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to decide  作者: 村瀬誠
第七章:揺らぐ定め、崩壊の兆し
24/30

第二話:世界を創りし者の使者の訪問

ディサイド「…?」


メルティナ「ディサイド様…?どうかなさいましたか。」


勇者クレイスとの激闘を迎えたあの日から一ヶ月あまりが経とうとしていた。

魔界にも人間界にも…それぞれに平和が戻り始め日常が訪れていた。

だがそんな中、ディサイドは自分の中にある力が僅かに膨れ上がるのを感じた。


ディサイド「(何だ、この違和感は…。)」


それはディサイドにとっても初めての異変であり、『それ』が起こっていることに気が付くのに時間を要したのは仕方がないことなのかも知れない。


ディサイド「(…違和感の正体は掴めないが、確かめる必要はありそうだな。)」


ディサイド「メルティナよ、地下へ行くぞ。」


メルティナ「は、はい。」


その違和感を感じ取ることができるのはディサイドだけ…一人状況を把握できないメルティナだったが、その言葉に逆らうこともなく、いつものようにディサイドの後ろに付いていった。


…。


メルティナ「闇の塊に、何か異変でも起きましたか。」


ディサイド「…それを、これから確かめるのだ。万が一非常事態が確認できた場合、お前は速やかに他の者へ伝えるのだ。」


メルティナ「…かしこまりました。」


緊張が身を包もうとする中、扉を開く。

見えてくるのは、その一部分が露出し鼓動に似た音を響かせる巨大な球体。

その内に含まれるエネルギーは膨大であるため、原則としてここへは人間、及び魔族や魔物であっても立ち入ってはならない。

瘴気に当てられ人間は灰となり、魔族や魔物は逆に取り込まれてしまう危険があるからだ。

結魔は特例として最深部の扉付近まで接近することが許されているが、メルティナはその実物を目の当たりにしたのはこれが初めてである。

…『それ』を生で見た瞬間に感じたのは、体が硬直するような未だかつて感じたことのない恐怖。

表情にそれが出ることはなかったが、嫌な汗が頬を伝う。

目は、なんとかそれを認識しようと足掻くが到底捉えきれずに釘付けになる。

おどろおどろしさ、禍々しさ…人間の負の感情をまとめあげるだけで、まるで意志を持った化け物のような存在感を放つ。


ディサイド「無理はするな、お前の身の安全が第一だ。」


メルティナ「…問題ありません、確認を。」


ディサイドの一言により我を失っていたことに気が付いたメルティナ…取り込まれるというのは、何も物理的な話に限った事ではない。

魔の種族は、魅入られてしまうのだ…闇の塊に。

自らを生み出した母であり絶対神…それに逆らうことは決して容易ではない。

メルティナであっても、ディサイドに対する絶対の忠誠がなければ…ディサイドの言葉程度では我を失ったまま、闇の塊へと誘われていたであろう。


ディサイド「…。」


メルティナの無事を確認し、無言で闇の塊の前へと立つディサイド…より近くにその存在を感じることで闇の塊の状態を把握しようと試みる。

…が、ディサイドが感じた僅かな変化とは、常に感じているものと同じであった。

闇の塊の中のエネルギー量は常に一定ではなく、その瞬間を生きる人間の負の感情の度合い、数によって決まる。

そういった意味で、闇の塊は常に変動し続けている…今回ディサイドが感じたものも、普段と何一つ変わらないものであった。


ディサイド「闇の塊に、これと言った異常はないようだ。」


メルティナ「…そうですか。」


どうしても言葉数が少なくなってしまう、少しでも気を抜くと意識を持っていかれそうになる…ディサイドに答えたいという感情とで揺れ動くメルティナ。


ディサイド「(だが…なぜだ。なぜ私は違和感を感じた。決して、このタイミングで負のエネルギーが僅かに増大しても何の不思議もない。)」


ディサイド「(私の気のせいであるならばそれに越したことはないが…どうにもまだ、違和感を拭えない。)」


ディサイド「メルティナよ、お前の意見を聞きたい。今こうして闇の塊を目の前にして、何か感じるものはあるか。」


メルティナ「…お側に近寄っても?」


ディサイド「構わん。」


ゆっくりと、その足を踏み出し闇の塊へと近付く…一歩踏み出すごとに動悸が激しくなり恐怖が己を支配しようとする。

…それを感じ取ったのか、ディサイドは。


メルティナ「っ…。」


ディサイド「…私には、こうすることしかできないが。」


メルティナ「…十分にございます。」


繋がれたその右手を見て、その感触を確かめる。

自分はここにいる、ディサイドは隣にいる…と。

恐怖の内から暖かい光が差し込み落ち着きを取り戻すメルティナ…一つ大きく息を吐き、その冷静な眼差しで闇の塊と対峙する。

…全ては、ディサイドのために。

この行動に何の意味があるのか、こうして神経をすり減らすほど圧倒的な威圧感を放つ物体を前にして、何を感じるというのか。

ディサイドのようにそのエネルギー量を感じ取れるわけでもない、目の前にしてその身に感じるのは恐怖しかない。

いくらディサイドが隣にいるからといってもその感情が消えることはなく、むしろ時間が経てばより深くその恐怖は刻まれていく。

だがそれでもメルティナは、ディサイドのため自らの全てを捧げると誓った…見つけることの出来たその答えがどんなに小さいものであっても、それがディサイドの求めるものであるならばなんとしてもその答えを見出したい…ただその一心で、闇の塊を見つめる。

