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to decide  作者: 村瀬誠
第一章:運命の申し子
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第二話:孤独の少女

クレイス「(さて、ここまでやってきたはいいが、どうしたものか…。)」


翌日クレイスは、王都に存在するとあるコロシアムに来ていた。

この闘技場は王都公認の賭博場であり、並々ならぬ屈強な戦士たちが毎日のように戦いを繰り広げていた。

しかしいくら王都公認とは言え正体がバレていいことはないため、念のためクレイスとクロは仮面を被り観客に紛れていた。

今現在中央のフィールドには、魔装装甲に身に纏った男が二人それぞれ剣と杖をその手にし凌ぎを削っていた。

どうやらどちらも人気のある戦士らしく、会場は沸き上がる歓声に溢れていた。


クレイス「(ここのことをよく知る人間に話を聞ければいいのだが…。)」


クレイスは適当に座った席の隣の観客をちらりと盗み見る。

しかしその男は熱狂のあまり目は血走り、喉が潰れそうなほど声を張り上げていた。


クレイス「(ここにいるものに声をかけるのは些か気が引けてしまうな…。…ん。)」


司会「両者そこまで!勝者、コート・リベルトー!」


観客「「「うおおおおおーーーーーー!!!!」」」


そうこうしているうちに勝負が決し、会場は一層の喧騒に包まれた。

どうやら、杖を持った長身のスラリとした男の方が勝ったようだ。

眼帯をした無精髭の厳つい男は担架で会場の外に運ばれていく。

両者が共に退場し、勝敗の余韻を楽しむ暇もなく次の対戦相手が入場する。


司会「さぁ、本日のメインイベント!まずは、チャンピオンのゲイテル・ディザード選手の入場です!!!」


司会の高らかな宣言と共に、フィールドへ二メートルを優に超えるであろう大男が颯爽と入場、会場は先程よりも凄まじい歓声に溢れた。

手には強大な金棒を持ち、風格ある佇まいで相手選手を待つ。


司会「今回のタイトルマッチのチャレンジカードはニューフェイス!北方からやって来た少女、アキナ・フォート選手!」


そうして入場してきたのは…戦闘服に身を包んだ小柄な少女。

むさ苦しい熱気に溢れるその場には似つかわしくないが…。


司会「そしてなんとアキナ選手本コロシアム初参加!にも関わらずタイトルマッチに挑戦するというこの豪気さ!さあ、果たしてどんな試合を見せてくれるのか!」


ゲイテル「…嬢ちゃん、できるやつの目してるな。」


アキナ「…。」


ゲイテル「無名のやつなんざ軽く捻ってやろうと思ってたが、案外楽しめそうだな。」


ゴキゴキと指を鳴らすゲイテル。

静かに目の前の敵を見据える彼女に期待を寄せる。

対するアキナは無表情のまま。


ゲイテル「おいおい、女なんだからもうちょい愛想よくしろよ。」


アキナ「…どうでもいい、お前なんかに興味ない。」


ゲイテル「ははっ、言ってくれるじゃねーか。俺のことなんか眼中にねーってか、ガッハハハハ!!!」


ゲイテル「…なら、本気で捻り潰してやるよ。女だからって容赦はしねー。」


アキナ「…いいから始めましょ。」


ゲイテル「いいだろう。おい、さっさと鐘鳴らしやがれ!」


司会「おおっと、両者共に熱い視線を交わすーっ!では、早速行きましょう!…レディ、ファイ!」


カァーンッ!とゴングが鳴ったその瞬間、勝負は決した。

誰の目から見ても明らかなほどに…しかしこの時そこにいる観客は皆同じことを思ったはずだ。

ありえない…と。

アキナ・フォートは開始と同時に認識できない速さでゲイテルの上半身へ飛びつき、両手に持った双剣でそれぞれ右の剣をゲイテルの額突き立てるように、左の剣を首筋に這わせるように押し当てていた。

