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アンノウン拠点にて

 アンノウンの拠点。

 いつもの夕食だが、紛糾する話が二つあった。


一つ目はもちろん、工房ナップルがラグロ王国にあった時代からのお得意様の冒険者パーティーが、バリッジによって襲撃された事。

二つ目は、その対応に当たったNo.3(ドライ)の破壊行動によるイズンの制裁についてだ。


 二つ目については正確には紛糾ではなく、No.3(ドライ)がひたすら謝ってイズンが一切折れない姿勢を貫いて轟沈したので、あまり時間はかからなかった。

 この場ではNo.3(ドライ)の破壊行動ではなく、むしろ相手に塩を送るような行動をとった件でかなりイズンの怒りを買っていた。


 この行動は油断に他ならないので、ジトロを含むこの場にいる全員がイズンの主張に対しては納得していた。


 ただ、周囲が“とばっちり”を恐れて波が引くように二人から距離を取っていたのはお約束だ。


 そして今は、もう一つの重大な案件についての話をしていた。

 そう、バリッジの襲撃だ。


「バルジーニさんの意見はもっともだな。俺もナップルや工房自体がアンノウンの関連であるとは思われていないと思うぞ。もしそうなら、もう少し店やナップルに対しての行動があるはずだ。だから、彼女達が襲われたのは……あの新種の魔獣討伐の結果から疑われたんだろうな」

「すると、今後は彼女達の護衛が必要になるという事でしょうか?」


 既にスイッチが切れているイズンが冷静に話を進める。

 因みにNo.3(ドライ)は、隅の方で未だに正座をしたままだ。


「そうだな。マチルダを解放した場所にいた二人の冒険者、恐らくそこからアンノウンがあの場を支配した事は伝わるだろう。そうでなくとも、マチルダ達を襲った一行が帰還しない時点で、マチルダ一行とアンノウンは何かしらのつながりがあると確信を得てしまうだろうな」


 アンノウンとして取れる選択肢は四つ。


 一つ目は、何も対応しない事だが、こんな選択肢は誰の頭にもない。

 二つ目は、イズンの言う通り護衛を付ける事。但し、四人全員に護衛を付けるとなるとかなりの負担となり、通常の任務に支障が出る可能性が高い。

 三つめは、騎士隊長のナバロンと同様に、魔力レベルをある程度まで上昇させて自衛させる事。

 だが、この方法はアンノウンとしては冒険者には使いたくないと思っていた。

 一般的に魔力レベル10が最大の所、40近い冒険者が活動をすれば全てのバランスが崩れてしまうからだ。

 もちろん力の制御はするにしても現時点の10倍の力を得てしまうので、問題が起こる可能性が高い。

 最後の四つ目、これは冒険者パーティーをアンノウンの一員としてしまうのだ。

 但し、ナンバーズのように魔力レベル99とはせず、アンノウンゼロの一員として魔獣を付ける形をとる。

 魔力レベルがあるので厳密にはアンノウンゼロではないのだが、力に踊らされる事も無ければ安全も確保できる可能性が高い。


 通常の冒険者の活動時に魔獣の力を一切使用しなければ今までと同じレベルでの行動ができるので、何ら問題が起こる事は無い。


 結局はこの案になる可能性が高いのだが、こうなると全ての真実を明らかにする必要がある。


 今までの経験からあの四人は信頼がおけると判断してはいるのだが……このアンノウン、ジトロ以外は劣悪な環境に置かれていた者達の集まり。

 イズンと、正式なメンバーではないがバルジーニを除けば全員奴隷出身だ。


 そこに普通の冒険者が入り、奴隷の無い世界に向けて命を懸ける事ができるかどうか、同じ志を持てるかどうかに不安があったのだ。


 結局その日に結論は出せずに数日は工房ナップルでの宿泊をさせて、ナップルとディスポ、そしてナンバーズによる護衛を行う事になった。


 暫く様子を伺うも、バリッジからの接触は一切なく穏やかな日常が過ぎている。

 ただ一点を除いては。


 そう、冒険者パーティーだが、攻撃された事すら理解できない状態で気絶させられているので、恐怖が深層に根付いてしまったようなのだ。


 当然、話を詳しく聞いていただけのジュリアとロレンサリーも同様だ。


 このパーティー、扇子を手に入れてからはある程度魔獣の討伐メインで依頼をこなしていたが、基本的には戦闘が必要にならない依頼を好んで受けていた。

 所謂“温厚パーティー”だったのだ。


「はぁ~、ナップルさん。ここで私達を雇ってもらえないかしら?」

「本当そうね、なんだか冒険者として活動するのは自信がないし……」

「それに怖いものね」

「そうそう、それよ!」


 と、こんな感じだ。


 ナップル個人としては全く問題ないのだが、この四人に鍛冶ができるとは思えない。

 それに、今の稼ぎでは追加で四人を養うのは不可能だ。


 もちろんアンノウンからの資金援助があれば全く問題ないのだが……


 数日このような状況が続き、結局一日も冒険者としての依頼を受ける事ができなく(・・・・)なっていた四人。

 戦闘の無い依頼でも、工房から外に出たがらなくなってしまったのだ。


 直接襲われた二人はわかるが、話を聞いただけの二人までこうなるとは思っていなかったナップルとディスポ。

 ただ、護衛をする側としては非常にやりやすいのだが、何時までもこのままではよろしくない。


 冒険者パーティーも、今までの蓄えから生活費として幾分か工房ナップルにお金を入れているが、永遠にこのままと言う訳にはいかないだろう。


 日に日に元気がなくなる四人のパーティー。

 何の活動も出来ずに居候をしており、蓄えも日に日に減少して行くのだから仕方がない。


 このような状況であるが故、第五の選択肢が出てきた。


 ナップルからの報告を受けているイズンは、夕食時にジトロに相談と言う形で四人の扱いについて提言する。


「ジトロ様。あの四人ですが、この拠点での雑務を引き受けてもらっては如何でしょうか?拠点内部での扱いとしては、バルジーニさんに近いでしょうか?もちろん、私達の理念に賛同して頂ける事、秘密を決して洩らさない事が条件になりますが、別段力を与える必要はないでしょう。拠点の外に行きたい時には、アンノウンの誰かと共に行動すれば良いのです」


 この意見には満場一致で賛同が得られたので、先ずはナップルとディスポがある程度の説明を行う事になった。


 工房ナップルでも夕食が終わり、元気のなくなっている冒険者パーティーは与えられている部屋に向かおうとしている。


「あっ、皆さん少しだけお話ししたい事があります」


 ナップルに呼び止められた四人は、更に気落ちした表情を見せる。

 恐らく、そろそろこの工房を出ていけと言われると思っているのだ。


 逆の立場であればそうするだろうし、当たり前の事だと頭では理解している冒険者パーティーではあるが、やはり今後の身の振り方を考えるとどうしてもナップルに縋ってしまいたくなっているのだ。


 このまま放逐されれば、あの力を持つ者達に命を奪われるか、借金奴隷まっしぐらな未来は容易に想像できるからだ。


 その気持ちを何とか押さえつけて、ナップルとディスポ、そしてバルジーニのいる場所に行き席に座る。


 まるで死刑宣告を受ける直前のような表情で、ナップル達を見つめる冒険者達。


 一方のナップルも、上手く説明できるかわからずに緊張していたので、若干表情がこわばっている。

 その表情を、言い辛い事を言う表情と理解した冒険者パーティーは、これから言われる内容を勘違いしたまま神妙な面持ちをしていた。

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