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to decide  作者: 村瀬誠
第三章:秘められし真実
9/30

第二話:結集再び

時間はディバルバとの交戦の後まで遡る。

展開した障壁諸共吹き飛ばされたアキナは『偶然』あった湖に着水した。

あまりのスピードに、バリアを展開する余裕もなくその身が水面に叩きつけられる。

幸い魔装装甲は解除されていなかったので、ある程度の衝撃は防ぐことができたが、それでもダメージが小さいとは言えない。

装甲を展開したままでは沈むと判断し、アキナは装甲を解除…そして水面を目指して泳ぎ始める。

飛ばされてくる時に湖があることは視界の片隅で確認できたので、予め息は止めておいたのだった。

ディバルバとの戦闘のダメージ、そして湖に叩きつけられたダメージが体に蓄積し、体が思うように動いてはくれなかったが、気力を振り絞り水面から顔を出す。


アキナ「ぷはっ!…はぁっ、はぁ…。」


呼吸は荒く、まだ状況を正確には把握できなかったが、ひとまず助かったと安堵する。

そして辺りを見渡し、一番近い岸に向かって泳ぎ始める。

どうやら、この湖には木が密集しているらしい。

湖を中心に、それを囲むようにして木が生えている。

その数は決して多くはなかったが、緑のない魔界でその光景は異様なものに見えた。

岸に着いたアキナはその身を投げ出し地面に寝転ぶ。

そして呼吸を整えながら、これまでに起きたことを思い返していく。


アキナ「(あたし…負けたんだ。)」


クレイスとクロの援護をするつもりが全く歯が立たず、そればかりか真っ先にディバルバに吹き飛ばされ退場させられた。

その事実が、アキナの頭の中を後悔と共に駆け巡る。


アキナ「はぁ…。悔しいな。」


アキナ「(早く戻りたいけど、これじゃ役に立たない。…クレイスとクロは大丈夫かしら。)」


アキナ「(あの二人なら心配いらないと思うけど…。)」


アキナ「(とりあえず、服乾かしちゃわないと。)」


魔法で服や髪に染み込んだ水分を飛ばす。

再び辺りを見渡し、これからどうするかを考える。


アキナ「向こうから飛ばされてきたのよね。…とりあえず、ここで少し休んでから行こ。」


満身創痍な今の状態では不測の事態に対処できないと考え、腰を落ち着けるべく軽く周囲の探索を行った。

最初に調べたのは、自分が落ちた湖。


アキナ「(魔界にもこんな湖があるのね。落ちても無事だったし、毒が混じってるってこともなさそうだったけど…。)」


しゃがみ込み両手で水を掬ってみる。

荒れ果てた魔界に存在するものとは思えないほどその水は澄んでいた。


アキナ「(飲めるのかしら、これ…。)」


指に付けた水を口に含め、刺激物が混じっていないかを確認する。


アキナ「(大丈夫みたいね。水浴びするくらいならいいかしら。)」


アキナ「(それにしても、なんでこんなところにポツンとこんなものがあるのかしら。)」


木の向こう側に見える景色を眺めても、荒れた大地が続いているだけだった。


アキナ「(まあいいわ、一晩ここで過ごしたら元の村に戻りましょ。)」


その後アキナは夕食を作りそれを食し、湖で体を洗い、周囲に魔物がいないかを確認しバリアを張って就寝。

心身共に疲労していたため、寝付きはいつも以上に良かった。

そしてアキナが目を覚ました時、周囲の状況はアキナが想定するものとは異なっていた。


アキナ「なによ、これ…。」


木の周りをぐるりと一周するように蔓がいくつも伸び、折り重なっている。

それはただの蔓ではなく、茎の直径はおよそ一メートル、更に蔓からは大小様々な棘が生えていた。

しかし変わっていたのはこれだけではない。

辺りは一面霧に覆われていた。

それだけだったら見通しが悪くなる程度で済んでいただろう。

しかしこの霧は…。


アキナ「(魔法が…使えない。)」


先程から蔦を一掃するべく詠唱しているのだが、一向に魔法が発動する気配がない。

アキナが目覚めた時、既にバリアも消滅していたのだ。

