転生
新作を書かせて頂きました。
よろしくお願いします。
ここは、とある国家にある、誰もその存在を認知できていない広大な敷地の中にある巨大な屋敷。
その中で、こんなやり取りがなされている。
「No.0、バイチ帝国のヨハネス皇帝からの要請です。東からやって来る魔物の群れの対処を早急にして頂きたいとの事です。如何致しますか?」
「あ~、あの皇帝の依頼ならば仕方がないな。今は誰があいている?」
「あの国に最も近くにいて任務に就いていないのは、ナンバーズですとNo.4かNo.10、それと少々離れたところにアンノウンゼロのレイニーです」
「そうか。それならば、No.10に対処させてくれ。頼んだぞ」
こうして、バイチ帝国に突入しようとしている魔獣の群れに相対する事になったNo.10。
この群れ、実はバイチ帝国に対して逆恨みをしている者達が仕掛けたものではあるのだが、あまりにも暴走の規模が大きくなった為、仕掛けた者達の一部は既に魔獣の群れに飲まれている。
「クソ、まさかこれほどの大波になるとは思っていなかった。だがヨシュア、キード、タンバ、お前達のおかげで今度こそバイチ帝国に一矢報えるぞ」
この大波を発生させた者が、既に波に飲まれた仲間に告げるように呟く。
この男が言う通り、既に制御ができないほどの群れになっている魔獣の群れである大波。
どれ程屈強な防壁を誇ろうが、やがては粉々に砕かれるか、積み重なった魔獣の死骸によって防壁を乗り越えるかの二つに一つだろう。
この異常事態を感知したバイチ帝国側の人間も含めて、誰もがそう思っていた。
しかし、この男が魔獣の群れの最後方に位置している高台からバイチ帝国を見ていると、空中に突然小粒な覆面が現れた。
物理的に距離が開いているので小粒にしか見えないのだが、確かに人に見える。
そしてなぜか覆面をしているような……男の実力では、あまりに遠くて良く分からない。
この男は小粒に見える人のような者がどのようにして空中にいられるのか……と思っていたところ、突然目の前が光り輝き、思わず目を背けてしまった。
光が収まったと思い再びバイチ帝国側に視線を戻すと、あろうことかあれほど存在していた上に、制御不能にまでなっていた魔獣が一体もいなくなっていたのだ。
「何が起こった?魔獣はどうした?」
「私が全て排除しましたよ~」
背後から声がして振り返る男。そこには、やはり覆面をした者が存在した。
「あれほどの魔獣の群れを、お前が排除だと?笑わせ……」
この男は、最後まで言葉を告げる事無く意識を無くす。
もちろんNo.10による打撃で意識を刈り取られた。
「は~、せっかく温泉でゆっくりしていたのに、こんなにつまらない任務ですか~。でも、早く終わって良かったです~」
一国が全戦力を上げても甚大な被害が出ると予想していた大波を一人で瞬間に対処しただけではなく、その黒幕まで捕らえて見せたNo.10。
だが、彼女から発せられる言葉は、まるで道端の石ころを拾う程度の作業を行った程度にしか思えない。
国家でも対処できそうもない魔獣の襲来を、組織の一人で難なく対応できてしまうこの強さ……
この物語は、そんなNo.0が築き上げた組織、そしてその組織が暗躍する様を紡いだものである……
窓の外をボーっと見る。
いつもと変わり映えしない景色。
「は~い、検温の時間ですよ」
これもいつもと変わり映えしない日常。
俺、佐々岡 正義は、10歳。気が付いた頃にはこの病院に入院しており、院内の学校に通っている。
俺に兄弟はいない。
父さんと母さんは、忙しい仕事をしながらも必ず毎日俺のいるこの部屋に来てくれる。
はっきり言って、入院が長いと無気力になってくる。
だけど、ある日父さんが買ってきてくれた一冊の漫画を読んでから、無気力な俺にも目標ができた。
その漫画は……地球ではない、どこかの世界で主人公が生活し、魔力を使って魔物を倒す物語。
もし、もしもだ、そんな魔力があれば、今の俺でもすぐに全快するかもしれない。
そんな事は妄想だと頭では理解していたが、蜘蛛の糸よりも細い希望に縋って、魔力創造の鍛錬を始める事にした。
もちろんどうやって良いかもわからないし、魔力がどのような物だかもわからない。
漫画によれば、体に覆わせる事もできるようだ。
その為、体の表面に膜を覆うイメージを持つ修行をこの日から毎日欠かさず行う事にした。
