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to decide  作者: 村瀬誠
第八章:来るべき選択、世界の行く末
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第一話:満ちる者、時の流れ来たれり

アストゥーリア「そういえば以前から疑問だったのですが…。」


???「んー?なになに、俺に質問?いいよー、なんでも聞いちゃって!」


アストゥーリア「…では、遠慮なく。今までにいくつもの世界を創造してきたことは存じていますが、それはどのようにして行っているのですか?」


アストゥーリア「その世界の行く末までは読み解くことはできませんが、ある程度の方向性は定められていますよね。」


???「うん、その考察は正しいよ。まぁ俺がここで素直に回答を述べてのいいんだろうけど…せっかくだし、アストゥーリアちゃんにちょっと考えてみてほしいな~。」


アストゥーリア「…素直に答えては頂けないのですね。」


???「だって、その方が面白そうじゃん?」


アストゥーリア「はぁ…。まぁいいですけど。」


???「ま、流石にノーヒントじゃあ解らなすぎると思うから、いくつかヒントを上げよう。」


???「まず一つはアストゥーリアちゃんも言ってた通り『作られた世界の操作はできない』ってことだね。ま、厳密に言うなら可能だけれど、それをやってしまうのはルール違反になってしまう。まぁそういった点もあるけれど、それだけでなく俺は俺の意思である程度の『自由性』を世界に持たせてる。」


???「そして二つ目だけど、これは書き手としてのエンターテイメント性かな。前にも話したけど世界ってやつは常に安定に傾く傾向にある。…どんなに苛烈で突拍子もなく出来損ないの世界でも、だ。だからこそ俺は世界に『意外性』を求める。」


アストゥーリア「…それ、ほとんど答えを言っているようなものじゃないですか。」


???「ありゃ、ちょっと喋り過ぎたか、失敗失敗。…んじゃあ、答え合わせといこうか。それだけ自信満々に豪語するんだ、素晴らしい回答を期待していいのかな。」


アストゥーリア「なぜそこでハードルを無意味に上げるのですか。それは私ではなくあなた自身のハードルを上げることにもなるんですよ?」


???「冗談だよ、なんとなく盛り上げてみたかっただけさ。…もうあの物語も、収束に向かっていることだしさ。」


アストゥーリア「さらりとまた気になることを言わないでください。話題に事欠かないのは結構なことですが、それでまとまりがなくなってしまうのは本末転倒ですよ。」


???「ごめんごめん、ちゃんとまた後で話すよ。…で、アストゥーリアちゃんが出した答えって、何?」


アストゥーリア「…要は、『きっかけ』ですよね。世界の方針を決める取っ掛りを世界に与え、そのあとはその世界の成り行きに任せる。何が起こるかは、経験則も踏まえてある程度は読めますが確証はない…といったところですか。」


???「おー、流石だねぇ~。アストゥーリアちゃんのその観察眼には敬服するよ。」


???「そ、その通り。俺が世界を創造する時は決まってその方法を使う。…漠然とあるその『世界』には何もない。生命もなければ物体と呼べるものすらない空っぽの世界…そこに俺は一つの『要素』を加える。」


???「今回の『to decide』の世界で例を挙げるなら…俺はあの世界に『勇者』の要素を加えた。ただそれだけさ、他に特別なことは何もしちゃいない、そこから世界は勇者の称号を与えるに相応しい生命体…まぁこれは毎度のことながら人間だな。人間を作り上げて、その中から『勇者』足り得る存在を見出そうとした…。」


???「けれどその段階で勇者なんて存在は存在し得ない。…その理由は、分かるよね?」


アストゥーリア「…勇者に倒されるべき悪役、ですよね。」


???「ピンポーン!そう、敵対する何者かがいなければ勇者という存在は成り立たない。だからこそ世界は『魔物』という存在を作り上げた。」


???「でも…残念ながら人間の搾りかすのような存在の魔物では、勇者という輝かしい称号を持つ存在には到底敵わない…そこで世界は次に勇者に匹敵する存在を確立させた。」