魔力を注入し固定してあるはずのバリアは、霧の出現と共に消え失せていた。


アキナ「どうなってるのよ、これ。」


八方塞がりの状況に呆然と立ち尽くすアキナ。

そしてこの絶望的な状況を理解していく内に焦りの表情を見せる。


アキナ「(魔法は使えない、しかも脱出不可能なこの状況…。完全に閉じ込められた。)」


唇を噛むアキナ。

握りしめた拳が腰にある双剣に当たる。


アキナ「(そうだ、それを使えば…。)」


アキナは剣を一本引き抜き、蔓に近付く。

そして棘に注意を払いつつ、蔓に剣を突き立て切り裂く。


アキナ「よかった、結界の時みたいに修復はされないみたいね。」


不安は解消したと言わんばかりに蔓に剣を突き刺していく。

何回か同じ作業を繰り返し、五分ほどかけ蔓を切断。

ブチン、と鈍い音を立て蔓は重力に従って地面に落ちる。

それからアキナは蔓と格闘し、五本の蔓の切断に成功。

しかし…。


アキナ「この蔓、一体何本あるのよ…。」


絡み合った蔓はアキナの身長を優に超えていた。

切断した蔓を横目にアキナは剣を鞘に収める。

霧の影響で見通しが悪く、そして蔓も何重にも絡み合い行く手を阻んでいる様子。

思いの外蔓の切断で疲弊したアキナは近くにあった岩に腰掛けた。


アキナ「(どうしようかしら…。腕力向上魔法が使えないから自力で切っていくしかないし。)」


アキナ「(蔓も、思った以上に固い。何本か切ったけど疲れるわね、これ…。)」


活路は見い出せたものの、現状を打破するためには膨大な時間を要す。

これから延々蔓を切っていかなければならない事を考えると、相応の気力が必要になる。

そのことを察したアキナは、長期戦になる覚悟を決める。


アキナ「(早くみんなのところに行きたいけど…覚悟を決めて、これに挑むしかないわよね。)」


それからアキナは、蔓と格闘する日々を過ごした。

一日の大半を、蔓を切断するために要した。

普段は魔法で強化しているが霧の影響でそれは叶わず、自分の腕の力だけが頼りだった。

加減が分からず腕が筋肉痛になってしまうこともあったが、そうなった時は左手に剣を持ち替え蔓と格闘した。

切っても切っても途切れ目が見えてくることはなかった。

延々と、目の前の蔓を切る毎日。

そして二週間後、転機は訪れる。

しかしこれは、予想だにしない形で起きた。


アキナ「今日で一体何日経ったのよ…。…え。」


愚痴をこぼしながら、いつものように蔓に剣を突き立てようとしたその時、蔓が音もなく消え始めた。

それは一本だけではなく、全ての蔓が一斉にその形を失っていった。

今までの苦労はなんだったのかと、アキナはしばし呆然としながらその様子を眺める。

そして今度は蔓だけではなく、魔法が使えない元凶とも言える霧がすぅっと晴れていく。

視界は徐々に開け、辺りには以前と変わらない魔界の風景が広がっていた。


アキナ「…なんだったのよ、あれは。」


力なくその場にへたり込むアキナ。

なぜ行く手を阻むように蔓が現れたのか。

なぜ霧によって魔法が使えなくなったのか。

そしてなぜ、それらは消滅したのか。

目の前で起こった出来事は、簡単に説明できるものではなかった。

その後、アキナはクレイスたちと合流するため飛行魔法を使い湖を後にする。

しかし、アキナが落ちたはずの湖はこの時既に消滅していた。

まるで初めから、その場には何もなかったかのように…。


…。


一方のクレイスも状況は全く同じだった。

湖に落ち、体を休めるため就寝し目覚めると、辺り一面巨大な蔓に囲まれていた。

魔法を打ち消す霧も発生していたため脱出は不可能。

更にこの時クレイスは宝剣シュビルト・フォーンをディバルバとの戦闘にて失ってしまっていたため、暗器の鉤爪を使い蔓を上り脱出を試みた。

しかしそびえるように立ちはだかる蔓を前に断念。

アキナと同じく蔓を切断していく方法を選んだ。


クレイス「(悔やんでも悔やみきれない…。シュビルト・フォーン、そしてグレートミライザー。私の未熟さが、このような結果を招いたのだ。甘んじて受け入れよう。しかし…。)」


