マチルダの帰還
突然自爆した暗部を前に、何もする事ができなかったアンノウン。
流石にここまでの者を蘇生する力は、この場にはいないNo.6にすらない。
「まさか自爆するとは、敵ながら見事でした。情報を漏れないようにしたのでしょう。逆に、かなりの情報を持っていた者を捕縛できなかった事になりますね。そうするとこの二人は……大した情報は持っていないでしょう」
小屋の中にいた二人をみて、No.7は呟く。
二人の魔力レベルは3。その姿は冒険者の中でも魔導士寄りなのだろうか、フード付きの外套を羽織っている。
No.7の予想通りこの二人は構成員ではなく、子飼いの者達、いや、それ以下の存在だ。
この二人が、暗号化された情報を顔見知りの他の子飼いの者に伝えて、いつの間にか構成員に連絡が届くようになっている。
初めの二人が複数の人々に話をして、その複数人が更に複数人に話をしていく。
こうする事により、本当の構成員が誰なのかを掴まれないようにしているのだ。
都度話を広める対象は異なっており、中には子飼いでない者も含まれる。こうなってしまうと現実的に追跡は困難だ。
バリッジの中である程度の地位がある者、そうでなくとも貢献度が高い者、緊急の指令を受けて活動している者に対しては特殊な魔術が組み込まれた手紙が使用されるのだが、今回はそうはなっていなかった。
「あなた方は、どこから来たのですか?」
アンノウンとして覆面状態のまま二人に問いかけるNo.7。
目の前で暗部の自爆と言う惨状を見せられた魔力レベル3の冒険者は、何も考える余裕など有る訳もなく、聞かれた事にひたすら答えていた。
その結果、やはりこの二人はバリッジと言うよりも顔見知りの冒険者の指示、儲け話を持ってきている冒険者に言われるがまま行動をしていたに過ぎない、末端とも言えない立場の人間である事が判明した。
拠点としているのは何とバイチ帝国ではなく、シーラス王国であると言うから驚きだ。
全ての情報を吸い上げたと判断したNo.7。
「成程、我らにその存在を把握されないように末端を動かしてきたわけですね。そして本命の部隊は情報漏洩を防ぐためには自爆すら厭わない。そのおかげで今回の目的は不明のまま。困りましたね」
既に末端の二人については解放しており、この場にはアンノウンと気絶しているマチルダしかいない。
もちろん今後このような行動を起こした場合には二度と見逃す事は無いと、キッチリと脅した上で……だ。
通常では聞こえないような声量のNo.7の呟きに、この場にいるアンノウンは反応する。
「ですがNo.7、最終的には私達アンノウンの情報を得ようとしている事は間違いないでしょう?」
「アマノンの言う通りだと思うな。それ以外に考えられないものね。チェンラもそう思うでしょう?」
「そうね、私もアマノンとアガリアの意見に賛成よ。No.7はどう考えているの?」
「もちろん最終目的はそうでしょうけど、何故今回マチルダさんが拉致されたか。そこが分からないのです」
「彼女がアンノウンゼロと判明した可能性は低いだろ?そう考えると、マチルダが新種の魔獣討伐を成し遂げた者になっているから、バリッジに適当に狙われたんじゃないか?」
No.3の大雑把な意見だが、誰も否定できない。
もちろんNo.3がナップルの名前を出さずに“彼女”と言ったのは、気絶しているとはわかっているが、この場にアンノウンではないマチルダがいるからだ。
結局この場で結論は出ずに、アンノウンはマチルダをディスポに引き継いだうえで一旦拠点に戻る事にした。
念話でマチルダ救出完了の報告を受けたナップルとディスポ。
その情報を突然伝えるわけにはいかずに、冒険者に寄り添っているナップルを残してディスポが帝都から外にでる。
近くまで既に転移してきているNo.3は未だ気を失っているマチルダをディスポに託して、その場を後にした。
「マチルダさん、しっかり!」
意識を失っているだけの状態のマチルダを軽くゆすると、意識を取り戻すマチルダ。
「あれ?ディスポ君。なんで?……ここはどこ?そうだ、メリンダは?いつの間に誰かに攻撃されて、重症のはずよ。早く助け出さないと!!ねっ、お願い。早くあの採掘場に連れて行って」
「落ち着いて、マチルダさん。メリンダさんも無事に工房にいるから。今は皆がマチルダさんの帰りを待っているので、急いで帰ろう」
ディスポの話を聞いて姉が無事である事を理解したマチルダは、目に涙を溜めながらディスポと共に帝都にある工房ナップルに向かった。
救出に時間がかかると思っていたアンノウン達だが、思った以上に早くパーティーメンバー全員が無事に帰還する事ができた。
一方のナップル。
実は、既にナップルの手元にはフェルモンドの依頼に必要な鉱石もある。
一旦は遅れると連絡したのだが、できる事はするべきと判断しているナップルは喜びあっている冒険者パーティーをディスポに任せて、バルジーニと共に魔道具の作成を開始した。
その日の工房ナップル閉店後。
アンノウンとバルジーニは、いつもは転移で店の中から直接拠点に転移するのだが、今日は冒険者パーティーの安全が脅かされていた関係上、彼女達に店に泊まってもらい自分達も工房に泊まる事にしていた。
別の部屋で泊まっているので、ナップル、ディスポは周囲を警戒しつつもバルジーニに事情を話す。
「成程。ワシは詳しい事はわからんが、この店がアンノウンと関連があると思われている可能性は低いだろうな。奴らの戦力増強の為に扇子を奪いに来たが、使用者制限の為に期待外れだった。またはあのマチルダがアンノウンの一員と勘違いされたか……こっちが本命だろうと思うぞ。かなりの戦力がマチルダを捕らえに来たのだろう?恐らくアンノウンの一人でも拉致して、拠点の情報を吐かせようとしたのだろうな。アンノウンと同じ作戦と思えば、しっくり来るだろう?」
この意見は、念話を使って拠点に展開された。
流石はバルジーニ、年の功だ。




