ギルドマスター(3)
このクソギルドマスターは、俺への嫌がらせの為なら何でもやりそうな勢いだ。
きっとその為ならば普段は決してやらない、まともな仕事も必死でやるだろう。
前世の父さん母さんと言い俺と言い、上司には恵まれなかったな。
だが、改めてこいつはそう言う奴だと確信した。
「君達はまだ若い。今ここでギルドマスターであるこの私に謝罪すれば依頼未達成のペナルティーは特別に免除してあげよう。但し!今後一切このジトロには関わらない事が条件だ。どうだ?悪くないだろう?ギルドマスターとして若手冒険者の未来を紡ぐようなことはしたくないのだ。わかるな?」
何としても、この二人に依頼を達成させたくないらしい。
あまりの必死さに思わず腹を抱えて笑いそうになるが、何がきっかけで俺とNo.5、No.8が繋がっていると気が付かれるかわからないから、自重する。
あくまで俺はギルドの一職員、名誉ある副ギルドマスター補佐心得。そして彼女達は、少しだけ?俺に優しい冒険者なのだから。
「あ、いらっしゃったんですかギルドマスター?全く興味がないので気が付きませんでした!」
「本当ですね。何を言っていたかも聞いていなかったので、すみません。私たちジトロ副ギルドマスター補佐心得に用があるので、もういいですか?」
全て聞いていたくせに、わざと煽るこの二人。
「フ、フフ、なかなか面白い事を言いますね。若さ故の過ちとして許せるのは一度のみですよ。良いですか、よく聞きなさい。もしあなた達がジトロとの接触を断つならば、今回の依ら……」
「あ、もう良いですから。黙っていただけますか?」
「そうですよ。私たちはジトロ副ギルドマスター補佐心得に用があるので、あなたは全く必要ではありません。何やら助言っぽい事を言い始めているようですが、それももちろん不要です。全く、人生の中でこれほど無駄な時間はないですね」
クソの話が終わる前に、バッサリ切りつける二人。
まさか自分の提言が聞かれないだけではなく、不要と切って捨てられるとは思ってもいなかったのであろうクソギルドマスター。
あけた口をそのままに、唖然としている。
「その口、閉じないと虫が入りますよ」
「良いじゃない、入ったって。これで少しは静かになるんじゃないの?」
二人の更なる会話を聞いて、顔色がどんどん赤くなるクソギルドマスター。
いや~、痛快痛快。よくやったぞ、お前たち。
家に帰ったら、なぜか皆が喜ぶ頭ナデナデをしてやろう。
「ふ、ふん。これだから平民はダメなんだ。全く躾すらできていないとはな。良くわかった。お前たちも、今回の依頼を達成できなかった場合、冒険者資格を剥奪する」
一気にざわつくギルド内。
朝早いとはいえ、冒険者も早くから活動しているのでかなりの人数がこの場にいる。
そして、不安そうに二人とクソのやり取りを聞いていたのだ。
もちろん二人が超絶美人であるが故、二人の心配をして聞き耳をたてていた。
そして聞こえてきたクソの暴言。
「ふざけんなよ。いくらギルドマスターだからと言ってそんな横暴が通るか?だからおめーはゴブリンみてーに嫌われてんだよ!!」
「そうだ。ケツの穴の小せー野郎だ。」
流石は冒険者!下品な攻撃がクソギルトマスターに炸裂する。
「うるさい!それ以上暴言を吐くならばギルドへの反抗とみなして、お前らも冒険者資格を剥奪するぞ!」
明らかに越権ではあるが資格を剥奪されては生活ができなくなるため、怒りの表情のままおとなしくなる冒険者たち。
悔しい状況ではあるが、これは仕方がない。彼らにも支えなくてはいけない家族がいるのだから。
しかし、味方の応援がなくなっても彼女達には関係ない。
「あ、皆さんありがとうございます。でも全く問題ありませんから安心してください」
「そうです。今日私達が来たのは、なんだか煩い人が言っていた依頼未達成の相談ではなくて達成報告ですから」
そう言いつつ、きれいな鱗を俺の前のカウンターに置く。
攻撃して手に入れたものではないので、もちろん傷一つない最高級品質だ。
「「「「うお~、すげーぞ」」」」
冒険者達が一斉に沸き立つ。
一方のクソギルトマスターは、信じられないといった表情だ。
俺は、いつもの通り淡々と依頼達成の処理を始める。
「はい、ありがとうございます。確かに依頼の炎龍の鱗の納品を確認しました。品質は最上級。文句なしですね。依頼者がケチっているので報酬は少なめですが、ギルドの方から最上級品質のボーナスが出ます。今後もよろしくお願いします。お疲れ様でした」
チラッとケチな依頼者を横目で見るが、いまだ信じられないという表情から立ち直れていないクソギルドマスター。
「どういたしまして。こちらこそ、今後もよろしくお願いします。ジトロ副ギルドマスター補佐心得!」
「私もです。本当に誰よりもよろしくお願いします!!」
そんなクソなど一切眼中にないという様子で、嬉しそうに俺に話しかけてくる二人。
とりあえず、当座の問題は片付いたかな?
「フ、フハハハハ、どんな手を使ったかは分かりませんが、確かに炎龍の鱗ですね。良いでしょう。今回は依頼達成を認めましょう。ですが、次はもう少し厳格になりますよ。例えば、どこかで大金を払って入手した依頼品などは認めないといった形にします。次が楽しみですね」
なぜかこいつは、次の依頼も無条件でこの二人が受ける前提で話をしているのだ?
しかも冒険者の依頼未達成を望むようなこの物言い。非常に胸糞悪い。
今回の鱗に関しても、暗にどこかで購入したものだと言っている。どこからそんな自信満々な物言いができるのか、教えて貰いたいものだ。
しかし、当然二人はクソの言葉には一切反応しない。
「ジトロ副ギルドマスター補佐心得、私達とっても頑張ったので、ご褒美をいただけませんか?」
「そうです!そうです!!賛成です。そうしましょうよ?今日の夕飯で手を打ちますよ?」
まったく、仕方がないな。今回は大いに助けられたので、夕飯位行っても問題ないだろう。
と思ったのが大間違いだったと気が付いたのは、夕食が始まってからだ。
「ええ、わかりました。良いですよ。では、今日の業務が終わる夕方、またこちらまで来ていただけますか?」
「「はい!!」」
クソを完全に無視した状態で、スキップでもしそうな勢いでギルドを後にするあの二人。
クソギルドマスターは、ギリッと歯ぎしりをしながら、乱雑に鱗を手に取って自分の部屋に行ってしまった。
「「「ガハハハハ、ざまーみろ!!!」」」
この場にいる冒険者達も、今回の一連の流れを見て大喜びだ。
確実にこの場の声はクソに聞こえているだろうが、悔しさからか部屋から出て来ることはなかった。
そして、その日の夜。俺は二人にごちそうを奢る事になった。
うれしそうに、幸せそうに食べてくれるのはうれしいが、本来の俺の給料ではとても払いきれない程食べたのにはびっくりした。
普段、拠点ではそんなに食べている姿は見た事ないから、油断した。
その一瞬の油断が、俺の財布に衝撃的なダメージを与えたのだ。
そう、家を一歩出れば全て戦場と言う心意気で臨まなくてはいけなかったのだ。




