ナンバーズVS悪魔(4)
転移、攻撃、転移を繰り返している悪魔の攻撃。
その攻撃を受けていたNo.3は動く。
「なんだよお前、そんなチマチマした事すんなよな。ガツンと行こうぜ、ガツンとよ!」
そんなふざけたセリフが聞こえたと思ったら、転移先で目の前にNo.3がいたのだ。
慌てて転移を再び発動しようとするが既に属性魔術の発動をしていたので、若干転移魔術の発動が遅れる。
その際に、No.3に軽く殴られて意識が一瞬飛んだ。
頭を強く揺すられたせいか、思考が纏まらずに術も行使できない状態に陥った悪魔。
もちろん回復術も行使する事が出来ていない。
「良し、これでコソコソできないな。じゃあ早速楽しもうぜ!」
目の前で、何故か今更準備運動をしているNo.3を見た悪魔。
No.3からは戦闘狂の匂いがしており、より危険な感じがしたのだ。
思考が纏まってはいないが、No.3にも決して勝てない事を悟った。
何故転移先に現れたのか……偶然なのか狙ったのかは不明だが、もし狙ってそんな事ができるとなると、最早悪魔にはこの二人を倒すための手段は何も残されていない。
この二人を含むナンバーズは、アンノウンとしての修行中に転移を使った攻撃や回避をしているが、魔力の揺らぎで転移先が分かる程に力をつけていた。
逆にアンノウンは、転移術の行使の際には魔力の揺らぎすら感知できないほどに練度が上がっているのだが、それはアンノウンの中だけに言える事。
転移術自体を行える者がほぼいないこの世界。
そんな世界に存在する者が行使した稚拙な転移術など、転移先を看破するのは容易いのだ。
「ま、待て、やはり私の相手はあっちだ!」
纏まらない思考の中、何とか時間を稼ぐために戦闘相手を変更する事にした悪魔。
「お前!ふざけんな。今更何を言い出しやがる!!これからが良い所じゃねーかよ!!!細切れにすんぞコラ!」
怒りが収まらないNo.3。
怒りによって魔力が溢れ出てきており、悪魔は初めて恐怖と言う物を味わっていた。
それ程の力を周囲にまき散らしているのだが、一切気にせずNo.10はこの場に現れた。
「No.3、ほら御覧なさい。やっぱりこの悪魔さんは、私の“炸裂玉(極)”を味わいたいのですよ。フフフ、楽しみです。本当に楽しみです。さっ、早く回復しちゃって下さいな。もう待ちきれません」
「ぐっ、クソ。No.10、その魔道具を起動した後に生き残ったら、その後は私が相手をする。良いな?」
「ええ、私は“炸裂玉(極)”が試せればそれで問題ありませんよ」
再び悪魔の前で繰り広げられる意味の分からない会話。
「おいお前、何としても生き残れ。どんな方法を使っても良い。わかったな」
何故か悪魔に気合を入れるNo.3ではあるが、その顔にはあきらめの表情が浮かんでいる。
「さあ、回復したようですね。それでは始めましょうか。今度は忘れないように今ここで魔力を込めておきましょうね」
自分の完全回復を完璧に把握された悪魔は転移での逃走が一瞬頭によぎるのだが、No.3による転移先での待ち伏せ攻撃を思い出し、諦める。
悪魔の目の前で“炸裂玉(極)”に嬉々として魔力を込めるNo.10。
禍々しい魔力は更に強大になり、その魔道具の近くにいるだけで生気を吸われるような気持ちに襲われている悪魔。
見た目は無駄に可愛らしい装飾、しかし、呪いのような雰囲気を醸し出している魔道具“炸裂玉(極)”。
そして、それを愛おしそうに見ているNo.10。
本能が恐怖を覚え、悪魔は無意識にNo.10から距離を大きくとっている。
「じゃあいきますよ、悪魔さん!今度こそ。えいっ!!!」
かなり緩やかに投げられた魔道具。
これならば転移で避ける事は出来ると判断した悪魔は即転移術を発動しようとするのだが、術が起動できない事に気が付いた。
そう、No.10の作り上げた魔道具、攻撃対象の強力な魔術行使を制限する機能を付与していたのだ。
もちろん魔道具に魔力を込めなければ起動しない術ではあるが、今回はバッチリ力を込めている。
あまりにも軽い魔術は制限をかける事が出来なかったが、転移術は高位の魔術であるので、術の行使に制限が掛けられていた。
何故術が行使できないかわからない悪魔だが、目の前にはあの禍々しい玉が迫ってきているので、あわてて身体強化に魔力を移行する。
そして、身体強化の力を利用して、一気に退避しようと考えていたのだ……
転移とは異なり、長距離を移動するのに若干ではあるが時間を有する身体強化では十分な距離を確保する事が出来なかった悪魔だが、魔道具による物理攻撃であれば身体強化をしておく事によってそのまま防御も出来る可能性が高いので、全力で退避しつつ防御姿勢を取る悪魔。
悪魔の視界の片隅で、“炸裂玉(極)”が光り輝いたのが見えたのはその瞬間だった。
「おい、起きろ。次は私の番だぞ。早くしろ!」
意味の分からない声で意識が覚醒しつつある悪魔は、うすぼんやりと映る景色を眺めていた。
正に焦土と化した地面。所々、マグマのようになっている。
空には大爆発の影響なのか真黒な雲に覆われており、日の光が差している箇所はなく、辺り一面かなり薄暗い。
正に悪魔の故郷の様な場所と言われても納得できる程の荒れ具合だ。
何故自分がこんな場所にいるのか、今まで何をしていたのか……と考え始めた時に、頭に激痛が走る。
「おい、聞いてんのか?次は私だと言っているだろうが。さっさと回復しろ。このグズ!」
そう、No.10の魔道具による攻撃から辛うじて生還した悪魔の次の戦闘相手となるNo.3が、待ちきれずに頭を軽くはたいたのだ。
だが、その軽い攻撃?すら避けられずに激痛を感じている悪魔。
それもそのはず。
四肢はなく、残っている肉体も辛うじて生命活動を維持している状態だからだ。
「あら~、残念。次は追尾機能を付けた方が良いかもしれませんね~」
あれほどの魔動具による攻撃をしたNo.10は、魔道具を使用できた事で満足したのか、話し方も元に戻ってしまっている。
あの魔道具による攻撃から生き残った場合、No.3が相手をする事になっていた悪魔。
ようやく意識は完全に覚醒して状況も把握したが、既に回復できるような状況ではなく、残った体も徐々に消失して行っている。
「おい、お前根性見せやがれ。まさかあれくらいの攻撃でくたばるんじゃないだろうな?私とも戦え!」
No.3の必死の応援もむなしく、悪魔はその後、一切の言葉を発する力すらないままこの世界から消滅した。
ナンバーズの二人は悪魔を自らの力で回復させようか一瞬迷ったのだが、その短い時間であっという間に消滅してしまったのだ。
実は、止めはNo.3が悪魔の頭を叩いた事だったりするのだが、当人にその意識はまるでない。
正に消え去るその瞬間の悪魔は、次の復活時には決して負けないと心に誓っていたのだが、その夢は二度と叶う事は無い。
そう、悪魔復活に必要な鍵である聖剣が破壊されているので、復活など有り得ないからだ。




