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たとえここが敵しかいない世界だとしても  作者: 勇者王ああああ
クローン、エルフと交流する
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第二十七話 今後について


 それは何度見ても圧巻の雰囲気だった。

 大きな広場に佇む巨木。そしてその回りを舞うきらびやかな妖精達。複数のエルフの老兵がその横で鎮座し、シローの動向を逐一観察している。


 彼はその景色に再び気圧されながらもアスハの横に立ち、神樹の言葉を待つ。


『おっほっほ。大変待たせてすまなんだ。異国の兵士よ』


 覚悟はしていたが、脳内に直接響くその言葉を聞くと、彼は体が強張るのを感じた。


「いや、こちらこそ無理を言ってすまない。心遣い、感謝する」


 そう言うと彼は事前にアスハに習っていた、エルフ流の敬礼のポーズを取るため、額に拳を当て、片膝をついて祈りを捧げる。


『ほっほっほ。なかなか様になっておるのぉ。それで? このワシに何を聞きたいんじゃ? 若き兵士よ』


 神樹ハクはその枝を揺らせて、上機嫌でシローの言葉を待つ。それは慈愛に溢れているような声音で、シローを除く他の生物はその声に聞き入っていた。


「……俺は『帝国』に帰還したい。何か手立てについて心当たりはあるか?」


 彼は何の前触れもなく本題に入った。無論、多少の前置きはした方がいいのだろうが、何故か彼は目の前の偉大な樹木ならば全てをわかっているのではないかと思い、そう質問した。

 そしてシローのその言葉遣いに数人不愉快な感情を示したが、彼らはそれを口に出すことはせず、神樹の言葉を待っている。

 巨木はその言葉を聴いて、しばらく黙ったままーーもとより声を発してはいないがーーゆらゆらと枝を揺らせた。


『ふむ……。それは物理的な手段のみか?』

「……どういうことだ? 帰還できるのならば手段は問わないが……」

『ならば、あることはある……』

「何!? 本当か?」

『この世界には『召喚魔法』という魔法が存在している』

「召喚魔法?」


 聞き慣れない単語にシローは思わず聞き返した。脳内に声が直接響いているのだ。聞き逃すことなど有り得ないのだが、それでも彼は聞き間違いではないかと思った。


『あぁ。わしも詳しいことは知らんがの。別次元から悪魔を呼び出す魔法がこの世にはあると聞いたことがある。呼び出せるということは逆に送り出すこともできるということ。その魔法を上手く使えば、お主が望む地にもたどり着けるかも知れないのぉ』

「……召喚魔法。また魔法、か」

『そのお主の言う『帝国』とやらについては永らく生きているワシだが生まれてこの方聞いたことがない。おそらく『アリス』の地ではないのじゃろう?』

「あぁ」

『ならばワシにできる助言はそれだけじゃ』


 と、神樹は言った。それは淡々とただ事実を言っているように見えて、そこに偽りは存在していない。

 この世界に来たばかりのシローならば、『召喚魔法』など馬鹿馬鹿しいと一蹴しただろうが、流石にここで彼の常識が通用しないことはもう明らかである。

 そしてシローは深く考え込むように視線を落した。


「忠告感謝する。その『召喚魔法』とやらの情報はどこで手には入る?」

『エメラダじゃ』

「……? それは人名か?」


 何の気なしに神樹にそう聞き返したシローだが、その名前を聴いて、横にいるアスハが動揺していた。そしてそれに気が付いたシローは不思議そうにアスハに尋ねる。


「どうした? 心当たりがあるのか?」

「心当たりがあるもなにも、エメラダ・ユリンは私の祖父よ……」

「祖父……」


 祖父どころか、親すらいないシローにとってはその単語はあまり聞き慣れないものであるため、アスハのその反応の意味が理解できなかった。が、彼はそれに気にした様子もなく言葉を続ける。


「そのエメラダはどこにいる? この森にいるのか?」

「……ここにはいない。まだ生きているなら『リリーナ』近くの洞穴に馬鹿みたいに結界を張ってるはずよ」

「……?」


 まるで厄介な者を思い出すかのように、アスハは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。が、中途半端に情報を渡されたシローにとってはむず痒くて堪らない。彼は焦ったようにアスハへと問いただす。


「どこにいけば会える? その結界、とはなんだ?」


 『リリーナ』は彼は何度か聞き覚えがあった。そこは彼の記憶が正しければ、キャスリンが護送されるはずだった場所のことだ。


『ほっほっほ。まぁ待ちなさい。場所を知った所でエメラダはお主には会ってくれんじゃろう。あれは中々に偏屈な爺じゃ』

「ならばどうすればいい? 俺には何ができる?」

『……ふむ。では取引をしようではないか。『帝国』の兵士よ』

「……?」


 取引、という単語にシローは身構えたが、側にいたエルフの重役達も困ったように顔を見合わせた。


「なんだ?」

『お主も既に知っているとは思うが、我々はキャスリン・アーデを『リリーナ』まで護送しなければならない。もちろん彼女を一人でエルフの森の外を歩かせる訳にはいかん。そこで我々は護衛をつける決心をしたのじゃ』

