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たとえここが敵しかいない世界だとしても  作者: 勇者王ああああ
クローン、エルフと交流する
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第十七話 襲来


 シローは武器を携えた目付きの悪いエルフに囲まれている。

 このような状況に陥った経験がないシローだったが、彼は本能的に危険が迫っていることを感じていた。

 シローは言葉を慎重に選びながら、彼らに対して返答する。


「俺はこの世界の情報を収集するために来た。敵対する意思はない」

「嘘を付くな! 俺たちの里を攻撃するつもりだろ!」

「そんなつもりはない」


 至極冷静なシローに対して怒ったようにエルフ達は声を上げる。彼らは手に持った武器を掲げ、今にも攻撃してきそうなほど興奮しているのが手に取るようにわかった。

 厄介なことになったな、とシローは思った。

 キャスリンの口ぶりではエルフとは知的な種族。いくら差別的な偏見を持っていたとしてもこのように暴力的な手段を持って排他してくるとは彼は夢にも思わなかったのだ。


「ねぇ、帰ろ? この人たち怖いし、あたしキャスに会いたいの」

「こいつらが帰してくれるかだがな」


 目の前の暴漢達はまるで目に入らないようにサンゴは言った。

 だがサンゴのその呟きはそのグループに聞こえていたようで、一人のエルフが怒ったように近付いてくる。


「そんなに怖いならさっさと帰らせてやるよ」

「やめっ……」


 次の瞬間、目の前でシローと体格差がほとんどないエルフが目を怒らせながら突然サンゴに掴みかかった。

 シローは咄嗟のことに驚いたように身構えたが、それよりも早くサンゴに掴みかかったエルフは、次の瞬間空中を舞っていた。

 一瞬、シローには何が起こったのかわからなかった。彼がまばたきをしている間にエルフは空中を投げ飛ばされ、そして今地面に叩きつけられた。


「がはっ……」

「やめてなの」

「ぐっ……」


 サンゴがその男を地面に叩きつけ、あっという間に組伏せていた。

 シローは忘れかけていたが、サンゴは連合軍の兵士なのだ。暴漢のあしらい方くらい心得ていて当然だ。最も、普段ひ弱そうにオドオドしている彼女を見ているとその事実を忘れてしまいがちになるが。


「てめぇ! ガリーを離しやがれ!」


 別のエルフがサンゴに怒鳴り付ける。が、今彼女はガリーと呼ばれたエルフのマウントを取り、首もとを抑えつけている状態だ。迂闊に動けば何か彼が酷いことをされると思ったのか、強く動くことができないようだ。


「やめろ。連合の狗。俺達は敵対する意思はないと言っているんだ」

「……でも、そっちが襲ってきた。正当防衛なの」


 シローは冷たい目でサンゴを見据え、そう言い放った。彼女の言い分は正しいとシローも心の中では思っているが、自分達は駐留を許可されている異国の兵士なのだ。なるべく穏便に済まさなくてはならない。

 シローはサンゴの手首を掴み、彼の近くに引っ張る。


「いいから離せ。……エルフよ。すまなかった。こちらに敵意はない」

「……むー。わかったの」


 しぶしぶといった様子でサンゴは拘束を解き、立ち上がる。そしてそそくさとシローの後ろに回り、じっとエルフ達を睨み付ける。


「何度も言うがこちらに敵意はない。何に怒っているのか知らないが、できれば見逃してくれないか」

「てめぇ。いけしゃあしゃあと……」


 倒れていたエルフは強打した背中を痛そうに擦りながら起き上がる。その目の奥には僅かな恐怖心が揺らいでいることをシローは見逃さなかった。

 いくらシローとサンゴが戦闘の達人だと言っても、今のように武器を持った複数人に囲まれては勝つことが難しい。しかしあのように既に戦意を失いつつあるならば、相手の敵意を挫くことは意外と簡単にできる。


