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チャールダシュ その一

「どういうことです?」

 彼女の両親がにじり寄って来る。

「サタケに関して推理できるのは二つだ」

「はぁ」

「さっきの爆発は三特に支給されていた自動誘導式手榴弾。それを考えると、ヤツらは……」

 まわりの音に耳をすませた。

 近づいている。

 ここに戦闘服はない。

 奇襲をされたら一大事だ。

「あの、意味がわからないんですけど。それとサタケさんに何か関係があるんですか?」

 母親が言った。

 このままじゃまずい。もう猶予がなかった。

 甲高い駆動音が近づいて来ている。

 もう、説明するのも億劫だった。

「そのバリケードは短くですら持たない。コラプス・シェルタは近くにあるのか」

 両親は顔を見合わせた。

「あれは街外れに」

「危ないな」

「ですが、ここの地下には簡易シェルタがあるので……」

「そこに行け、早く!」

 俺は廊下を適当に指差しながら言った。

 よっぽどひどい声音だったに違いない。

 彼らは肩をびくりとさせたあと、彼女を連れて中へ消えていく。

 背中を見送る。

「あなたは?」

 少女が叫んだ。

「大丈夫だから、安心しろ」

 言うか、言わないかのうちに、

 俺はドアに擦り寄った。

 ドアのそばにぴたりと張り付く。

 第三特殊作戦群は強化外骨格(エクソスケルトン)なんて使わない。

 やつらは特殊工作部隊だ。

 あんな重たくてうるさいスーツは邪魔になる。

 ヤツは癖があった。

 あの引っ張られるような動き。

 ぼんやりとした記憶がピントを合わせるように輪郭を取り戻す。

 そう、確かあれは、出力重視型のエクソスケルトンを使う部隊の癖だった。

 うちの基地にも似たような部隊がいた。

 サタケの動きは、そいつらに似ている。

 いつまでも耳慣れない音が近づいてきた。もう、目と鼻の先だろう。

 俺は深呼吸をして、奴らが来るのを待つ。

 打ち付けられた釘が震えた。

 来た。

 コッキング。

 セイフティを解除。

 今まで死ぬほどやってきたことだ。

 タイミングをとる。

 心の中で数える。

 一、

 二、

 バリケードの板が吹き飛んだ。

 銃がドアだった隙間から覗く。

 男がのそのそと出て来た。

 無防備なヤツめ。

 空の手でハンドガードを握り、

 頭に拳銃を当てる。

 一発。

 腹部にもう一発。

 男に正面に立って、

 ライフルと体で挟んで盾にする。

 重い。

 外に二人。

 トリガを引く。

 外れ。

 もう一発。

 動きが早い。

 撃つことよりもカバーを優先したんだろう。

 次の男に向けて一発。命中。

 こっちは反応が遅れていたように見える。

 ルーキィだと思う。

 ハンドガードが軽くなった。

 最初の男がずり落ちたのをちらりと確認する。

 ここで粘るのも限界。

 一人が膝をついた。どうやらさっきの一発が相当応えたらしい。次の男に照準を合わせようとするが、そいつはするりと瓦礫に滑り込んだ。

 いまのうちに、膝をついた男に二発打ち込む。

 奪ったライフル構え直す。

 ここでカバーしても意味はない。

 木造建築だ。

 木の板なんか簡単に貫通される。

 俺はカウンタの裏に飛び込んだ。

 ライフルの残弾を確認する。十分たくさん残っていた。既存の銃のサードパーティモデルだ。

 これならまだ使い方はわかる。

 精度の高いモデルだったはず。

 銃弾が掠めた。

「出てこいオラ!」

 と、最後の生き残り。

 俺は待つ。

 スマートボムを使われたら厄介だが、今はまだ耐えなければならない。

 今は、動いたら撃たれる。

 モグラ叩きと一緒だ。

 あいつがハンマを持っていて、俺はモグラだ。

 ガチャリ、と重い音がした。

 不吉な予感。

 次の瞬間には、銃弾の雨が降る。

 マシンガン!

 嫌な予感は半分は正解で、半分はハズレだった。つまり、スマートボムじゃないだけマシだ。

 音からして旧式のMAGだろう。

 銃声が止んだ。

 まだ外に出てはいけない。

 今のは炙り出すためにやったんだ。

 装置の揺らめきを必死に抑える。

 俺は音をなるべく立てずに、ゆっくりとカウンタの奥に進む。

 中に入ると、様々な道具やメモが乱雑に置かれているのがわかる。

 管理人室のような使い方をしていたんだろう。

 カウンタもそうだが、あらゆる調度品、道具がマシンガンのおかげで使い物にならなくなっていた。

 その光景に装置が反応した。

 ここで発動させるわけにはいかない。あれは周りにすら危害を及ぼす。

「ぜってー殺す!」

 あの男が続けて何やらまくしたてている。

 銃を乱射している。

 声で位置を探る。

 近づいてきていた。

 深呼吸。

 装置を抑え切った。

 銃声が止んだ。

 ガチャガチャと騒がしい音がする。

 再装填(リロード)か。

 銃声が二発分。軽い。ハンドガンを取り出したか。我慢のできないヤツらだな、こいつらは。最初は出来る奴かと思ったが、そうでもなかったらしい。

 ハンドガンを打ち切るのに合わせ銃を入り口から覗かせた。

 指切りで三点射。

 叫び声。

 もう一度。

 胸のあたりに命中。

 続いて、うめき声。

 地面に這いつくばっているようだった。

 俺はゆっくりとカウンタから出る。

 最初に死んだ男の上を通り過ぎた。最後の男は、そのそばに倒れていた。

 こいつは放っておいても死ぬだろう。

 旅館を出て数歩のところに、二人目の男が倒れている。

 まだ生きていた。

 頭にライフルをあてがう。

 一発撃ち込むと、

 彼はびくりと震えた。



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