「それと俺と何の関係がある」

『……じゃがわしらとて、エルフの森の外は危険な場所。なるべく出たくないというのが本音じゃ』

「……」

『そこで提案じゃ。……お主もその護衛部隊に参加してはくれんかのぉ?』

「……」


 と、神樹は言った。

 シローは真剣な視線を目の前の巨木へと向け、その言葉の続きを待つ。


「具体的な任務と対価は?」

『任務はキャスリンとエルフの護衛部隊のリリーナまでの護送じゃ。それが完了した後は対価として、そのエルフによりエメラダとの会談を約束しよう』


 シローは考え込むように視線を泳がせた。だがその提案はシローにとって願ってもないものに思えた。

 彼はこの混沌とした状況の中、誰かからの明確な『指示』を無意識に欲していた。そんな中、神々しさすらあるエルフの神樹から直々に今後の指針を示されたのだ。彼はその提案に飛び付こうかと一瞬思ったが自分を律し、襟を正して顔を上げた。


「……提案はわかった。トゥーマイと相談の後、結論を出したいと思う」

『ほぅ。時間は?』

「明日中には結論を出す」

『いいじゃろう。だがキャスリンにもそこまで大きな時間的余裕があるわけではないことは頭に置いておいてほしい』

「……わかった」


 彼はそこまで言うと、もう十分だと言わんばかりに軽くアスハに対して目くばせをした。だがアスハは何か思いつめたような表情で足元を見つめている。シローはその彼女の様子に気が付いて、声をかけた。


「どうした?」

「いや……その……」


 彼女のその容量の得ない返事に対して彼は首を傾げた。だがシローを気ている余裕のない彼女は、躊躇いがちに口を開いた。


「し、神樹様! お願いがあります」

『……? どうしたアスハよ?』


 アスハの突然の懇願に、周りを囲んでいたエルフ達も驚いたように彼女を見つめた。だが神樹は特に驚いた様子もなく、アスハの言葉を待つ。


「その……、今度はあたしがキャスリンの護衛部隊に志願することは可能でしょうか……?」

『ふむ……』 


 それは彼女が以前からずっと考えていた事だった。

 以前はキャスリンが大切だからこそ、キャスリンの決意を大事にしたいからこそ、アスハはキャスリンを見送った。

 だがその結果はどうだ。キャスリンは魔物に襲われ、運良くシローに出会わなければ死んでいたのだ。その事実はアスハの心を締め付けていたからこそ、次こそはアスハはキャスリンに着いて行くと決めていた。例えそれは神樹様に反対されても、エルフの皆に反対されても着いて行きたいと考えている程だった。


 たとえその結果、死ぬことになったとしても構わないとさえ彼女は思っていた。


 その彼女の決意を知っているのか知っていないのか。神樹は少し悩んだように枝葉を揺らす。


『ふむ……。そなたは若くエルフの森でも指折りの猛者じゃ。なるべく森外へ出したくないのがわしの願いじゃ』

「……そんな」


 だが非情にも、エルフの長はそう言った。常識的に考えればその判断は当然と言えた。わざわざ将来を担う若きエルフを死地へと送るわけには行かない。

 だがそんな心情をアスハが理解できようはずもなく、彼女は失意のまま顔を落とす。


 しかしそんなアスハを見て、神樹は呟くように言葉を漏らした。


『じゃが……エメラダとの会談を実現させるにはお主が最も適任とも思うておる』

「……?」

『さ。話はここまでじゃ。後はお主が考えなされ』

「ど、どういうことですか……?」


 と、多少強引に話を打ち切ると、彼はそれ以上話をする気はないようで、まるでただの巨木のようにその場で静かに風に揺られている。

 アスハは困惑した表情を隠せないまま、神樹が言ったことを彼女の中で繰り返していた。


「おじいの所へ行くにはあたしが……適任?」


 そしてアスハは何かに気が付いたようにシローの方を見る。まるで懇願するようなその視線を受けて彼は思わずたじろいだ。


「な、なんだ……?」

「シロー、わかるでしょ?」

「……何がだ?」

「お願い。神樹様の提案を受けて。あたしと共に、キャスと共に来て……!」


 必死な顔でアスハはそう言った。





読んでくれてありがとうございます!

くそう。今アスハの過去編を書いてて少し進捗が悪いです。

てか思ったより過去編が長くなって困ってます。1万字超えちまったよ。。。

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