鉢植え
よろしくお願いします。
私が彼にあったのは夏だった。
彼は、病気だった。どんどん弱っていく病気。
私はそれでも良かった。優しい彼の事が好きだった。
世界は変わった。大気汚染とか環境破壊によって。
戦争も何度も起こったし、核兵器は数え切れないほど落ちた。
それでも世界は生き残った。後遺症を残して。
瓦礫の中に、その施設はある。病院だ。
私は今日も花束を持って彼の元へ行く。
彼は、笑って出迎えてくれた。よく来たねと。
「調子はどう?」
「今日は絶好調だよ」
「花を持ってきたよ」
「わぁ! ありがとう! 」
私は造花の花束を渡した。
「外はどう?」
「何も変わってないよ」
「......そう」
窓の外には、何も無い。いや、瓦礫がある。
今日は珍しく天気が良い。嫌な事全てが忘れられそうなくらい。
出会ったばかりの頃の彼は、元気だった。
かろうじて生き残ったこの世界に希望を持っていた。
世界は残酷だ。こいつは唯一、己を見捨てなかった彼を傷つけた。
血色の良かった肌は、青白くなって行く。
ゆっくりゆっくり衰弱して行く。
手が痙攣するようになった。
足が動かなくなった。
匂いが分からなくなった。
食欲が無くなった。
彼は震える手で、ベッドの隣にある鉢植えに水をやる。
「それ、まだやってるの?」
「うん」
彼は花を育てている。何を植えたのかは分からない。
「早く咲かないかな」
植えてから一年、まだ芽は出ない。
お読み頂きありがとうございました。