キロス救出へ
キロスの救出に向かったナンバーズ。
キロス側の魔力は一切関知できないので、No.7の力で追跡を行った結果、少し立派な住居に辿り着いた。
事前の調査通り、ピートギルドマスターの邸宅だ。
転移で忍び込もうと試みるも、何かの術で妨害されており上手く転移する事が出来ずにいた。
「我らの魔力レベルで転移できないとなると、ここに魔力レベル99の者がいるという事になりますね。つまりは、明らかにバリッジか悪魔に連なる者であるという事です。皆さん、警戒してください」
No.1の指示により、覆面状態であるアンノウンのナンバーズは何が起こっても良いように身構える。
そこに、門から一人の小太りの男が執事を連れて出てきた。
「おやおや、怪しい覆面の皆さん。恐らく犯罪者のアンノウン一行でしょう。その姿を大陸中に紹介させて頂きますよ」
執事は何やら魔道具を持っている。
そして、普段は横柄な態度のピートも、この時ばかりは殊勝な態度だ。
大陸中に今の情報が魔道具を通して公開されているのだから、態度が変わるのも仕方がない。
人族は、その目で見たものだけを信じる傾向がある。
つまり、前後の事情を一切知らずとも、この映像の情報だけで全てを判断されてしまうのだ。
ここでアンノウンが突然ピートに攻撃をすれば、明らかにアンノウンが悪と断じられる事になる。
『No.3、こちらから手を出してはいけませんよ。No.10もです』
この場を仕切っているナンバーズのNo.1が、手が出やすい二人に念話で釘をさす。
普段No.1は拠点を離れる事は無いので、こういった指示は遠隔であろうとイズンが出していた。
しかし、今回の緊急事態を重く見たNo.1も出撃しているのだ。
No.1に指摘されたナンバーズの二人は、必死で破壊衝動を抑え込んでいるようだ。
家族を理不尽に連れ去られた挙句、姑息な手を使ってくるこの男が許せなかったのだ。
「ありがとうございます、バリッジのピートさん。挙句に人攫いのピートさんとお呼びすれば宜しいでしょうか?」
No.1が良く通る声で反撃をする。
「何を言っているのですかな?全くこれだから犯罪者は困る。それに、一体全体これほどの人数で我が邸宅を囲むとは、聊か失礼ではないのかな?おっと失礼、犯罪者に礼儀を説いても仕方がありませんか。ハハハ」
ナンバーズ全員が抑えきれない殺気を発している。
特にNo.3とNo.10から溢れ出ているが、本人達は必死で抑え込んではいる。
通常であれば、この殺気を受ければ人族程度は良くて失神、通常であれば廃人か、最悪は死亡する程なのだが、ピートは何も感じていないようだ。
その姿を見たNo.7が、ピートに告げる。
「あなたは、悪魔とすら手を組んでいるのですね。見下げたギルドマスターです。貴方の身に着けているその魔道具、魔力レベル99で作成された物。そこからは悪魔の魔力が出ていますね。そうですか、バリッジは悪魔と手を組みましたか。そうなると、このスミルカの町の騒動も、あなた達の仕業ですね?」
流石に動揺してしまうピート。
確かにNo.7の指摘通りだったからだ。
まさか魔力レベル99の防御用の魔道具の全てが明らかになってしまうとは思ってもいなかった。
その指摘を受けた時の姿勢はピートにとって大失態だったのだ。
そう、動揺している姿をこの大陸中に発信してしまったのだから……
「な、何の言いがかりだ。しょせんは犯罪者の言う事だ。良いか、お前らと悪魔が繋がっているという事は、このハンネル王国の国家が認めている所だ。それを覆す事等できんぞ!」
慌てて取り繕うピート。既に丁寧な態度を装う事すら忘れている。
しかし、実際にハンネル王国の見解としては、悪魔とアンノウンは共闘しており、世界を混沌に陥れている大犯罪者と断じている。
この映像を見ている人々の判断は大きく割れた。
アンノウンの言い分を信じて、ハンネル王国の見解、そしてこのスミルカの町のギルドマスターであるピートを悪と断じる者。
逆に、ピートとハンネル王国と言う国家の言い分を信じる者だ。
だが、大勢は後者であり、国家としての発言に重きが置かれてしまった。
前者の判断を行ったのは、当然バイチ帝国だ。
通信魔道具からは、これを見ている各国の重鎮達からの声も聞こえる。
一方通行ではなく、そう報告に通信ができる魔道具だ。そこから、少し大きめな声が聞こえる。
「ラグロ王国のエイリアスだ。我がラグロ王国としてはハンネル王国の判断とピート殿の発言を支持する」
この発言を筆頭に、バイチ帝国以外の国家がハンネル王国を認めたのだ。
と同時に、バイチ帝国に対しても小言を言う始末だ。
有利な状況になったので、ピートの態度も再び取り繕った偽善者の態度になっている。
「で、どうしますか犯罪者御一行?この映像を見ている大陸中の国家のほぼすべて、バイチ帝国と言う訳の分からない国家以外は全て我らハンネル王国の見解を認めています。大陸中を敵にしてでも、強制的に我が邸宅を調査しますか?」
『No.1、ここは一旦引いてください。流石に大陸中の国家との対立は分が悪いです。更にバイチ帝国が責められてしまった場合、アンノウンだけでは対処しきれない可能性が高いです』
状況を把握しているアンノウンゼロのイズンからの念話だ。
『ですが、ここにキロスがいるのはほぼ間違いないのですよ?』
『わかっています。ですが、救出するのは今ではありません。状況が悪すぎます。もちろんみすみす見逃すわけではありません。ジトロ様とトロンプ様の会合が終わり次第、ジトロ様が直接救出に向かわれるのです。一旦引いてください』
ジトロが救出にあたると聞いて、不本意ではあるがこの場にいるナンバーズ全てが一瞬でこの場から消えた。
その姿を見たピートは、バリッジとアンノウンが対峙し始めてから初めて、ある意味完全勝利を得る事が出来た男となった。
一方の撤退を余儀なくされたアンノウン。
一刻も早くキロス救出を行いたいのだが、建屋内部に転移も出来ずに、更には大陸中の国家を敵に回す可能性が高い為、苦渋の決断をしたのだ。
但し、ジトロであれば魔力レベル99の結界だろうが問題なく転移を行う事が出来るので、全てをジトロに任せる事にし、一旦帰還したのだ。
帰還後の全員の表情は暗い。
ジトロに任せたと言っても、今この瞬間にキロスがどのような扱いを受けているか分からないのだ。
こう言った時には必ず良くない事が頭に浮かんでしまうのだが、最早自らの力では何もする事ができないと分かっているアンノウンは、沈んだ表情のまま拠点に籠っていた。
キロスの未来は、全てジトロに託されたのだ。




