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地下ライフ系令嬢

作者: ゴロタ

*趣味に走ってる

*誤字脱字は直せたらやります

*設定はユルユル。 決して作者がユルユルなのではない(自己申告)

 



 薄暗くジメジメとした石壁に囲まれた地下室の中心には、妖しげな色の煙りがモウモウと立ち昇る巨大な大釜が鎮座しており、その周りにふたつの黒い影が寄り添うように直立していた。




「くふっ……くふふっ………。では今回の報酬は?」

「ええ、貴女が以前より欲しがっていた緋水晶の原石と、貘 蛇(ばくじゃ)の尾ではいかが?」

「くふふぅ………それはそれは…………。 エンジェル、お主も悪よのう?」

「ホホホ…………貴女ほどでは御座いませんわ、スパイシー?」


「くふふっ………くふふふぅ………」

「オホホッ………オホホホゥ………」


 頭から足先までスッポリと覆い隠す、黒の貫頭衣を装着した私ことスパイシーと、幼馴染みである少女、エンジェルは心底楽しそうに笑いあっていた。




 そんな中 けたたましい音と共に、天井からのびる地下室の扉が唐突に開かれる。



 バターーーーーーーーン!!!



「こらーーーっ! お前たち! また勝手に地下室に入り込んで!」


 ぐひぃっ!

 こ、この声は……………魔神スパイラル!?

 まずい。これは実にまずい状況だ。


「エ、エンジェル! ここは私が囮になる! 早く逃げて!」

「そ、そんなっ! 無理よ! 貴女を置いては行けないわ、スパイシー!」

「なあに……大丈夫さ! 私だけだったらあの魔神の魔の手から逃げ仰せる事も不可能では無いからね」

「くっ………。分かっておりますの! スパイシーは私が足手まといだと仰りたいのですわね?」



 その通り。

 エンジェルは運動神経が全く無い。それはエンジェル自身も良く理解している事実である。


「確かに………確かにそれもあるけど、でもそれだけではなっ…………へぐっ………」


 ぐへぇ。

 まだこれからいい台詞を吐くところだったのに……………。

 私の首を背後から無造作に掴んで来たゲス野郎へと、抗議の声を浴びせてやる。


「ちょっとぉ! 魔神! ………………じゃなかった、兄様! うら若きレディーの首を乱暴に掴むなど、紳士の行動ではあるまじき行為! 一体どういう教育を受けているのですか!」

「やかましいっっっ!!!」


 ぐひぃ。

 魔神………………改め、私の兄様であるスパイラル・グィンネガルは、簡潔に大声で一喝した。


「スパイシー? お前、父上からもうこの地下室に入る事を禁じられていたはずだったよな?」

「うぇっ………」

「それに………ハァ……。 お隣のグローリーフェザー子爵家のエンジェル嬢まで巻き込んで………お前と言う奴は! もう少し貴族の令嬢である自覚を持たないかっ!」

「…………そ、それならば言わせてもらうけど、兄様も言葉使いがなってないし。 横暴! 棚上げ野郎!!」

「ハァ………俺は良いんだよ。ちゃんとした場所では、長年培ってきた貴公子の外面を被って完璧な対応しているんだからな!」

「わ、私だって気合いを入れれば、貴族の令嬢らしく振る舞える! ボソッ……………きっと5分位は」


 そう。

 私は貴族。

 嘘では無い。

 ただし貴族の生活ってやつには辟易しているだけだ。



 華々しく、光輝く場所など大の苦手だ。夜会やお茶会といった社交的な場所何かに出たら死ぬ。







 ………………………いや、うん。流石に死ぬは大袈裟だった。


 実際に死ぬ訳じゃない、ただ死にそうになるだけだ。特に精神力(メンタル)は、ご臨終してしまいそうになる。 自慢じゃないがたまに脱魂してる時すらある。 記憶が飛んでたりするんだよ。 あな恐ろしや恐ろしや。


 それにあれはぶっちゃけ、ただの貴族による合同お見合いパーティーな訳よ。

 あそこに貴族の若いのが集まって、男女共にお互いの外見を値踏みして、肩書きやバックボーンを見せ付けてアピールする場所。

 そう、簡単に言ってしまうとただの婚活パーティー。


 実に下らない。 そんなものに誰が参加するか。

 グィンネガル家の不良債権と罵られようが、絶対にこの屋敷から出てくもんか。ビバ☆地下室! ビバ☆地下組織ごっこ!!


「おい、聞こえたぞ!? 5分って本気か? そんなので持つわけが無い………」


 うん?

 兄様が頭を抱えて苦悩し始めた。どうした?頭でも痛くなったのか? はははざまぁみろ。


「えっと…………? ど、どうしたの?」


 一応声を掛けておくか。別に心配って訳じゃない。興味とかも毛ほども感じないけれども。ポーズだよ。


「………………どうしたの? じゃあ無いんだよ! くそっ………何故こんな奴を………………コールレット様は………ブツブツ………」


 ブツブツ呟きながら更に苦悩する。

 何ですかね。この失礼で不愉快な態度は? せっかく心配しているふりだけでもと、声を掛けてやったのに。



 ハッ! ま、待てよ?