「俺とこいつは軍人だ。ここで戦えば双方無事では済まないだろう。理性的な判断を求める」

「……ちっ」

「どうする……?」


 シローにまっすぐ見つめられ、今彼と対峙しているエルフは困ったように目を反らした。そして、戸惑いを隠しながら威勢よく口を開く。


「い、いいか! ここで余計な動きをしたらぶっ殺す!」

「……あぁ」

「俺達はお前達を見張っている。変な動きをすれば、ぶち殺してやる」

「肝に命じておく」


 憎々しげな視線をシローへと向け、吐き捨てるようにそう言い放った。そして回りの仲間に対して一言かけたあと、首を動かして合図をかける。


「行くぞ。こいつらの相手をしてると臆病者が移る」

「……」


 シローとサンゴはなにも言わずに去っていくエルフ達を見つめている。


 取り敢えず荒波を立てることなく、この場を収めることができたか、とシローはほっと胸を撫で下ろしていたのも束の間。突然、立ち去ろうとするエルフとシロー達の間に黒い布のようなものが勢いよく落ちてきた。


 それは柔らかな音を立てて着地し、そしてのそりと起き上がった。


「……? なんだこれは?」


 それは黒いぼろ切れのようなマントを被った人間の様に見えた。どこを見ているのか、ゆらりふらりとその場で立ちすくんでいる。エルフ達はその黒い物体に気付いた様子はなく、シローから離れていっているが、そんな彼らに対して声をかけるべきかシローは悩んでいた。


「チ……チ……チ……」


 と、その黒い物体から不思議な声が聞こえてくる。誰かに語りかけるようにも独り言のようにも聞こえるそれは、シローに得たいの知れない恐怖心を浮き上がらせる。


「ねえ、何これ? 変な感じがするの」

「わからない。だがそれには同感だ。刺激しないようにゆっくりと離れよう」


 が、シローが無意識に後ずさった瞬間、その黒い物体はエルフの集団に向かって飛んだ。

 それは矢のようなスピードで一人のエルフに飛びつき、そしてそのまま後ろに引き倒す。驚いたように倒されるエルフだったが、まだ自分に何が起こったのか理解していないようだった。

 が、自分の上に乗った黒い物体を見ると、何かを理解したのかみるみるうちにその顔を恐怖で歪ませた。


「う、うわあああああ!! た、助けてくれ!!!」

「チチチチ、血。血」

「や、やめっ……!」


 すると次の瞬間、その黒い物体はエルフの首筋に噛みついた。

 噛みつかれたエルフはその拘束から抜け出そうと必死になって暴れているが、まるで大岩を押しているかのようで微塵も動かすことができない。

 そしてあっという間にその体からは血の気が失われていき、元々色白だった肌は青く変わっていく。それにともないそのエルフの抵抗も弱くなり、力が抜けたようにだらんと腕が落ちた。


「な、なんだあれは……」

「け、眷族だぁぁあああ!! た、助けてくれえええ!!」


 エルフの仲間達は恐怖の表情を浮かべ、瞬く間に逃げ出していく。蜘蛛の子を散らすようなそれは、完全に捕食者と被捕食者の関係を表しているようだった。


「……俺たちも行くぞ」

「う、うん」


 吸血に夢中になっている『眷族』だが、いつシロー達に襲いかかっても不思議はない。今彼は近くにPASがないのだ。その戦闘力は多少強いと言っても他の人間と遜色はなく、襲われたら助かる見込みはない。


 そして彼らはエルフが逃げていった方向に向かって走り出した。彼らの後ろは森でそちらに逃げることはできないため、必然的に眷族の横を通りすぎるより他にない。

 シローは敵がこちらに注意を向けないように祈りながら、なるべく早くその横を過ぎ去っていく。

 が、彼らがその横を通った瞬間、その捕食者は突然顔をあげ、シロー達をその視界に捉えた。


 それは変色したエルフだった。目は明るい黄色に変わり、瞳はまるで猫のように細長くなっている。また絹のように白いエルフとは異なり、浅黒いの肌をしているが、エルフの特徴である尖った耳はこの眷族も持っていた。