クレイス「(なぜだ、ここは方角的に私たちが来た道なりのはず…。)」


クレイス「(道中に湖などあったか?…いや、このようなものが魔界にあったら覚えているはず。)」


クレイス「(一晩で強大な蔓に囚われたことといい、魔法が使えなくなったことといい。)」


クレイス「(一体何が起こっているのだ、この魔界で…。)」


思考を繰り返すが、未知に対する答えは出ない。

ただ、普通ではありえない何かが起こっていることだけは理解できた。

その事実がクレイスの心をざわつかせる。


クレイス「(あの場に残されたレットとメルティナの安否も気になる…。早くここから抜け出さなければ。)」


ひたすらに蔓を切断していく。


クレイス「(今は一刻も早く合流しなければならないというのに、私はこの程度の障害すら越えられないというのか…。)」


自身の敗北と、仲間の安否、そして絶望的な現状にクレイスの心は沈む。

蔓を切断する手は止まることはなかった、僅かでも脱出の可能性を見出そうと足掻く。

しかし幾重にも重なった蔓はそれを拒み、クレイスの前に立ち塞がるのだった。

…そして二週間後、蔓は消滅した。

クレイスが湖の畔で目を覚ますと、蔓は綺麗さっぱりなくなっていた。

霧もいつの間にか晴れており、クレイスは再び困惑する。

しかし、原因は分からないものの閉鎖空間から解放されたことに変わりはない。

クレイスは急ぎディバルバと対峙した村へ向け、飛び立つのであった。

この時、既に湖とその周辺に生えていた木々の一切が消えていることに、クレイスは気付かなかった。


…。


アキナ「クレイスー!」


クレイス「…アキナ?無事だったか!?」


真っ先に合流したのは、クレイスとアキナだった。

あの後もディバルバは猛威を振るったのだろう。

村は壊滅し悲惨な状態となり、そこに住民の姿は見られなかった。


アキナ「クレイス、あいつは?ディバルバはどうしたの?」


クレイス「…すまない、仕留め損なった。私もアキナやクロと同様吹き飛ばされてしまったんだ。」


アキナ「そう…。」


クレイス「アキナ、聞きたいのだが…私たちがここに来るまでの間に湖を見たか?」


アキナ「え…?」


クレイス「私が飛ばされた方向は、私たちが来た方角のはずなのだ。しかしそこに、見覚えのない湖があったのだ。」


アキナ「あ、あたしも!吹き飛ばされた後、湖に落ちたの。」


クレイス「…では、もしかして。」


アキナ「ええ、一晩寝たら蔓と霧が周りを囲っていて外に出れなかったのよ。」


クレイス「こちらも同じだ。そして今朝方、それらは消滅していた…。」


アキナ「こんなことって、ありえるの?」


クレイス「…アキナ、もう一つありえないことが起きている。」


アキナ「え、なに。」


クレイス「私は東から再びこの村に向かってきたのだが、この村以外の村がなくなっていたのだ。」


アキナ「…うそでしょ。」


クレイス「私も飛行していて違和感を感じたのだ、情報を入手するべく立ち寄った村が一つも見当たらない。…結局、この村に辿り着くまでに村を見かけることはなかった。」


アキナ「分からないことだらけね…。そういえば、他のみんなは?」


クレイス「クロは私たちと同じく南の方へ飛ばされてしまった。レットとメルティナはこの村では見ていない。…どこかに避難していれば良いのだが。」


アキナ「そう…。とにかく、みんなを探しましょ。」


クレイス「そうだな。まずは、宛のあるクロから探そう。クロは南の方へ飛ばされたはず。南へ向かえば合流できるかもしれない。」


アキナ「分かったわ、行きましょ。」


…。


クロ「…レイ、アキナ?」


クレイス「クロ!無事だったか!」


南へ向かうと、手足を獣化させ走っていたクロがこちらに気付き、三人は合流することができた。

飛行していた二人は地上に降り、再開できたことに三人共が安堵した。


アキナ「心配したのよ。…大丈夫、どこか怪我とかしてない?」


クロ「…だいじょうぶ、うぇろるがかんびょうしてくれたから。」


クレイス「ウェロル?誰だそれは。」


クロ「…へんじん?」


クレイス「(顔も知らない相手だが、クロにだけは言われたくないと思うぞ…。)」


アキナ「(クロ、あんたも負けず劣らず変わりものだと思うわよ…。)」


狙ったわけではないだろうが、この時クレイスとアキナの心はシンクロした。

それはさておき、クロはこれまでの出来事を二人に話した。

ウェロルに保護されていたこと、ウェロルが魔術の研究をしているということ、魔術のこと、…そしてクロが魔術をいくつか使えるようになったということ。


クレイス「魔術か…。王宮にある歴史書にも載っていたな…かつては魔法使いと魔術師が争っていた時期もあったらしい。結局は魔法使いが優勢となり、その後魔術は淘汰されていった。」