一旦は落ち着きを取り戻した表情もすぐに険しくなり、握る手が強くなる…呼吸も荒くなっていくが、それでもなお何かを掴もうと足掻く。


ディサイド「もう十分だ、体調が優れないようなら体を休めるといい。」


次第に焦りを見せ始めたメルティナをディサイドは無理やりこちらを向かせ制止する。


メルティナ「いえ…まだ、何も…っ。」


すっかり怯えた表情になり今にも崩れ落ちそうだったが、残る気力を振り絞り震える足で体支える。


ディサイド「よいのだ。お前が何も感じないというのであれば、それが答えだ。」


メルティナ「ディサイド…様。…申し訳、ありません。」


己の未熟さを痛感しながら膝を付くメルティナ…ディサイドはその身を抱え一旦その場を引き上げた。

そしてメルティナの自室へと運びベッドへ寝かせる…限界まで消耗したのだろう、荒い呼吸の音だけが部屋に響く。

当然のことながらその身を案じるが、この時ディサイドはもう一つの懸念を抱いていた。


ディサイド「(…メルティナであっても、異変を感じ取ることはできなかったか。)」


それは、なぜ今このタイミングで違和感を感じたか…その理由である。


ディサイド「(闇の塊から感じる波動はいつもと変わり無い…そのエネルギーの変動も通常のものと同じ。…ならば何故私は違和感を感じた。)」


確信があるわけではない、むしろ普段何気なく過ごす日々の中での僅かな変化…それは取り立てて騒ぐようなことでもなく、日常にまじるもの。

しかしそれが逆にディサイドの不安を掻き立てる。


ディサイド「(異常はない、最強の勇者が現れた後とは言えそれは変わることはない。…勇者?)」


ふと出たその単語のあり方を…ディサイドは思い出した。


ディサイド「(そうだ、例え歴代最強と言えど、これまでに私は常に正常であった…『世界』は正しく動いていた。)」


ディサイド「(ならばこれは外部からの干渉…?いや、それは『あの世界』におけるタブーだと記憶しているが…。)」


ここまでの思考の中で、ディサイドは最もありえない選択肢が浮かんできた…それは本来起こりうるはずのない事象、なにより、それを公言したのは『あの人物』なのだから。

しかし考えつく中で、先程感じた違和感の説明をするならばそれしかない…ディサイドはその事実に辿り着いてしまったのだ。


ディサイド「(…馬鹿な、ありえない。そんなことが、あってはならない。だが…。)」


認めたくはない…それを認めてしまえば、それは己の存在理由がなくなるからだ…今起きていることが事実だとするならば、もう…『なんでもあり』だ。

生まれる不安、焦燥感…汗をかく己の手を見つめ、そして覚悟を決め決断する。


ディサイド「(確かめに行かねば…人間界へと。)」


その拳を強く、強く握り締め魔法を発動させる…その体は小さく渦巻く闇に飲まれその場から消えた。


メルティナ「…ディサイド、様。」


うなされる中呟いたその言葉は…ディサイドに届くことはなかった。


…。


ディサイド「…っ。」


目の前に広がるのはいくつもの大きなクレーター。

そこにかつて存在していた建物は軒並み消し飛ばされ、抉れた地面が顔を見せていた。

遠くの方で悲鳴が聞こえる…だがそれ以上の爆音が全ての音をかき消す。


ディサイド「(なぜ、なぜだ…っ。)」


最悪の予兆が的中し、ディサイドは呆然と立ち尽くす…その拳は固く握られており、湧き上がる理不尽を抑えようとする。


ディサイド「(…一刻も早く、止めなくては。)」