アストゥーリア「魔王…ディサイド。」


???「数多の魔物を統べ、その頂点に君臨する悪の象徴…この存在を固定のものとした。人間は長く生きられないからね、現存する勇者が死ねばその役目は次の世代へと移り変わる…けど魔王までそうなってしまうと勇者とのエンカウント率が下がってしまう。そうなると勇者という存在が希薄になっちゃうからね。」


アストゥーリア「よく出来ていますね。」


???「いいや、これはただの世界の習性さ。世界が安定に傾くのと同じ、世界はあるべきものを保とうとする。『勇者』という存在を維持するために世界が働いただけさ。」


???「今までに何度か『勇者』を要素として世界を創造したけど、みんなそうだったからね。ヒーローが活躍するために悪役を生み出しその存在を引き立たせる…大いなる正義は争いを生むからね、必ずその二つの存在はセットになるんだよ。」


???「…と、長々と話したけど、そろそろ本筋に戻そうか。」


アストゥーリア「いよいよ…ですね。」


???「ああ。俺たちが出しゃばったせいで時間軸的には延びたが、それもここまでだ。」


???「…っていうか、本来なら俺も、こんなに喋るつもりはなかったんだけどなぁ…。」


???「それも含めて、やっぱりこの世界は…失敗作だな。」


…。


スペルア「おい、こんな時間にどこに行くんだ。」


現在時刻午前零時。

どこまでも広がる荒地、スペルアの疑問が投げつけられその足音は鳴り止む。


ウェロル「…スペルアこそどうしたのだ。普段あれだけ人と関わることを避けているというのに。」


スペルア「とぼけんな。お前にはほとんどの奴らが無関心だった…俺だってそうさ。でもな…だからといって分かってないわけじゃねーんだぞ。」


ウェロル「はて…なんのことやら。私はただ、気分転換にこうして夜の散歩を嗜んでいるに過ぎないが?」


スペルア「アホか。見え透いた嘘ついてんじゃねーよ。…お前、消える気だろ。」


ウェロル「なんの根拠があってそのようなこと…。」


スペルア「俺が分からねーとでも思ったのか?」


ウェロル「…。」


スペルア「…別れの言葉くらい、かけてやらねーのか。あいつらに。」


ウェロル「ふっ、先程お前も言ったであろう。誰も私に関心を持っていないと。…そのような者がひっそりと居なくなったとしても、気に止める者はいるまい。」


スペルア「けど、俺はこうしてここに来たぜ。」


ウェロル「それも自然の摂理だ。…私とお前は、『似ている』からな。」


ウェロル「そのことに気が付くことができたのはつい先日のことだ。…なるほど、これがお前の抱いていた感情なのだな。」


ウェロル「途方も無く感じる虚無感…消して満たされることはなく、そして自身の消滅さえその境遇故に望むことすらできずただただ無意味に無感情に過ぎゆく日々…。」


ウェロル「私が最期に抱いた疑問はそれであったが…その答えはすぐに理解した。」


ウェロル「いや、この問いに対する明らかな回答等ありはしない。私が理解したのは…ただそういう存在であるということだけ。」


ウェロル「お前もディサイド様同様…この世に縛られた存在。その在り方を変えることは、どう足掻いたところで決して覆りはしない。」


スペルア「…それは、今からこの世から解放されるてめぇの、俺に対する嫌味か?」


ウェロル「とんでもない。むしろ俄然興味が沸く。そこまで理解していながら何故絶望に身を染めていないのか。」


スペルア「さっき『最後に抱いた疑問』って言っただろ、あれは嘘か?」


ウェロル「…いいや、虚言ではないさ。私に呼びかける『欲求』の望むものは、それで最期だった。今のは、純粋な私自身の疑問だ。」


ウェロル「どこまでいっても私の探究心は尽きない。…しかしそれはもう必要のないもののようだ。」


スペルア「…せめてディサイド様が目覚めるまでは留まれないのか。」


ウェロル「それは不可能だ。これでも限界まで引き延ばしたのだよ?…だが、私もある意味ではこの世に縛られた存在。私が存在する意味には逆らうことはできない…。」


ウェロル「まあこうして君が最期を見取りに来てくれたのだ。それだけで十分だ。」


何もかもを諦めてしまっているようなその様子に理不尽を覚え拳を握り締めるスペルア。

しかしその不満を口にすることはなかった。