アキナ「なんか、聞いてると魔法に劣らず凄い力を持ってるみたいだけど。」


クレイス「魔術は術式を準えれば誰でも扱うことができる。…この、『誰でも扱える』というのが問題になったのだ。」


クレイス「一部では、他人の魔力を限界まで吸い取り、己の私利私欲のため魔術を行使していた集団もいたらしい。それによって出た犠牲は少なくない。」


クレイス「もちろん、そんな非人道的な行いをする魔術師ばかりではなかったが、他にも問題はあった。」


クレイス「禁忌扱いされている魔術も当時存在していたのだが、それに関する情報の奪い合いもあってな。」


クレイス「拷問、虐殺、脅し…ありとあらゆる手段を用いて情報を吐かせようと、これまた集団による悪逆非道な行いが各地で起こった。」


クレイス「そういった様々な軋轢が次第に大きくなり、ついには戦争にまで至ってしまった。」


クレイス「結局は、魔法使いが魔術師を圧倒するという形でその戦争は終結した。」


クレイス「そして当時の王族が魔術に関する一切の事柄を禁止にしたのだ。」


クレイス「呪文を唱えることはもちろん、術式に関する記録を持っているだけも刑罰の対象となった。」


クレイス「王族は魔術に関する記録を譲渡するよう国民に指示を出し、それらを処分。」


クレイス「以降時の流れもあって、魔術は世界から忘れ去られていった。」


アキナ「そんなことがあったのね。」


クレイス「これは、先代の勇者が活躍するよりも前に起きたとのことだ。魔術に関しては王宮の中でも知る者は少ないだろう。」


クレイス「そんな魔術を、魔族が…。」


クロ「…あと。」


クレイス「ん?」


クロ「…うぇろるのいえが、なくなってたの。」


クレイス「…なに?」


クロ「…うぇろるのいえをでてしばらくしたら、うぇろるのにおいがきえて。」


クロ「…おかしいとおもって、いえにもどってみたら。」


アキナ「家が、消えていたの?」


頷くクロ。


クレイス「ふむ…。」


クロ「…あんまり、おどろかない?」


アキナ「というか、あたしたちも似たようなことがあったのよ。」


クレイス「ああ、それに加え、私の方では他にも奇妙な事が起こっていたのだ。」


クロ「…?」


クレイスはこれまでに起こったことをクロに伝えた。


クロ「…へん、だね。」


クレイス「ここに来て不可思議な現象が続いているが、結局原因は分からず終いだ。」


クレイス「まあこのことに関しては、後でいくらでも考えることができる。今は一刻も早くレットとメルティナを見つけ出したい。」


アキナ「でも、あの村にはもういなかったわよね?どう探すの?」


クレイス「…手当たり次第に捜索する他ないだろうな。無事でいてくれればいいが…。」


クレイス「一旦あの村に戻り、そこを中心に捜索していこう。合流地点としては分かりやすいだろう。」


…。


レット「あれ、クレっちたちじゃないっスか!無事だったんスね!」


クレイス「レット!メルティナ!」


メルティナ「ようやく見つけることができました。ご無事で何よりです。」


村に戻るとそこには、偶然レットとメルティナも戻ってきていた。

