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第7話 微妙な死亡理由

「それでは知ってください。この世界とはなんなのか、どうしてこんなことが起きたのかを」



記憶開封(メモリー・リジューム)



 この世界で初めて体験した魔法は、温かく、優しい、まるで母親に抱えられているかのように安心するものだった。


 鍵が掛かったように、思い出すことのできなかった、この世界に来る前の記憶がうっすらと少しずつ思い出される。




  そうだ。僕はあの時───


 



───────────────────────

 僕の名前は須々木 康太(すすき こうた)

 どこにでもいるちょっと妄想癖の激しい男子高校生だ。

 

 あれは高2の夏休み、念願叶って好意を寄せていた女の子と近所のお祭りにいったときのことだった。


 

 なんやかんやあって、祭りももう終盤に近づいていた頃、ちらほらと帰っていく人たちが見受けられるようになったとき、その事件は起きた。


 それは唐突だった。

 



「あぁぁ~~ああぁ!!!」



 突然発狂した男はその手にナイフを添え、まっすぐに女の子に向かう。

 その子は紛れもない僕の連れの子だった。


 彼女は金縛りにかかったようにその場を動けずにいる。

 僕も動けなかった。でも、彼女が襲われると思ったら勝手に体が動いた。


 出だしが遅れた分、僕の手は彼女に届くかどうかのギリギリのライン。

 

 僕は走った。

 全力で。

 

 後にある人は言った。



「あの時の彼の動きは、さながらチーターのよう。素晴らかった。これで彼も······」



 とにかく全力だった。

 そのおかげで、男が手にするナイフよりも先に僕の手が彼女に届く。



 だが、それが限界だった。

 僕は彼女を押し倒す勢いで突っ込み、彼女はおもいっきり弾かれて、転んでしまった。

 そこにほんの少し遅れて、彼女を襲うはずだったナイフが襲ってくる。


 腹部に嫌な感触が残った。



 僕は残った力を振り絞って、突き飛ばした彼女の方を見た。

 転んだ時に擦りむいたであろう傷の他に目立った外傷は見られなかった。



    ···よかった



 緊張で神経質になっていた意識は、彼女の安全を確認すると緩み、そのまま奥底へと落ちていった───








        あっ





 間違えた。

 いや、正確にいうなら誤解した。


 少しずつ戻っていく死の直前の記憶のせいで大変な誤解をしてしまった。



 これは······その······あれだ


 痛い高校生の妄想ってやつだ。


 こう考えてみると、レーラさん達に対して痛い人、と思ったのは場違いだったのかもしれない。


 自分で自分が恥ずかしい。


 自分が妄想していたことを真実だと誤解するなんて...


 気を取り直して、本当の記憶を思い出してみよう。

 こんな茶番(妄想)を思い出していた間に、今までのことは全て思い出した。


 思い出したのだけれど、我ながらに恥ずかしい。


 まさかあんなことがあったなんて···





 

 そう。

 あの日は近所で祭りがあったんだ。


 そこまでは同じ。

 というか、そこだけが同じ。



 一緒にまわっていたのは男たちで、周りにいたリア充共の多さに嫌気が差して、途中で帰った。


 その帰り道であの事が起こったのだ。



 

───────────────────────

  


  プー!!!!  プップー!!!!


 トラックのクラクションが危険を告げる。


 

 だが、気づかなかった。



   キキキー!!


 トラックは急ブレーキでなんとか避けようとする。


 それでも気づかない。


 少年は両耳にヘッドホンを装着し、手元のスマホを見ながら赤信号の横断歩道を渡っていた。



 結果は言うまでもない。


 トラックはもろに少年とぶつかり、そのまま病院へ。

 残念なことに搬送先の病院で死亡が確認されたらしい。

 


 今回の事故は全面的に少年が悪い。

 ただ、一応理由はあったのだ。


 周りのカップルのイチャイチャしている声を聞かないため、両耳にヘッドホンをし、見ると悲しくなるため、普段はしない歩きスマホをして早足で帰宅していた。



 ──僕は悪くないんです! 悪いのはリア充共です! 裁判長!


 判決······死刑。


 オーマイガー!!



 わかってました。

 僕が悪かったんです。

 生まれ変わったらリア充がいない世界がいいです。


 あっ、そういえば僕、転生してましたね。


 今のところは順調です。

 出会った人といえば·····


 チョロ······いえ、優しいレーラさん。

 あと、金髪。


 完璧です。


 

 でも、残念です。

 どうせ死ぬのなら、最初の僕の妄想みたいに、好きな人を守って死にたかったです。


 なんというか、中途半端な死にかたですね。




「そうですね。私もそう思います」



 えっ!?

 誰?


 

「せめて、女性を庇ってトラクターに引かれかけたのに、勝手に引かれたと勘違いしてショック死するくらい、インパクトのある死に方でもしてください」



 ······どっかのクズマではないのでそんな死に方は嫌です。



「あ、すいません。つい、思い出してしまいました。いえ、そのようなことはどうでもいいのです。早くこっちの世界のことについて思い出してください」



 もう、とっくに思い出しています。



「そうですか、それならよかったです」



 あれでしょ?

 よくあるファンタジーの世界で、剣と魔法があって、勇者と魔王がいる、みたいな。


 ただ、ちょっと殺伐とした感じで、人間同士で勇者の座を争っていると。


 勇者を倒した者が勇者になる。


 そんなクソみたいなルールを作っちゃったせいで、勇者は人間に常に狙われるようになったし、魔王は魔王で、最近は人間に攻めるわけでもなくて、勇者の争いを眺めて暇潰ししてるって噂だし······



 なんなのこの世界?



 

「ちゃんとわかっているようで何よりです。そして、今の勇者は須々木様がおっしゃる金髪こと、勇者シオン。レーラさんはその仲間、みたいなところです」



 薄々そうなんじゃないのかって思ってました。



「では、わかりますよね? 今のシオン様の状況のことを」



 はい。

 勇者の座を狙う連中に襲われている。

 ですよね?



「はい。そして、須々木様にはシオン様と協力して世界を救ってもらいたいのです」



 世界ねぇ。

 僕なんかにできるんですか?



「もちろんです! それにシオン様は歴代の勇者の中でも屈指の実力をもっています」



 現在進行形で死にそうになっていますけど?



「それは······色々と事情があるのです。

さぁ! それでは勇者を救いにレッツゴー!」



 おー





─────────────────────



 目を開けるとそこは森の中。


 右側にはレーラさんに教えてもらった、近くの町へ繋がる道がある。


 僕はまっすぐに左側へと走っていく。



  お願いですから、2人共無事でいてくださいよ



 そう思いつつ、記憶が戻ったときに知った、僕が使える魔法──

 アクセルを使って、常人離れした速度でレーラさんたちの元へ向かった。


 


「トラックにひかれてからこの世界にくるまでのことは覚えていますか?」



「えぇ、もちろん。 気づいたら知らないところにいて、どうしようかと思ったら、天使が現れて、ゲートに入れば転生させてくれるって言うから、説明とか聞くのはめんどいので、ゲートに突っ込んでみたらこのざまですよ。 記憶は欠けてるし魔法も使えないし······まっ、なんとかなりそうなので大丈夫でしょう。それに、さっきの魔法のおかげでこの世界の常識とかもそこそこ身についたんで」



 やっと転生者らしいことができるようになった。

 ここからようやく僕の第2の人生が始まるんだ!





 それから1分も経たないうちに僕の初めての戦いが決着した。

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