イズンの故郷(6)
「ふ~、すみませんでしたねNo.4。私一人でもなんとかなるとは思いましたが、いかんせん実戦ははじめてなので……」
「いや、全く問題ないぞ。むしろ自分の状態を確認して、万全を期す。流石はイズンだ」
倒れ伏して意識のないツツドールと、未だ体が動かない状態のプラロールをよそに会話を続けている二人。
「こいつらはバリッジである事は確定しているが、こんな小物が情報を持っているとは思えない。可能性があるとすればこいつだろうな」
No.4は、まるで彫刻のように攻撃態勢の姿勢で固まっているプラロールに対して軽く小突いて見せる。
「確かにそうですね。こんなクズが情報を持っているとは思えませんからね。とりあえず、周りには魔力レベル10以上の者は感知できませんから、戻りましょうか?」
イズンもNo.4と同様の意見の様で、このまま二人を連れて拠点に連行する。
「お前ら、まさか長距離転移までできるとは。しかもお前、未だに魔力レベル0で間違いないはずなのに、何故お前まで魔術を行使できる!」
面白い姿勢のままでも口と目は動くので、プラロールはイズンに食って掛かる。
「あなたには関係のない事ですよ。そもそも、魔力レベル33程度でアンノウンに仕掛けようとしている時点で、バリッジの程度が知れますね」
「そうだな、お前、プラロールとか言ったか?私の魔力レベルが分かるか?わからないよな。しょせんはその程度だ」
イズンに続き、No.4もプラロールを挑発する。
プラロールは、自分のこれからの扱いも不安ではあるのだが、何故イズンが魔力レベル8のツツドールを圧倒できたのか、そしてこれだけの長距離転移を行えたのかが不思議で仕方がなかった。
イズンの転移に関しては、No.4が術を行使してイズンを転移させたのではなく、イズンの体表に魔力が漂った雰囲気を察知した為、イズン自ら転移魔術を行使したと判断したのだ。
「よし、お前らはこっちだ」
無造作に、地面に転がっているツツドールと、面白い姿勢のプラロールを掴んで歩き始めるNo.4。
その後ろにイズンが続く。
やがて、大きな扉の前に辿り着くとイズンが前に出て扉を開ける。
「No.0、任務完了しました。私の調査の結果、タイシュレン王国に潜入していたバリッジ関連の者はこの二人です。冒険者の流出も、元をただせばこの連中の仕業です」
「お疲れ様、イズン、そしてNo.4」
もちろん、バリッジの前で本来の姿を晒す事の無いジトロ。
この場にいるナンバーズも全員覆面状態になっており、アンノウンゼロも同様だ。
この場にいるイズンだけは、その素顔を晒している。
「う、ここは、お前イズン、この俺に何をしやがった!」
ジトロの指示により、遠隔で軽く回復術を行使したNo.6によってツツドールは意識を取り戻すのだが、その視界にはイズンしか入っておらず、好戦的な姿勢になっている。
No.4はおもむろにツツドールの衣服の中に手を入れて懐をまさぐった。
「おまえ、何をする!無礼な!!」
一応公爵であるツツドールは抵抗する姿勢を見せるが、No.4の力を持ってすれば何の抵抗にもなっていない。
「No.0、その原因はこれにあるぞ。以前と同じ、新種の魔獣を制御する魔道具だろう……うん、制御できているのは一匹だけだ。始末してこようか?」
「おまえ、何故その魔道具を使える?使用者制限がかかっているはずだぞ!ツツドールしか使えないはずだ!!」
プラロールが、魔道具の起動に成功しているNo.4に向かって喚く。
「あなたは煩いですね。たいていの魔道具は、魔力レベルが遥か上であれば、制限も上書きできるのですよ」
ナップルに教わった知識を披露するイズンは、以前ツツドールが行った非道な行い、森の深くにイズンとノエルを置き去りにして亡き者にしようとした企みすら失敗している事を告げる事にしていた。
「お前は本当に救いようがない。No.0、よろしいでしょうか?」
既に念話で同郷のノエルの素顔を晒しても良いか聞いているのだが、再度口頭で確認を取るイズン。
「イズンの好きにすると良いよ。それとNo.4、その魔獣の始末、頼んだよ」
ジトロの指示により、即この場から転移するNo.4。そしてツツドールに真実を明らかにするイズン。
「ありがとうございます、No.0。良いかツツドール、いや、クズ!お前は私の事を親身に世話してくれていたノエルの事もバカにしていましたね。私がノエルを囮にしてあの場から逃げたとも……まずはその大きな間違いを正してあげましょう」
既にギルドの業務を終えて帰還しているノエルは、その素顔を晒す。
アンノウンゼロの魔獣については、テイムを解除しても制御できる事、そして任務に必要な隠蔽の術を習得させるようにしていたのだ。
そのため、ノエルも覆面を実際に被るのではなく、隠蔽の術によって覆面状態に見せるようにしていた。
「お前は?誰だ?」
見た目も健康になり、元の美しい姿となっているノエル。
以前、奴隷としてイズンに仕えていたころの面影は一切ないため、ツツドールは気が付く事ができなかった。
アレ?みたいな顔をしているイズンだが、気を取り直す。
「お前が私と共にあの森に置き去りにしたノエルですよ。頭だけではなく、目も悪かったのですね。私とノエルは、No.0を始めとした仲間と、ここアンノウンで楽しく暮らしています。今も、そしてこれからも。あなたのこれからとは比べようもなく幸せですよ!」
「イズンさん、この男がイズンさんを苦しめた元凶ですか?」
ここで初めてノエルが声を発する。
その声に聞き覚えがあったのか、ツツドールは確かにイズンの専属メイドとしてあてがった奴隷である事に気が付いた。
「そうですね。私を苦しめたのはこの男だけではないですけれど。知っての通りあの森の一件もこの男の指示ですが、それ以外にも、あのような幽閉状態になる前から姑息な手で嫌がらせをしてくれていましたよ」
その言葉を聞き、普段温厚なノエルに怒りの表情が浮かぶ。
「お前ら、私に何かあったらタイシュレン王国、そしてバリッジが黙っていないぞ!」
「あなたは本当に煩いですね」
冷ややかな笑みと共にノエルがツツドールに近づき、片手で喉元を無造作につかみ持ち上げる。
「ぎ、ぐぅぐぅるじぃ……やべでぐで……」
必死でその手をほどこうとするも、びくともしないノエル。
やがて白目をむいて痙攣を始めたころに、ようやくその手を離したノエル。
当然床に力なく崩れ落ちたツツドール。
「それでイズン、タイシュレン王国はどうしたい?」
結構な修羅場であるはずだが、何事もなかったかのようにNo.0が話をする。
その場に取り残されているプラロールは、変な姿勢のまま会話を聞いているだけ……




