悪魔・バリッジ・アンノウン(1)
ハンネル王国の王都のギルドに勤務しているアンノウンゼロの二人、ヨセファンとヴァンガロが、王都のギルドマスターの指示によって現場調査にやってきた。
因みに、同じハンネル王国でもスミルカの町と違い、ギルドマスターは隠れて貴族の地位を振りかざすような人材だ。
「ヨセファン。なんで冒険者に依頼せずに、職員である俺達が今更こんな所の調査に派遣されたと思う?」
「それはもちろん、悪魔に関する情報をより詳しく調べるためですが、うちのギルマスはケチですからね。冒険者に払うお金が惜しかったのでしょう。貴方もわかっているでしょう?ヴァンガロ」
表向きは何度鑑定しても魔力レベル0。その実、隠蔽された魔獣の力を使う事により、魔力レベル99としての力を得ているアンノウンゼロの二人。
当然バリッジと悪魔が二人を鑑定するも、魔力レベル0の雑魚であると判断した。
「どうする?あの魔力レベル28の男の捕縛を開始するのであれば、あの雑魚二人は邪魔だぞ」
「あいつら、ギルドの職員らしいからな。目撃情報をギルドで展開されると、後々面倒になりかねない」
「ならばどうする?先に消すか?だが、その攻撃で本来の捕縛対象の男が逃げないとも限らない」
悪魔達は悩んでいる。実際にその心配は一切無用なのだ。
アンノウンゼロの二人はつまらなそうな会話をしてはいるのだが、悪魔やバリッジの男、そして魔力レベル43の魔獣についても把握しているからだ。
この場で悪魔の存在を感知する事の出来ないバリッジの男は、アンノウンゼロの二人が魔力レベル0である事を把握すると、再び街道にその姿を現した。
「あなた達、ハンネル王国のギルド職員の方ですか?」
「はいそうですが、どう言ったご用件でしょうか」
突然声を掛けられたアンノウンゼロの二人だが、周辺の状況は全て把握できているので驚く事もなくよどみなく返事をする。
冷静に考えるとこの対応自体が不自然なのだが、バリッジの男は気が付かない。
「実はこの辺り、悪魔が戦闘した場所らしいのです。私も依頼主から悪魔の素材入手をお願いされておりまして、もしギルド側で何か把握されているのであれば問題のない範囲で教えて頂きたいのですが」
流れるようにギルド職員であるアンノウンゼロの二人に近づくバリッジの男。
ギルド側での情報を得られる事ができれば悪魔の素材入手だけではなく、本来の目的ではないのだが、悪魔に関する貴重な情報も手に入るかもしれないと考えていた。
バリッジとしても悪魔を脅威と見ている。
そのため、構成員ともなれば組織の為に率先して動くのだ。
「申し訳ありません。残念ながら私達も新たな情報がないか、現場を確認するために向かっているのですよ」
冷静にヨセファンが対応する。
バリッジのこの男は、悪魔の素材入手が主な目的であると公言している。
悪魔を討伐した者にその素材の権利はあるのだが、謎の黒装束が倒したという事が公式発表されており、その一団は全て死亡している。
つまり、お宝がその辺りに落ちているのでご自由にと言う扱いである為、この行為自体には何の問題もない以上、ギルド職員として何かを言う事は無い。
そして現場に到着するが、その間に悪魔の方針は決まっていた。
魔力レベル0の二人と魔力レベル28の男が近接している以上、同時に攻撃する事にしたのだ。
ある程度の力で攻撃すれば、魔力レベル28は気絶し、魔力レベル0は始末できると考えた悪魔。
早速行動に出る事にした。
アンノウンゼロの二人はその動きを察知しているが、迎撃の対応は取らない。
この場では自分の情報、ギルド職員である事が明らかになってしまっており、万が一ここで戦闘をしてしまうと念話の様な物で情報が漏れる可能性があるからだ。
二人はこの場所に侵入した時点で悪魔やバリッジらしき存在を感知していた。
それを理解した上で会話していたのだが、これには理由がある。
ギルド職員であるアンノウンゼロの二人が、戦闘能力が全くない雑魚であると再認識させるためだ。
相手の情報共有能力を逆手にとって、アンノウンゼロに対しての警戒心を持たせない作戦だ。
だが、無抵抗のままであれば流石に命の危険があるので、対策として既にナンバーズに出撃要請をしており、気配からNo.5とNo.8が到着している事を把握しているアンノウンゼロの二人。
ほっとした顔をしているのは、ここに来たのが戦闘狂であるNo.3や、ド天然で何をしでかすかわからないNo.10ではなかった事による。
そんな表情をしつつも、悪魔のいる方向から距離を取るべくさりげなく移動するアンノウンゼロの二人。
すると、この周辺にいる悪魔五体がアンノウンゼロと、バリッジの前に立ちはだかる。
既に悪魔がいる方向から逆の方向に移動していたアンノウンゼロは落ち着いた状態で悪魔五体を眺めているのだが、バリッジの男は初めて目の前に生きた悪魔五体が現われらのだから、動揺する。
「お前ら、何時の間に!!くっ、確かに鑑定ができない。報告の通り魔力レベルは90近いのか……」
そう言いつつも、魔力レベル43のキメラを呼び寄せる。
そして悪魔と対峙するようにキメラを配置すると、あの秘薬をキメラに飲ませた。
その瞬間に、キメラから漂う魔力が爆発的に増加して魔力レベル86のキメラとなった。
魔力の急激な上昇による魔力回路破壊に対しては、合成されている魔獣の中に魔力制御の優れた魔獣を組み込む事で対応できる技術を生み出していたバリッジ。
魔力レベルが跳ね上がったキメラを見て、流石の悪魔も警戒する。
魔力レベルではほぼ互角。基礎能力は、いくら悪魔と言え魔獣に対しては遅れを取る可能性がある為、総合力としては互角以上の可能性があるからだ。
「そこのギルド職員のお二人には申し訳ありませんが、私の正体を知られた以上はこの場で始末させて頂きますよ」
「お前はバリッジという事か?」
焦りもせずにヴァンガロが確認するが、既にアンノウンゼロの二人を脅威とみなしていないので、バリッジの男は悪魔と対峙している。
「そこの悪魔達、お前らのお仲間三体を葬ったのは我が組織バリッジの者だ。だが、残りの一体については我らは手を出していない。この世界でお前らと対峙できる力を持っているのは、我らバリッジとアンノウンだけだ。つまり、残りの一体はアンノウンに始末されたのだろう」
「呼びましたか?」
そこに、いつも通り音もなく表れる覆面姿のアンノウンのナンバーズ二人。
「出たな!!悪魔ども、こいつらがアンノウンだ。覆面で素顔を隠し、裏でコソコソ動き回る目障りなクズ共だ」
悪魔はバリッジと魔獣、そしてアンノウンを改めて鑑定し、最大の脅威はアンノウンである事を認識する。
「お前らは何のためにここに来た?」
即戦闘となる事態を避けたい悪魔は、アンノウンの二人に対して慎重な態度を取っている。だが、アンノウンとしてはそんな事は関係がない。
「それはもちろん、悪魔一行とバリッジを潰しに来たのですよ」
No.5は魔術を行使する態勢に移行し、No.8はNo.10の作った剣を抜剣した。
この剣はナップルの指導の元、No.10が作成した試作品だったりする。