スペルア「…どうやら、無駄なようだな。」


ウェロル「それは、分かりきっていたことではないのか?」


スペルア「馬鹿だな…それが分かっていた上で、こうして話してるんだろ。」


ウェロル「ほぅ…ここでまた新たな事実が発覚したな。君は所謂『ツンデレ』と呼ばれる属性を持ち合わせていたのか。」


スペルア「アホか、俺がそんなことしてなんになるんだよ。」


ウェロル「…確かに。ふむ、そう考えると君の行動には疑問が残るな。」


スペルア「…それこそ単純だろ。まあお前には分からねーかのしれないがな。」


ウェロル「やはり、似た存在とは言え別人であることには違いないな。全く同じだとは定義付けられない。」


スペルア「当たり前だ。じゃなきゃこうしてお互いに存在してたりしねーよ。」


ウェロル「まったくだ。…それで、スペルア。君の目的は果たせたのかな?」


スペルア「あ?目的だぁ?」


ウェロル「先程の疑問にも繋がる部分はあると思うが…それは置いておくとしても、君がただ意味もなく私を見送りになど来ないだろう。」


ウェロル「そこに何らかの意味、あるいは意思があるからこそ君は今ここにいるんじゃないか。」


スペルア「…その答えはさっき出ただろうが。」


ウェロル「…そうであったな。私がそれを理解しようとしない限り、恐らく私の望む回答も得られないのだろう。」


スペルア「それでいいのかよ。分からないことを分かりたいんじゃねーのか、お前はっ。」


言葉に怒気を孕む。

その怒りの矛先はウェロルに対してなのか、それとも自身に対してなのか…。

恐らく、その両方であろう。


ウェロル「もう十分なのだよ、これ以上解を得る必要はない。」


スペルア「そこで諦めていいのかよ。」


ウェロル「ならば逆に問うが、貴様はなぜこの世から解放されたいと願わない。」


スペルア「…っ。」


ウェロル「…恐らく、願ったことはあるのだろう。しかしそれを実行に移すことはなかった…そうであろう?」


その指摘に対し、スペルアは反論をすることもなくただ眉をひそめただけだった。


ウェロル「ならば私に諦めるなというのはお門違いなのではないか?私はただ私の在り方に従っただけのこと…スペルア、貴様もそうであろう。」


スペルア「…そうだな、その通りさ。だが、それでも諦めて欲しくはなかった。」


ウェロル「それは何故?」


スペルア「答える訳ねーだろ。こんなの醜すぎて、俺らしくねぇ。」


スペルア「俺はいつだってスマートでありてぇんだよ。」


ウェロル「…らしいな。」


互いが互いを再度認識したところで、ウェロルは改めて口を開く。


ウェロル「…もうそろそろいいか。いつまでもこうしてこの世に留まり続けるわけにもいかぬ。」


スペルア「…気付いた、のか。」


ウェロル「あからさまとは言えないにしても、それなりのヒントはあった。スペルアの性格まで考慮した結果だ。導き出されるのにそう時間はかからないさ。」


スペルア「なら、分かるだろ。俺が今望むことが。」


ウェロル「残念だがそれに答えることはできない。例え私自身がそれを望もうとも、それは決して叶わぬものであるからな。」


それが決別の言葉であるかのようにウェロルは背を向ける。

しかしスペルアはそれでもまだ言葉を続ける。


スペルア「理解している。だがそれでも俺はそれを求めてここへ来た。…お前は俺を拒絶するのか。」


ウェロル「己の欲を満たせないからといって、私に求めるな。ここまで付き合ってやったのが私の優しさだとは思わないのか。」


冗談を言うように、軽い口調で返すその顔はなびく前髪でよく見えなかった。


スペルア「…それは感じている。だが、自分でも驚くくらいだ。こんなにも弱い自分が俺の中にあるなんて…思いもしなかった。」


顔を伏せ、搾り出すように言葉を放つスペルアに、ふっと笑ってウェロルは答える。


ウェロル「最期の最期まで、世界というものは未知に溢れているな。この世の全てを知り尽くすことは永久に叶わないのだろう。」


スペルア「なら、もっとここに居ろよ。お前だって…それを求めているはずだろ。」


ウェロル「そのことについては散々議論をし、結論が出たであろう。」


ウェロル「まったく、お前にそんな一面があるとは意外すぎて少々困惑しているぞ、私は。」


スペルア「…うるせー。」


