漂流の人
街についた。
ビルの残骸と、崩れたコンクリートの普通の街。
むしろ、こんなにも明かりがある街は、今では珍しい方だと言える。
いつの日か、戦争があった。
理想の世界が完成した世代の人々は、世界各地で定期的に行われる争いを、まるでスポーツのように観戦していたという。
しかし、ある日、国と企業、あるいはお互い同士の戦争が始まった。
総力戦どころではない。
あらゆる技術、あらゆる兵器、あらゆる人間を投入し、戦争をした。
最後の大戦が終わったとき、人類のほとんどが死滅した。
それから、生き残った都市に自然と機械が侵入してきて、一部を残して、あらゆる人工物は無に帰した。
今も軌道上では残りのコールドスリープ・ポッドをめぐる戦闘が続いているという。
戦争が終わったその日から、流れ星をよく見かけるのはそのせいだと、みんな口を揃えて言った。
ポッドの流星だ。
地上に帰ってきた勝者の。
もしくは、空へ落ちて行った敗者の。
彼らが考えていた未来と、俺たちが生きている未来とは違うだろう。
このゴミ溜めみたいな未来は、きっと。
彼らの望んでいたのは、自身の勝利の未来。
戦争がないという意味かも知れないし、イングソックのような未来かも知れない。
俺は、いつの間にか空を見上げていた。
ここから流れ星が見えるかと、そう思っているのか、自分でもわからなかった。
「よそ者だな」
誰かが言った。
俺は声のした方をゆっくりと向いた。
若い男が、俺のことを睨みつけている。
筋肉質の腕だ。姿勢に特有のクセがある。
強化外骨格をつけていた証拠だと思う。
こいつは元兵士だ。
「誰だ?」
低い声だ。威圧するような。
「ナラシナ・ズヒカ」
俺の答えを聞いた彼は、一瞬だけ嫌そうな顔をした。
「何の用だ? この街にはなんもねぇよ」
男は吐き捨てるように言った。
「べつに何かを盗りにきたわけじゃねえよ」
それを聞くと、彼は鼻を鳴らして、
「そうだと嬉しいんだがな」
と言った。俺はじっと彼を見つめた。
どうやら彼は積み上げられたジャンクを漁っているようだった。
大戦時の戦車や飛行機、あらゆる兵器の、ジャンクに成り果てた、その溜まり場。
きっと、ここにいるやつらは、そのクズみたいな瓦礫の山から、量子回路や、液体火薬といったものを見つけ出してきて。売り捌いて、食いつないできたに違いない。
いまの人間は、失われつつある技術をつなぎ留める術すら失って、それを売り払い、生き残るために使い潰す奴らばかりだ。
俺も変わらない。
だが、それが最善手だ。
「宿を知りたい」
作業をしているその男に話しかけた。
「まっすぐ歩け。小さな旅館がある」
「ありがとな」
俺は言った。ポケットから煙草を取り出す。
ライタで火をつけた。
残りのオイルが少ない。