剣先が僅かに食い込み、額と首筋からはつうっと血が滲みだした。


ゲイテル「…へっ、思ったよりやるじゃねーか、嬢ちゃん。」


アキナ「トドメは刺してないけど、あたしの勝ちってことでいいのかしら。」


ゲイテル「ああ、素直に負けを認めるぜ。…まさか反応すらできねーなんてな。」


アキナ「…持久戦に持ち込まれれば不利になるのは分かってたから、初手で隙を突かせてもらったわ。」


司会「…おぉっと、どうやら決着が付いたようです!勝者、アキナ・フォート選手ー!!!」


司会が高らかに勝利宣言をするも、あまりの突然のできごとに観客たちは一瞬戸惑いを見せたが…。


観客「「「うおおおおおおおーーーーーーーっっっ!!!!!」」」


十分過ぎるほどのパフォーマンスを披露したアキナ。

しかしそんな盛り上がりを見せる観客たちには目もくれず、アキナはフィールドを後にした。


クレイス「(アキナ・フォート、彼女は一体…。)」


クロ「…あのひと、つよい。」


クレイス「ああ、相当な実力の持ち主だろう。」


クロ「…なかまにする?」


クレイス「まだ彼女がどんな人間か今の試合を見ただけでは分からないから、そう簡単には決められはしないさ。だが…。」


クレイス「(戦力としては十分過ぎるほどの戦闘力を持っているな。ひとまず話だけでもできれば良いのだが…。)」


クレイス「よし、まずはこのコロシアムの関係者に話を聞いてみよう。行くぞ、クロ。」


まだ彼女の実力は不確かなものではあるが、それでも相当な修練を積んだ者であることには違いない。

そう確信するクレイスは情報を探るべく、クロを連れて移動する。


…。


クレイス「君!今少し時間はあるか。」


アキナ「…何?あんた誰?」


あれからクレイスはコロシアムのスタッフに話を聞いたが、スタッフも彼女について多くを知っているわけではなかったようだ。

代わりと言ってはなんだが彼女の帰宅時間を教えてもらい、半ば出待ちのように彼女に声をかけた。


クレイス「怪しいものではない。私はクレイス・バーミリオット、この国の王子だ。付き添いの者はクロという。」


隣でペコリとお辞儀をするクロ。


アキナ「王子様…?なんで王子様があたしなんかに。」


突如目の前に王子を名乗る者が現れ訝しむアキナ。

当然といえば当然であるが、構わずクレイスは話を続ける。


クレイス「先程の試合、見ていたよ。そこで君に興味が沸いてね、少し話をしたいと思ったのだよ。」


アキナ「…突然そんなこと言われても。今日は疲れたし、もう帰りたいんだけど。」


クレイス「そうか、ならば仕方ないか…。」


やんわりと断りを入れつつも、アキナはクレイスを観察していた。

年齢は、自分と同じかあるいは少し上。

にも関わらず、王子を名乗るこの人物には勝てないとアキナは確信する。

そして身なりからしても、位の高い人物であることは明白。

…ともなれば、アキナにとっても話を聞く価値は十分にある…それは彼女自身の『打算』にも大きく関わってくるからだ。


アキナ「…ま、王子様がどうしてもって言うなら、話だけでも聞いてあげないことはないわよ。」


クレイス「本当か!」


半ば諦めていたところへのその言葉に、思わずクレイスは距離を詰める。


アキナ「ちょっ、近いわよ。」


クレイス「ああっ、すまない。」


アキナ「まったく…。…ここじゃなんだし、あたしんちとかどう?」


無防備にも自身の家へ招き入れる提案をするが、それはこちらが主導権を握ることを常とするためである。

相手の土俵には上がらない…戦闘においても交渉においても、それは変わらない。


クレイス「場所はどこでも構わない。王宮に案内してもいいが。」


アキナ「あ、いや。…えっと、気持ちは嬉しいんだけど、そういうところは…。」


クレイス「…?何かあるのか?」


アキナ「…緊張するから、できればあたしんちで…。」


クレイス「無理強いはしないさ、話さえできればどこでも。」


アキナ「なら、あたしんちに連れてく。結構歩くけど大丈夫?」


クレイス「問題ない、普段から鍛えているからな。」


アキナ「じゃ、行きましょう。」


とりあえずの話は纏まり、三人はアキナの自宅へと向かうこととなった。


…。


アキナ「ここよ。」


クレイス「ほう、立派な家だな。」


アキナ「無理して褒めなくていいわよ、ボロい家だけど我慢してね。」


連れてこられたのは山の中腹、そこに周りの木や土と同化するようにぽつんと一軒家が。

ドアを開け、中へ案内されるクレイスとクロ。


アキナ「椅子はないけど適当にその辺に座って、お茶用意するから。…せっかくだから夕飯も食べてく?」


クレイス「いや、そこまでしてもらわけには…。」


アキナ「いいのよ、むしろ一人分作るより楽だから。まあ口に合うかどうか分かんないけど。」


