再び異常な魔獣襲来(3)
防音結界も万全の状態で、No.5とNo.8と話し始める。
もちろん、彼女達の前には沢山の料理が並んでいる。
少しでも財布のダメージを減らすために俺自身は何も頼んでいないが、彼女達が分け与えてくれるので問題はない。
「二人とも、お疲れさん。で、魔獣の事、本当の所はどうなんだ?」
「それが、魔獣の存在があった事だけは確実なのですが、範囲を広げてもその存在が分からなかったのです」
「それともう一つ、何か転送の魔法陣か何か、転送系の術を発動したらしい形跡がありました。ただ、アイテムを使ったものなのか、誰かの術なのか、魔獣自体の術なのかと言われると判別できません……ですが、存在していた魔獣のレベルは相当高いのは間違いないです」
「そうすると、今回の魔獣は自ら転送が行える魔獣か、誰かがテイムした魔獣を転送したか、と言ったところか?」
「そうだと思います。ですが、もし誰かが転移させたとしたら、何が目的でしょうか?」
「あの辺り、本当に薬草しかありませんし、まれに出る魔獣もスライム程度ですから……そこにいた魔獣が突然変異したとも考えづらいですし、正直良く分かりません」
確かに二人の言う通りだ。
それに、行動も中途半端。薬草採取をしている冒険者の前に現れ、中途半端なアイテムで煙に巻かる。
いや、ひょっとしたらアイテムは効いていなかったが、効いたふりをしていたかもしれない。
だがそうなると、なぜそんな面倒な事をしたんだ?
暫く黙って色々なパターンを考えていると、No.5からの声で我に返る。
「ジトロ様、お代わり頼んでもいいでしょうか?」
うぉ~い、いつの間にかあの量を平らげたのかよ!!
もう少し手加減してくれよ!!!
それにな、今、俺、結構大切な話、してたじゃん???
そんな俺の心の葛藤などわかる訳のない二人は、はち切れんばかりの笑顔で俺の了解を待っている。
もちろん断られる等とは一切思っていない笑顔だ。
くっそ、この笑顔をなくす訳にはいかない。
「あぁ、良いよ。頼んで!」
「「やった~、ありがとうございます。ジトロ様」」
うっ、これでしばらくは昼抜きだな。
だが、これ以上のダメージは本当にまずい。
こっちのペースに持って行かないと、最悪支払い時にお金が不足して、この店で皿洗いをしなくてはいけなくなる。
そんなのは嫌だ!!せっかく転生したのに、お金がなくて皿洗い!!!
いや、この世界で皿洗いだけで許してくれるかは知らないけどさ……
よし、作戦開始だ。頑張れ、俺!!
「No.5とNo.8、俺は今回の件、結構重く見ている。と言うのも、俺の両親も新種の魔獣によって大怪我をさせられた経験が有るからだ。その時は、当時のギルドマスターが即座に討伐隊を組んでくれたのだが、今のギルドマスターがいる限り同じような状況になると大惨事になりかねない。今回はどう言った理由かはわからないが、魔獣が逃亡したから良かったものの、次も逃げてくれるとは限らない」
「確かに、ジトロ様の言う通りですね」
「あのマスターがいる限りと言う所、激しく同意します」
よしよし、俺の話に乗ってきたので、食事をつつく手が止まっている。
フフフフ、このまま閉店まで引っ張れば、俺の大勝利だ。
「それにな、新種の魔獣故に転移の力を得ていたとするとかなり危険だ。ひょっとすると今尚力を増加させつつ、次の獲物を探しているかもしれないからだ。少なくとも、どのような魔獣で、どのようなレベルなのか位は知っておきたい。前回の新種の魔獣も何の情報もなかったからな」
最低でも、今後のために情報を得ておきたいのは本当だ。
新種の魔獣が一体とは限らないし、再度俺の両親を襲わないとも限らない。
それに、今日は救助が間に合ったが、仲間と悲惨な別れをしてしまう可能性もある。
俺が副ギルドマスター補佐心得としてギルドに君臨?している限り、そのような事態を起こす訳にはいかない。
「とするともう少し調査する必要がありますね。でも、私達の調査能力では大した情報を得る事はできませんので、No.7に担当させては如何でしょうか?」
俺の仲間は全員魔力レベル99ではあるのだが、やはり能力に得手不得手はある。
その中で、No.7は解析を最も得意としている。
確かに彼女であれば魔力の残りから、ある程度の魔獣の情報を得る事ができるだろう。
「そうだな。それが良いかもしれない。No.7であれば情報を得る事ができるかもしれないな。とすると、急いで案内した方が良いのか?」
良し、良い流れになってきた。
きっと急いで案内しないと魔力が完全に消えてしまい、解析も出来なくなるはずだ。
すなわち、お食事終了だ。
「あ、大丈夫ですよ。私が発見した魔力の残り、一日二日で消えるような物ではありませんでしたから」
うっ、手厳しい。手厳しいぞ!!No.5!!
しかし、こんな事で折れる副ギルドマスター補佐心得ではない!!
「だがそんな物があると、いつその魔獣が魔力の残りを目印に再びやってくるかわからないし、冒険者達が見つけたら大騒ぎになるだろう?」
「ウフフ、そこも問題ありませんよ、ジトロ様。私達が結界で囲ってきましたから、外からは見えませんし、魔獣が出てきても結界の外に出る事はできませんから!」
No.8の発言で、すっかり折れた俺。
こう言った所は抜かりないよな。本当に助かるけど。
「じゃあ、私このステーキを頼みますね」
「あ、おいしそう。私はこっちの一口サイズのお肉十種盛り合わせ!!」
そして、折れた俺に追撃を加えんと、果敢な攻撃をしてくる二人。
「そ、それでさ?No.7の都合はどうなのかな?」
「あ、今朝、暇そうにしていましたから大丈夫ですよ」
「何なら、今からここに呼んじゃいますか?」
「いやいや、大丈夫。帰ってから俺から直接お願いするから」
「「そうですか??」」
ふぅ~、助かった。危うくこの時点で皿洗い確定するところだった。
若干不満げな二人だが、ここだけは譲る事はできない。
こうして、結論は普通にNo.7に魔力の解析をしてもらう事になり、その日のお礼と言う名の食事会は終了した。
早速拠点に戻り、No.5、No.8と共に、No.7と話しをする。
「……と言う訳で、明日早朝にでも魔力を解析して、どのような魔獣がいたのかを調べてほしいんだ。頼めるか?」
「はい!!もちろんです。フフフ、本当に久しぶりにジトロ様からお願いをして頂きました。全力で頑張ります。なんでしたら、今から行ってきましょうか?」
「大丈夫よNo.7。私達が結界を張っておいたから、そんなに慌てなくても魔力はなくならないわよ」
No.8がやんわりと慌てる必要はないと伝えたが、No.7は不服だったようで、かわいい頬を膨らませている。
「そういう理由で急ぎたいんじゃないんですよ~だ……」
小さい声で呟いているNo.7。
だが残念な事に、この場にいる俺達のレベルであればどんなに小声でも聞こえてしまうのだが、おとなしくしておいた方が良い予感がしたので、黙っておこう。
まだまだ続きます




