終焉
「あなた、誰です?」
だれかが言った。
「ヨガサ、何か言ったか?」
「いいえ。彼女ですよ」
ヨガサが後ろを指差した。
道の端に、店がある。ボロボロの店だ。店員がいた。彼女がいるのを、俺は見逃していたようだった。
「何の用だ?」
俺は言った。
「そちらこそ、こんな町に何の用です? あなたみたいな軍人さんが来るところじゃない」
その人は手に持っていた売り物らしき基盤を置いて、俺に近づいてきた。
「私はカシワバラ・シヒラと言います」
「そうか」
彼女はぐっと伸びをすると、ヨガサの方を向いた。
「なにしてるの?」
「みなさんがシェルタにいなくて」
「あぁ、昨晩、山賊が来てたもんね」
俺は彼女の平静な様子に少し驚いた。
カシワバラは俺の顔をまじまじと見つめている。
思わず、顔をそらした。
「あなた、不思議に思ってるでしょ。なんでこんな落ち着いてるのか」
「あぁ」
「簡単よ。大抵の人は、彼らにみかじめを払っているのよ」
俺はため息をついた。
頭が痛くなる。
「さっきも、奴らが来てたわ。あなたを探して」
「どうしてあそこを襲った?」
「簡単でしょ? ここは分裂している。サタケみたいに町を自力で守ろうとする人たちと、山賊に物を渡して守ってもらおうとする人たち。簡単な図式よ。あそこのシェルタに仲良く入ろうなんて気は起きない」
「前も、こんなことが?」
「いいえ」
ヨガサは言った。
「その話は、サタケさんのお陰で、済んだ話のはずです」
「だから、それが気に入らないのよ」
カシワバラは言った。
ここも、そうだ。つまり、俺が今まで経験した人たちとおなじ、あるかもわからないルールに縛られ続ける人々。
俺は、目眩がした。
「気をつけてね」
カシワバラは俺を見て笑った。
嫌な予感がした。
辺りを見回す。
「おい、ヨガサ、お前はカシワバラのところに戻れ」
「どうしてです?」
「敵だらけだ。せめて、あいつのところに行くか、逃げるかしたほうがいい」
「断ったら?」
言葉に詰まった。正直にいうことは簡単だ。考えなくてもいい。思ったことを口に出せば済む。
だが、迷ってしまう。
なぜなら、あれは、俺のせいでもあるからだ。
キーン、と甲高い音が頭の中で鳴り響く。それに背中を押されるように、口を開く。
「たのむ」
ヨガサはため息をついた。
「今回だけですよ」
「すまない」
ヨガサが離れていく、その背中を見届けて、俺は懐を探る。
銃を取り出す。
簡単なことだ。