悪魔・バリッジの同盟
いくら構成員であるこの男でも、拠点の位置は知らされていない。
まして、敵対する可能性のある悪魔を拠点に連れて行く等できる訳もなく、即幹部に連絡を取る事にした。
この場に残された悪魔の素材だけはキッチリ回収し、組織本部に届ける手配は済んでいる。
悪魔達はこのままハンネル王国に侵攻する事を主張したのだが、他のアンノウンの襲撃の可能性を考慮して、バリッジの男が思いとどまらせたのだ。
悪魔達はバリッジの男の主張に憮然としたが、悪魔が倒されている位置は全てハンネル王国近辺。
そのうちの三体は目の前にいる男の組織によるものだとわかってはいるのだが、ハンネル王国には聖剣がある事もあり、残り一体は推測にはなるがアンノウンによって始末されている。
その為、ハンネル王国に対しての行動については慎重に事を運ぶ事にしたのだ。
バリッジの男が組織に対して行った報告には、悪魔が同盟を希望している事、悪魔に丸薬を渡して服用済みである事、自らでは鑑定不可能だが、悪魔達は丸薬の力で魔力レベル99に達している可能性が高く、アンノウンの覆面二人と互角以上の闘いをしていた事、同盟を組んだ場合、バリッジを除く人族については蹂躙する予定である事、希望する人族についてはバリッジに引き渡す事も出来ると言う提案があった事、が含まれている。
悪魔とアンノウンの二人の戦闘の最後にアンノウンの二人が光り輝いて姿を消しており、恐らく敗北が濃厚である事を悟ったアンノウンの二人が情報漏洩を危惧して、バリッジ暗部と同様に自爆した可能性が高い事も報告している。
当然、その姿を一切残さない形での自爆、つまりは徹底した情報漏洩防止策がとられている可能性が高いと付け加えている。
この報告を受けたバリッジ幹部と首領。
「お前達は悪魔の提案、どう思う?」
「魔力レベル99になってしまっているので、奴らの命が尽きる一カ月間は機嫌を損ねない方が宜しいでしょう」
「そもそも彼らの自己申告ではありますが、悪魔一族の魔力レベルは89との事。丸薬を服用させた五体を除けば、キメラの量産で対応する事も可能でしょう」
「我らがアンノウンを認識してから初の勝利ではないですか?同盟の内容も悪くない。同盟は一考の価値があると思いますが」
首領の問いかけに対して、幹部達からはあまり否定的な意見は出てこなかった。
しばし沈黙が流れるなか、首領は一つの懸念を突き付けた。
「悪魔に渡した改良された丸薬、素材は悪魔の素材だったな?とすれば、適合性とでも言うのか?命の猶予が一月でない可能性もあるのではないか?」
首領の指摘のとおり、悪魔の素材を元に改良された丸薬は悪魔に対してだけ副作用が大きく抑えられていたのだ。
とは言え、完全になくなっているわけではない。
現実的には人族や魔獣では一月、悪魔では一年と言う期限の違いが出ているのだが、悪魔に投与したのは初めてであり、誰もその期限についての知識がなかった。
「確かに首領のご指摘の通りです。では、魔法の証文でも使いますか?」
「いや、魔力レベルに差がある以上は悪魔側に有利になるだけで、更には悪魔一体一体に契約を行う必要が出て来る。現実的ではないだろう」
再び沈黙が流れるが、首領が決断を下した。
「止むを得まい。同盟を組もう。但し、この拠点は継続して秘匿情報とし、これ以上の悪魔への丸薬投与は禁止する。既に投与済みの五体は、可能な限り監視して副作用を調査しろ。同盟に必要な作業は、新たに拠点を作成してそちらで行え」
こうして、三つ巴と思われていた組織は二大勢力となり再び激しく争う事になったのだが、お互いの情報が掴めていないので、表立った闘争は無い。
バリッジと悪魔は互いが持つ情報を共有していく中で、聖剣の力が現時点では完全に失われていると言う事実に辿り着いた。
これは、悪魔側からすると、自らの復活に対して不安を抱かせるには十分な情報であったのだが、魔王の遺言として受け取っている聖剣の破壊が魔力レベル90台直前、前倒しで実行されたと思う事にしていたのだ。