そしてその時狙ったかのようにクゥ~っとクロのお腹が鳴る。


クロ「…レイ、おなかすいた。」


クレイス「ク、クロ…。」


アキナ「アハハ、その子は正直みたいね。」


アキナ「いいじゃない、食べていきなさいよ。そこら辺に座って待ってて。」


そう言って台所へと向かうアキナ。

クレイスとクロは丸テーブルの置いてあるご座に座った。

そうして十数分後、アキナは木製の食器に盛られた夕食を運んできた。


アキナ「どうぞ、大したものじゃないけど。」


野菜スープ、パン、焼き魚がそれぞれ置かれ食欲をそそる香りを放っていた。


クロ「…おいしそう。」


クレイス「クロ、涎を拭きなさい。」


アキナ「温かいうちに食べちゃって。」


クレイス「…せっかくだ、ありがたく頂こう。…クロ。」


クロ「…ん、いただきます。」


アキナ「どうぞ、スープとパンはお代わりもあるわよ。」


…。


アキナ「それで、話って何?」


夕食を終え食器を片付け終わったアキナが、お茶をクレイスとクロに出しながら話を切り出す。


クレイス「一から説明すると長くなるのだが…端的に言ってしまえば、仲間を探しているのだ。」


アキナ「仲間?」


クレイスは、自分が勇者となったことや仲間探しの経緯をアキナへ語る。


アキナ「ふーん、王子様も大変なんだね。」


クレイス「そこで、君にも仲間になってもらえたらと思っているんだ。」


アキナ「はっ?あたしが?」


クレイス「コロシアムでの試合を見て実力は把握している、どうだろうか。」


アキナ「そう言ってくれるのは嬉しいけど…ごめん、無理なの。」


クレイス「…何か不都合でもあるのか。」


アキナ「…実家に、仕送りしないといけないの。」


クレイス「…。」


アキナ「うち、お父さんが死んじゃってて、お母さんも最近病気にかかって。」


アキナ「弟と妹がいるんだけど、まだ小さくて。」


アキナ「北の寒いところに住んでるから無理はさせられないし…。」


アキナ「だからまとまったお金を稼ぐためにここに来たの、あたしこういうことは向いてたから。」


アキナ「そしてようやくあのコロシアムのチャンピオンになって、これからタイトルマッチとかでじゃんじゃんお金が入ってくるの。」


アキナ「それがないと、ダメなの…。」


クレイス「…要は、ご家族の身の安全が保証されればいいのだな?」


アキナ「え?…まあ、そうだけど。」


クレイス「弱みにつけこむような言い方になってしまうが、君が私の仲間となってくれるならば、君のご家族を保護することもできる。」


クレイス「王都に移住してもらい、母親にも信頼のおける医者を紹介できる。」


クレイス「どうだろうか、君が望むのであれば私は君の力になってやれる。」


アキナ「…その代わりに、仲間になれって?」


クレイス「…言ってしまえば、そういうことだ。」


アキナ「…少し、考えさせて。」


クレイス「分かった、では今日はこれで失礼する。…っと、その前に。」


アキナ「?」


クレイスは懐から紋章を取り出すと、テーブルの上に置いた。


クレイス「予備の紋章だ、よければ売って金に変えてくれ。二百万ジェニール位にはなるだろう。」


アキナ「え、でも…。」


クレイス「安心しろ、これを受け取ったら仲間になれというわけではない。私からの気持ちだ。」


アキナ「…。」


それは純粋に、クレイスの気持ちだった。

見返りを求めるでもなく、ただクレイスがそうしたいからと思ったからそれをする。


クレイス「ではな、アキナ・フォート。もし何かあれば王宮まで来てくれ、話は通しておく。」


閉まるドアを横目に、アキナはそのテーブルに置かれた紋章を見つめる。

確かにこれは、自身が求めていたものの形の一つではある。

最初は、傭兵としてでも雇われるのではないかと考えていた。

それが貴族ともなれば、報酬金も申し分ないものとなるだろう。

しかしクレイスから聞かされた話は、予想の遥か上を行っていた。

ただの嫌味な坊ちゃん貴族ならば、とりあえず話に乗り頃合いを見てこの地を去ることも視野に入れていた。

だがこの時のアキナは、確かに迷いを感じていた。

それは、どうしても割り切れない人にある感情故に…。


…。


アキナの家を後にしたクレイスとクロ。


クレイス「中々に複雑な事情を抱えているようだったな…。」


クロ「…ごはん、おいしかった。」


クレイス「…そういえば、食事の礼をするのを忘れていたな。」


クロ「…またきたとき、いえばいい。」


クレイス「そうだな。」


新たな候補者を見つけたクレイスだったが、その心情は決して穏やかなものではなかった。


…。


