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第16話 隣の魔王ちゃん

 僕みたいな素人でも分かるような嘘泣きをしているこの子は、やっぱりあの一緒に迷子になっていた子です。


 軽く頭を撫でてあげて、なだめるついでに話を聞いてみる。



「やっぱりさっき会ったよね。一人でどこかに行っちゃったから心配したよ」



「? わしは──私はずっと宿に居ましたよ?」



 慌てて一人称としゃべり方を元に戻す。


 もはやどっちが素なのかわからないけれど、なんで今は普通の子供のような可愛らしいしゃべり方にこだわるのだろうか。

 前の中二病のようなしゃべり方もそれはそれで可愛かったのだけど。



「あれ、しゃべり方が元に戻った。シルバーちゃんはこの子のこと知ってるの?」



「はい。さっきまで一緒にいたんですよ。自分のことを魔王だ、とか言っててちょっと変わった子なんですけどね」



 へぇー、と返事はしてくれたけれど、レーラさんは目の前のロリ美少女のことで頭がいっぱいのようです。


 一回止めていた手を再び動かして、モフるためのタイミングを伺っています。


 それでもなかなか行動できないのは、危険を察知した女の子が絶妙な位置取りをして、未然に回避しているからです。



「なっ!? 魔王だと!? なぜわしの正体を知っておる!?」



 未然の回避に集中していたのか、少し反応が遅れた女の子は、その動きを止める。

 そして、また口調が戻った。


 一瞬の間を見逃すレーラさんではなく、戦闘などで鍛え上げられた瞬発力をフルに活用して、棒立ちになっている女の子に襲いかかる。



「ぐはっ」



「あ~、可愛すぎ~。お肌もスベスベ~」



 頬と頬を擦りつけて、幸せそうに顔をだらしなくしているレーラさんとは対照的に、不機嫌そうな顔をする女の子。



「わしを魔王と知っての狼藉(ろうぜき)か!」



「もちろん分かってるよ、魔王ちゃん♪」



 なおもモフり続けるレーラさんは上機嫌。 

 

 

「レーラよ、お主はそんなキャラじゃったか?」



 困惑の表情を浮かべつつ、必死に脱出を試みている。

 小さな子の力ではなかなか拘束を逃れられなくて、苦労しているようだ。



 少し可哀想なので助け船を出してあげる。



「レーラさん、ご飯が冷めちゃいますしそろそろ行きませんか?」


 

 この子はご飯の時間を伝えるために来てくれたのだから、この話に乗ってくれるはず。


 案の定、作戦通りにレーラさんはモフっていた手を止めて立ち上がる。



「そうだったね。じゃあ、魔王ちゃんもシルバーちゃんも一緒に行こ?」



「えっ、僕は食べれな──」


「一緒に行くのじゃ!!」



 すごい剣幕でぐっと、顔を近づけてくる。

 そして、僕の後ろに回り込んでぎゅっと抱きついてくる。


 何これ可愛いんだけど······


 モフられた恐怖からなのか、体を小刻みに揺らしながらレーラさんをちらっと見てるのは、守ってあげたくなってしまう。



 少しだけなら食べられると思うし、魔王ちゃんの貞操のためにも一緒についていってあげよう。



「えっと······じゃあ行きましょうか」



 この一言で魔王ちゃんは、ほっと一安心し、レーラさんは相変わらずのハイテンション。


 僕と魔王ちゃんが手を繋いでいるのを見たレーラさんは、自分もと手を差し伸べるも、速効で拒否される。


 それでもめげずにアプローチを仕掛けていたけれど、ついに努力が実ることなく宿の一階に着く。



「遅せーぞ、何ドンチャン騒ぎしてんだ。下まで聞こえたぞ」



 ちょっと不機嫌そうにぼやくシオンさんだけど、心無しかちょっと緊張しているように見える。



「ごめんねー、ちょっと色々あって」



色々(・・)、か。具体的にその、何が──」


「わしの席はここじゃ!」



 シオンさんが何かを言おうとしていたのを遮って、魔王ちゃんが自分の席を宣言する。

 僕は無理やりその隣に座らされる。

 そして、シオンさんに必死の視線を送ると、状況を察したのか僕の隣に移動してくる。



 つまり、空いている席は魔王ちゃんの隣の隣の隣の席か、向かい側の席ということになる。

 でも、向かい側の席に座ると3人が並んでいる中で、自分だけが1人で座ることになるので、葛藤の末レーラさんはシオンさんの隣に座る。

 

 とっさの判断としては素晴らしい作戦で、魔王ちゃんは見た目の幼さによらず頭が良いのかもしれない。



「うぇーん、魔王ちゃんの隣がいい~~」



 泣き叫ぶレーラさんをシオンさんがなだめながら、魔王ちゃんが作ったという食事を食べる。



「あむ······んっ!! これ、すごく美味しいね!」



 口にした瞬間に広がるジューシーな肉の食感と、噛めば噛むほど出てくる肉汁。

 コクがあって甘めなタレも合わさって、とてもこんな小さな子供が作ったようには思えなかった。

 

 僕は美食家のようなコメントは言えないけど、これは本当に美味しい。

 


「そうじゃろ? シェフに作り方を教わって作ったわしの自信作のハンバーグじゃ。遠慮などせずにもっと食うがよい」



 僕の反応を見て満更ではなさそうに頬を緩める。

 しかし、その顔が少し神妙になる。



「その······おかわりをやるのはいいのじゃが、その代わりと言ってはなんだが、今日、一緒に······」



 急にもじもじして恥ずかしそうに顔を赤らめるが、決心したかのように自分を鼓舞するかのようにし、話を続ける。



「その······今日は一緒に寝てくれぬか?」



 かぁ~~、と沸騰したかのように顔が真っ赤になる。

 僕の顔も魔王ちゃんに負けず劣らず赤くなっているだろう。



「わしの貞操が心配でな。朝起きたら隣にあやつがおるとか、ホラー以外の何物でもないじゃろう」



「えっ、あ、そうだよね」



 一体僕は何を考えていたのだろう。

 相手は幼いいわゆるロリなわけで、そんな子から誘いを受けたからって嬉しくともなんともないし、別に何も想像とかしてないし、ロリコンでもないし。


 つまり僕は何も悪くない。



「部屋はシルバーの隣じゃからな、いつでも来てくれていいのだぞ」



「うん、そうだね。適当な時間にね」


 

 そう言って魔王ちゃんにお皿を渡し、おかわりを入れてもらう。



 おかわりをよそるために魔王ちゃんが席を外した時、隣のシオンさんが頃合いを見計らったかのように話しかけてくる。



「なぁ、シルバー。その、1ついいか?」



「はい、なんでしょう」



「その、だな······さっきまで──」



 いつもは話すよりも聞くことの多い僕ですが、この話に限っては喋っても喋り尽くせない程言いたいことがあったのでこの場では一旦保留して、食事の後に話すことにしました。

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