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たとえここが敵しかいない世界だとしても  作者: 勇者王ああああ
クローン、大地に降り立つ
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第六話 狩りの概念とは?




 そしてそのまま歩くこと数十分、彼らは先程まで蜘蛛の魔物が取り囲んでいた地点に再び顔を出していた。少し日は傾き始め、風の香りが先程までと少し異なっているのがシローは感じた。

 そこは破損した馬車と、あの大きなハンマーを持った兵士が暴れたであろう痕跡は残っていたが、蜘蛛が吐いていた糸は全く残っていなかった。


「……なぜあの糸がない?」

『蜘蛛は自らが吐いた糸は回収し、再利用するという性質がある』

「なるほど……」

「……貴方達、襲われていた私たちを見ていたのですか?」


 シロー達が些細な疑問を解決していると、訝しげな視線をキャスリンがシロー達に送る。その質問にシローは小さく頷いた。


「あぁ。だがなるべく俺たちは現地紛争に参加することは避けなければならなかった。お前を助けることもなるべくしたくなかったのが本音だ」

「……現地、紛争?」


 と、その言葉に首を傾げたのは他でもないキャスリンだった。彼女からすれば、シローが言っている事は意味不明だ。なぜならあれは一方的な捕食の場だったからだ。


「あぁ」

「……貴方にはあれが紛争に見えたのですか!?」

「あ、あぁ。敵は優秀な指揮官を有していた。その証拠に伏兵が敗走したお前達の部隊を……」


 信じられないものを見るかのように、キャスリンは大きなため息をついた。

 あろうことかこの金髪の男は目を輝かせながら一角獣のことを『伏兵』と呼んでいるのだ。一角獣とは孤高な魔物。あれを使役するなんて例え吸血鬼でも無理だろう、と、思いながらキャスリンは半ば呆れつつも口を開いた。


「いいですかシロー。私たちがここで襲われていたのは『魔物』です。魔物にはそんな指揮系統なんて存在しません」

「……? 何を言っている? お前達は現にその軍隊に襲われて、、、」

「軍って……」

『敵の部隊は卿を確保するために行軍していたと推定される』

「そんなわけないでしょう……。魔物からすればただの狩りですよ」

「狩り……?」

『狩りとは恐らく作戦行動の性質を表す表現と推測する。つまり敵軍はキャスリン・アーデの部隊を索敵網を駆使して狩り出していたのだろう』

「なるほど……」

「違いますよ!? ただの食料を確保するという意味の狩りです! あの魔物達がそんな賢い頭脳を持っていたら我々なんてすぐ殺されていますよ……」


 キャスリンは馬車へと向かいながら言った。が、シローはその概念をほとんど理解する事が出来なかった。理屈としては知っているが、食料を確保するために他人を襲うという方法があまり実感が沸かないのだ。

 そしてそんなシローを無視して、キャスリンは破損した馬車に飛び乗り荷物を漁る。この馬車を引いていたであろう生物の姿はどこにもない。

 暫くすると大きめの白い鞄を背中に背負いながら、キャスリンは馬車から降りてきた。


「持てるだけの携行品を持ちました。たぶん『エルフの森』に着くまでなら三人分はギリギリなんとかなると思います」

「三人分?」

「えぇ。私とシローとトゥーマイです」

『当機は機械だ。食料は必要ない。残存エネルギーもあと43%だ。まだ補給は必要ない』

「……魔法生物といっても魔力媒体にする食物は必要でしょう?」

『当機は生物ではない。食料は必要ない』


 困った表情をしながらキャスリンはシローを見つめる。するとシローはそれに答えるようにしっかりと頷いた。


「あぁ。こいつに食料は必要ない」

「わ、わかりました……。二人なら十分足りると思います」


 困惑ぎみにキャスリンは頷いたが、その混乱は無理もない物だ。彼女の常識には、食事を取らない生物はいないのだから。



『警告! 索敵範囲内に別生命体を検知!』

「なに!?」


 突然、トゥーマイはそう言った。胸元の青かった光は警戒色の赤色に変わり、そのまま切り開かれるような亀裂が走る。


『A-4685はPASの着用を推奨。その生物はこちらに向かっている』

「了解だ。来い、トゥーマイ!」


 シローがそう叫ぶと、トゥーマイはまるで吸い付くようにシローの背中に飛び付いた。そして切り開いた箇所からシローを包み込み、一瞬のうちにPASの本来の姿に戻る。まるで戦闘が可能な事を表すかのように、PASの瞳が鈍く輝く。


 まるでおとぎ話に表れる魔神のようだ。と、その様子を近くで見つめていたキャスリンは思った。


「て、敵が来たってどうしてわかるんですか?」

『当機の音響センサーが巨大な足音を捉えた。伝わってくる地震動から推測して、敵はかなり巨大と推測される。注意されたし』

「あぁ。その生物はこちらへ向かってきているのか?」

『肯定する。二足歩行で驚異のスピードでこちらへ走っている』


 二足歩行、つまりは人型だ。

 人型という事は高い知能を持っている可能性があり、ひょっとすると新たに情報提供が可能な生き物が近づいてきているのではないかとシローは少し胸を躍らせた。


『現地生命体依然として接近中。戦闘方式を問う』

「これまでと一緒だ。なるべく紛争行為は避けたい。こちらからの攻撃はしない」

『任務受任』


 すると、ドタドタという生物が走る音と振動が、シローとキャスリンの耳にも届いてきた。走る音がここまで聞こえるという事は、それほどに巨大な生物だと言うことだ。彼はいつ襲われても平気なように、少し姿勢を落とした。



読んでくれてありがとうございます!

とりあえずなるべく夜に更新するように心がけます! 

寝る前にでも読んで頂けると嬉しいです。

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