ウェロル「…だがまぁ、その代わりと言ってはなんだが、一つだけお前に言っておこう。」


決してこちらを振り返らないウェロルの体に黒い霧がかかり始める。

というよりもそれは、ウェロル自身の肉体が霧と化している…ついにその時が訪れる。


ウェロル「『ありがとう』。誰の目にも留まらず最期を迎えるところであったが…スペルア、お前がいてくれたおかげで安心して逝ける。」


スペルア「…。」


最早スペルアは言葉を発しなかった、ただただ消えゆく目の前の存在を見つめていた。

その瞳に、その存在を焼き付けるように。


ウェロル「私がいなくなっても、魔界に大きな変わりはないだろうが…まぁ、もし相応の危機が訪れたのだとしたら…。」


ウェロル「その時は、お前が私の代わりを務めてくれ。」


スペルア「…ああ。」


短く、小さな返答であったが、それは確実にウェロルへと届いた。

笑みを浮かべるその頬にひと雫の涙を流し、その体は全て霧となり空へと消えていく。

どこまでも、どこまでも遠く…果てしなく舞っていく。

立ち尽くすスペルアはそれを見送るように…。

ただただ空を、見上げていた。


…。


メルティナ「お疲れ様です。…その様子だと、事は上手く運ばなかったようですわね。」


沈む足取りで向かったのはディサイドの書斎。

そこにあるベッドの上には、未だ眠りに就いたままのディサイドの姿が。


スペルア「…元から分かってたことだろ。あいつを引き止めることなんてできねーって。」


メルティナ「正直に言って…意外でした。あなたがこのような依頼を引き受けてくださるとは。」


スペルア「別に…。暇だったからな。」


メルティナ「…そうですね。いつだってあなたは、満たされないことに喘いでいる。」


スペルア「…何が言いたい。」


メルティナ「いいえ、今のは失言でしたね。ともあれありがとうございます。ファウスにこのことがバレた時は少々宥めるのに時間がかかりそうですが。」


スペルア「それは俺たちの都合の話だろ。あいつにとっては最期の時間なんだ、あいつの好きにさせてやればいい。」


メルティナ「…それを言うのであれば、彼の意思を尊重し、その時まで一人にさせてあげるべきだったのでは?このようなことを頼んだわたくしが言うのもなんですが。」


スペルア「いや、あれで正解さ。…結局はどこかで欲しているんだ。どうでもいい、些細なことを。」


メルティナ「やはりあなたに依頼して正解でしたね。わたくしでは、彼の望むものは…きっと与えられなかったでしょうから。」


スペルア「けど俺だって全てのことをしてやれたわけじゃない。…ほんと、なんでこのタイミングだったんだ。」


床に放り出されていた視線はベッドに横たわる人物へと向けられる。


メルティナ「それはいくら悔いても仕方のないことです。起きてしまったことは、決して覆すことはできないのですから。」


スペルア「まあ…な。」


自分に語りかけているようにも聞こえるその言葉に同調し、それを区切りとして静寂が訪れる。

メルティナは背筋を伸ばして畏まったまま椅子へ座りディサイドを見つめ続け…。

そしてスペルアもまた、その身を襲う喪失感からその場を動けずにいた。

ぐるぐると…取り留めのない思考がスペルアを支配する。

いずれこうなってしまうことは分かりきっていたはずだが、それでも実際にその時が訪れ自身がこんな想いを抱くこととなるなど、想定していなかった。

自分は最も、その感情に疎い存在であると…思い込んでいたからである。

誰のせいでもない…強いて言うならば世界がそれを彼に強要した。

しかし彼はそれに抗うことなく使命を…自身が存在する意味を全うしたとして消えていった。

それを言葉で形容するならば…やはり『死』であろう。

せめてもの救いになったのかは、今となっては確かめようもないが…消え行く最期のあの姿を見て、己がしたことが間違いではないと…そう気付た気がした。


メルティナ「やはり…失敗でしたね。あの者を仲間に引き入れるのは。」


そんなスペルアの感傷は、ポツリと呟かれたメルティナの言葉によって遮られる。

しかしそれを耳にして感じたことは、恐らくその言葉を発したメルティナ自身も同じであろうことをスペルアは理解した。


スペルア「…ああ。けどお前の場合、自分だけじゃないっていうか…むしろそっちの方が割合的に大きいんだろ?」


