その0、前夜
受験勉強に挫折しかけてる馬鹿の余興。
ずっと書きたかった悪役令嬢モノを満足のいく形で仕上げることが出来ました。
そこに在るのは狂人だった。
遠目で見ればわからない。しかし、同じ部屋にいればその人物が狂っていることを嫌でも理解することができるだろう。いつになく上機嫌な笑い声はその相貌からは想像もつかないほど品がないものであり、この部屋に別人が誰か潜んでいるのではないかと勘ぐられもおかしくはない。
だが、狂人と常日頃から触れている者たちにとっては、また何かあったのだろうか、という程度の認識しか覚えない。良くも悪くも慣れてしまっていたのだ。
「ふひひ、くはは、かふふふふふふ……」
不気味に、しかしとても嬉しそうに零すその声を上げる女は、部屋の中央で座り込んでいた。
部屋は白地の壁や白の床、窓の近くに置かれた白の花瓶に白いシーツと白の羽毛布団が敷かれた白い天幕付きの寝台、それに備えつけられておいてある鏡台があるだけの色の無い部屋で、部屋に彩りを与えているのは花瓶に差された一輪の赤薔薇と外からの光、そして深紅のドレスを身に纏ったこの部屋の主のみ。
さんざん笑って落ちついたのか、女はふっと表情を消した。無感情の瞳はとてもじゃないが直視はできるようなものではなく、無表情なままだとその風貌は冷血な魔女と見紛うほどに見るものを震え上がらせる。
何事もなかったかのように狂人は立ち上がり、鏡の前で自分の姿を検める。
そこにはいつもより覇気の無い、しかし光だけは衰えない新緑を詰め込んだかのような瞳が半開きの目で女を見つめ返しており、侍女によって整えられた黒髪は夜会用のサイドテールに綺麗にまとまっていた。前髪も真っ直ぐに切り揃えられており、髪の一本たりとも彼女の瞳を傷つける心配はない。
それを見て手を入れる必要はないと判断したのだろう。彼女は鏡台の上から二つ目の引き出しを開けて紅の宝石が枠に嵌まっているだけのシンプルなブローチを取り出し、自身の右に拵えられているサイドテールの結び目にそれを慣れた手つきで取りつけた。
一つだけ懸念があるとすれば目の下の隈だが、化粧をして消せる生易しいものではなかったが、もう一度だけ鏡台の一番上の引き出しを開けてどうにかできないか試みる。しかしすぐに不可能を悟り、諦めたかのように道具を引き出しに仕舞い込んだ。
それを終えると狂人はニッと高角を上げ、悪事の企みをしているかのような笑みを浮かべる。それは年頃の貴族令嬢としては見られてはいけない表情ではあるのだが、彼女がそれを自室以外で見せることはほとんどない。
すぐに余所向けの笑みを張りつけた狂人は部屋を出て、そのまま家族の誰に挨拶するでもなく侍女を連れて屋敷を出た。
これは愛に興じ、狂じ、誰にも正しく解されなかった一人の狂人の物騙。
彼女を悪女と罵ることなかれ。その女性を愚者と侮ることなかれ。全てを識る者は彼女を除いてただの一人もなく、彼女はただ自身の役を果たしただけなのだから。
誤字脱字は病気レベルなので教えていただけると嬉しいです。寝ぼけてるので日本語おかしいところもあるかも。
あとあらすじとキーワードにも書きましたが完全なバッドエンドです。救いなんて一切無いのであしからず