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第三特殊作戦群

「おい、ズヒカ」

 誰かに名前を呼ばれた。

 俺は辺りを見回した。

「隊長」

 ぼんやりとした灯の下でも、彼のことは選別できた。

 彼の顔に深い切り傷がある。

 バイザごと乙型近距離用短槍(ニードル)で貫かれた時の怪我だ。

 俺がもう少し早く到着していたら彼の頬骨はなくならずに済んだ。

 それが、ガスマスク越しに彼の輪郭を歪ませていた。

 彼は笑っている。

 そんな気がした。

「いけるか」

「はい」

「マガジンは?」

「一つ」

「十分だろ?」

 隊長はニヤリと笑った。

 爆音。

「なんだ?」

 それを聞いた次の瞬間にはベッドを挟んでドアとにらめっこをしていた。

 懐に手を伸ばす。

 金属質。

 自動式拳銃に触れた。

 掘り出し物だったやつだ。

 ドアがノックされる。

「あの、すみません」

 さっきの女だ。

 すこし、焦ったような声だった。

「どうした?」

「今の音、聞こえました?」

 ドアに擦り寄る。

 ゆっくり深呼吸して、ドアに銃口を向けた。

 二度目のノック。

「開けていいですか?」

「あぁ」

 ドアがゆっくり開く。

 俺は照準具越しにそれを見ている。

 一人の少女が、廊下に立っている。

「あの、どういうことです?」

「なんだ、一人か」

「えぇ、父と母はバリケードを作ってます」

「まぁ、そういうことにしておこうか」

「ここは安全ですよ。サタケさんもいますし」

「サタケ?」

「元兵士の人です。三特だったとか」

「あぁ」

 なるほど。

 あの男か。

 俺はすこしこの街のことがわかった気がした。

「どこでやってるんだ?」

「さぁ」

「敵は?」

「そんなことより、はやくその物騒なものをしまってください」

「わかった」

 さっきのはグレネードの音だった。

 国産のやつだ。

 どこかで聞いたことがある音だ。

 一般人を驚かすのに、そんな危なげなものを使うのか。

 そんなはずはない。

 きっと、知っててやってるんだ。

 それに、大分近い。

「その、サタケってのは今どこにいるんだ?」

「それは、父に聞かなければ、わかりません」

「案内してくれ」

「危険ですよ」

「そんなことは知ってる」

 彼女は口をへの字に曲げた。

 旅館なんて、他人しかいない場所じゃないか、という言葉を飲み込んだ。

「わかりました。どうなっても知りませんよ」

 彼女はため息をついて、言った。

 廊下を歩き始める。

 まだ銃声は聞こえない。

 始まってるわけじゃないようだ。

「大丈夫」

「なんでわかるんです?」

「俺がいるからだ」

 彼女は冷めた目でこっちを見た。

「そんな拳銃一丁で何ができるんです? ここらの山賊は完全武装ですよ」

「サタケはよくやってるんだな」

「いいえ」

 彼女はかぶりを振った。

「これが初めてですよ」

 俺は自分の鼓動が早くなっていることに気がついた。

 さっきから引っかかっていた……。

 多分、あれは……。

 まずい。

 心臓の鼓動が早くなる。

 脊椎に埋め込まれた装置(フリーケンシィデバイス)がうごめき始める。

「お客様、外はまだ、出てはいけませんよ」

 彼女の父親らしき男が言った。

 いつの間にか、終点に来ていた。

「外は……」

「サタケがいるから大丈夫、なんだろ。そんなことはいいから、出してくれ」

「そう言われましても」

 今度は女性の方が遮った。

「出してくれないとまずいのはこの街だ。俺が出ることよりも」

 彼女は仕方ないな、なんて言いたげに肩を竦めて、言った。

「聞きましょう」

 俺は慎重に言葉を選んで言った。

「サタケって人間は三特だって言ったよな」

「はい」

 俺はもう一度頭を整理する。

 やはり……。

「あいつ、三特にいなかったぞ」


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