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第14話 迷子のロリ美少女

 この町、確かフリーユというのは、思ったよりも広い。

 城塞都市として名高いらしいこの町は、兵士はもちろんのことだけど、一般の家族も多いらしくて、所々で子供の姿を見かける。



 そんな中でポツリとたった一人で歩いている女の子を発見した。



 見た目は日本でいう中学生くらいの身長で、ここにハルバルトさんがいれば、速攻でプロポーズをしていると思われる、ロリ美少女だ。



 一人でいるだけで迷子とは限らないのに、なんとなく声をかけてしまった。

 先に言っておくが、僕はロリコンではない。



「ねえ、親御さんは近くにいたりするのかな?」



 なるべく怪しまれないように、優しい声で、そして目線を合わせるために中腰で話しかけた。



「ーー!」



 驚いた表情をする女の子。

 いきなり知らない人に話しかけられたのだから、警戒されるのも無理はない。


 

「いや、単に驚いただけだ。気にするでない」



 まるで心の中を見透かされたかのような物言い、そして年齢にそぐわない独特なしゃべり方。

 まるで何年もの月日を経験した大人の余裕も感じられる。 



 ここは異世界だし、もしやロリババアというやつなのか?



「む。ババアとはなんじゃ。わしは可憐なロリ美少女じゃ!」



 えっ? いや、なにこの子。僕の心の中読んでるの?   



「その通り。わしにできぬことなどありはしない。よって、迷子などあり得ないのじゃ!」



 体をフルに使って自分が迷子ではないと力説してくる。

 必死なのはわかるんだけど、どう見たって小さな女の子の微笑ましい光景にしか見えない。



「むー。まだ疑っておるな。ところでお主、この町に来るのは初めてじゃろ? 特別にわしが案内してやろう」



 こんな小さな子供に案内なんて······って思ったけど、適当に歩いていたからここまでの道がわからなくなってしまっていた。

 


 帰りが遅くなるとレーラさんたちに心配をかけてしまうから、ここは素直に頼っちゃおうかな。



「じゃあ、お願いするね。宿に戻りたいんだけど、そこまでいいかな?」



「任せておけ」



 小さな胸を張って堂々と宣言する女の子は、背伸びして大人になろうとしている子供のように思えて、つい笑みがこぼれる。



「それじゃ、レッツゴー、なのじゃ」



 おー、という掛け声と共に僕たち二人のちょっとした旅が始まった。




─────────────────────



「うーん、た、多分······こっちじゃ」



 ポケットから取り出した地図を片手に、二つに分かれた道の左側を指す。



 あれからかれこれ一時間。

 僕たちの旅は一向に進んでいない。というよりも、進む度に辺りが静かになって、むしろ目的地から遠ざかっている気がする。



「こ、こっちのはずなのじゃが······むー、どういうことだ?」



 ここは僕が助けてあげるところなんだけど、残念なことに僕には土地勘がない。

 そして、方向音痴だったりもする。

 


 さらに残念なのは、僕の前で地図とにらめっこしながら歩いている女の子も、方向音痴な気がする。



 方向音痴が二人集まれば、いつまで経ってもたどり着けない。



「えぇーい、やはり魔法がないと人間の町は不便じゃの! これはわしらを外に出させない大がかりな罠なのじゃな。ふん、ケンカを売られてはしょうがない。今こそわしの魔王としての力を見せる時なのだ!」  



 興奮した様子でプンプンしていると、聞き慣れない詠唱が始まる。

 


「わしの中に潜む闇の精霊よ 今こそ汝の力を示す時 汝のすべてを賭けて生命を燃やし尽くせ ブラッド・インフェルノ!!」



「ちょちょちょ、待ってストップストップ!!」


  

 幼い子が覚えたての魔法を使いたがっているのかと思ったけど、明らかにここで使っていいような魔法じゃないよね?

 絶対辺り一面が焼け野原だったり、クレーターができたりするような部類のヤバいやつだよね?

 それに魔王だなんて、この子は中二病なのかな?



「何をするのだ離せー。わしはご立腹なのじゃ! プンプンなのじゃ!」   



 じたばたと暴れるのを必死に押さえる。

 この子を自由にしてはいけない。

 本能が激しく訴えてくる。



「むー、わかった離せ、もう魔法は使わぬ。その代わり一つ、わしと約束せよ」

 


「······僕にできることなら」



 お願いを聞いたら焼け野原にならなくて済むのなら安いものだ。



「その······わしのお友達になってくれぬか?」



 ちょっとうるっとした瞳で見上げながら、不安からなのか体を小刻みに揺らして可愛く言う。



 もじもじとしながら言うから、さっきまでの態度とのギャップで僕はノックアウト寸前。



 もう一度言います。

 僕はロリコンではありません。新たな道が開けそうですけど、僕は紳士ですので大丈夫です。



「もちろん僕でよければ大歓迎だよ」



「本当か! なら、次はもっと刺激的なことをしてみたいのぅ。今日みたいに一緒に歩いているのもよいが、やはりもっと楽しいことがしたいのじゃ」



 刺激的なもっと楽しいこと······



 ごくりと生唾を飲む。



 別に変なことを考えているのではない。

 本当だよ?



「······」



 僕が妄想であんなことやこんなことを考えていると、妙に静かであるのに気づいた。



 やばっ、そう言えばこの子って心の中を聞くことができるんだっけ?

 めっちゃドン引きされてるのかな。



「ふむ、仕方ない。そろそろ時間のようじゃ。ではまたな、シルバーよ」



 そう言って、何かを口にする。

 また魔法を使うのかと身構えたけど、後ろから声をかけられた。



「はぁはぁ······あれ? シルバーちゃん?」



 それはもはや聞き慣れたレーラさんの声。

 ぜぇぜぇと、肩で息をしながら驚いた顔をしている。



 少し遅れてシオンさんも駆け足でやってきた。



 二人の額からは汗が流れていた。



「さっきの魔法はお前がやったのか? てか、どうやってここに来た?」



 こっちに来るなり、いきなり質問される。



 そんなに焦った様子でどうしたんだろう?



「魔法は······僕じゃなくて、女の子がやったんです。未遂でしたけど」



 そう言って、話題の人物──放火未遂犯の女の子に振り返る。



「あれ?」



 いない。



 確かにさっきまで僕とお話していたはずなのに、まるで最初からいなかったかのように、忽然と消えていた。

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