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ポレモフォビア

「うるさい!」

 サタケは狂ったように叫んだ。

「大丈夫だ。装置を起動させろ。戦闘恐怖症(ポレモフォビア)はそれで治る」

 俺は奴の肩をがっしりと掴んで前後にがしゃがしゃと振った。

「ち、違うんだ。装置があれば、俺も、まだ戦えるんだ」

 サタケは青い顔をしながら唸る。

「だから、強化外骨格(エクソ)を観たときに、奴らの装置を奪い取ろうとしたんだ。電源を補充すれば、奴らなんかイチコロなんだ」

「それで、奴らがきたのか?」

 俺はサタケの着ている服の襟を掴んで、立ち上がらせた。

「ま、まさか! 奴らから装置を奪い取ろうとしたのは三年前だ!」

 サタケは叫んだ。

 彼のネームタグが目に入る。

 左丈士南。

 二等兵。

 所属は第二方面軍第四機人歩兵大隊。

 彼は俺の顔を見て、何か気まずそうに黙っている。

「三年前なんだな」

 俺は念を押した。

「そうだ、俺が、あいつらから装置を奪おうとして……」

 サタケはそこまで言うと、息を飲んだ。

「俺のバッテリィが切れちまったんだ」

 彼は目をうろつかせて、落ち着かない。

 サタケは違う、と思った。症状がだいぶ進行している。

「三特ってのは?」

「嘘に決まってる! 三特なんて、幻の部隊だ! 俺がそんな部隊にいるわけがねぇ!」

 彼は銃を見て、視線を逸らしてを繰り返している。

 戦闘恐怖症(ポレモフォビア)は自身の連想でその範囲を拡大していく。

 俺は拳銃をサタケの見えない位置にしまった。

 しばらくサタケは黙っていたので、俺は、彼の症状が治まってきたのだと思った。

「ここまで追って着たんだ。やつら、三特なんだ。じゃなきゃ……」

 俺はいらいらして、奴の頬をひっぱたいた。

 戦闘恐怖症(ポレモフォビア)のやつは、どいつもこいつもこうだ。

 俺の仲間も、こうなって死んだ奴がいる。名前はなんだったかはよく思いだせない。ウダガワ? そうだ、宇陀革。大丈夫。忘れてない。

「落ち着け。やつらは三特じゃない」

 俺はまとわりつく思い出を振り払うように言った。頭の切り替え、と言う意味だ。

 サタケに限らず、彼らの言うことは支離滅裂だ。

 戦闘恐怖症(ポレモフォビア)特有の症状は、脳の一時的な変容にある。

 つまり、発作が起きれば、お酒を飲みすぎた時のような鈍い感覚と、異常な思考プロセス、そして強烈な被害妄想が彼らをつきまとって離れない。

 感情増幅装置(フリーケンシィデバイス)の副作用と、強化外骨格(エクソスケルトン)の全能を失ったやつに現れる、現象、幻聴、幻覚。

 嘘がさも当然のように記憶に紛れ込む。

 サタケのような症状まできて仕舞えば、こちら側に戻れなくなる時も近い。

「なぁ、あいつら、どうなったんだよ!」

 彼は言った。

「死んだよ」

 左丈は座り込むと、大きなため息を漏らした。

「よかった」

「どこにコラプス・シェルタがある?」

 いい加減こいつに構うのも疲れてきた。もう、極まっている。

「すまねえ」

 左丈の声が聞こえた。

「バッテリィ、余ってないのか?」

「無いね」

「無理だ。もうこの街を守るのは、無理だ」

「どうして?」

「だって、俺は戦闘恐怖症(ポレモフィビア)で、やつらは、エクソをつけてる」

「銃で撃たれたらエクソをつけてても死ぬ」

「だけど、やつらは素早く動けるんだ」

「サタケ!」

 俺は叫んだ。

 いい加減こいつの弱音にはうんざりだった。

 こいつのそれに付き合うくらいなら山賊どもと殴り合うか銃で撃ちあったほうがマシだ。

「いい加減にしろ。てめえが何もしなきゃ街のやつらが死ぬ。俺がいなかったら全滅だった」

 俺は言った。

 サタケは頭を抱え込んでいた。

「克服するにはどうしたらいいんだ?」

「逃げないのか? 今回みたいに」

「ダメだ。恩を返さなきゃならねぇ」

「じゃあしっかりしろ。やつらは殺せる」

「あ、あぁ」

「もう大丈夫か?」

「大丈夫だ」

 サタケは膝を抱えている。

 なら、もう俺がなんとかするしかないのかもしれない。

 でも、どうして?

 なぜそんなことをしなければならない?

 一体なんのために俺は彼らを助けるのか、答えを出せずにいる。



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