それから二週間ほど、クレイスは様々なコロシアムや賭博場へ立ち寄り多くの魔法使いを見てきたが、あのアキナという少女のことを思い出すと見劣りする者ばかりであった。

しかし焦るばかりでは何も得られない。

根気強く仲間探しを続けるクレイス…そんなクレイスにある知らせが訪れる。


クレイス「やあ。」


アキナ「あ…。」


例のコロシアムにてクレイスはアキナを待っていた。


クレイス「昨日は王宮まで来てくれていたようだな。すまない、留守にしていて。」


アキナ「別に。王子だし、忙しいんでしょ?」


クレイス「王子だからというわけでもないのだがな。昨日は別のコロシアムに顔を出していたんだ。」


アキナ「…別の?」


クレイス「ああ、一日でも早く仲間を集めて魔王討伐のために旅に出たいからな。今は仲間集めに専念しているのだ、国王の許可も得ているしな。」


アキナ「…そう、なんだ。」


クレイス「それで、昨日はなんの用件だったんだ?」


アキナ「あ、えっと。この前のお礼がしたくて…。」


クレイス「お礼?」


アキナ「ほら、紋章くれたでしょ?あれのおかげで、食料とか薬とか十分な量を買えたから。」


そのまま受け取っていいものかどうか悩んだアキナであったが、背に腹は変えられない。

罪悪感を覚えつつも、アキナはクレイスの厚意に甘えることにした。


クレイス「そうか、役に立ったようでなによりだ。」


笑顔でそう言い放つクレイスに、アキナはやはりと確信を得る。


アキナ「それで、そのお礼にまたご飯作ってあげようと思ったんだけど…時間ある?」


クレイス「あれは私が勝手にやったことだから、礼などいいのだがな…。」


自らが分け与えることはすれど、他人からの厚意には慣れていないクレイス。

困ったような表情を浮かべるが…。

くぅ~っ。


クレイス「…く、クロ?」


クロ「…おなか、へった。」


またもや狙ったかのようにクロの腹の虫が騒ぎ出す。


アキナ「アハハ。ほら、その子もお腹空かせてるみたいだし。それとも今日もどっか行くの?」


クレイス「…まあ、元々今日はアキナの用件を聞いてから仲間探しの続きをしようと思っていたところだ。アキナに不都合がなければ、またお邪魔してもいいか?」


アキナ「もちろん。…ただ、家に着いたら先にお風呂だけ入りたいんだけどいいかしら。」


クレイス「血の匂いも相当するな。今日は何人相手にしたんだ?」


アキナ「全部で八人だったかしら。…油断させるために自分の腕を切って血を飛ばしてくるやつもいて面倒だったわ。」


クレイス「なかなかトリッキーな攻撃の仕方だな。」


アキナ「ま、別に血を硬化させる魔法とか使われたわけじゃないから、血を浴びながらそのままかかと落とし決めて地面に埋めてやったわ。」


クレイス「コロシアム内にはシャワールームのようなものはないのか?」


アキナ「ないわけじゃないけど、所々タイルが剥がれてたり虫が沸いてきたり…なにより男子シャワー室との間に隙間があるから覗いてくるのよ、あいつら。」


クレイス「それは…。早急に改善するよう、私からコロシアムに通達しておこう。」


アキナ「そういえばここを管理してるのって王政だったわね。」


クレイス「ああ、王宮が直接介入しているのはここだけだな。やはりこういった施設は、リスクはあるがメリットも大きいからな。」


アキナ「そこら辺の話はいいわ、それよりも早く行きましょう。」


クレイス「そうだな、クロも腹を空かしているようだしな。」


クロ「…ん、いこ。」


…。


再びアキナの自宅へと足を踏み入れることとなった二人、アキナは着替えを手に早速浴室へ向かう。


アキナ「じゃあここで待っててね。…一応言っておくけど、いくら王子様だからって覗いたら承知しないわよ。」


クレイス「心配せずとも、そんな下劣な真似はしないよ。」


アキナ「ふふっ、どうだが。」


軽く微笑み浴室へと消える。


クレイス「…少しは心を開いてくれたみたいだな。…ん、あれは。」


クロ「…とり?」


奥にある台所へ目を向けると、そこにはトサカの黄色い白い鳥が一羽吊るされていた。


クレイス「ここらでは見たことのない鳥だな。」


クロ「…おいしそう。」


クレイス「こらこら、人様の家にあるものを勝手に食べてはいけないぞ、しかも生ものを。」


クロの果てのない食欲に苦笑しながら、二人はアキナが帰ってくるのを待っていた。


…。


アキナ「はいできたわ、ヌニーのシチューよ。」


水浴びをし、軽く体の汚れを落としたアキナは先刻の通りクレイスに礼をするため調理を始めた。

大きな鍋で様々な食材を煮込んでいく内に、その匂いがテーブルを前にする二人の鼻腔をくすぐる。

普段は大人しいクロが心なしかそわそわしているように見えるのは、きっと気のせいではないのだろう。

