戦闘開始(1)
バイチ帝国側の防御については、ジトロとナンバーズ最強のNo.1がいるおかげで、魔力レベル99の悪魔が数十体同時に攻撃してもびくともしない程度に仕上がった。
そしてNo.1を除くナンバーズは、先ずはハンネル王国のスミルカの町に転移した。
ナンバーズ達も、基本的には単独行動をしないようにイズンから指示を受けていたのだ。
彼女達が転移した先には、既に悪魔が人に姿を変えている状態で戦闘準備を整えていた。
その全てが魔力レベル99。
悪魔側もバリッジ側も、今回の戦闘が最初で最後の決戦であると考え、互いに最大限の協力をする事にしたのだ。
そんな悪魔の集団の中に、目にもとまらぬ速さで玉のような物体が投げ込まれ、大爆発を起こす。
しかし、その爆発は範囲が限定されており、その範囲から外れるものには一切の影響を与えていなかった。
だが、範囲内は全くの別世界。
その範囲の中に存在していた者、そして物は全て蒸発し、地面も底が見えないほどに抉れている。
この攻撃によって、人に扮した魔力レベル99の悪魔は数十体はいたはずだが、残りは五体となった。
「あなた達にかける慈悲はありません。ですが、私だけが鬱憤を晴らしても仕方がないので、残りは別の者が相手になります」
普段と全く違う話し方をしているのは、このえげつない攻撃を仕掛けたNo.10だ。
悪魔達は一か所にいると危険であると判断して、五体が互いに距離を取った。
それぞれの個体に相対したのは、No.3、No.4、No.5、No.8、No.9。
既に戦闘は開始されており、悪魔は魔力レベル99を全て使って攻撃を仕掛けている。
物理攻撃を受けているNo.3だが、その攻撃をことごとく同じ攻撃で相殺し、最後にかかと落としの要領で悪魔を地面にめり込ませた。
悪魔は即転移で脱出したうえで回復し、再びNo.3に向かう。
悪魔側も、並列起動はできないが、魔力の移行は異常な速度で可能になっていた。
再び攻撃を受けるNo.3だが、今度は同じ攻撃で相殺するのではなく、その体躯を破壊する程に力を込めて行く。
右足の蹴り対しては、右足の蹴りで対抗するのだが、その際に悪魔の右足を粉砕するのだ。
こうなると、悪魔は回復をしてから攻撃をする事になる。
この一瞬の隙をNo.3は突く事ができるのだが、あえて回復させている。
長く悪魔が苦しむようにするためだ。
実際、最初に一気に悪魔を消して見せたNo.10としても、一瞬で勝負を決めてしまった事に対して激しく後悔していたのだ。
キロスとコンが受けた苦しみ以上の物を、悪魔に与える必要があると思っていたからだ。
その思いは他のナンバーズも同様で、全員がNo.3と同じような行動を取っていた。
No.4は、隠密術が得意である為、悪魔の死角から情け容赦ないほどの攻撃を加え、瀕死の状態になった悪魔を放置する事で回復させている。
決して止めをささないのだ。
No.5は攻撃魔術によって攻撃を行っている。
相手の悪魔も魔術を中心に攻撃してくるが、その威力は比べようもない。
わざと魔法同士がせめぎ合う状態を作り、徐々に悪魔側に押し込み恐怖を煽る行動を取っている。
ここまで戦闘中に微調整ができるためには、相当な力の差が必要だ。
当然他のナンバーズと同様、四肢を失う程度の攻撃はするのだが、回復の時間をしっかりと与えている。
No.8はその剣術で、体躯の外側、つまり爪の先から体の中心に向かって細切れにし、ある程度の所で攻撃を止めて悪魔の回復を待っている。
最後にNo.9は、魔法によって作った弓と矢を使用して、あえて痛みが大きく感じる箇所を攻撃している。
あちこちで轟音、悪魔だけの悲鳴が聞こえてきているのだ。
どれ程の時間が経過しただろうか……悪魔としては数時間と感じたのかもしれないが、実際は三十分ほどの蹂躙が行われた結果、ついに悪魔は回復する事が出来なくなっていた。
今回の攻撃に参加していなかったNo.2が、見た目悍ましい虫の大群を召喚する。
「ゴミはそのままにしておくわけにはいきません。この虫達は、その体、いえ、その精神まで消化する事が出来る優秀な虫です。生きたまま食われると良いでしょう」
その声を聞いた悪魔は何とか転移を発動しようとするが、既に回復すらできないほど弱っているので、高等魔術である転移術を発動できるわけはない。
何故悪魔がこれほど脅威に感じたかと言うと、No.2のセリフ、<精神まで消化する>にあった。
未だ聖剣の力で復活できると信じている悪魔は、精神まで消化されると復活できないと思い至ったのだ。
そうでなくとも聖剣が破壊されているので復活はできないが……
這うようにして逃げようとする悪魔達に容赦なく襲い掛かる虫達。
No.2の制御によって、わざと足先から消化されているので、長らく恐怖を味わった悪魔はやがて姿を消した。
この事態は、当然悪魔独自の能力で全ての悪魔に共有されている。
数十体の悪魔が手も足も出なかったばかりか、拷問のような形で始末されたと理解した悪魔。
スミルカの町にあるピート邸宅、ハンネル王国にある王城内部それぞれで、戦闘情報が流れている。
自らの町で戦闘が行われているので、誰よりも早く状況を把握したピート。
「アンノウン、それほどか。安全の為に、我らも王都に向かうぞ」
ピートは悪魔が全て倒される前に、残った悪魔達と共に焦りを抱えて王都に避難する。
その間にナンバーズと対峙した悪魔は全て消え去り、謁見の間において全ての情報が開示された。
ハンネル王国の国王としては、この場にいるピートや宰相、そしてその付き人の様な者と軽く対策を考えるつもりだったのだが、バリッジや悪魔としては、予想以上のアンノウンの怒りと力を感じて、焦りがあった。
そのため、普段通りに悪魔の姿を隠したり、情報を操作したりする余裕がなかったのだ。
「ドストラム・ハンネル国王陛下、ついにアンノウンが攻めてきました。魔力レベル99の悪魔数十体が既に始末されています。我らとしても余裕がないので、あなたの話を聞いている暇はありません」
「突然何を言い出すのだ?トロンプよ」
「いえ、私としても相当なリスクを伴うのですよ。しかし、そのような事を言っていられない状況になっているのは明白です。ここはリスクを負ってでも行動すべきと判断しました」
「だから、何を言っているのだ?」
国王は、この場にバリッジや悪魔がいる事は知らないが、トロンプ直下の部隊が多数いる事は知っている。
トロンプ自体が、バリッジと悪魔を自らの配下として招き入れているからだ。
その内の一人が、無言でハンネル王国の国王の首を刎ねたのだ。
そう、つまり、トロンプもバリッジ……
アンノウンの頭脳であるイズンの推理が当たっていたのだった。




