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イズンの故郷(3)

 何はともあれ、このタイシュレン王国の掌握か。

 どうするか。ま、掌握する方法は決まっているが、何時実行するかだな。


 謁見の場ではなく、国王、そして国王一族の数人でも良いので共に会える機会を作らなくてはならないな。

 今の私の地位ならば、個人的に会う事もそう難しい事ではないが、国王一族の数人と共に会う必要があるのが難しい。


 場合によっては、そのうちの一人程度は行方不明になるのだから、その存在を公にされても困る。


 そうなると、国家の非常事態に対して個人的に相談に乗る形が良いだろう。

 まさに、この魔道具の中にいる新種の魔獣の出番だ。


 この魔獣の姿を晒すのではなく、この魔獣を制御して魔獣達をパニックにさせて、異常事態を起こすのだ。

 こうすれば、魔獣は普段以上の力を出す。

 冒険者達や、商人達にも大きなダメージが行くだろう。


 脆弱な防壁しかない町では、人的被害も出るに違いない。

 もちろん疑われないように、不本意ではあるが、我が領地も同様の事象を起こす。


 当然甚大な被害が起きるのは、どうでも良い連中が住む町限定になるがな……


 こうして、私は作戦を実行する事にした。

 特に気に入らない貴族の治めている領地については、入念に被害を与えてやったのは言うまでもない。


 こうすると、当然商人は逃げ出し、冒険者達も徐々にこのタイシュレン王国を出国して行く。つまり、国力の低下が起こっているのだ。


 この状態を見逃すほど国王はバカではない。

 すかさず貴族達の招集が行われたのだが、ここで私は父に毒を盛り、父の体調不良の為に召集をお断りさせて頂いた。

 通常であれば国王の緊急招集を断る時点で不敬罪に問われる。

 だが、この国王は身内を大層大切にする国王であるので、こうすれば何の罪にも問われないのだ。


 想定通り、父の看病をするようにと返事が来る有様だ。

 計画通りではあるのだが。


 そして、緊急招集による会合が終わった頃に、父には旅立ってもらった。

 私の崇高な使命達成の為なので、止むを得ない犠牲と言えるだろう。


 その結果、予想通りに哀悼の意が国王から伝えられ、その対応として、更には緊急招集時の話の内容を聞くために、私一人が王宮に向かう事になった。


 私一人である事もあり、謁見の間ではなく、普段パーティーを行うような広いホールで国王、そして想定通りに国王一族と面会する。


 皆私の父に対する哀悼の意を示してくれているのだが、そんな物は不要だ。

 その後は、少し小さい部屋に移動して緊急招集時の報告を受ける事になった。


 その場には、国王、宰相、そして国王としての政務を学ばせるという名目で、数人の王族が同席している。


 フフフ、理想の状態になってきた。

 だが、この部屋に私と宰相、そして王族が入ったと知っている表にいる騎士も排除しなければ、これから私が起こす行動を公にされかねない。


 今までの私の功績、そして父の功績からか、今の国王は近衛騎士を引き連れていないのが幸いした。


「国王陛下、先ほど私達を案内して頂いた騎士の方々にもお礼を申し上げておきたいので、この部屋に招待しても宜しいでしょうか?」

「む?何の礼だ?」


 チッ、面倒だな。素直に了解すれば良い物を。


「ええ、実は私の父に対しての言葉を頂いていたのですよ。お礼を伝える前に部屋に到着してしまいましたので」

「そうか、良い心がけだ。おい、騎士達を呼んで来い」


 三人の騎士が部屋に入ってくる。

 もちろん入り口は一つだけ。勝ったな。


「では、皆さまにお礼申し上げます」


 私は席を立ち、さりげなく騎士達のいる一つしかない入り口に向かう。

 気配を探ると、外には既に誰もいない状況になっている。


 入口を完全に背にすると、全員を見渡すようにして話を続ける。


「私の為にわざわざお集まり頂きましてありがとうございます。では、これからあなた方にお願いがあります。これからは、全て私の指示に従って頂きたい。もちろん国政に関する事も含めて一切です。ご理解いただけますか?」


 それぞれの反応が面白い。


 呆けている国王、眉を顰める宰相、そして流石は騎士。こいつらは武器に手をかけている。


「フフフ、流石は騎士達。素晴らしい動きです。それに引き換え、ぬるま湯につかっている連中はダメですね」

「何を言うか、ツツドール公爵。血迷ったか?」


 宰相が騒ぐが、一切気にしない。


「良いですか、一度しか言いませんから良く聞いてください。これから皆さんに魔獣を見せます。ええ、この場に出現させます。もしその姿を見て騒ぐようであれば、即座に魔獣の餌になりますので、気を付けてくださいね。そうそう、魔獣の魔力レベルは30です」


 そう言いつつ、プラロールから受け渡された魔道具に力を注いで、魔獣を顕現させた。


「ひっ……ひぃ~」


 王族の女が騒ぎそうになったので、宣言通りに餌になって貰った。


 その姿を眼前で見せられた全員の恐怖が最大限になっているだろう。

 だが、三人の騎士達は違った。


 果敢に魔獣に攻撃を仕掛けてきたのだ。

 だが、その攻撃の音によって情報が漏れるのは困る。

 未だ咀嚼の途中である魔獣に指示を出して、三人の騎士を音もなく瞬間に始末した。


 完全に戦意が無くなり、怯え切っている国王、一族、そして宰相。


 その間、魔獣はこの惨状の証拠隠滅をするように、奇麗に全てを口にしている。

 魔力を使って床に飛び散った血痕まで奇麗にしているのだ。


「これでご理解いただけましたか?これからは全て私の指示に従って頂きます。そうそう、緊急招集の件ですが、あの原因はこの魔獣ですよ。ですから、解決するもしないも私次第。それと、今後のあなた達の命は全て私が握っている事をお忘れなく」


 こうして完全に裏からタイシュレン王国を掌握する事に成功した私は、再びバリッジからの指示を待つ事にしたのですよ。フフフフ。


 掌握が終わり自室に戻ると、そこにはプラロールがいた。


「よう、流石に仕事が早いな。首領も褒めていた。もう一つ仕事を成功させれば、構成員になれそうだぞ」

「それはありがたい。で、次なる仕事とは?」


 はやる心を押さえつけ、次なる仕事を聞く。


「次は、ラグロ王国との連携強化、そしてバイチ帝国との断交だ。安心しろ、ラグロ王国も既にバリッジが治めているから何の問題もない。だが、ラグロ王国の工房通りは少々廃れてしまってな。ここを盛り返すためにタイシュレン王国で交易をしてくれ」

「そんな事で良いのか?」


 私にとってみれば、何と言う事もない依頼内容だ。

 これで私も正式なバリッジの構成員になれる事は間違いないな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 着実に自身の粛清フラグを立ててる屑弟。 粛清待ったなしです。
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