そうして時間をかけること一時間強…深底の器に盛られたシチューが目の前に置かれた。


クレイス「これは先程の鳥か?」


アキナ「ええ、一度実家に食料と薬を届けに行った時に狩っておいたの。北方で生きてるだけあって身が引き締まってるのよ。…口に合うといいんだけど。」


クレイス「ほう…。ではいただこうか。」


クロ「…いただきます。」


一口サイズに切られた鶏肉をスプーンで掬うと、それは少し黄色みがかっているようだ。


アキナ「ヌニーは寒さに耐えるために特別なタンパク質を体内で作るの。黄色い色をしてるのはそのせいね。」


アキナの話に耳を傾けつつ鶏肉を口に入れるクレイス。


クレイス「ん、美味しいな。弾力はあるが、パサつかずしっとりとしている。しかも肉自体に旨みを感じる。」


クロ「…おいひぃ。」


口いっぱいに頬張るクロも素直な感想を口にする。


クレイス「こらクロ、きちんと飲み込んでから喋りなさい。」


アキナ「二人共気に入ってくれたみたいね。お代わりもあるからじゃんじゃん食べちゃって。」


クロ「…おかわり。」


アキナ「はやっ。えっ、もう食べたの?」


コクりと頷くクロ。

差し出された器を見ると確かに中は空っぽ。


アキナ「いいわ、持ってくるわね。」


恐ろしい程の勢いでシチューを平らげたクロに驚愕しつつも、それを微笑ましくも思うアキナ。

彼女にとって、この行為自体に意味があるわけではない。

しかしそれでも、満たされた時間であることに変わりはなかった。


…。


アキナ「クロ…あなたこの前も結構食べていたけど、今回はそれ以上ね。もうこれで七杯目よ?」


クロ「…だめ?」


アキナ「ダメではないわ、元々お礼のために作ったんだもの。それにたくさん食べてくれるのは嬉しいわ。」


クレイス「クロは小柄だが、食事は毎回私の三倍は食べるのだ。」


アキナ「…凄いわねクロ。」


その無表情さは変わらないが、相変わらずシチューを口いっぱいに頬張っていた。


アキナ「…所で、少し聞いていいかしら。」


クレイス「ん、なんだ?」


アキナ「その、あなたは仲間集めをしているのよね。そして、早々にメンバーが決まれば旅に出るって…。」


クレイス「そうだな、魔王の驚異をそのままにはしておけない。今はまだ人間界に被害は出ていないが、来ると分かっているものを放置するわけにはいかない。」


アキナ「今、何人集まってるの?」


クレイス「今のところは一人だな。…本来ならクロも連れて行きたいのだが、父上から王宮の関係者を仲間とすることを禁じられていてな。どう説得するか頭を悩ませている最中だ。」


アキナ「そうなんだ…。最終的にどのくらい集めるの?」


クレイス「そこは決めかねているな…。あまり大所帯になっても私が管理しきれない。ポテンシャルの高い人物を数人、とは考えてはいるが。」


クレイス「前線で戦ってくれる者がいてくれると非常にありがたいな。私が前線へ出ても良いが、そうすると全体への指示が出しづらくなってしまう。」


クレイス「あとはサポートを担当してくれる者もいれば助かる。私は自身にバフをかける魔法しか使えなくてな、メンバー全員に効果がある魔法を使えるものがいれば安心できる。」


アキナ「…なら、さ。」


クレイス「ん?」


アキナ「あたし、仲間になるよ。」


クレイス「…いいのか?身の安全は保証できないぞ、命を落とすこともあるかも知れない。」


アキナ「でもあなたの仲間になれば、家族を助けてくれるんでしょ?」


クレイス「それはもちろん、手厚く保護しよう。仮に私がこれからの旅で命を落としても、勇者の仲間の家族ということで悪いようにはされないだろう。」


アキナ「ならいいわ。…家族が助かるなら、それで。」


前回のクレイスの支援があったとは言え、それは一時的なものに過ぎない。

そして自分の稼ぎも常に安定しているわけではない…だからこそクレイスのあの提案はアキナにとって非常に魅力的だった。


クレイス「そうか。…では、よろしく頼む。」


アキナ「ええ、よろしく。…なんかしんみりしちゃったわね。」


これでアキナは仲間入りを果たしたことにはなるが、二人の表情は決して明るいものではなかった。

互いを利用し合うようにして結ばれた契約…そう捉えられても仕方がないからである。


クレイス「…すまない。」


アキナ「謝らないで、あたしがこうした方がいいって思っただけだから。」


クレイス「そうか…。王宮の者に、君のご家族の移住の手配をしておく。近い内に通達が来るだろう。」


アキナ「分かったわ、こっちの方で準備しておくことはある?」


クレイス「荷物だけまとめておいてくれれば、諸々の手続きはこちらで済ませておこう。書面だけは確認してもらうと思うが、あとは使いの者の指示に従えば問題はないはずだ。」


