ダンジョンでの修行
ノイノールとフォタニアの二人が向かったダンジョンは、つい最近シーラス王国の一件で入手した場所だ。
アンノウンの拠点から、アンノウンゼロでも中継無しで転移する事ができる。
既に転移程度は出来て当然のレベルになっている二人は、引率のナンバーズであるNo.2とNo.8と共にダンジョンに侵入する。
このダンジョン、大型の魔獣が多数いるダンジョンであり力技での攻撃をされるケースが多いうえ、浅層では罠も少ないので、修行には丁度良い場所になっている。
転移まで使いこなせるほどになっている二人にとっては浅層は何の障害にもならない為、魔獣の気配と少ない罠の発見を行うために、感知術の行使に力を注いでいた。
「あれ、ダンジョンってここまで何もなくて見渡せる場所なんてあるんですね?初めて知りました。罠がたくさんあるのですか?」
「本当!お兄ちゃん、でも良い景色……かな?幻覚かしら?」
彼らが到着したのは5階層。
見渡す限り平原、そして強化された視覚でも魔獣の一匹すら見えずに、下層に繋がる階段が見える。
そう、ここは以前“炸裂玉(改)”をNo.10がぶっ放して、破壊した階層。
残念ながら、破壊規模が大きすぎたので、いまだに修復されていない階層になっている。
「えっと、この階層はね?No.10がちょっと間違って壊しちゃったのよ。だから、普通はこんな状態のダンジョンはないわよ」
「そうそう、これが普通と思っちゃったら大変よ。この階層は罠も何もなくなっているから、気を取り直して次の階層に行きましょうか?」
No.2とNo.8が慌てて本当の事を説明する。
「そうだったんですか?凄いですね、流石はナンバーズ。ちょっと間違ってこれ程の事が出来るのですね!」
「凄いです!感動です!!」
No.2とNo.8は互いを見る。
これでは、No.10のあの行いが賞賛されているようになってしまっているからだ。
「あの……ね、えっと、ノイノール君とフォタニアちゃん、実は、この破壊を巻き起こしたのはアンノウンゼロのナップルさんが作った“炸裂玉”なのよ」
「そうそう、でも、どれくらいの威力が出るかわからないから、勢いで試してこんなになっちゃったんだ。危ない火遊びの強化された感じ……なのかな?こうならないように気を付けて力を使おうね」
「「はい!!」」
言いたい事を本当に理解してくれたのか不安が残るナンバーズの二人だが、先ずは修行と気持ちを切り替える。
即座に6階層に侵入し、ノイノールとフォタニアを別の方向に進ませたナンバーズ。
ノイノールにはNo.2、フォタニアにはNo.8がフォローに入っている。
同じ階層なので、二人には同じような魔獣が攻撃を仕掛けてくる。
この階層の魔獣程度であれば個別に撃破できる程度の力は既に身に着けているので、それぞれが持つ攻撃方法に対して集中的に磨きをかける為に別行動としたのだ。
ノイノールは比較的体術を扱うのを得意とし、フォタニアは魔術を扱うのを得意としている。
ノイノールの目の前には、巨大な体躯を持つ魔力レベル15の魔獣が表れた。
巨大な体躯の割には移動速度も速く、移動時の気配を消す力も持っている。
普通であれば突然目の前に巨大な魔獣が表れたように見えるのだが、ノイノールはその巨体をかなり前から捉えて、警戒をしていた。
魔獣としては突然現れて攻撃をする事により確実に仕留められると思っていたのだろうが、現れた瞬間、つまりノイノールの射程に入った瞬間に吹き飛ばされた。
「ノイノール君、もう少し右足の位置を前に出した方が良いですよ」
はるか彼方に吹き飛ばされた魔獣をよそに、No.2が指導を行っている。
「はい、こんな感じですか?」
ノイノールは、指摘された事を気にしながら再度動きを確認する。
「そうです。その方が、次の攻撃に移りやすいですから」
もちろん、この場にいるナンバーズは自らの気配を完全に遮断している。
魔獣がナンバーズの力を恐れて逃走するのを防ぐためだ。
「もう一つ確認です。今攻撃をしている時に、他の魔獣の位置は把握していましたか?」
No.2は、無造作に右手を空中に出すと、その手には魔獣が握られていた。
「これは、今の私と同様に、気配を完全に消す事ができる魔獣です。大型魔獣に襲われている者を、気配を消した状態で不意打ちするのです。魔獣同士の連携ですね」
ノイノールは、攻撃に意識が集中しすぎて周りの警戒を行えていなかったのだ。
もしNo.2がいなければ、攻撃をまともに受けていた。
ノイノールを守護している魔獣の魔力レベルから考えるとこの程度の魔獣の攻撃を食らったとしてもダメージにはならないが、特殊な毒や異常状態を付与されてしまう場合もゼロではない。
「ごめんなさい。攻撃に意識が持っていかれてしまいました。次はその辺りも気を付けていきます」
素直なノイノールであれば、同じ過ちを繰り返す事はないだろう。
一方のフォタニア。気配を消しているナンバーズのNo.8と共に行動している。
フォタニアの場合、近接されてしまうと魔術を起動する一瞬の隙を突かれる可能性が捨てきれないので、常に守護している魔獣の力を利用した魔術を行使して、警戒態勢をとっている。
「No.8さん、あちらに魔獣が複数います。この位置から攻撃を仕掛けても良いですか?」
まだ幼いので、時折確認してしまうのだ。
その辺りも含めて理解しているNo.8は、特に指摘する事なく、普通に返事をしている。
「そうですね、問題ないですよ。でも、どの魔獣にどの様な属性が効果的かは考えて下さいね」
つまり、複数いる魔獣に対して同じ攻撃では倒しづらいと、暗にアドバイスを送っているのだ。
「わかりました。えっと、先ずは魔獣の不利な属性を見つけるんでしたよね」
ぶつぶつ言いながらも、術を行使しているフォタニア。
必死で頑張る自分の娘を見るような気持ちになっているNo.8。
過度なアドバイスは修行の障害になるので、グッと我慢している。
「わかりました。あの大きいのには炎、小さいのは雷です。行きます!!」
No.8の得意な術は剣術だが、フォタニアができる程度の魔術は難なくこなす事ができる。
その結果得ている情報とフォタニアが口にした情報に齟齬がないので、黙って成り行きを見守っている。
魔力レベル60から繰り出される二種類の属性魔術。
No.8は、その攻撃が正確に的に当たり、魔獣達が息絶えた事を確認した。
「えっと、魔獣の動きを確認して……」
フォタニアは自分の攻撃が当たったのは分かっているのだが、その魔獣が生存しているかを確認しようと悪戦苦闘している。
少々時間が経過して、ようやく確認できたようだ。
「No.8さん、やりました。私一人でできました!」
こうして、ダンジョン内部での修行は続いて行く。




