バイチ帝国とハンネル王国
イルスタの母親の予想通りに、ハンネル王国ではイルスタの家族を捕縛の上人質にするべく動いていたのだが、既に危機を察知していたグラムロイスの依頼によって、アンノウンのナンバーズ複数により救出されていた。
アンノウンゼロのあぶり出し、イルスタの両親の捕縛、全てが後手に回ってしまったハンネル王国は、形振り構うのを止めて、力技に出る事にした。
謁見の間で、ハンネル王国の重鎮と、魔道具を使用して大陸中の国家に宣言を行う宰相のトロンプ。
「我がハンネル王国は、犯罪人であるイルスタを匿うばかりか、卑劣極まりない行動を行うアンノウンと言う組織を庇っているバイチ帝国に対して宣戦布告を行う。賛同する国家はここで宣言してもらいたい。この宣戦布告は、犯罪集団を滅する正義の闘いである事を良く肝に銘じて頂きたい」
この通信には、バイチ帝国は含まれていない。
つまり、彼らの言い分は一切発信される事がないままハンネル王国の都合の良いように話は進み、大陸中の国家がバイチ帝国に宣戦布告を行う事になった。
当然、賛同した国家中枢にはバリッジが潜り込んでいるので、できた芸当だ。
アンノウンによって最近手痛い躾を受けたラグロ王国やタイシュレン王国までもが含まれているのだから救いようがない。
「皇帝陛下、予想通り大陸中の国家がこのバイチ帝国に宣戦布告をしてきました。正直、我らでは成す術がありません。アンノウンの力を借りなければ、一日も持たないでしょう」
「そうだろうな。では、早速アンノウンに連絡を取ってくれアゾナよ」
バイチ帝国の皇帝の私室で、宰相と皇帝が話をしている最中に、扉がノックされる。
「入ってくれ」
皇帝が入室の許可を出すと、そこには覆面状態のアンノウンが数人いた。
「おお、今正に助力を願おうと思っていたところだ。流石に大陸中の国家全てを敵に回しては、バイチ帝国と言えども負けは確実なのでな」
「貴国は我らアンノウンを信頼し、あの茶番劇の際に大陸中の国家に対して自らの主張を通してくれた。我らアンノウンとしても、恩には恩で返させて頂こう。それに、我らアンノウンのメンバーが一時バリッジに拉致されてな。救出済みで既に問題ないのだが、そのお礼もしなくてはならない」
No.0として、アンノウンの方針を告げるジトロ。
「直接ハンネルの王都を叩いてやろうと思ったが、無関係な人もいるのでそこまではできない。王城に至っては、強固な結界を張っているので、この時点で悪魔の力やバリッジの力を使っている事は確定だ。残念ながら、あの結界を個人で破れるのはアンノウンの中でも少数しかいないのでな。だが、私の出撃は中々認めて貰えないのだ」
急に尻すぼみになるNo.0ことジトロ。一応ハンネル王国にいる身内関係はバイチ帝国に強制的に避難させてはいる。
その為、実際に自分が出撃すれば、ハンネル王国に対する被害を考えずに力を使えるので、王城の結界など容易く破る事が出来るのだ。当然結界を破壊した後に攻撃する事も容易い。
しかし、以前の時と同じく、アンノウン全員に強固に反対された。
ジトロに何かあっては困る事、そして、少し前のキロスとコンの様な状態に陥ったアンノウンがいた場合、救出できる可能性がるのはジトロだけだからだ。
こう言われてしまっては、何も言い返す事ができないジトロ。
前回のキロスとコンの救出は、特例的にアンノウンから許可が出た形になっているのだった。
「だが安心してくれ。スミルカの町では悪魔数十体で結界を張っているのだろう。それならば、こちらも数人で対応すれば済む話だ。バイチ帝国の領土の防衛にはアンノウンゼロと一部のナンバーズ、そして俺が担当しよう。各国の攻撃、特にハンネル王国やスミルカの町に対する攻撃は、攻撃に秀でたメンバーで当たる。状況は逐一報告しよう。では」