再会を喜ぶ五人は、互いの安否の確認や、これまでに起きたことなどをそれぞれ報告していく。

クレイスとアキナの一件や、ウェロルに関する話などを各々が語ろうとするが…。

長くなりそうだからと、クレイスが『この村の空き家に一晩世話になろう。』と提案。

住民がいなくなった空き家にお邪魔し、クレイスたちは情報を交換していく。

そうして話し込む内に日が沈み、夜になろうとしていた。


レット「そうだったんスか。…そんなことが。」


クレイス「私たちの方は、今話した通りだ。レットたちは、あの後どうしたのだ?」


メルティナ「早々に戦線を離脱しました。もどかしい気持ちはありましたが、あの場でわたくしたちができることはありませんでしたので…。」


アキナ「それで正解よ。クレイスでも勝てないんだもの…そんなの、どうしようもないわよ。」


クレイス「勝てないだけならまだいい、勝てるように努力することができる。…しかし、武器を失ってはどうにもならない。」


レット「あれ、そういえばクレっちシュビルト・フォーンはどうしたんスか?」


クレイス「ディバルバとの戦闘の際に砕けてしまった。魔装装束グレート・ミライザーも、私を庇い散っていった…。」


アキナ「予備の武器とかないの?」


クレイス「あるにはあるが、シュビルト・フォーンの代わりとなると難しいな。あれに匹敵する武器はそうない。」


アキナ「そんな!三人がかりでもあいつに圧倒されてたのに…。実質的に戦力を失ったようなものね。」


クレイス「すまない、私が未熟であったためにこのようなことになってしまって…。」


メルティナ「クレイス王子は何も悪くありません。あの場でディバルバに立ち向かった勇姿は間違いなく勇者のそれでした。」


アキナ「それに、どうすることもできなかったのはあたしたちも同じよ。」


アキナ「誰一人、あいつには敵わなかったんだから…。」


そう話すアキナの手は、固く握られていた。

静寂が場を包み込む。

圧倒的な力によってディバルバにねじ伏せられ、更にはクレイスの持つシュビルト・フォーンの消失。

絶望的な状況にクレイスたちは口を閉ざす。

そんな中、レットが口を開く。


レット「えっと、出来るかどうか分からないっスけど、武器…作ってみてもいいっスか?」


クレイス「…出来るのなら是非頼みたいが、レットは武具専門では…。」


レット「まあそうなんスけど、一番可能性があるとしたらオレっちじゃないっスか。一応武器も作ったことは過去にもあるんで、最低限の知識はあるっスよ。」


クレイス「では、レット。君に賭けてもいいか。」


レット「分の悪い賭けっスけどね。でも、ここで何もしないよりはましだと思うっス。」


クレイス「ありがとう。」


レット「礼なんていいっスよ。前にも言ったじゃないっスか、適材適所だって。オレっちはこういうことでしか役に立てないんスから、困ったら頼ってくださいっス。」


クレイス「ああ、今回も頼らせてもらう。なにか必要なものがあれば言ってくれ、物資は限られているが可能な限り用意しよう。」


レット「そうっスね、まずは構想から練らないとならないっスから、必要なものがあったらその都度言っていくっス。」


クレイス「了解した。」