アキナ「ありがとう。じゃあ話をしにまた実家へ帰らないと。」


クレイス「こちらも、できるだけ早く移住できるよう手を尽くそう。…ん、どうしたクロ?」


袖を引っ張られクロの方へ向くクレイス。


クロ「…おはなし、おわった?」


クレイス「ああ、とりあえずは…。」


アキナ「どうかしたの?」


クロ「…おかわり。」


クレイス「…皿が空になっても何も言わないから、もう満足したのかと思ったぞ。」


クロ「…だって、だいじなはなし、してた。」


アキナ「クロは偉いわね。いいわ、お代わりね。どのくらい盛る?まだまだ鍋にたくさん残ってるわよ。」


空になった器を手に立ち上がるアキナ。


クロ「…おおもりで。」


クレイス「まだそんなに食べるのか、よほどこのシチューが気に入ったのだな。」


アキナ「ふふっ、大盛りね、分かったわ。」


微笑ましく思いながら台所へと向かうアキナ。


クレイス「…ありがとうな、クロ。」


クロ「…おなか、すいてたから。」


クレイス「…そうか。」


それは計算なのか、それとも天然なのか…。

なんにしても、クレイスはほんの少しクロに感謝するのであった。


…。


アキナ『良かったらまたご馳走するからいらっしゃい。あ、それともしよかったら残りのシチューも持っていく?いいわよ別に、これはあなたたちのために作ったんだから。』


密封性の高い容器に入れられたシチューを手にホクホク顔のクロ。


クレイス「良かったなクロ。」


クロ「…あした、ぜんぶたべる。」


クレイス「…残りを考えると一食でなくなりそうだな。」


クロ「…レイもたべる?」


クレイス「そうだな、一皿だけもらおうかな。」


クロ「…ん。」


クロ「…あきな、いいひと。」


クレイス「…それは、料理の腕があるから、とか言わないよな?」


クロ「…それも、ある。」


クロ「…でも、いちばんは。」


クレイス「ん?」


クロ「…ひとのいたみを、しってるから。」


クレイス「…そうだな。決して楽な人生を歩んではいない。」


クレイス「アキナの家族のためにも、私は…。」


クロ「…クロも、いる。」


クレイス「…そうだな、もし共に旅に出ることができなくても、私とクロは家族だ。クロが必要になったら、その時は頼むぞ。」


クロ「…ん、まかせて。」


アキナが仲間となったその夜、クレイスはその決意を新たに固めた。


…。


アキナ「本当にありがとう、みんな大喜びしてるわ。」


クレイス「それは何よりだ。」


それからおよそ一ヶ月後、アキナの家族は王都へと移住していた。

場所は、市街地からそう遠くない住宅街。


アキナ「でもいいの?こんな大きな家に…。」


クレイス「ちょうど空きがあったのがそこなのだ。何、君たちが心配する事ではないさ。私が王子と勇者という立場をフルに使っているだけなのだから。」


アキナ「それ、大丈夫なの?」


クレイス「多少のやっかみも、魔王を倒せば皆手の平を返したように賞賛の声を浴びせるだろう。」


アキナ「…それはそれで微妙なところね。」


アキナ「それで、その隣のやつれた顔のチャラ男は誰?」


レット「別に自分チャラくないっスよ…。ども、レット・クラウディっス、よろしくっス…。」


新居を前に立ち話に興じる中に、顔色が優れない者が一人。


クレイス「顔合わせがまだだと思って連れてきたのだ。レット・クラウディ、共に旅をする仲間だ。彼には今、私のための装束作成を頼んでいるのだ。」


レット「細部まで凝りだしたら止まらなくて、最近はほとんど寝てないんスよ…。あと少ししたらとりあえず一段落付くんスけど…。」


アキナ「そうなの。よろしく、あたしはアキナ・フォート、魔法使いよ。」


レット「それじゃ挨拶も済んだんでオレっちは帰るっスね…。」


アキナ「あら、もう帰るの?」


クレイス「今回の顔合わせは、私が無理を言ってお願いしたのだ。簡単な挨拶だけになってすまないが…。」


アキナ「別にいいわ、旅に出たら嫌というほど顔を突き合わせることになりそうだし。それに、信用できる人なんでしょ?彼。」


クレイス「それは保証する。見た目と言動は軽薄そうだが、仕事に対するプライドや情熱は人一倍ある頼もしいやつだ。」


レット「微妙に褒められていない気がするのはオレっちの気のせいっスかね…。」


レット「まあいいっス…。じゃあまた何かあったら呼んでください、できるだけ対応するっスから。」


クレイス「ああ、今日はありがとう。引き続き装束作成、頼むぞ。」


レット「うっス、それじゃあ。」


相当根を詰めていて余裕がないのだろう、フラフラとした足取りで帰路に着くレット。


アキナ「さっきは聞けなかったんだけど、装束って何?」


クレイス「ああ、なんでも魔装装甲とは違い、その人間のスペックがそのまま反映される防具らしい。装着者自身とのシンクロ率を高めるためには相当な技術がいるようだ。」


アキナ「ふーん、そうなんだ。あたしも作ってもらおうかな。」