メルティナ「ええ。…わたくしはいつも、いつまで経っても…ディサイド様の望むものを与えられない。結局は、何もできなかった後悔に苛まれるのです。」


スペルア「耳障りのいいことを言うが…その思いは、ちゃんとディサイド様には届いてると思うぜ。」


メルティナ「…むしろ、そうでない方が良かったのかもしれませんね。」


スペルア「傍若無人な独裁者の方が良かったってことか?俺は嫌だぜ、そんなディサイド様。」


メルティナ「分かっています。ディサイド様が今のディサイド様だったからこそ、こうして巡り会えたことも全て理解しています。…ですがやはり。」


スペルア「さっき自分で言ったんだぜ?『起きてしまったことは、決して覆すことはできない』。…なら、今起こし得る範囲で行動するしかないだろ。自分の可能性を押し殺してるだけなんじゃねーの、ディサイド様を言い訳にしてよ。」


メルティナ「…それは否定できません。結局のところ、わたくしもそういった意味ではディサイド様と何ら変わり無い…。それに心地よさを感じてしまうことに罪悪感を覚えながらも、それでもそれに浸ってしまう。」


スペルア「ま、それはそれでいいんじゃねーの?自分の求めるものが…理想の形とは少し違っていてもすぐ側にあるってのは。羨ましい限りだぜ。」


メルティナ「お側でお使いしているからこそ、心の揺れ動きに敏感とも言えますがね…。」


スペルア「それこそ俺は、あるだけましだと言えるぜ。…俺からするならな。」


メルティナ「そうですわね。そういった意味で言えば、あなたには感謝しなければなりません。」


スペルア「別に感謝なんかいらねーよ。…結局、なんだかんだ言ってここに居着いているのも俺の意思だ。」


スペルア「…それに俺にとって感謝は同情と同義だ。哀れみを向けられるくらいならいっそ解放して欲しいもんさ。」


メルティナ「それは、わたくし自身の言葉ではっきりと言えます。それはディサイド様と共に迎えてくれと。」


スペルア「ばーか、冗談に決まってるだろ。本音としてさっきの言葉は本心だが、その覚悟はとうの昔に済ませてあるっての。」


メルティナ「そうですか。それを聞いて安心しました。」


今が今であるということを、それが過去と変わらぬことを改めて確認する。


スペルア「そういや、他の連中にはいつ伝えるんだ?」


メルティナ「いつまでも隠し通せるものでもありませんし、下手に長引かせる必要もないと思っているので、明日中に全員には…と。」


スペルア「ふーん。…なぁ、それも俺が引き受けようか?ファウスとかダダこねそうだし。」


メルティナ「お気遣いありがとうございます。ですが、一時の間ディサイド様のお側を離れることに抵抗はありませんよ。」


スペルア「あっそ。まぁメルティナがそれでいいならいいさ。んじゃそろそろ行くな。」


壁から背を離し、その背をメルティナへ向けドアノブに手をかける。


メルティナ「…本当に、ありがとうございました。状況が状況ではありましたが、その中での最善を…あなたは尽くしてくれました。」


スペルア「別に。俺は俺で新たな発見があったしな。…それがいいと言えるかどうかは微妙なところだが…まぁ。」


スペルア「悪くもない…って感じだ。」


メルティナ「…そうですか。」


閉まるドアの音、遠ざかっていく足音。

後ろ姿だったため、その表情を確認することはできなかったが…。

悪くない…その言葉通り彼のその心の内はきっと。

悪くないものだと、そんな確信があった。


…。


ファウス「…。」


メルティナ「あの、ファウス?」


その呼びかけに対し腕組みをしたままぷいっと顔を逸らすファウス。

眉を潜めた険しいその顔つきになることは想定していたメルティナであったが、予想にないその対応に戸惑う。

翌日、スペルアに話した通り昨夜の出来事を他の結魔へと伝えまわっていた。

多少面倒なことになると予想されていたファウスに伝えた時点で全ての結魔へと伝達は終わった。

そしてその予感通り面倒なことになってはいるのだが、それはメルティナが想定していたものとは異なっていた。

ファウスの性格から考えるに、秘匿していたことを声高に非難されるとばかり思っていたが、実際は一切騒ぎ立てることもなく最後までメルティナの言葉を聞き届け、そして聞き終わる頃には今の仏頂面となっていた。