その成果?かはわからないが、徐々に体は快方に向かい、小学校卒業後……中学校入学前には退院して、普段通りの生活をする事ができるようになっていた。
その時の両親の喜びよう……感謝してもしきれない。今まで心配かけてごめんなさい。
そして、長い間俺を診てくれていた先生、看護師の人達も自分の事のように喜んでくれていた。
本当に長い間お世話になりました。ありがとうございます。
こうして俺は普通の中学生として生活する事ができるようになったのだが、日課とは恐ろしい物で、魔力の修行は必ず行うようになっていた。
もちろん中学生ともなると現実が見えるので、恥ずかしいから誰にも言わずに……だ。
と同時に、体を鍛える事も始める事にした。
病院の先生からも何をしても全く問題ないとお墨付きを貰っていたので、両親にお願いして空手を習う事にした。
体を自由に動かせる喜びからか俺は空手に夢中になった結果、なんど中学三年になると、全国大会にまで行ける程の実力をつける事が出来た。
視認はできないが、密かに魔力の鍛錬のせいじゃないかと期待した俺がいるのは内緒だ。
そのおかげか、俺は中学で一気に有名人になったのだが……小学校時代の友人などいる訳もなく、小学時代は入院していたとは一切信じてもらえない程屈強になったこの体。
当然、妬みによる嫌がらせを陰で受ける事になった。
初めて知る人の悪意。
俺は、今までどれほど良い人達に囲われていたかを知る事になった。
奴らは堂々と嫌がらせはしてこない。
力ではかなわないと知っているからだ。
だが、入院時代の孤独、そして自由に動かせるこの体があれば、その程度は致命傷とはなり得なかったのだが……やはり少々心が痛んだ。
その癒しは、家に帰るとはちきれんばかりに尻尾を振って飛んで来る愛犬「ハチ」。
長い入院生活の癒しとして、両親がいつの間にか家族として迎え入れてくれた柴犬だ。
「お~、ハチ。今日も可愛いな~、よしよし、うりうり」
体中をわしゃわしゃしてやる。
こんな俺の日常。
それは、高校生になったある日、脆くも崩れ去った。
高校に入っても空手や魔力の修行を継続して行っていたある日の夜、喉が渇いたので両親を起こさないように忍び足で一階に降りて行く。
俺を確認したハチは、一瞬目を開くが、再び寝ていた。
一階に着くとリビングからは明かりが漏れていて、父さんと母さんの話し声が聞こえる。
「あなた、やっぱり人って醜いわね」
「ああ、まさかお前も同じタイミングで嫌がらせを受けていたとはな」
何やら怪しい雰囲気だ。
聞いちゃいけないと思いつつ、足はその場から動かない。
そして、その話の内の全貌がつかめると、喉を潤す事もせずに俺は二階に戻った。
その内容は、俺が中学時代で受けていた物と似ていた。
そう、俺の場合は空手の全国大会出場により出た人気に対する妬み。
両親の場合は、仕事が出来る事による妬み。
本当にくだらない。
結果を出すために行っていた努力、苦労については一切関知せず、ただひたすらに妬みの心だけを育てる。
両親も、俺と同じように能力をさらけ出し過ぎた事を後悔しているのかもしれない。
翌日、何となく気まずい空気になるのではないかと心配になりつつ一階に降りると、いつも通りの二人が暖かく迎えてくれた。
「お!おはよう。今日も良い顔色だな」
「おはよう、正義」
「おはよう、父さん、母さん」
俺は、長い間俺の為に必死に行動してくれていた両親には感謝しかない。
そして、今も俺に心配をかけないように、昨日の話等なかったかのようにしてくれている。
こんな大きな人に俺はなりたいと心に誓った。
「正義、この週末。ハチも連れて海にでも行かないか?」
「そうなのよ。昨日お父さんと話をして、少しのんびりするのも良いのかなって思ったの。どうかしら?」
父さんと母さんも、少し疲れているのだろうな。
だが、そんな素振りを見せずに誘ってくれている。
「もちろん行くよ。ハチも嬉しいと思うよ。な?ハチ??」
「ワン、ワン」
何だかわからないが嬉しい、と言うハチを見て癒される家族全員。
こうして、俺達は週末に全員で海に向かう事になった。
そして、その道中。
ある意味悪意に俺達は殺された。
そう、所謂無謀運転だ。
もちろん父さんは安全運転で海に向かっていたのだが、峠を走っている時に対向車が無理な追い越しをかけて、それを避けるために……崖下に転落した。
入院……その状況になった時、どのような事を思うのだろうか、と考えるきっかけがあり、この作品を書いてみました。
よろしくお願いします。