 これって今がベストなチャンスなんじゃない?


 えっ?何がって? おいおい。忘れたの?


 この場から逃げ出すためのチャンスだよ。



 鬱陶しい状態に陥っている兄様にバレずに、この場をドロンするため、ソロリソロリと音をたてない様に移動を試みる。





 が、しかし。



 私が着用していた足元までスッポリと覆う黒の貫頭衣めが、土壇場で裏切ったのだ。


 階段をのぼろうと、足を踏み出した瞬間、裾をおもいっきり踏み込んだ。


 そんな私の末路は――――――――――お察しの通り。


 転んだ。 それも豪快に。


 顔面を強かに段差へと打ち付け、悶絶するはめになったのであった。



「ぶべらっっっっ!!! あばっ………あばばばばっっっ………………~っ………~っ…………」



 あひぃ………あひぃ………め、めっちゃ痛い、顔面が。


 す、裾めっ! 常日頃から愛用してやった恩を忘れ裏切りおって。

 絶対に辱しめてやる。 貴様の黒の布地を、漂白して灰色にしてやるからなぁっ!!


 階段で顔面を押さえながら、貫頭衣に不毛な宣言をしていると、背後より地の底から響く様な低い低~い兄様の声が聞こえてきた。



「おいおいスパイシー? 1人で愉快な事をしているようだがなぁ………俺が誰のせいでこんなに苦悩していると思ってるんだ? あ?」


 おやおや。今度は責任転嫁ですか?

 兄様が苦悩しているのは、別に私のせいじゃないよねぇ? 勝手に悩みだしたというのに、何を恩着せがましく宣うのだろうか。


「くひっ…………。 それは私のせいでは無いよねぇ? というか兄様に悩みなんてあるんですね? ああ、あれですか? 外面を良くしすぎたせいで、中々素で話せる婚約者(あいて)が出来ない事に悲観して、悩んだりしていたの?」

「……………なっ…………おまっ……お前!! それは軽々しく言ってはならん、デリケートな案件だぞ!!」

「デ、デリケートですと!? 兄様の口からそんな柔な言葉が出てくるとは…………さては相当参ってますね?」

「………………いやまぁ……そうだな。 俺の今現在1番の苦悩理由を聞けばお前も道連れだ」


 ひょっ?

 同意して来たぞ?

 す、素直になった、だと?

 ぐへぇ…………なになに? どゆこと?

 それに道連れって? も、もしや私を兄様の気持ちの悪い妄想お悩みワールドへと誘うつもり?

 ううむ、そんなのは断固拒否だよ!


「それで、悩みと言うのはボルティクス侯爵家の子息、コールレット………様についてだ」


 ぐへぇ。

 遅かった。 聞いちゃったよ。くそっ!




 えっと………なになに? ボルティクス侯爵家のコールレット様? はて? 我が家よりも家格が高いのは分かるけど、何でそんな人物の事で兄様は悩んで………………ハッ!


 も、もしや…………兄様、余りにも婚約者が決まらないから、男でも良いやってなげやりな気分になって、血迷った末にボルティクス侯爵家のコールレット様に懸想でもなさったのでは?


 だから私も道連れって言ったんじゃ…………。確かにそのはた迷惑な想い、行動に移されたら我が家、ひいては私にも何らかのお咎めがあるのは必至!!


 まずい。これは非常にまずい状況だ。

 我が家の爵位の剥奪もあり得る事態だ。

 火急的速やかにこの問題を取り除かねばなるまい。


 私の心のオアシスである地下室を、有するこの邸も手放さねばならぬ事態にもなりかねん!ここは私が兄様の蒙昧な目を覚ましてやるのが、妹の務めというものであろう。


「兄様………諦めて下さい。それは無謀というものです!」

「ん?おお、お前………良く分かってるな。 そりゃあもちろん俺も止めようと思った。 しかしコールレット様は俺の話に聞く耳を持ってくれないんだよ。理由は不明だが本人がえらい乗り気でな…………」

「ほっ? ええっと…………ご本人が乗り気? 兄様から迫ったのでは無いのですか?」

「はあっ? 迫る? いや、俺じゃない。あっちから言って来たんだよ。俺はコールレット様とは貴族学園で同級でな。 まぁ………仲は悪くなかったし、お互いの身分的にも今回の件を断りきれなかったんだ」


 何ですとっっっ!?

 兄様が独り善がりで勝手に盛り上がってると思っていたら、よもや逆だったとは! ふぅ~む………あちらが勝手に盛り上がってるのか。盲点だった。


 そりゃ悩むわ。同情も禁じ得ないや。

 兄様は男色の気は無いって私は信じていた(どの口が言う?)からね。

 身分を盾にされたら、拒否できない。


 くふふ………でも私の薔薇色地下ライフのための礎に、兄様を捧げなければなりませんな。

 あっ…………ついでに地下室への立ち入りを禁じやがった父様も、オマケに捧げますから何卒お願い申し上げます!