説明の最中、いつ浴びせられてもおかしくないその罵声に構えていたメルティナも拍子抜けし若干しどろもどろになっていたのはここだけの話。

完全に不意をつかれた形となり、現状にどう対処することが最善か分からず困惑するメルティナ。


メルティナ「黙っていたことは謝ります。…あなたがこういったことに関して人一倍敏感だということは理解していましたが、それが彼の望んだ答えでした。」


メルティナ「わたくしは、それが間違いだったとは思いませんが…しかしあなたを傷つけてしまったことも事実。…本当に、ごめんなさい。」


ファウス「別に謝らなくていいよ、怒ってるわけじゃないし…。…ま、怒ってはいるけど、それはメルティナにっていうより何もできることがなかった自分に対してだよ。」


ファウス「スペルアに話したのはいい判断だったと思うよ?一番ウェロルのこと分かってるのはスペルアだと思うし。…でも、わっちだってウェロルと仲良くしようとしていたのに…それなりに、仲良くなったつもりでいたんだけど…やっぱりそれは自分の思い上がりだったんだって気付いただけ。」


ファウス「…悔しいんだよ。わっちがここに居る必要がないんじゃないかって思えて。わっちの思いは結局、ウェロルには伝わってなかったってことでしょ。」


ファウス「ううん、伝わってはいたんだと思う。…けどそれをウェロルは受け取らなかった。それだけ。…それだけ、なんだけど…。」


メルティナ「ファウス…。」


ファウス「…なんでみんな、一人になろうとするの?なんでみんな、一人でなんとかしようとするの?…そうやってみんながみんな一人になっちゃったら、わっちはもう…っ。」


いつの間にか膝に置かれていた手は強く握り締められ、そこに雫が落ちる。


ファウス「最期だからって、その人のためになることをしてあげたいって思うのに…何にもできないんじゃ、何もしようがないじゃん…。」


ファウス「自己満足だってことは分かってる。みんな一緒に仲良くしたいっていうのはわっちのわがまま…でも。」


ファウス「それって、悪いことなのかな。みんなからしてみればやっぱり、鬱陶しいだけなのかな?」


止めどなく溢れる言葉と涙。

小さく見えるその存在に手を伸ばしたメルティナであったが、その手が彼女に触れることはなかった。

それは今、彼女が望んでいることではないと理解したから。

その行動はそれこそ自己満足であると、気付いたから。


メルティナ「…わたくしは、あなたが必要ですよ。」


ファウス「…。」


メルティナ「他の誰でもない、わたくし自身がそう感じるのです。…それだけでは、駄目ですか?」


ファウス「…ううん。」


俯いた顔を横に振り、そして正面にいるメルティナを捉える。

僅かに腫れた目元…しかしその言葉は今ファウスが最も欲しているものであった。

故に…笑う、それをくれた彼女に。


ファウス「嬉しいよ。」


一言、言葉を添えて。


…。


メルティナ「…ここのようですわね。」


ファウス「そっか、ここが…。」


あの後ファウスから申し出があり、二人は昨夜ウェロルが最期を迎えた場所へと来ていた。

ファウスの個室を出たあたりで、何故かばったりとスペルアに出くわし情報を入手できたのは大きい。

魔力の残り香すらも感じ取ることはできなかったが、ファウスはその地面にしゃがみ土を撫でる。


ファウス「メルティナやスペルアがしてくれたことだから、多分ちゃんとしてあげられたんだろうけど…でもやっぱり思っちゃうよね。きちんと満足して消えることができたのかって。」