ここで棒立ちになっていても事態は悪化する一方…ディサイドは己を奮い立たせ爆音が響く方へと飛び立つ。

…宙に浮かび巨大な高エネルギー弾を地面へ叩きつける人物が視界に入る。

その後ろ姿には見覚えがあるが、ディサイドはそれを認めたくはない。

だが、ディサイドの気配に気付き振り向いたその人物は、現在進行形で破壊活動を行っているとは到底思えないほど落ち着き払った声で。


アストゥーリア「…来ましたか。」


まるでディサイドが来ることを予め知っていたかのように、小さく一言呟くのであった。


ディサイド「なぜだ…なぜあなたが、この世界にいる。」


アストゥーリア「理由は語らずとも明白でしょう。私が今行っていることが全ての答えです。」


眼下を見下ろすその先には…先程見た光景と全く同じく、巨大なクレーターの跡が。


ディサイド「…この世界を、見捨てるということか。」


アストゥーリア「…元々、この世界に見込みはありませんでした。ですが例外として、私たちを認識できたあなたがいたからこそ、今までこの世界はあり続けました。」


アストゥーリア「ですがもう…それも限界です。確率の低い偶然に、いつまでもあの方は構っていられませんから。」


ディサイド「存在理由が…何一つとして残っていないということか。」


アストゥーリア「はい、この世界も、他の世界同様大きく違った点は見受けられない上に、互いに不可抗力とは言えタブーを犯した…それでもこの世界を存続させたのは単にあの方の温情。…感謝を述べろとは言いません、ですがこれは決定事項です。大人しく従ってください。」


ディサイド「…。」


襲撃を再開するでもなく、ディサイドを消そうとするでもなく、アストゥーリアはその答えを待つ。


ディサイド「…私は、私自身を呪っている。世界のために世界があり、そこに生きる我は、ただの駒に過ぎない…。それは誰よりも、私が理解している。」


アストゥーリア「そうですね。あなたはこの世界によく尽くしてくれました…それが例え強制されたものであっても、ここまで世界を繋げたのは間違いなくあなたです。」


アストゥーリア「そのことについては感謝致します…ですが。」


ディサイド「既に判決は下された、どう足掻こうとも何も変わらない…。」


アストゥーリア「…そこまで理解しているのでしたら、そこで大人しく見ていてください。…この世界が終焉を迎えるまで。」


踵を返し、襲撃を続行するべく空高く掲げた手の平にエネルギーを凝縮する。

そして、ゴミを投げ捨てるかのように…それが当たり前であるかのようにエネルギー弾を投下する。

…だが、それが地面に激突することはなかった…それを漆黒の刃で一刀両断した、ディサイドによって。


アストゥーリア「…正気ですか。今この場で私の行為を邪魔立てするということは、あの方に逆らうということですよ。それを理解しているのですか。」


ディサイド「私は…この世界が憎い。」


アストゥーリア「…。」


ディサイド「生きとし生ける者全ての運命はこの世に生を受けた時から定められており、それに抗うことはできない。」


ディサイド「その運命に疑問を持つことすら許されず、ただ世界を循環させる為の道具として一生を終える…。…だが。」


ディサイド「今ここで散っていった者たちは、本来であればその生涯を全うすることができた。生涯の伴侶を得、子孫を産み後世へと未来を繋ぐ…それを断ち切ったのだ。他ならぬ、あなたの手で。」