アキナ「じゃあ話もまとまったところで一旦夕食にしない?クロがいい加減お腹空かせてるみたいだし。」


クロ「…べつに、がまんできる。」


メルティナ「そんな!我慢なんてすることありませんわ!クロさんはご飯をたくさん食べるべきです、さあ早く支度致しましょう!」


レット「なんか一気にテンション上がったっスねー。」


クレイス「メルティナの場合、クロが美味しそうに物を食べるのをただ見たいだけだろうだがな。」


メルティナ「その通りです!」


アキナ「ほんと、あんたはクロが絡むと人が変わるわよね…。」


レット「まあいいんじゃないっスか、賑やかな感じで。こうして揃って食べるのなんて久々っスからね。」


こうして夜は更けていく。

再会の喜びを、共に分かち合いながら。

僅かに見えた、活路の先に行けると信じて。


…。


翌日からレットは武器作成に向け動き出した。

武器を作ることに関しては手探りなため、まずはどんな武器が欲しいかクレイスと相談する。


クレイス「やはりシュビルト・フォーンを超えるものでなければ、ディバルバに勝つことはできないだろうな。」


レット「そうっスよねー。作る武器はシュビルト・フォーンと同じく長剣でいいんスよね?」


クレイス「ああ、一番扱いやすい武器だからな。」


レット「了解っス。…しかし、難しいっスねー。ただ単純に強い武器を作ればいいって話でもないっスからね…。」


クレイス「ディバルバの持っていたあの大剣。あれは接触した対象の魔力を吸収してしまうからな。」


レット「魔力でブーストさせる武器は…シュビルト・フォーンもそうっスけど、魔力ありきなところが大きいんスよ。」


レット「魔力を注入することによってその武器の性能を底上げするんで、魔力がないと棒切れ同然っスからねー。」


レット「ディバルバのあの大剣はそこを上手く突いてるっスね、相手の魔力を奪い取り自身が優勢になることで圧倒する…。魔法使いの天敵と言っていい武器っスね。」


レット「加えてあの体格と俊敏性…武器の性能と合わせれば、奴に勝てる相手なんてそうそういないと思うっスね。」


クレイス「他に戦闘を見ていて気付いたことはないか?些細なことでも構わない。」


レット「…そうっスね。あの大剣なんっスけど、たぶん魔鉱石で出来てると思うんスよ。で、魔力の流れを見たら剣自体に魔力を吸収する力はないっぽいんスよね。」


レット「たぶんっスけど、剣に魔力を蓄えたり放出したりするのはディバルバの意思で、剣はそれを行うための媒体…なんじゃないっスかね。」


レット「もちろん剣の魔力が空っぽだったら、接触したものから魔力を吸い取ろうとはするはずっスけど、あの魔力の流れ方は普通じゃ考えられないんで間違いないと思うっス。」


クレイス「だが、魔力を吸わせないというのは不可能だろうな。今の推測を基にするならばディバルバ本人の意識を奪うしか方法はない。」


クレイス「しかしそんな状況を作り出せるのであれば。剣を交えることなくディバルバに止めを刺したほうが早い。」


クレイス「剣に触れることなくディバルバにダメージを与えることができれば良いのだが、あの大剣のリーチと横幅、そこに本人の俊敏性が加われば防げぬ攻撃はないと考えていい。」