そのため復活に不安が残る以上、自らを倒す力を持っているバリッジと敵対すると言う発想はなくなる。
その結果、五体とはいえ悪魔側に力を与え国家の情報を流してくれるバリッジに対して不遜な態度を取る事も無く、正に同盟としてだけ言えば正しい方向に進んでおり、お互いの戦力、そして情報収集能力は強化されて行った。
その情報交換の中で、悪魔に対しては丸薬の副作用に関しての説明を行っており、これ以上のリスクを与えられない事、丸薬には限りがある事を理解して貰い、追加の投与は行われない事で決着した。
一方のアンノウン。
悪魔との戦闘から止むを得ず撤退したNo.5とNo.8の二人は、拠点に戻ると珍しく不機嫌そうな顔をしていた。
「あの悪魔、まさか連携できるとは思っていませんでした」
「確かにその通りですね。私達も局部的に全力を出せるようにしていかないと、周りの被害を気にして全力で戦闘できないケースが今後増えていくでしょう」
目の前の悪魔とバリッジと言う最大の敵、そして情報源をみすみす逃す事になったのだから機嫌が多少悪いのは仕方がない。
しかし、アンノウンとしての今後の活動を安全にするために、自分たちの経験を余すことなく組織に展開して、その情報を基にイズンより新たな修行目標が提示された。
No.5とNo.8が最大の敵を目の前に撤退せざるを得なくなった最大の原因を取り除く事、そう、全力で戦闘をしても近隣の環境に影響のない戦い方を身に着ける事だ。
この目標を聞いた時に、特に難色を示したのがNo.10だ。
イズンの予想としては、戦闘狂であるNo.3が一番難色を示すと思っていたのだが、思いのほか彼女は戦闘スタイルに厚みが付く……と好意的に受け入れていた。
No.10と言えば、“炸裂玉”で森やダンジョンを破壊して見せたように、細かい所の調整が苦手?いや、そもそもそのような調整自体をする気が一切なかったので、アンノウンのメンバーの中では、最も修行に身を入れなければならない立場である事を理解してしまったのだ。
その為ゴネにゴネたのだが、アンノウンとしての安全、そしてアンノウンとしての真の目的達成の為と諭され、渋々ではあるが修行を行う事になった。
既に異次元の強さを手に入れているナンバーズ。そして魔力レベル99と言う過剰戦力を手に入れているアンノウンゼロの修行は苛烈を極めた。
魔力レベルが低ければ、局部的な攻撃と言うのは容易い。
しかし、これほどのレベルになってしまうと、どうしても攻撃時の余波が周囲に影響を及ぼしてしまうのだ。
攻撃力を絞ればそのような現象は起きないが、悪魔やバリッジを相手に攻撃力を絞って勝利できる確証はない。
その為に、全力で攻撃をしたうえで、周囲に影響を与えないようにする必要がある。
ある者は力を絞った攻撃を多方向から同時に行う手法を試し、ある者は攻撃と同時に周囲に防御結界を作成し、ある者は極限まで攻撃対象箇所を絞る事を試していた。
多方向からの同時攻撃や、同時に防御結界を作成する事を試していた者達は、最終的にはその手法をあきらめざるを得なくなっていた。
他方向から同時攻撃を行った場合、少しでも攻撃対象がずれると攻撃力が大幅に低下するのだ。
防御結界を張る手法は並列起動で同時に術を行えるのだが、攻撃対象の位置が絶え間なく動いている場合に、とても制御できない事が判明した。
最後に残ったのは、攻撃箇所を極限まで圧縮する手法。
余波すら起こさないほど集中させるこの手法を用いて全力の攻撃を最初に成功させたのは、ナンバーズ最強のNo.1。
ここから、この手法を全員が習得するまでにかなりの時間を要してしまった。
特に、通常任務があるアンノウンゼロについては自らの力だけではなく、魔獣も修行を行う必要があるので、更に時間が必要になってしまったのだ。
だが、全員がこの手法を習得し、その長い修行の成果かそれぞれの力も更に上昇する事になったアンノウン一行。
こうして互いの情報を得つつ、攻撃を仕掛けようと虎視眈々と狙っている二大勢力が再び動き始めるのだった。