クレイス「今は厳しいかもしれないな…。なにせ装束作成には最低でも半年はかかるらしい。今頼んでいる装束も、アキナと出会った頃に作成を依頼したから…。」


アキナ「じゃあ少なくてもあと四ヶ月以上はかかるってこと?…流石にそれ以上は待てないわよね?」


クレイス「なんとかそれまでには仲間の目星を付け、旅に出たいものだな。」


アキナ「国王様を説得して、クロも連れていけるようにしないといけないし…。」


クレイス「今のところ一番のネックはそこだな。最悪、クロをメンバーに入れないことを前提にもう一度仲間を集めなければいけなくなる。」


アキナ「そうなると、もう一人は欲しいわね。あたしはアタッカーもサポーターも担当できるけど、流石に兼任すると火力が落ちるわね…。」


クレイス「アキナが補助魔法を他人に付与することができるのは意外だったな。てっきり猪突猛進なパワータイプだとばかり思っていた。」


アキナ「なによ、そんなに意外?というか心外ね、そんな脳筋だと思われていたのかしら、あたし。」


クレイス「そういうわけではないが、出し惜しみするくらいなら最初に全力をかけて相手を仕留めに行くその戦闘スタイルのイメージが強くてな。」


アキナ「それは…単純に面倒なだけよ。あたし力はあるけど持久力がないの、だから長期戦になれば確実に不利になるわ。ああ戦うしかないの、あたしは。」


クレイス「ふむ、だがそれは、確実に相手を初撃で倒せる場合のみだろう。もし相手が初撃を躱したらどうするんだ?」


アキナ「…考えたこともなかったわね、今まではそれで問題なかったから…。」


過去に一度もその経験がない…それは単純にアキナの戦闘能力の高さを示しているようにも見えるが、裏を返せば反撃に対する耐性がないとも言える。


クレイス「なるほど…では一度、クロと手合わせしてみないか?」


アキナ「え、クロと?」


今まではその弱点が弱点として機能していなかった…しかし今度の旅は想定外のことも十分に起こり得る。

その想定外に対処する方法をアキナ自身に、やはり知ってもらわなければならない。


クロ「…。」


クレイス「旅に出る前に、克服できる弱点は克服してしまおう。今から時間は取れるか?」


アキナ「ええ、今日はコロシアムには行かなくていいし…。」


クレイス「なら決まりだ。王宮へと急ぐぞ。」


…。


王宮の敷地内に存在する大きすぎる程巨大な闘技場。

これほどの面積など不要とも思えるが、それはある意味で中央で戦う戦士たちのためであり、それを見守る観客のためでもある。


クレイス「ここなら全力戦闘をしても問題はない、特殊な結界を張ってあるからな。」


アキナ「あのコロシアムより大きいわね…。」


クレイス「無駄に広さだけはあるのだ、ここは。しかしそのおかげで周りを気にすることなく戦える。」


クレイス「クロ、準備はいいか?」


クロ「…ん。」


アキナ「あら、クロは紋章を持っていないの?」


クレイス「持っていないというよりは持てないのだ。…まあその理由も、戦えばわかる。」


アキナ「そう…。」


クレイス「勝利条件だが、相手が降伏するか気絶させたら勝利とする。」


クレイス「では両者位置に付け!」


クレイスの言葉を受け中央にて対峙するアキナとクロ。

アキナは魔装装甲グリンビット・ネイスを展開。

そして両手に双剣スピニード・ベリルを構える。

対するクロは普段と変わらず、無表情のまま立っていた。


アキナ「あんた、武器も持ってないみたいだけどほんとにいいの?」


クロ「…いい。」


アキナ「そう、まあいいけど。」


どことなく気の抜ける応答にアキナ自身も若干緩みかけるが…。


クロ「…ちゃんと、ころしにきてね。」


アキナ「え…?」


クロ「…ぼくも、ころしにいくから。」


その瞳の奥に潜む殺意をようやく理解したところで、戦いの火蓋は切って落とされる。


クレイス「それでは、始めっ!」


アキナ「っ!」


開始と同時にクロへと特攻するアキナ。


しかし目の前のクロの姿が一瞬にして消えたかと思うと、黒い影がアキナの後ろへと回り込んでいた。


アキナ「(くっ、いつの間に!)」


体を回転させ剣を切りつけようとしたがその影に触れることはできず空を切る。

影はその降った腕の中に潜り込むかのようにアキナに肉薄する。

そして鋭い刃のようなものがアキナを襲う。

一撃一撃、殺意を持ったそれが、確実にアキナの急所を抉ろうと迫って来る。

辛うじて避けたアキナは一度距離を取り、状況を把握しようとする。

そしてそのアキナの目に映ったものは…。


アキナ「(なに、あれ…。)」


クロ「…。」


四肢を地面に付けまるで犬のような姿勢のクロ。

しかしアキナが驚いたのはそこではなかった。

そのクロの手足が、まるで獣のようになっていたのだ。

おおよそ人間のものとは思えないほどそれは肥大化し、むき出しになった爪の先はとても鋭く、そこから生える体毛は黒く長く、まるで手首から先は全く別の生き物のようだった。