「大丈夫! 私に良い考えがあるから、兄様はそのコールレット様だっけ? その人の話を受けて上げてよ!」


 くふふっ……大船に乗ったつもりで任せなさいな!このスパイシー・グィンネガルに全てをな!


「はっ!? おま、お前………本当に良いのか? てか、ちゃんと理解してるんだろうな?」

「ふひっ………問題無い。 想定内………想定内なのだよ。兄様の幸せのため粉骨砕身、身を粉にして働かせて頂きますよ?」

「俺の幸せ? あ、ああ………悩みの原因を無くしてくれるって事か? じゃあ日程を調整したら後日、追って知らせるが……………」

了 解(ラジャー)!!!」

「ううっ………何だこの込み上げて来る一抹の不安は…………」



 ふふんっ!

 やるぞー! 兄様(と、父様)を生け贄に捧げ、私の未来の安寧を必ずや手に入れてみせる。


 それに私には地下組織に顔の利く友人も多数居るのだ。そちらから怪しげな媚薬なり香油なりを、金に糸目を付けずに入手してお膳立てしてあげる。くふふ………くふふふふ………。



「何か………絶対に妙な勘違いしてる気がするんだよな、スパイシーのアホは。 常人の斜め上を突き抜けた感覚の持ち主だからなぁ…………」


 兄様が何かブツブツ言っているが、私は自分の計画で手一杯であったので、とりあえず無視する事にした。




 だがそれのせいで(のち)に大事件を引き起こす羽目になるのだが、この時の私には想像すらできなかったのであった。





ひとつ気付いた。 エンジェルどこ行った?

ものすごい素早さで逃げたか、壁の一部と化したか………定かではない。



オマケのコールレット・ボルティクスの話



友人であるスパイラルの変わった妹である、スパイシー嬢の噂話を聞き及んだのは偶然であった。


私の従兄に当たる、ネブラムが妙な趣味に目覚めたのが切っ掛けである。


ネブラムは真夜中に、怪しげな黒い貫頭衣を頭からスッポリ被って出かけて行く。

1度興味本意でその後を居ってみたら、何とスパイラルの邸の敷地内へと勝手知ったる体で、ズンズンと突き進んで行く。


すると、邸の入り口へとたどり着いた。


黒い貫頭衣を頭からスッポリと被った怪しげなネブラムが、入り口のドアノッカーを躊躇もせずにガンガンと叩く。


私は焦った。


あんな常軌を逸っした格好では、直ぐに憲兵を呼ばれて捕まってしまうのでは無いだろうか?


しかしそれは杞憂に終わる。


何とそんな不審な格好の相手を、スパイラル家の使用人は驚く素振りも見せずに招き入れたのである。


神経が図太いのか、慣れているのか恐れ入ったものだ。




後日、ネブラムにその事を問い質すと、あれはスパイラルの妹であるスパイシー嬢が定期的に、だが密かに開いている秘密のパーティーだということだ。


普段の堅苦しいパーティでは無く、誰か分からない状態で気の合った相手と会話を楽しむパーティーだと言う。


確かに貴族のパーティーは、政治的駆け引きや、結婚相手を見定める意味合いが強く、決して楽しくは無い。

見知らぬ相手との気のおけない会話を楽しむネブラムが正直羨ましかった。


その後渋るネブラムを説き伏せて、何回かその地下で行われるパーティーに参加してみた。


最初は薄暗くジメジメとした不衛生な場所に、不快感が沸き上がって来たが、段々と慣れたのか気にならなくなった。


侯爵家の跡取りである私と、見知らぬ者が軽口を叩きあえる不思議な空間に私はどんどんのめり込んで行った。



そして興味はこのパーティーを主催する、スパイシー嬢へと向かって行った。


彼女は邸を提供している関係上、参加者全員に身分が露呈してしまっているのに、全く気にした素振りをしない豪気な令嬢であった。


そんな彼女の強気な姿勢に興味が湧いた。


彼女をもっと知りたい。 彼女の素顔が知りたい。彼女の好きな者や人を知りたい。



知りたい欲望が私の理性を焼ききった。



後日、彼女の兄であるスパイラルに彼女と会ってみたいとお願いしてみた。


スパイラルは真っ青になって震えていた。


身分を傘に着せたお願いは、スパイラルを混乱させてしまったみたいだけど、私は彼女と面と向かって話してみたい欲求を抑えきれなかったのだから仕方がない。



待っていてね、スパイシー? きっと私は君に会ったら放せなくなってしまうだろう。










って! コワッ!


コールレット…………完全に病んでるやん。



この2人…………相対したら不味いのでは無かろうか?


兄にベタ惚れしてると勘違いしているスパイシー…………大丈夫だろうか?




後は皆様のご想像におまかせ致しまする。

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