レット「ディバルバを拘束するって方法もなくはないっスけど、現実的じゃないっスねー。」


クレイス「まず無理だろうな。魔力を絡めた罠ならば効果はないだろうし、物理的に拘束するにしても奴の身体能力を考慮したら意味はないだろうな。」


レット「…クレっち、ちょっと思い付いたことがあるんスけど。」


クレイス「なんだ?」


レット「いっそ、吸収できない量の魔力をあの大剣にぶつけるのはどうっスか?いくら魔力を吸収できるって言っても限度はあると思うんスよ。」


クレイス「なるほど、それならば魔力を吸収されることを気にせず戦えるわけだな。」


レット「ただこの方法にも欠点はあるっス。ディバルバは魔力の吸収と放出を自由にできるっスから、一瞬で限界まで魔力を流し込んで破壊しないといけないっス。」


レット「あの大剣がどのくらいの魔力を蓄えることができるのかも分からないっスから、相当な量の魔力が必要になるっス。」


クレイス「その程度なら問題はないな、事前に魔力を魔鉱石なり魔小鉱石に蓄えておけばいいのだからな。」


レット「そうっスね。剣自体に回路を組み込むことができれば出力もできると思うっス。…ただ。」


クレイス「…なにか気になるのか?」


レット「制御系の回路を組み込めなくなるんスよ、その場合だと。一瞬で魔力を叩き込まなきゃならないっスから、出力に制限をかけるとそれができなくなるんスよ。」


レット「でも、膨大な量の魔力を出力するとなると使用する本人にかかる負担は相当なものっス。本来だったら制御回路で制限できるんスけど、今回それをすると…。」


クレイス「それをしてしまうと意味がなくなる、か。」


レット「そうっス。まあオレっちが作ったケティクル・セパフィールがあるっスから、もし暴走してもクレっち本人にダメージはないと思うっスけど…。」


クレイス「そうなった時点で作戦は失敗、撤退せざるを得ないだろうな。」


レット「何を仕掛けてきたかは剣を交えたら一発で分かると思うっス。次に持ち越しになったら、確実に対策を練られるっスね。」


レット「…んー、提案しておいてあれっスけど、やめておいた方が良さそうっスね。」


クレイス「…いや、それでいこう。」


レット「でも危険っスよ。挑戦は一回きり、それにクロっちやアキナっちも巻き込むかも知れないんスよ?」


クレイス「ディバルバには私一人で挑む。そうすれば問題ない。」


レット「…はぁ、相変わらずこうと決めたら譲らないっスね。」


クレイス「可能性がほんの僅かでも賭けてみたいのだ。…それに、暴走したとしても魔力の余波でディバルバにダメージを与えられるかもしれない。そうなればまだ勝機はある。」