メルティナ「…やはり、心残りですか?」


ファウス「んー、どっちかというとわっちの不完全燃焼、って感じかなー。…あーあ、自分がこんなに自分勝手なんて思ってもみなかったよ。」


パンパンと、手に付いた土を払いながら立ち上げるファウス。


メルティナ「あなたのそれは、悪気があるわけではありません。…いえ、むしろ本来は長所と呼べるものですよ。」


ファウス「でもさ、『本来は』なんだよ。ここだとほんと、なーんにも役に立たない。あの子たちといるとそうでもないんだけど…それがある分余計に、みんなとの繋がりが希薄に感じちゃうんだよね。」


メルティナ「…元ある能力がそれぞれ長けていますから、他人の介入が煩わしくもあるのでしょう。」


ファウス「ま、そんな中でも適材適所はあるからそういった意味でそれぞれでできることはあるんだけど…でもそれってやっぱりあくまでもそれぞれなんだよね。一丸となってじゃない。」


メルティナ「無理にまとめあげなくても良いのですよ。ディサイド様も仰っていましたが、彼らは彼らなりの強さを持っていますから。」


ファウス「それは…分かってるんだけど、やっぱり悔しくてさ。自分がそう作られたからってのもあるとは思うんだけど、それでも、みんながみんな心から笑えたらいいなーって。…それは間違いなくわっちの本心だから。」


メルティナ「…ええ、分かっています。」


寂しげな横顔を見せる彼女はどこか儚く…けれども、その存在を強く放つ。

それが、ここにいる意味だから。

そうあることでしか、生きられないから。


ファウス「さーってと!ごめんね、付き合わせちゃって。」


メルティナ「構いませんよ。隠し事をしていたわたくしが言うのもなんですが、心の整理は付きましたか?」


ファウス「うん。バッチリとまではいかないけど、でもウェロルは満足して逝けたと思うからさ。」


メルティナ「…分かるのですか?」


ファウス「嫌な匂いがしないからね。怨念とかって結構最期にいた場所にこびり付いてたりするんだけど、そういうのはなかったから。」


ファウス「あと、もう一個…ごめんね、メルティナ。」


メルティナ「…なぜ謝られたのでしょう?」


ファウス「ディサイド様のこと考えて不安なはずなのに、わっちったら自分のことしか考えてなくて…。ほんと、いつまでも成長しないなー。」


メルティナ「ああ、そういうことですか。…確かに不安はあります。ディサイド様に不安を抱かせることもそうですが、それを鎮めることができるかということも不安ですし…。」


メルティナ「ですが…もしそれで助けを求めたとしたら、あなたは手伝ってくれるのでしょう?」


ファウス「…うん、もちろんだよ。」


小さく力強く呟かれたその言葉は空へと溶けていく。

その存在する意味を完遂したウェロルは消え、この世を去った。

彼は求め続けた。

求めることを、求め続けた。

全ての終わりを察しても、尚もそれを求め続けた。

果てのない、それが永久に続くかと思われていたが…。

ここで一旦の終止符を、彼は打たざるを得なかった。

永遠に続く世界ならば、また彼が現れることがあったのかもしれない。

しかしこの世界はもはや、終わった世界。

…終わりへと向かうことを、定められた世界。


…。


そしていよいよ、彼が目覚める。

どれほどの闇の中を泳いでいたのだろう。

深く深く、あまりに長い間その闇に捕らわれていた。

だからその視線の先にある風景が見慣れたものであると、すぐには分からなかった。

しかしそれも一瞬の出来事。

二、三回瞬きをする内に、その光景があることが不思議ではないことに気が付く。

そして、その傍らに寄り添う者がいることにも。


メルティナ「…お目覚めになられましたか、ディサイド様。」


覗き込むようにして安否を確認される。


ディサイド「ああ…。」


まだ思考がまとまらない、それは自分の思考からくるものではなく、恐らく条件反射。

しかしその反応が間違いではないと後から理解する。


メルティナ「ディサイド様。改めましていくつかご報告がございます。」


ディサイド「…言ってみろ。」


眠っている間の出来事、それも様子から察するに急を要することなのだろう。

だから、ある程度の無茶な展開を、この時は予想していた。

しかしそれは、次に放たれた言葉によって全て打ち砕かれた。


メルティナ「ディサイド様が倒れられてから現在までに、約二千三百年が経過しております。」


淡々と語られる事実、その衝撃にディサイドの思考は再び停止した。

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