ミセリアと花屋敷
前話の続きです。
どれくらいの間歩いていただろう。姉の髪飾りを拾った場所から相当遠くまで進んでいた。そしてふと空を見上げると茜色の美しい夕焼けが出ていて、ここまで歩いているうちに夕暮れ時になってしまっていた。
「やっぱりこっちの道は先が無いのかな…もう暗くなり始めてるけど、お姉ちゃんは見つからないしこのままこの道を歩き続けるのも暗くなったら怖いし…」
そうこうして引き返そうとした時だった。うっすらと奥に建物らしき影とその建物から灯りが見えたのだ。しかしその建物は遠くからでも分かる程異様な空気を漂わせていて、いかにも危険極まりない場所だと思わせるような雰囲気であったが、それよりもこんな深い森の中で奇跡的に人工物を見つけて、もしかすると誰かいるかもしれないという希望と若干の安心感が私の思考のほとんどを埋め尽くし、危険性など全く頭に入っていなかった。
「もうすぐ暗くなっちゃうからその前にあの建物に辿り着かなきゃ! もしかしたらお姉ちゃんも帰れなくなって泊めて貰ってるのかもしれないし!」
その時の私は珍しく前向きな思考でとても都合よく物事を考えていた。期待に胸を膨らませながら早足で歩いた。
「うわぁ…、大きいなぁ…。」
その建物は近くで見ると大変立派な屋敷のようで、ある程度広い外庭があり、白く塗装された木製の手すりが取り付けられた、石造りの低い段差が六段ある階段があり、その奥に屋敷の玄関の扉があった。
この屋敷の庭には青く細長い花びらが四方向に開かれるように咲いたフレーレの花畑と、もう一種類、紫色の大きめの4枚の花びらと、白くふわふわした円形の土台から白い雌蕊を黄色い雄蕊が4方向から囲うように配置されていて、ギザギザした葉と鋭い棘を無数に生やした頑丈な蔦が特徴の、 ミセリア という花の花畑がある。
「この花、私の名前とお揃いだけどこの花トゲに毒があるってお姉ちゃんが言ってた…本当にあるのかなぁ?」
気になってはいるものの、私にそれを試すような度胸はない。それに、もし本当に毒があったなら大変なことになる。
この花の毒はとても強力のようで、棘に染み付いた毒液はとても危険な致死性の毒らしい。 針が刺さった場所から染み込みやすい毒液が入り込み、血管を伝って全身に毒が回ってしまったら手遅れになると言われている。
街の人々はこの花をとても危険視しているため、この花を見つけると、直ぐに駆除しようとするそうだ。
しかしその反面とても美しい花でもある。
「花畑を見てるうちにもうだいぶ暗くなっちゃった…早くこのお屋敷に入らないと…。」
そう思った私は、少し急ぎ気味で玄関まで行た時だった。
固く閉ざされていたような屋敷の入口のドアが私を誘うかのようにひとりでに開いたのだ…
次話は姉、フレーレ 編です。
主人公ミセリアの容姿や屋敷について、また姉がなぜ家を出たのかが分かります。