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第5話 一難去ってまた一難  ~油断は禁物です~

この話はレーラ視点となっています。

────────────────────────





「はやく、はやく! 急いで!」 


「うっせー、黙ってろ。集中できない」



 森の中でシオンと剣の練習をしていたら、突然裸の銀髪美少女が現れて、雨が降っちゃったから近くの町まで送っていこうと馬車を走らせると、馬車がいきなり大きく揺れて、その衝撃で女の子は気絶しちゃうし······。



「もうちょっとだから我慢してね」



 そう囁きながら、この子の綺麗な銀色の髪を撫でる。

 回復系のスキルを持っていない私にできるのは、これくらいしかない。

 

 それにしても、この子の髪はさらさらとしていて、いい匂いもして······同じ女から見てもこの子はとても魅力的だと思う。


 さっきから「この子」呼ばわりでは申し訳ないんだけど、名前を聞くのを忘れていた。

 目を覚ましたら、名前を聞いてみよう。

 どんな子なのかな? 

 いっぱいお話をしてみたい。



「よくこんな状況でそんな呑気なこと考えられるな」


「え?」


「さっきから心の声が駄々漏れだ。それと一応言っとくけど、俺たちは今、盗賊に襲われてるぞ?」


「·········」


「はぁ......。やっぱり気付いてなかったか」



 確かにさっきから魔法が飛んできたり、ナイフが飛んできたり、色々おかしなことがあったけど·········まさか盗賊とは夢にも思いませんでした。



「いや、そこまで気付いていたなら普通分かるだろう──」



 いつも通りの私とシオンの会話だったけれど、そんな日常を許すことなどなく、第2、第3の攻撃が仕掛けられる。



「······ちっ」



 さすがに全てを避けることはできなくて、攻撃が当たる度に馬車は大きく揺れる。

 このおんぼろな馬車ではもう持ちこたえそうにない。



「レーラ、しっかりそいつを抱えてろよ。残念だけどこの馬車はもう終わりだからな、最後に派手に仕事をしてもらう」



 シオンはそう言うと、馬車の進路を大きく変更して、後から追っている盗賊達に馬車を向かわせた。


 当然、私とシオンはすでに馬車を脱出していた。

 馬車を飛び出すと同時に、シオンの手には愛用の剣──飃飆の剣(ヴィントクリンゲ)が握られている。

 私は銀髪の少女を抱えながら、その様子を眺めていた。


 飃飆の剣は風を起こす剣。

 その風はさながら嵐のよう。

 生半可な者では地に足を着けることすらできずに吹き飛ばされてしまう。


 無益な殺傷をあまり好まないシオンが盗賊などを追い払う時によく使う便利な剣だ。



「吹き飛べ!」



 ──ブンッッ

 シオンが飃飆の剣を振るう。

 

 意思を持って剣を振れば、その剣に応じた能力が発動する。

 今回は地に足を着けられないほどの大嵐。


 これで周りにいた盗賊達は為すすべもなく、お空にダイブすることになった。

 

 (うわああぁぁぁっっっ!!!)


 変な声が聞こえた気がするけど気にしな

い。


  (お、覚えていろよ~~!!)


 それはフラグです。



「まっ、こんなところか。馬車はダメになったけど、フリーユまではそんなに遠くないし急ぐぞ」



 シオンはそう言ってスタスタと森の中を進んでいってしまう。

 雨はまだ降っているし、風邪を引かないように、というシオンなりの優しさなのかもしれない。



「それは······ないかな?」


「何ぶつぶつ言ってんだ。早くいk······  危ない!!!」


「えっ?」



 グサッ



 鈍い音と同時に、『うっ』と少し苦しそうなシオンの声が聞こえる。


 突然の事態に私の脳はフリーズしてしまう。



      何が起きたの?



 私の疑問は声にこそ出なかったけど、表情には出ていたのか、シオンはゆっくりと口を開いた。



「ちっ、しくじったな······油断した」



 何よ。なんでそんな表情をするの?

 声も途切れ途切れで·········まるで·········



「······お前は、そいつを連れて······とにかく遠くへ逃げろ。······全力でやれば······大丈夫なはずだ···」



 『はぁはぁ』とシオンの息が荒くなる。

 そこでやっと気付いた。


 シオンの肩には黒塗りの大きな矢が刺さっていた。

 そこから血が滲み出ていて、服は赤に染まっている。


 未だに降りやむことのない雨はシオンの体温をどんどん奪っていく。

 明らかに弱っている様子のシオンを見れば、黒塗りの矢には何か特別な毒などが盛られている可能性が高い。

 いくら不意討ちだったとはいえ、一本の矢でここまで弱っているのはおかしい。



「······ねぇ、シオン······」



 何か言わなきゃいけない。

 そうは思っても肝心な時に言葉は出てこない。

 


「······レーラ、一ついいか?」


「うん。私にできることなら何でも言って」


「俺は······俺は、レーラ、お前が───」



「呼ばれてないのに、じゃじゃじゃじゃーん! イェーイ!! どうも勇者シオン、あなたの死神が迎えに来てあげましたよ?」



 場違いな明るい声で現れたのは、黒いコートにフードで顔を隠した、長身の男。

 手には矢と同じ黒塗りの弓を持っている。



「······こっちは、取り込み中······なんだ」


「そうですか。あっ、いえ、大丈夫ですよ? 私だって鬼じゃありません。最後の時間くらい作ってあげますよ。ほら、レーラさんもそんなに睨まないで、せっかくの綺麗な顔が台無しですよ?」



 ヘラヘラとしながら言う自称死神だけど、とても隙がない。

 正直に言って私一人だと相手にもならない。仮にシオンが万全な状態でもよくて五分五分といったところ。


 私が居たところでシオンの邪魔になってしまう。

 自分がどれだけ無力なのかを思い知らされる。

 

 いつも私が困っている時に助けてくれたのは他ならぬシオンだ。

 今度は私がその番。

 そうは思うけど、さっきから体が言うことを聞かない。確かな『死』という恐怖が私の体に鎖をつけている。



「······飃飆の剣」


「──ほぅ。まだ魔剣を出す力が残ってますか。さすがですねぇ。もう毒は完全に回ってるはずなんですが······。でも、その魔剣じゃさっきみたいに雑魚盗賊共を吹っ飛ばすくらいしかできませんよ?」


「······済まないな、レーラ······」



 そう断って。


 シオンは有らん限りの力で剣を振る。

 

 ぶおぉぉぉっっ!!!


 これまでとは比べ物にならない勢いの風が発生する。

 その風はシオンに弓を放った謎の乱入者ではなくレーラに向けて放たれた。


 

「······さよならだ、レーラ」



 頑張って踏ん張っても、激しく吹き荒れる風はそれを許さず、体がふわりと宙に浮く。


 近くにいた銀髪少女も浮くけどしっかりと抱き締めた。

 そしてシオンに手を伸ばす。


 逃げるならば今がチャンス。

 この機会を逃したらもう後はない。


 必死で手を伸ばす。


 なのにシオンは首を降って、さらに風の勢いを強くする。

 


「──────、─────」



 最後の言葉は風にかき消されて聞こえなかった。


 最後に見たのは温かく、優しいシオンの笑顔。



「シオンッッ!!!!」

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