再び異常な魔獣襲来(1)
お待たせしました!
あ~、昨日はエライ目にあった。油断大敵だ。
俺のためにクソギルドマスターの依頼を受けてくれた、No.5とNo.8。
即依頼を達成した事に対するご褒美を要求されて夕飯を奢ったのだが、いつもの家、拠点での食事量と違って、食べる量が半端じゃなかった。
少しずつ食べているのだが、なんだか店にいる時間を延ばしたいかの様に、次々と料理を注文してはチビチビ食べていた。
そう言えば、今朝の二人は朝食を食べていなかったな。
原因は、明らかに昨日の夕食を食べ過ぎたせいだろう。
まったく!俺の副ギルドマスター補佐心得としての給料以上に食べるからだ。
今までに蓄えた少ない貯金が一気に減った事を理解した俺の絶望。
わかるか?前世の経験もある俺は、貯蓄の重要性は誰よりも理解しているつもりだ。
その一環で、安定した職業を渇望していたのだ。
くっ、仕方がない。
こうなってしまっては、いつか休みを取って、俺の本当の力と存在がばれない場所で高ランクの魔獣を換金するしかないな。
あのクソギルドマスターが休みをくれれば……だがな。無理か。
ありえない事だな、と頭を振ってギルドへの道をトボトボ歩く。
やはり懐が寒くなると、無意識に懐を温めようとして背中が丸くなるんだな。
これは新しい発見だ!
などと、現実逃避をしている間にギルドに到着する。
そしていつものように何の仕事もしていない、いや、むしろ無駄な仕事を増やした上で放置して帰るクソギルドマスターの尻拭いの仕事から始める。
「まったく、いつもいつもこの程度の書類も捌けないとは情けない」
懐の寂しさから、今日は心の声がダダ漏れだ。
俺ほどの力があれば、視線を上げなくても周りの状況は手に取るようにわかる。
その証拠に、このセリフが聞こえているであろう熟練の受付嬢が苦笑いをしているのが分かる。
しかし、彼女も自分の仕事があるので、俺を手伝ってくれる事はない。
何が言いたいのかと言うと、このギルドではあのクソギルドマスター以外は、全員必死で仕事をしているのだ。
受付達も、今日の糧を得るために依頼を受けようとしている冒険者達の対応をしている。
普通は推奨魔力レベルに分けた難易度の依頼をボードに貼っているので、個人で選択して受付に持ち込む。
だが、中には面倒くさいのか、受付と話したいだけなのか、依頼書を持たずに受付に何か良い依頼がないかを聞く冒険者もいるわけだ。
当然、その対応もしなくてはならない受付は、ありとあらゆる依頼を記憶している。
つまり、ここまで全員必死で仕事をしているのだぞ。そして、クソギルドマスターは何もしていないのだぞ!という事が言いたい。
俺は、一応部下達の熟練した動きを監視しつつも自分の業務を始めて、ようやくひと段落がつく頃にあいつが偉そうに出勤してくる。
「ジトロ、昨日の夜にお前のために残しておいてやった仕事、終わっているんだろうな?」
<こいつは、仕事は何一つできないからそのまま放置して帰っただけだろうが!>
「ええ、もちろんできています。机の上に置いてありますよ」
心の声が漏れないように注意しつつ、にこやかに対応する。
「フン、当然だな。お前のできる事と言えば……」
「大変だ!!」
クソの言葉を遮るように、必死で走ってきたであろう冒険者がギルドになだれ込んできた。
ただ事ではない気配を感じ、クソを無視して俺は冒険者の方に駆け寄る。
「ふ、副ギルドマスター補佐心得……助けてくれ」
クッソ、こんな緊急事態なのに、無駄に長い役職だと歯がゆくなる!!
「大丈夫ですから。落ち着いて話してください」
他の受付も状況を確認していつでも動けるように、俺達の近くにやってきた。
クソは、興味がなさそうに自分の飲み物を準備している。腹が立つが、あいつがいない方が話が進むので問題ない。むしろ好都合だ。
「お、俺のパーティーがいつもの通り、薬草の依頼を受けたんだ」
この冒険者の言っている事が正しいのか確認するため、俺の視界に入る受付に目線を移すと、俺の考えている事を理解したのか、一人の受付が頷いた。
そうなると、確か薬草採取の推奨魔力レベルは2だったはずだ。
「そこで、見た事も無い魔獣に襲われて……他の二人は、洞窟に隠れているんだ。お、俺は、魔獣を引き付けつつ、なんとかアイテムを使って魔獣を撒いたんだが、まだ二人はあの近くに残ったままなんだ。なあ、副ギルドマスター補佐心得、助けてくれ!!」
この人は自分が囮になってまで、他の二人を逃がしたかったに違いない。
「まったく、これだから平民は。いいですか、冒険者とは全て自己責任。不測の事態があるたびに無償でギルドが助けを出していたのでは組織として成り立ちません。もしその二人を助けたいのであれば、正式に冒険者達に依頼を出すんですよ」
突然クソギルドマスターが首を突っ込んできた。
だが、悔しいが、今回はこいつの言っている事は正論なので、誰も反論する事はできない。
もちろん俺も含めてだ。
「わ、わかった。出す。出すから助けてくれ!!」
「良いでしょう。それで、見た事も無い魔獣……ですが、あなた程度が持っているアイテムで逃走する事ができたとなると、魔力レベルは4と想定しましょうか。とすると、一匹と仮定して……金貨四枚でしょうかね」
言いたいだけ言うと、さっさと自分の部屋に戻るクソギルドマスター。
「き、金貨四枚!いや、わかった。払う。だから助けてくれ!」
薬草採取で生計をたてている冒険者に、金貨四枚は大金だ。
俺の感覚では、日本円で40万円位だ。
緊急依頼として受領して対応する冒険者を募ったが、なかなか依頼を受ける人が現れない。
それはそうだ。
あのクソギルドマスターが言った言葉…魔獣レベル4ともなると、この辺りの冒険者では一切太刀打ちする事はできないだろう。
英雄扱いの父さんと母さん二人で、ようやく倒せるかもしれないといったレベルだ。
自分の命がかなり危険になる状況の依頼を、金貨四枚で受ける冒険者はいないだろう。
依頼を出した冒険者は、縋るような目で周りの冒険者達を見るが、全員目を逸らしてしまう。
だが、俺には秘策がある。
そう、俺の頼もしい仲間だ。もちろん俺本人が動けるわけがないのもある。
決して自分で動くのが面倒とか言うわけではない。流石に人命がかかっていれば、俺だって今すぐ動きたい。
俺は、最近常に俺の近くにいる二人に魔力を使った信号を送り、ギルドまで来てもらった。
二人は、この状況を何も知らない体でこちらに来る。
パソコンは飛びましたが、USBに保管済みのデーターがあるので、もう少しである程度一気に吐き出せると思います。




