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第6話 主人公は力を手にします

 体がふわっと宙に浮くような感覚······


  

 今までに経験したことのない感覚で目が覚めた。

 夢かと思ったけど、ゆっくりとまぶたを開くとベッド───

 ではなくて、僕を出迎えてくれたのはどんよりとした雲と、しきりに降り続ける冷たい雨。


 それに加え、今までに経験をしたことがない程の強い風が吹き荒れていて、若干1mほど宙に浮いている。

 木々は大きく揺れ、葉や枝は空に舞い、その模様はさながら世紀末のよう。


 少し視線を右に反らすと、近くにはレーラさんも同じように宙に浮いている。

 でも、僕とは違ってちゃんと意識はあったようで、なにやら大声で叫んでいた。

 残念なことに風に阻まれて内容を聞くことはできないけれど、その真剣さは伝わってきた。

 事情が分からなかったから尋ねようとしたけれど、ふと、レーラさんの頬をつたう雫に気づいた。


 ただならぬことが起きている。

 

 その事だけが僕に分かったことだ。



 僕がどうするべきか迷っていると、さらに風の勢いが強くなった。

 とてもじゃないが僕みたいな普通の人間では耐えることなどできない。


 僕はそのまま風の勢いに任せて遠くへ飛ばされた。


 飛ばされる途中、金髪の姿が目に入った。

 

 体はボロボロでいつ倒れてもおかしくない状況、右手には見覚えのない剣を握っている。

 ここで少しだけだけど、現状が理解できた。


 そして、あることが脳裏をよぎった。


 彼はもう死んでしまう、と、どのような処置をしようと助からない、と、奇跡でも起こらない限りは。


 そこで意識が途切れた。



<hr>


「──っと。 ──て。 ──かり」



 んっ?

 なんとも言えない気持ちの悪いまどろみの中で、ふいに声が聞こえた。

 その声は次第にはっきりとしてくる。



「ちょっと。 起きて。 しっかり!」



 聞き覚えのある声······

 そうだ。 僕はあの時、風に飛ばされて···


 それでどうしたのだろうか?

 どこかに墜落したのか。



「お願い目を覚まして! あなたまで起きなかったら私は······」


「その心配はありませんよ。ほら、ちゃんと体も動きます」



 そういって、謎のシャドーボクシングを始めて無事をアピール──

 したかったのだが、どうやら落ちた時の衝撃が強かったらしく、体に激痛が走って顔をしかめてしまった。

 そんな僕をレーラさんが見逃すはずがなかった。



「けが人は無茶したらダメ! でも、ごめんなさい。私、いまから行かなくちゃ行けないところがあるの······大丈夫! あそこに道が見えるでしょう? その道をまっすぐ進んでいけば町があるはずだから。村長優しいから、事情を話せばきっと分かってくれるわ。一人で歩かせるのはちょっと心配だけど······ごめんなさいね。 じゃあ私、行かなくちゃ。バイバイ、元気でね!次会ったら名前、教えてくれると嬉しいな」



 レーラさんは話すだけ話すと、僕に教えた道とは反対の方へ駆けていった。

 恐らくは、金髪の人を救うため······


 行ってはいけない。

 自分では足手まといになる。

 そうは頭で分かっていても、体が言うことを聞かない。


 ならどうするべきか? 


 僕には知らんぷりをしてこのまま町へ向かうなど到底できそうにない。

 だけど僕には力がない。

 圧倒的窮地を引っ返すような力が......




「力をご所望ですか?」


 

 僕は天使を見た。


 それは比喩などではなく、耳に直接響いてくるような声、まさに天使という出で立ち、華奢な体からは神聖なるオーラが感じられる。そして、すべてを見透かしたような瞳。

 この人の前では嘘など通じるはずがない。


 

「あ、あな···たは?」



 なんとかひねり出した声は緊張で震えてしまった。



お久しぶり(・・・・・)です。いえ、初めましての方が正しいですかね?」



 ふふっ、と優しい笑みをこぼしながら天使は言葉を続ける。



「あなたには二つの選択肢があります。このまま何も見なかった振りをして、町へ向かうか、それとも······命の恩人の窮地へ駆けつけ、異世界転生者らしく、かっこよくヒロインを助けに行くか」


「そんなのできるはずがない! あれだけのケガを負っていて······何の力もない僕なんかにできることなんかない! それこそ、奇跡でも起こさない限り」


「ちゃんと分かっているじゃないですか♪ だったら、その奇跡とやらを起こせばいいのです。もう一度聞きますよ? あなたは力をご所望ですか?」


「力······それがあれば僕にでも助けられるの?」


「ええ、神であるこの私が保証します。では······目を閉じてください。そして、次に目を開けたとき、あなたはこの世界最強の力を手にするでしょう。あんな汚い手を使う連中にも遅れを取らず、あまつさえ魔王ですら倒してしまうような力を」



 僕は夢中だった。

 天使の言っていたことはほとんどが耳を素通りした。


 僕は静かに目を閉じた。

 



「大袈裟に言いましたが、本当はもう宿っているんですよ。私がやるのは言わば、きっかけのようなもの。それでは知ってください。この世界とはなんなのか、どうしてこんなことが起きたのかを」

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