アストゥーリア「だからどうしたというのですか。あなたがそれに激怒したところで私には何の障害にもなりません。ただ己の力量を痛感するだけです。」


ディサイド「…それでも、私はこの世界に生きる者全てを守ると誓った。例え実現不可能な絵空事だとしても…その途方もない夢を現実のものとする事しか、今こうして私が存在する意味がない。」


アストゥーリア「…ならば、お望み通り消してあげますよ。世界の終焉を見届けられなかったことを、後悔させてあげます。」


それまで淡々としていたアストゥーリアの表情が変わる…目を細め戦闘態勢に入る。

ディサイドも、刃に変えた自身の右手の先端をアストゥーリアへ向ける。

両者共に構え、緊迫した雰囲気の中感覚を研ぎ澄ませる。

どちらが先に仕掛けるか、初撃からどう次に繋いでいくか…あらゆるパターンを想定し『勝利』までの過程を導く。

探り合いの中先に仕掛けたのはアストゥーリアだった。

水を泳ぐ魚のように空中をするりと滑り肉薄する。

そして突き出された指を躱し背後に回るディサイド。

が、アストゥーリアも瞬時に体を反転させたため反撃の一歩は踏み出せなかった。


アストゥーリア「…気が付きましたか。」


ディサイド「この世界の常識が通用するとは考えていない。あなたが放っていたのはただのエネルギー弾ではないのだろう。」


アストゥーリア「ええ、あれは触れたもの全てを完璧に消し去る…いわばデリート機能です。自然回復はもちろん、治癒魔法をかけたとしても肉体が回復することはありません。…ですから、先程あなたが放った剣撃がエネルギー弾を両断した時は驚きました。」


ディサイド「…流石は『創造する力』、並大抵の力では防ぎきることはできなかった。」


アストゥーリア「…ちっ。」


無表情、無感情のアストゥーリアが珍しく舌打ちをする。


アストゥーリア「実に厄介ですね、正直に申し上げてここまでとは思っても見ませんでした。…本当に、惜しい人材だ。なぜこの世界に生まれてしまったのか…それだけが悔やまれます。」