 シローは蛇に睨まれた蛙のようにその場に硬直してしまう。サンゴは怯えたようにシローの後ろに隠れていた。


 するとゆっくりとその眷族は体を起こし、シローを真っ直ぐに見つめてくる。その口回りはベットリと血糊がついていて、名残惜しそうにその血痕を舐め取った。


「こ、こちらに戦闘の意思はない……」

「……ニンゲン?」


 その眷族は猟奇的な瞳をシローに向け、首を傾げながら尋ねる。シローはその問いに対して首を振った。


「ち、違う。俺は人間では……」

「……チ!!」


 その返答に意味があったのかなかったのか、彼、もしくは彼女はシローの答えを聞かずに飛びかかってきた。

 常人なら即座に組伏せられ、先程のエルフと同じ運命を辿っていただろうが、シローはそこまで甘くはない。

 彼は飛びかかってきた勢いを利用して、そのまま敵を地面に叩きつけた。そして流れるようにその片腕を取り、彼の膝で眷族の背中を押さえつける。


「うう……!」

「だ、大丈夫なの……?」

「お前は下がっていろ! 俺はこのままこいつをエルフに引き渡す!」

「イタイ、イタイ」


 心配そうに見つめるサンゴを制すと、シローは押さえつける力を強めた。常人ならば体を全く動かすことのできない姿勢だが、この世界で常識は通用しない。彼はそれを理解して全く油断をしなかった。

 だが、油断どうこうでどうにかできる身体能力の差ではなかった。


「ハナシテ。ハナシテ」

「……なっ!」


 全体重をかけているにも関わらず、その眷族は左腕一本のみで体を起こし始めていた。シローも限界まで締め上げているが、その浮き上がりつつある体を止めることはできなかった。


 そして眷族は片膝をつき、ゆっくり起き上がると、まとわりついるシローを腕を振る要領で放り投げた。


「バカな……!」


 彼はそのまま放物線を描いて飛んでいき、木でできた家の二階まで飛ばされた。地面に叩きつけられなかったのは不幸中の幸いだが、安心する余裕は一切ない。

 彼は即座に体を起こし、敵を探す。が、既に眼下にはその姿はなかった。


「ニンゲン? コロス?」

「っ!?」


 それは彼の真横から聞こえてきた。シローは即座に反応してその場から離れようと足に力を入れたが、それよりも早くその眷族の細い腕が彼の首筋を掴んだ。


「ぐっ……、かはっ! は、離せ……!」

「ニンゲン? オイシイ? イスラサマ、イッテた?」


 良質な筋肉が詰まった80kgにも届かんとするシローの肉体を、その眷族は片腕で軽々と持ち上げた。シローもその拘束を解こうと四苦八苦しているが、それは彼が持つ小手先の技術でどうにかできるものではなく、ただただ彼の体力を消耗するだけのものだった。


 そしてその吸血鬼は狂喜をはらんだ笑顔を浮かべながら大きく口を開いた。鋭い牙が目立つその口は先程のエルフの血で汚れていた。


「やめっ……」


 『死』の恐怖、を感じたシローだった。


 が、その瞬間が彼に訪れることはなかった。


「アスエダ……哀れな」


 木の幹のように太い腕が、その眷族の首筋を掴んでいた。

 シローの首を掴んでいた手は新たに現れた脅威に対抗するため、シローを乱雑に投げ捨てた。シローは顔をあげ、状況を確認する。


「お、お前は!」

「ちっ。生き残っていたのかクソ人間。邪魔だから下がってろ」


 それはエルフの戦士、グラナダだった。

 グラナダはその眷族の首を掴み、そして悲しそうな表情を向けている。シローには一瞥もくれず何か白いオーラをその身に纏い、そして大きな雄叫びを上げた。


「うおおおおおらあああ!」


 そしてそのまま手で掴んでいた敵を地面に向かって叩きつける。眷族が地面に達すると同時に地を揺るがすような振動と大きな土煙が巻き起こった。

 シローはその人間離れした荒業に驚きながらも、冷静に逃走のためのルートを探し始める。

 そして追撃のために降りていったグラナダとは反対方向にシローは降り、心配そうな顔をしたサンゴと合流し、なんの迷いもなくその場から離れていったのだった。




読んでくれてありがとうございます

サブタイトルが変わったりしてますが、あまり気にしないでください。

少しでも読者が増えるといいなぁという底辺作家の無駄な努力です笑

今日も読了感謝です。これからもよろしくお願いします。

あとすいませんがこの土日は更新休みます。次は月曜更新します!

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