着けている魔道具によって、魔力レベルは抑え込まれていたからだ。


 以前ジトロがトロンプに鑑定を掛けた時もあったのだが、あくまで異常状態の判定だけを行っていたので、魔力レベルまでは明らかになっていなかった。


 だが、この緊急事態ではそうは言っていられないので、自らがバリッジの首領だと疑いを持たせないためにも魔道具の機能は停止している。


 そしてこの魔道具、今までの長きに渡り抑え込んでいた魔力を還元する事が出来る規格外の代物だ。

 バリッジの秘匿中の秘匿とされている技術、そしてそれに伴う多大な犠牲と共に開発された物なのだ。


 この魔道具を一つ作るのには、有り得ないほどの犠牲が必要になる。人、時間、お金……そのため、たとえバリッジと言え、この魔道具は一つしか作る事が出来なかったのだ。


 この魔道具から還元されるのは、当然魔力だ。

 つまり、魔力レベル60以上のトロンプが持ち得る魔力以上の魔力、実質的に魔力レベル99の戦闘能力を得る事が出来るのだ。


 既に悪魔達は全員魔力レベル99に達している。

 余命一年と言う時限爆弾付きの丸薬を摂取したのだ。


 だが、バリッジからこの王城に潜入する指令を受けた際、悪魔達は聖剣がこの王城の宝物庫に保管されている事を聞かされている。

 つまり、完全に復活できると信じているので、悪魔全員が丸薬の摂取を躊躇するような事はなかったのだ。


「すまないな、こちらにも事情があって姿を晒すわけにはいかなかったのでな。だが事情は大きく変わってしまった。忌々しいアンノウンを全力で排除するためには、そうも言っていられなくなったのだ。悪魔数十体が蹂躙されているという結果、王都に作った結界も補強する必要があるのではないか?」


 今まで存在を明かさなかったので、バリッジ首領として悪魔と初対峙したトロンプは詫びを入れつつ、結界の補強を暗に促す。


「そうだな。まさか魔力レベル99が蹂躙されるとは思ってもいなかった。お前の言う通り、このままでは結界も危ないだろうな。だが、この場にいる悪魔は俺達の全戦力、魔王様を除く全悪魔だ。その数ざっと300体。その全ての力を使って結界を再構築しよう。おい!」


 近くにいる悪魔に声を掛けると、この場に悪魔はこの男を除いていなくなった。

 結界を補強しに行ったのだろう。


「首領、我らバリッジも全戦力で対応すべきかと思いますが」


 暗部の総隊長が進言する。


「そうだな。使える戦力は既に連れてきている。暗部はお前の采配で好きに動かすと良い」

「承知しました」


 この暗部の総隊長も、魔力レベルは59。

 来るアンノウンとの決戦に備え、キメラを大量生産して魔力上昇の道具とし、優先的に魔力レベルを上げさせた結果だ。


 この総隊長、未だ丸薬は摂取していないが、常に懐に忍ばせていると共に、奥歯にも仕込んでいる。

 バリッジの為、首領の為ならば戸惑う事なく摂取する覚悟はできている。


「拠点の方は如何致しますか?」

「あそこには戦力になり得ない構成員しか残っていないからな。放置で良いだろう」


 実はバリッジの拠点、首領が一定期間魔力を込めなければ封印が解除される自爆装置が仕込まれている。

 首領であるトロンプとしては、将来的にバリッジを捨てる事も有り得ると考えており、その際には、バリッジ関連の一切の証拠を残さないように手を打っておいたのだ。


 この事実を知るのは、トロンプ以外ではこの魔道具を設置した研究者達と、今話をしていた暗部の総隊長のみ。

 研究者達は、誰にも知られないようにこの魔道具設置後、変死という末路を辿って貰っていた。

 当然トロンプの指示によるものだ。


 この場に残っているバリッジの構成員、暗部の隊員も、突然首領の正体が明かされて驚くも、総隊長が明確に首領としての対応をしているので、疑う余地はなかったのだ。


「お前達、聞いての通り総戦力でアンノウンと事を構える。ハンネル王国に来ている者全てに丸薬を確認させろ。人族である我らは丸薬摂取後の活動可能時間は悪魔族と比較すると極端に短い。だが、ここぞと言う時に躊躇なく使え」


 バリッジ首領としてのトロンプの命令により、この場から構成員も消え去る。

 首領の言葉を伝達するとともに、アンノウンとの戦闘態勢に入ったのだ。


 ハンネル王国に来ているバリッジの構成員は、全員が魔力レベル40を超えている。

 それ以下の者達は、拠点での待機を厳命されているのだ。


「どうやらそっちも準備完了したようだな」


 黙ってトロンプの采配を見ていた、この場に唯一残っている悪魔の纏め役。


「ああ、待たせてすまない。改めてバリッジ首領のトロンプだ。アンノウン排除に向けて、協力を要請する」

「当然協力させてもらおう。暫定だが、悪魔代表のレムロドリッチだ」


 トロンプとレムロドリッチは固い握手をする。


 その時、この王城が激しく揺れた。実際は王城だけではなく王都自体、結界が揺れているのだ。


「来たようだな」


 レムロドリッチは、残虐な笑みを浮かべる。


「そのようだ。既に話を聞いていたからわかっていると思うが、我ら人族があの丸薬を飲んだ場合、活動可能時間は今の所一月だ。もちろん戦力が必要になった場合は躊躇なく使うが、お前達だけでアンノウンに対処できるのであれば、後方支援として活動させたい。そこは理解して貰えると助かる」

「ああ、問題ないぞ。我らはお前らからこの丸薬を貰って力を得たんだ。お前達と違い、俺達は一年近く活動ができるのだろう?それに、お前が聖剣を手に入れたと聞いている。これで俺達は復活できるからな。いくらアンノウンとは言え、魔力レベル99が300体も相手にしては、一たまりもないだろう」


 悪魔の生存可能期間は、研究者の手によって推測ではあるがと言う前置きの元、伝えられたものだ。


 そして実際にアンノウン側の戦力を把握できているわけではないが、今までの情報から、少数精鋭であると判断しているトロンプとレムロドリッチ。


 実際に直前の戦闘、いや、蹂躙が行われたスミルカの町に来ているアンノウンは9人であるとの情報が入っている。


 つまり、9対300だ。


 この情報を踏まえて、両者ともにバリッジ側が丸薬を摂取する必要はないと判断したのだ。

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