ディサイド「それほど高く評価してくださるとは…光栄です。」


アストゥーリア「…ただ、こうなってしまった以上いよいよ見過ごすわけにはいきません。消します。」


宣言と共に、力を溜めるように体を丸めそして開く。

すると光る無数の触手のようなものが体から伸び一斉にディサイドへ襲いかかる。

冷静にその触手の軌道を読みディサイドはその場を旋回するように離脱、後を追う触手、先を読む触手を躱していく。

チラッと自身の右手を確認し僅かに込めた魔力で斬撃を放つ…その斬撃に触れた触手は小気味の良い音を立てて両断される。

その様子を確認したディサイドは右手を一旦元の状態に戻し、そして両手の五指を短き刃と変える。

魔力を注入し四方八方に向け先程よりも小さい斬撃を放つ…アストゥーリアも斬撃を躱そうと触手を操るがことごとく断ち切られていく。

決定打に欠けると判断したアストゥーリアは触手を消し光のブレードを作成しそれを持ってディサイドへと突撃する。

迫る触手の対処に手一杯だったディサイドはその急激な対応に僅かに遅れる…が、間一髪のところで振り上げられた剣先を躱す。

肉体に損傷はなかったが、ローブの一部は容赦なく切り裂かれていた。

攻撃の手を変えたアストゥーリアに対抗するべく、ディサイドも魔力を込めたひと振りの剣を構築し攻撃に備える。

そして僅かな一瞬で膨大な魔力を剣に注ぎ込む…『世界』そのものを消去するあのブレードに対抗するために。

アストゥーリアが切り返してくる…それを弾くようにディサイドも剣を振るう…が、たったの一撃で刀身が欠ける。

内心舌打ちをしながらも魔力を追加で補充し刀身を復活、そして激しい打ち合いが空中で行われる。

ブレードに触れる度に砕かれる刀身…恐らく、魔剣ミスティア・アブソーバーでも吸収しきれないほどの魔力を込めた剣だが、それでも攻撃を凌ぐだけで精一杯だった。


アストゥーリア「いつまで続きますかね。早々に諦めた方が賢明ですよ。」


ディサイド「生憎と、一度掲げた夢を簡単に諦めることなど、私にはできません。」


アストゥーリア「それはあなたの弱さの証明です。実現不可能な夢を追いかけるなど、弱者の行いに他ならない。」


ディサイド「…例え弱者であったとしても、それでも守りたいものがある。」


アストゥーリア「それは…私が消した人間たちのことですか?」


ディサイド「…っ。」


アストゥーリア「結局あなたは、何も守ることはできない。あなたがこの世界の住人である限り、世界の呪縛からは逃れられない。」


ディサイド「だが、その世界の均衡を崩したのはあなただ。あなたがこうしてこの世界に君臨したことであなたもまた、この世界の住人となった。」


アストゥーリア「この体は、この世界で活動するための器でしかありません。私の力が失われたことにはなりません。」


アストゥーリア「事実、私はあなたを圧倒している。ただ防御に徹するだけでは私は倒せませんよ。」


ディサイド「…ですから、私も世界の力を借りようと思います。」


アストゥーリア「何…?」


一際激しく剣同士がぶつかり、互いに弾かれる…異様な雰囲気に警戒したアストゥーリアは更に距離を取りディサイドの放った言葉の意味を反復する。


アストゥーリア「(…っ、まさか!)」


距離を取ったことをすぐさま後悔したアストゥーリアはディサイドに向けてブレードを力の限り放る…どこでもいい、体の一部に接触することさえ出来たならその箇所はもう一生修復不可能。

攻撃を凌ぐことが限界のディサイドの余力を削げば確実に仕留めることができる…淡い期待を一瞬持ったが、それもすぐに打ち砕かれた。

それは物理的に、そして精神的に…放たれたブレードは眩い光と共に爆散。

キラキラと破片が舞う中、ディサイドは漆黒を従え悠然としていた。

自身でも制御しきれないほどの力…闇の塊より無理やり魔力を取り込み体中に黒いタトゥーを伸ばしたディサイド。

放たれる視線は目の前の敵を射殺すほど冷たく、その佇まいはまさに『王』そのものだった。


アストゥーリア「…付け焼刃ですね。その程度で私に敵うとでも?」


ディサイド「…。」


アストゥーリア「ふっ、言葉を発する余裕すらないとは、そのような状態で戦いを続行するなど愚の骨頂。…その力に頼ったこと、後悔させてあげます。」


一瞬焦りを見せたアストゥーリアであったが、状況を的確に把握し自身の優位性が揺らぐものではないことを再認識する。

指を鳴らすといくつかの光の球体が出現、これは先程人間界を襲撃した際に用いたものの簡易版である。

照らす眩い光が、ディサイドの体をより鮮明に映し出す。


ディサイド「…後悔など、これまでに幾度となく味わってきた。」


アストゥーリア「…。」


ディサイド「後悔ほど苦く、苦しく、絶望するものはない。…自らの手で仲間を消し去ってゆくことがどれほどの自身に恨みを持つか、あなたに分かるか。」


アストゥーリア「だからなんだというのですか。結局はその絶望に抗うこともできない弱者のあなたがいくら強大な力を得ようとも結果は変わりません。…信じることの愚かさを、あなたは理解しているのでしょう。」


ディサイド「…。」


アストゥーリア「どれだけ力を身に付けようとも、それは絶対の自信にはならない。なぜなら、力に上限などないから。常に格上の相手が居る可能性を孕んでいる以上自身の力など宛にはならない。」