レット「考えてることがオレっち以上にむちゃくちゃっスよ…。まあそれもクレっちらしいっスけどね。」


クレイス「目的のためならば多少の犠牲は厭わないさ。そうでもしなければ、魔王になど勝てはしない。」


レット「…そうっスね。」


クレイス「やってくれるか。」


レット「そこまで言われちゃあ、やらないわけにはいかないっスよ。」


椅子から立ち上がり両手を腰に当て、やれやれといった感じでレットが言う。


レット「うちの勇者様は、いっつも無謀っス。普通に考えたら危険なことでも平気な顔で試そうとするっス。…でも。」


ニッと口角を上げたレットの表情はクレイスへの信頼に溢れ。


レット「『何とかしてくれる』…そう思わせれる何かがあるんスよね。」


クレイス「レット…。」


レット「いいっスよ、ケティクル・セパフィールを作った時みたいに、最高の剣を作ってみせるっス。」


クレイス「ああ、頼んだぞ、レット。」


レット「任せてくださいっス。」


そして翌日からレットは剣作成に向け本格的に動き出した。

設計図を書き、組み込む回路を選定していく。

本来の武器の作成とは少し異なるが、武具屋としての知識をフルに使い理想へと近付けていく。

組み込める回路にも限界があるので、厳選に厳選を重ね作業を進める。

その間クレイスたちはディバルバの行方を探るべく探索に出かけいた。

ディバルバを補足し、剣の完成と共に攻め入るためである。

こちらの方も中々に難航し、気付けば一ヶ月が経とうとしていた。

レットはこの時あるギミックを思い付き、それをどう形にするかで試行錯誤していた。


…。


それから更に一ヶ月、クレイスたちはようやくディバルバを見つけることができた。

ディバルバは南南西の方にある村でまた魔王に過去逆らった魔族たちを虐げていた。

止めに入りたい気持ちはあったがぐっと堪え、交代で監視を行った。

そしてディバルバを見つけてから二週間後、ついに…。


レット「完成したっス。」


クレイス「これが…。」


レット「クレっちの新しい剣、光剣アルティパール・ラスタリス、っス。」


クレイス「アルティパール・ラスタリス…。」


レットから受け取り、その剣を眺める。

見ると、所々通常の長剣とは異なる部分がある。

左右に伸びたガード・鍔部分の中央裏表、そして左右の先端、ポメル・柄頭部分の計五つにビー玉が嵌まりそうな穴が。

刀身には真ん中真っ直ぐに線が一本入っており、クレイスはそれらについての説明を求める。


レット「その五つの穴には魔鉱石ないし魔小鉱石がセットできるっス。そのセットした石の魔力を出力するためっスね。」


レット「刀身の線についてっスけど、これは実際に使ってみてのお楽しみっス。」


クレイス「なぜ隠そうとする…。」


レット「いやー、設計図を書いてる途中で思い付いたんスけど結構な自信作なんで、ぜひ自分の目で確かめてみて欲しいっス。」


クレイス「まあ使用する上で不都合がないならいいが…。」


レット「あ、あと石をセットすると即ギミックが発動するようになってるっス。」


クレイス「ディバルバの大剣対策のためのブースターか。」


レット「その通りっスね。石の中の魔力を瞬時に出力するよう設計してあるっス。それを見越してギミックが作られてるっスから、面白いものが見られると思うっスよ。」


クレイス「ほう、期待しておこう。」


レット「あ、あと試し切りはどうするっスか?切れ味は確かめておきたいっスよね?」


クレイス「そうだな、近くに小高い丘があったはずだ。そこまで行って試してみよう。」


レット「オレっちも付いて行くっス、どんな仕上がりになってるかオレっちも見てみたいっスからね。」


クレイス「よし、では行こうか。」


…。


数分後、二人は近くにある丘へ到着。

魔鉱石をポメルにセットしその威力を試す。


クレイス「凄まじいな、これは…。」


剣を一振りしただけで丘は消し飛び、そこには平坦な土地が広がっていた。


レット「魔鉱石一つでこれっスからねー。魔小鉱石でも同様のことができるっス。」


クレイス「そして最高五つまで石をセットすることができる。」


レット「自分で作っておいてなんなんスけど、とんでもない威力っスねこれ。設計上魔小鉱石も五つまで使用可能っスけど…。」


レット「…流石に魔力増幅回路はやりすぎたっスかねー。」


クレイス「だが、これだけの力があればディバルバに対抗できる。…あとは、私がこれを使いこなすだけだ。」


レット「そうっスね、魔小鉱石に魔力を注入するにもある程度時間はかかるっスから。」


クレイス「再戦は三日後だ、それまでに何とかしてみせる。…もう身勝手な真似はさせないぞ、ディバルバ。」


レット「じゃあクレっちはこのまま練習しててくださいっス。みんなにはオレっちから伝えておくんで。」


クレイス「ああ、頼んだ。」


村へと足を向け、歩き始めるレット。


クレイス「(アルティパール・ラスタリスよ、私ために力を貸してくれ。)」


新たな武器を手に入れたクレイス。

三日後、ディバルバに再戦を挑むべく特訓を開始する。

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