髪の奥に隠れた瞳は、赤く光るようにただただアキナを見据えていた。

状況を把握しようと一瞬足を止めたアキナであったが、その隙を逃すまいと再びクロが駆け出す。

そのスピードは並みの獣の数倍は速かった。

クロの気迫に気圧されたアキナは判断が遅れ、紙一重で回避したものの首筋に赤い線が。


アキナ「(本当に、殺しに来てるっ。このままじゃ殺られる!)」


先程までの、どこか油断のあった自分を捨て切り替えるアキナ。

しかしそこからもアキナは防戦一方であった。

クロの追撃を躱すだけで精一杯、時折攻撃を仕掛けるが、それと同時にいつの間にかクロが急所へと爪を伸ばしているため流れを断ち切ることができないでいた。

五分と立たずに疲弊し息を上げるアキナ、魔法を詠唱する暇すらない。

クロは攻撃の手を休めず、執拗にアキナの首を狙った。

そして集中力が切れたのか足がもつれ倒れこんでしまったアキナ。

その隙を逃さずクロは飛びかかり、無防備なその白い首を切り裂こうと爪を振るう。

アキナは限界の状態の中死を覚悟したその瞬間。


クレイス「勝負あり、そこまで!勝者クロ!」


クレイスの一言によりクロは完全に静止する。

ほんの数秒クレイスの勝利宣言が遅れていれば、その鋭い爪によってアキナは鮮血を撒き散らしていただろう。

それほどまでに緊迫した雰囲気であったが、それを感じていたのはアキナだけのようで…クロはいつもと変わらぬ様子でクレイスの元へと歩いていく。

既に手足は元の人間のものに戻っており、その殺意も完全に失せていた。

続いてアキナが立ち上がり、おぼつかない足で二人に近付く。


クレイス「どうだった、クロとの戦いは。」


アキナ「完敗よ、負けを認めることさえできなかったわ…。本当に死ぬかと思ったわ。」


クレイス「クロには事前に『勝負が決するまでは殺しに行くつもりで戦え』と言っておいたからな。」


アキナ「…だから、始める前にあんな事を言っていたのね。」


こくんと首を縦に振るクロ。


アキナ「それにしてもさっきのはなんだったの?クロの手足がまるで…。」


ここで初めてクロが素足だったことに気が付くアキナ。

迂闊にも程がある…些細な変化とはいえそれを見逃すなど、戦士としては致命的といっていい。


クレイス「それが、よく分かっていないのだ。」


アキナ「え?」


クレイス「…クロは元々王都近郊の森にいたのだ。」


クレイス「森の動物たちと共に暮らしていたいたところを、私が無理を言って引き取ったのだ。」


クレイス「そして共に暮らすうちに、先程のように手足が獣のようになることがあってな。」


クレイス「急ぎ医者を呼んで検査したが、原因は不明。」


クレイス「幸い、クロ本人の意思によってそれは制御できると分かり、クロの存在を危険視する者たちをなんとか説得した。」


クレイス「それ以来、必要な時以外はその力を使わないと約束し、共に過ごしてきた。」


クレイス「力の制御をより確実にするために特別に講師を呼び、訓練もした。」


クレイス「精神を鍛える意味もあったのだろうが、クロは難なく訓練をこなし、今の力を身に付けた。」


クレイス「とまあ話は長くなったが、要はまだ分かっていないのだ、この力に関しては。」


クレイス「クロの話によると、自分の中で気持ちを切り替えるとそうなるらしいが、それもあくまで本人の感覚に過ぎないからな。」


アキナ「そう…。強いのね、クロは。」


フルフルと首を横に振りその言葉を否定するクロ。


クロ「…レイのほうが、つよい。」


アキナ「え…。」


クレイス「ははは、私はただ攻撃されないようにするのが上手いだけさ。身体能力ではクロに劣る。」


クロ「…それが、やっかい。」


アキナ「あなた、そんなに強いのね。」


クレイス「なに、紋章の力あってこそさ。」


軽く笑い飛ばすクレイスだったが、それを聞いてアキナは底知れぬ恐怖を感じていた。

己が最強とは驕らずとも、それなりの実力者であると自負していた。

…が、今目の前で対話しているこの二人は確実にその上をいく。

果てが見えない…強者であることは疑いないが、まだその底が見えない…そのことがアキナにとって恐怖を齎していた。


アキナ「…。」


クレイス「ん、どうかしたか?アキナ。」


アキナ「ねえ、クレイス。しばらくクロを借りてもいいかしら。」


だが、恐怖を感じていることに甘んじてばかりもいられない。


クロ「…?」


クレイス「それはまたどうして。」


アキナ「今の戦いで身に染みたわ。たったの五分もクロの猛攻に耐えることができなかった。」


アキナ「持久力を身に付ける意味でも、訓練をつけてほしいのよ。」


それに、感じているのは恐怖ばかりではない…純粋に、己の戦士としての力量を試し乗り越えたいという欲求。


アキナ「クレイスにも頼みたいけど、仲間探しがまだ残ってるでしょ?それに、レット…だっけ?そいつが魔装装束を完成させるまでは時間あるんでしょ。だからお願い。」


クレイス「…ふむ、クロさえよければ私は構わないぞ。」


クロ「…いい、よ。」


アキナ「ホント!」


クロ「…ただ、おしえるとかは、できない。」


アキナ「戦ってくれるだけでいいの、それでなにか掴めるかも知れない。」


クレイス「よし、ならクロはしばらくの間、アキナに稽古をつけてやれ。」


アキナ「コロシアムのチャンピオンからも降りたし時間はあるわ。なんならうちに泊まりに来る?この前のシチューも気に入ってくれたみたいだし、またご飯作ってあげるわよ。」


クロ「…!」


クレイス「…お前は、本当に分かりやすいな…。」


アキナ「あたしもなんとなくクロの性格が見えてきたわ。じゃあこれからよろしくね、クロ。」


クロ「…ん、よろしく。」


こうしてしばらくの間、クロは移住してきたアキナの家族と共に世話になることになり…。

そして同時に、アキナの特訓が開始された。

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