ディサイド「それでも、この場から退く理由にはならない。」


アストゥーリア「それは…あなたがみっともなく、どうしようもない夢を現実にしようと信じているからでしょう?未来にある結果は分かりきっているはずなのに、なぜあなたは抗うのですか。」


ディサイド「…理屈ではないのですよ、人間というものは。」


アストゥーリア「…はぁ、前言撤回します。あなたはどうしようもない欠陥品だ。…せめてあなたは、身の丈にあった夢を見るべきでしたね。」


構えて、光に球体を射出する体制に入る。

ディサイドは動かない、何か策があるのか、それとも力を制御することで精一杯なのかその表情からは分からない。


アストゥーリア「これで仕留めます。…今までこの世界に尽くしてくれてありがとうございました、囚われの王よ。己を恨み続けて死になさい。」


球体が一層眩く輝きを放つと同時に光線が射出される…避ける隙など与えない全力の一撃がディサイドを襲う。

光線が直撃し光が散開する…光は闇を覆い尽くすその光景を見て、アストゥーリアは驚愕する。

またもや不可解な現象、その光線は本来触れたものを破損させ修復不可能にするという性質を持つ。

その効果は意図的に付与されたものではあるが、かと言ってこの世界の住人がそれに対処できるかと問われれば答えは否。

目の前の存在が異例…多少なりとも対抗策を隠し持っていたようだが、今の攻撃は確実に仕留めるために極限までその性質を込めた一撃。

その効果が正常に働いているのであれば、光が拡散することもなくディサイドの体を串刺しにするはず…にも関わらず今起きている現象を説明するならば、攻撃が弾かれているとしか思えない。

だが、それでもその光に僅かでも触れればその部分は欠損し消して治ることはない…驚愕と安堵、相対する二つの感情に少しばかり混乱したアストゥーリアであったが、この一撃で勝利を確信する。

光が晴れ、視界が明確に景色を映し出す…その目に映る光景を認識した瞬間、アストゥーリアは再び驚愕の感情に支配された。

頭の中が疑問で埋め尽くされようとする中、無傷で佇む彼は一言問うた。


ディサイド「…あなたは、親しき者を殺す覚悟はありますか。」


なぜこのタイミングで自分に問うのか、なぜその質問を投げかけるのか…そんなことを考える余地もなく呆然と立ち尽くすアストゥーリアに、ディサイドはこの場に似つかわしくない穏やかな笑顔を浮かべ。


