擬き
あの男たちは、あの少女が言った通り完全武装だった。
完全武装もあって、襲ってきたのは三特かと思ったが、あれは寄せ集めの雑兵に過ぎなかった。
サタケが三特と聞いて、俺は彼らが内通していると決めつけた。
しかし、内通者がいるとしたら、なぜこんなタイミングで仕掛けるのか、平たく言えば、街がいつもの状態でないのに襲撃してリスクを高めるようなことをする必要があるのか。
先ほどまでサタケという男に関しての推理を自信げに披露しようとしたが、そうもいかない。
だが、
もしかしたら……
そうだとしても、俺の中での最重要の案件は、いまのところサタケだ。
彼という候補を潰さなければどうしようもない。
長い廊下を渡って、地下への階段を降りると、ようやくシェルタのドアを拝むことができた。
ドアを乱暴に叩く。
「俺だ」
返事がよく聞こえない。俺は少し面倒だと感じながら、大きな声を出した。
「あぁ……」
ようやく、少女の声がした。
「並科だ」
「ナラシナさん。終わったんですか?」
「そうだ」
「出ても大丈夫なんですか」
「あの三人は……」
「三人?」
「まぁいいか。ともかく、終わったよ。バリケードと調度品はめちゃくちゃだと思うが……」
全部言い終わる前に、金属の重く擦れ合う音とともに、シェルタが少し開いた。
「ありがとうございます。まさか、ここが狙いだとは思いもしなかったので」
ひょっこりと顔だけ出して、彼女は言った。
「何さんだったかな?」
「キミ・ヨガサ」
「そうかい。で、聞きたいんだけど」
「何をですか?」と、ヨガサ。
「サタケはどこだ?」
彼女はしばらく頭を抱えた後に、にっこり笑った。
つまり、思い出してくれたようだった。
どうにも扉が重そうだったので、彼女の代わりに引いてやる。
彼女はシェルタから出てくると、軽く服についた埃を叩いた。
「まったく、しばらくどころか全然使っていなかったので、困りますよ。かなり埃だらけで」
「そうか」
「二人とも、もう出てきてもいいって!」
彼女が中に向かって叫ぶと、二人がのそっと出てきた。
「ありがとうございます」
と、父親。
こうしてみると、やけにくたびれた顔をしているとわかる。
やけに忙しない。
彼の手に目をやると、すぐに元スカベンジャだとわかった。
切り傷だらけで、歪んでいる。
ここはやっと手に入れた安息の地だろう。
俺自身も、あんな戦場以上に偏屈なところで漁り周りたくはない。
それを好んでやるのが彼らなのだが。
「お疲れさん。で、サタケの居場所を知りたい」
俺は彼の肩を叩いた。
「はぁ。ここから西に行った詰所にいると思いますけど」
「ありがとう」
踵を返す。
早く、彼のところに行かなければ。
こういうのがお節介と言うのだろう。
本当は一部外者の俺がそんなことをしていいはずがないのだ。
どこかの隊長みたいだなとぼんやりと思った。
煙草を取り出した。
ジッポの火が揺らめいて、
空には星が煌めいていた。
少し感傷的な気分になる。
感情増幅装置が反応した。
胸が苦しくなるほどに、少し感傷的な気持ちになってしまった。
このペンフィールドN型感情増幅装置は軍に支給されるやつの中では最新のタイプだった。しかし、もうガタが来ているらしい。
当たり前だ。
もう、メンテナンスする技術を持つ人間がいない。
やっと辿り着いた街の西側はビルが立ち並んでいた。
どうやらオフィス街か何かだったみたいだ。
一件だけ明かりが灯っている。
ぽつんと。
俺みたいだった。
仲間を残して逃げた。
それだけ。
後悔してる。
それだけ。
怖かったんだ。
何もかも。
それだけ。
それだけなのに、どうして俺はこんなに悔やんでいるのか。
それがわからない。
良く目を凝らせば、ここいらの街並みに、緑が侵食しているのがわかる。
それは、わかる。
文明が人の手を離れてから、アスファルトを破り、建物を伝い、かつて人が覆った殻を破って、自らの力を取り戻しつつあった。
あるべき形に、戻ろうとしていた。
緑をかき分けて、ようやく明かりの灯るビルにたどり着いた。
階段を登る。
いくつか階を上げたところで、人の気配がした。
「サタケか?」
「あぁ……」
「動くな。すぐそっちにいく」
俺は撃たれたのかと思って、うずくまったサタケに近づく。
廃墟とは思えないくらい綺麗な場所だった。
「それを持って近づくな!」
彼は叫んだ。
ようやく彼の異変に気付く。
「どうした?」
「近づくなと言ってるんだ!」
「お前まさか…」
俺は、少し戸惑いながら、言う。
「ポレモフォビア?」
俺はサタケについて、一つ、理解した。