VS悪魔(2)
この場にいるアンノウン全員、ジトロの命令を全力で実行しようとしているイズンの指示に異を唱える者は一人としていない。そう、あのNo.10でさえも。
そして悪魔が動く。
既に背を向けて必死に逃げているフォトリを追うような事はせず、近くに転がっているレンドレンに攻撃する事も無かった。
悪魔三体は、バリッジ暗部に狙いを定めたのだ。
バリッジ暗部は流石に修羅場を潜っているだけあって、このままでは決して勝てないと悟っていた。
すかさず後戻りできない丸薬を四人が飲み、残りの一人はこの場を離脱するべく行動を始めた。
バリッジ幹部に悪魔の情報、ハンネル王国の聖剣の情報を伝えるためだ。
イズンは、この暗部を追跡すればバリッジの拠点に辿り着くと判断し、再び作戦に修正を加えた。
『No.8離脱。あの暗部を追跡して、バリッジの拠点を突き止めてください!』
『わかったわ』
こうして動いている間、バリッジ暗部四人と悪魔三体の戦闘が始まる。
「お、何故突然魔力レベルが80になったのかはわからないが、なかなかの連携だ。フハハ、良いぞ、もっと俺達を楽しませろ!」
魔力レベル80と90弱の荒れ狂う闘い。
周辺の木々は吹き飛び、魔術によって氷や炎、風や水が暴走している。
その隙にNo.6がレンドレンの救出を行い距離を取っているヴァンガロに託し、再び悪魔の近くに転移で戻る。
ヴァンガロは、幸か不幸か悪魔の魔力に中てられて、気絶していた。
その間の悪魔とバリッジ暗部の戦闘は苛烈を極めていた。
人数と連携ではバリッジ暗部が圧倒的に有利。しかし、魔力レベルは悪魔が有利であり、今の所の戦局は拮抗している。
互いに致命傷を避けつつ魔術や体術による攻撃を行っているが、悪魔もバリッジ暗部も魔力の並列起動技術などはないために、必然的に人数の多いバリッジ暗部の攻撃の種類が多くなり、徐々に悪魔が押されている。
「フハハハ、まさか聖剣すら持たないただの人族にここまで押されるとはな。だが、お前らを始末した時、我らの魔力レベルは上昇するだろう。ここで、糧になって貰うぞ、人間!」
既に周囲の遮蔽物はなくなっているので、その姿を直接視認しながら攻撃と防御を行っている。やがて劣勢になっていた悪魔もバリッジ暗部の攻撃に慣れ始め、攻撃自体が当たらなくなってきた。更には戦闘中に技術を盗んだのか、三体で連携を取り始めたのだ。
こうなると、魔力レベルが低いバリッジ暗部は僅かな時間で劣勢に立たされる。
「やむを得ない。最後の手段だ」
勝利は難しいと判断した隊長は、この場に残っている三人の隊員に最後の指示を出す。
すると、その三人は悪魔に近接した瞬間に自爆したのだ。
吹き飛ばされる悪魔三体。
流石に瀕死の重傷を負っており、血まみれだ。
「フフ、見事と言っておこうか、人間。だが、我らは聖剣の復活と共に蘇る。対してお前らは死ねば終わり。残念だったな。今後は……」
最後の声を発する前に、残った隊長が三体の悪魔の息の根を止める。
その後に、力なく倒れるとそのまま息を引き取った。
実際の所は、聖剣は完全に破壊されてしまっている為に今までの通りに悪魔が復活するような事は無いのだが、既にこの世にいない悪魔が知る訳もない。
この一隊を指揮していたイズンは、悪魔ではなく、バリッジ暗部に意識が向いていた。
「何の迷いもなく自爆ですか。それに、あの魔力レベル。確か80でしたかね?」
イズンの呟きに、No.3が肯定の意を示す。
今のイズンの持つ力では魔力レベル80となると鑑定できないので、ナンバーズから情報を貰っていた。
「悪魔すら退治できる力。アンノウンゼロですら到達していない魔力レベル80。ですが、逃走した一人、No.8が追跡している者と同じく魔力レベルが40だったはず。何かしらの薬品を摂取した後にレベルが跳ね上がりましたね。それ程の技術を持っているバリッジ。油断できませんね」
「確かにな。だが、とりあえずお疲れイズン。後はNo.8がバリッジの拠点を掴む事ができれば大金星だな」
アンノウンゼロであるヴァンガロの労いを受けるイズンだが、表情は変わらない。
「ですがヴァンガロ、バリッジ暗部の力を見たでしょう?アンノウンゼロでは、かなり不利な戦いを強いられます。彼らが隠密を使用してきた場合、私達では探知すらできません。彼らは並列起動ができないので、隠密術を起動している時点で攻撃力はほぼ無いでしょうが、毒等を使われてしまってはアンノウンゼロでは対抗できない場合もあります」
常に現実を厳しくとらえて、アンノウンとしての最適解を導き出そうとするイズン。
ここも尊敬されている所ではあるのだ。
「イズンの言う通り、あそこまで魔力レベルが上昇するとは思わなかった。確かにアンノウンゼロでは苦戦を強いられるか、相手との相性や人数によって敗北もあるわね」
「そうだな。確かにイズンとNo.9の言う通りだ。俺も含めて、アンノウンゼロの戦力をもう少し上昇させる必要があるという事だな。帰還したらジトロ様に相談する事にしよう」
素直に意見を受け入れるヴァンガロ。
「では、一旦周囲の調査を行いますので、No.9はバリッジ暗部を追跡中のNo.8の補佐に回ってください」
「わかった」
こうして、必要以上に慎重に行動をしていたアンノウンだが、誰も怪我の一つ、いや、戦闘すらせずに悪魔との初めての接触は終わった。
◆◆◆◆◆◆
『No.8お待たせ』
既に念話で補助に来るという情報を得ているNo.8は、合流したNo.9と共にバリッジ暗部の生き残りの一人を追跡している。
バリッジ暗部としては悪魔と聖剣の情報を幹部に伝える必要があるので、避難しながらも何やら暗号で書かれた紙を準備している。
その姿を、気配を消しながら追跡しているNo.8とNo.9。
バリッジ暗部の隊員もバカではない。
あの場で自らの魔力レベルを平気で越えてくるような悪魔がいたのだ。それに、アンノウンに対しての最大の警戒指示も解かれていない。
つまり、どのような状況でも、自分達が追跡の対象になっていると考えて行動するように厳命されている。
この隊員も、追跡を撒くように無駄に遠回りをしているが、目的地は拠点ではない。
隊長を含む他の隊員が丸薬を飲んだのを確認した以上、一人で拠点に戻る事は出来ない。
追跡に対抗する能力が著しく低下するからだ。
こうして近くの町に到着すると、暗部はギルドに向かい依頼を出したのだが、その依頼書を確認たNo.8とNo.9は顔をしかめた。
ボードに貼り出された依頼書の内容は一般的な魔獣討伐ではあるのだが、その下に明らかな暗号文が書かれていたのだ。
見る人が見ればただの模様。だが、これがバリッジへの連絡である事はナンバーズであるこの二人は理解した。