ディサイド「私は、殺せます。…ですから、あなたを殺します。」


アストゥーリア「…っ。」


先程のアストゥーリアの攻撃の意趣返しなのか、ディサイドは両手の平の間に黒く、禍々しい球体を作り出しエネルギーを限界まで流し込む。

一秒にも満たない充填作業を終え、ディサイドは目標を見据える…絶対の自信を打ち砕かれたアストゥーリアは未だ目を見開き固まっていた。

漆黒の光線が放たれる…それはアストゥーリアの胸をいとも簡単に貫いた。

その衝撃で我に帰ったアストゥーリアであったが、今更反撃もなにもあったものではない…己の敗北を身を持って理解する。

だが不思議と、それに悔しさは感じなかった。

それは単なる諦めなのか、それとも最後のディサイドの言葉を耳にしてかは分からない。

だが、切なげな表情を浮かべるディサイドを見て、恐らく後者なのだと腑に落ちる。

任務は不達成に終わってしまったが、アストゥーリアにはなぜだか満たされた気持ちで消滅していく。

その黒き波動の、暖かさを感じながら。


…。


???「で、おめおめと帰ってきたと。」


アストゥーリア「…申し訳ありません。」


???「まぁ別にいいよ。想定外だったとは言え、あれだけの力を身に付けているとはねぇ…。」


アストゥーリア「恐らくは、闇の塊のエネルギーを全て吸収していたのでしょう。」


???「だよね、他に君が負ける要素なんてないわけだし。…でも、そっかぁ。」


そこに無言でディサイドが現れる。

その空間に二人いることを認識すると、ディサイドは狼狽え。


ディサイド「…申し訳ない。」


一言謝罪を述べ踵を返すディサイドを、彼は引き止める。


???「あぁいいよ帰らなくて。もうこうなった以上、タブーも何もないでしょ。」


ディサイド「ですが、極力接触は避けるべきかと…。」


???「そこんとこも含めて、今から話し合おう。俺としても一旦情報を整理しないことには判決は下せない。…当事者として、参加したくはないかい?」


ディサイド「…。」


躊躇いを見せるディサイドであったが、アストゥーリアの襲撃があった以上これは無視できない問題である。

この場を去らないことを肯定と受け取った彼は、足を組み替え切り出す。


???「ま、大体のことは察してるとは思うけど…これまでの一連の流れで気になるところはある?」


ディサイド「いえ、それに関してはもはや議論は不要かと。」


???「だよね、君が気になるのはこれからだもんねー。」


なんとも軽薄、文面にある誤字脱字を見つけた時の如く軽い反応…いや、この彼に限ってしまえばその表現は最も適切である。


???「まぁまずは素直に讃称するよ。いくら世界の半分を従えたからといって、このアストゥーリアを退けたんだ。凄いなんてもんじゃない、これは極めて異例だ。」


ディサイド「…それは、世界存続のために有利になるのでしょうか。」


???「んー…正直、そこを決め倦ねてるんだよねー。危険分子であることに変わりはない…むしろ今回の件でそれに拍車がかかったでしょ?でもかと言ってこれほどの人材を簡単に抹消できるほど俺は勇断できない。」


???「だから、君に委ねようと思う。」


ディサイド「…それは、どういう?」


???「そのままの意味。…君、神様やってみる気ない?」


ディサイド「…!」


集団のリーダーを決めるかのように、あっさりと言い放つ彼。

たった一言、彼が投げかけたその言葉にディサイドは困惑する。


ディサイド「何を、言っているのですか。あの世界を管理しているのは自分だと、あなたは仰った。」


???「そ、言ったよ。…でもさ、もう限界なんだよ、いろんな意味で。俺のモチベーションもそうだしさ、随分前から懸念されてたこととか諸々…もう疲れたんだよ、俺は。」


???「だから君に、世界を創造する権利をあげようと思ってさ。今いる世界はもう終わらせるしかない。アストゥーリアが干渉したことによって、必ずどこかに歪みが生まれる。それは修復不可能だしどれだけ延命に助力しようとも世界の崩壊を長引かせることもできない。ならいっそ、新しい世界を君が作ればいい。」


ディサイド「…。」


???「うん、君の言い分も分かるよ?こんなの無責任だよね、自分で世界を作っておきながらそれが失敗作と分かるとぽいって投げ捨てちゃうのは。…でもさ、そうでもしないと俺の存在理由もなくなっちゃうんだよねぇ。いつまでも一つの世界に固執してらんないし、一つでも多く物語を書き続けて読者を満足させないと。…まぁ、君があの世界で俺が満足するような出来事を積極的に起こしてくれるっていうなら話は変わってくるけど。」


ディサイド「…あの時と同じことをせよと?」


???「あーうんっ、いいね!あの時の君の絶望ったら、最っ高だったよ!…ま、無理でしょ?君は君で、叶えたい夢があるみたいだし。」


???「今すぐここで答えを出せとは言わないし、無理にやらせようとも思わない…あの世界と共に最期を全うするのも全然ありだしね。」


???「ま、考えてみてよ。俺はいつでもここで待ってるからさ。…でも、世界が滅んだあとだと保証できないから注意ね。」


ディサイド「…。」


世界の崩壊という絶望に飲まれそうになったディサイドの前に、新たな選択肢が現れた。

だがそれは、決して希望の光ではなかった。

判決は既に下された。

己の住む世界が滅びることは決定付けられ、それを救うことはもうできない。

重くのしかかる重圧…この世界のあり方の行方はディサイドの双肩に託された。

ディサイドが一体どんな決断をするのか…それは最早、彼にすら分からなかった…。

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