言いたい事を伝えると、アンノウンは転移でこの部屋を後にする。
「わざわざ扉の外に現れて、ノックをしてくれたのか」
どうでも良い事を呟く皇帝に、苦笑いの宰相。
だが、こんな事を言える程に心に余裕が出てきたのだ。
一旦拠点に戻ったアンノウン一行。
今回の出撃は、ナンバーズだけになっている。
キロスとコンの一件で怒り心頭のアンノウンゼロからも出撃の希望が強かったのだが、敵の戦力も魔力レベル99である事を踏まえて、バイチ帝国の防衛に複数で対応する任務にさせた。
この采配はイズンによるものだ。
彼自身も出撃の上ピートをボコボコにしたい気持ちは強かったのだが、アンノウンの頭脳として、組織の利益になる行動を優先したのだ。
この作戦を説明するときのイズンは、今まで見せた事の無いような怒りを必死で抑える表情をしていたので、その心中を理解した出撃を希望していたアンノウンゼロも、イズンの作戦を黙って受け入れた。
拠点に残るのは、イズンを含む一部のアンノウンゼロと戦闘能力のない拠点の住民達、そして炎龍のピアロとコシナだ。
当然結界は更に重ね掛けをしており、最大限の警戒を取らせる。
キロスとコンについては、ジトロとNo.1が残るバイチ帝国に配置される事になる。
最強であるジトロと、ナンバーズ最強であるNo.1の近くにいる事で、不安を払拭させるためだ。
キロス本人は大丈夫と言っているのだが、イズンの判断でこの配置になった。
つまり、イズンの判断によれば、キロスの心の傷はまだ癒えていないという事だ。
出撃の準備を終えたNo.1を除くナンバーズ。
ド天然コンビとも言えるNo.8とNo.10でさえ、厳しい表情をしている。
彼女達も、ハンネル王国の行動を許せないのだ。
「ジトロ様、全ての配置が完了しました。最後に今までの情報から導き出した私の個人的な考えをお伝えします。謎に包まれているバリッジの首領ですが、トロンプ宰相であると思っています。あくまで私見です。首領でなかったとしても、相当上の地位にいる事は間違いないでしょう」
出撃直前でジトロに対して爆弾発言をしてくるイズン。
「どうしてそう思った?」
「今までの国家中枢のバリッジは、全て何かしらのボロを出しています。しかし、今回のトロンプ宰相は徐々に此方を包囲するかのように巧みに行動しています。悪魔の力を得て、我らアンノウンを拉致できるほどの力がある事を確信したが故に、これほどの行動を起こしたとしか思えないからです」
だが、腹の立つ行動を取っていたのは何も宰相だけではない。
「国王ではないと思った根拠は?」
「あの国王が、バリッジという組織を動かせるほどの力がありますか?」
そう言われるとその通りと感じてしまうので、何も言えなくなるジトロ。
「今回の攻撃によって、全てが明らかになるでしょう。突然そのような事実が判明して隙ができるより、今ここにいる攻撃隊であるナンバーズにもこの可能性について理解して貰いたかったのです」
イズンの細かい配慮に感謝しつつも、ジトロを始めとした部隊は拠点を後にする。
「皆、頼んだぞ」
ジトロの掛け声と共に……
バイチ帝国に転移したアンノウンゼロとジトロ、No.1は、防御結界を作成する。
キロスはジトロの傍におり、No.1はジトロとは真逆の位置で防御結界を作成している。
アンノウンゼロは最低でも二人一組で行動しており、普段バイチ帝国で任務に就いている者達も、アンノウンとして覆面状態で活動をしている。
今は国家緊急事態が発令されており、全ての商店、ギルドは活動を停止しているので街中で盛大に力を使っても、人々に驚かれたりするような事は何もない。
こうして、バイチ帝国とハンネル王国を筆頭とした大陸の国家との戦争が始まった。




